物理授業実践記録
授業ノートのウェッブプレゼンテーションを目指して
〜教室からチョークをなくして,実験を〜
広島市立舟入高等学校
藤原清貴
 
学校の現状

 本校のほとんどの生徒は大学進学を目指す生徒であり,女子生徒が幾分か多い人数構成となっている。物理は理系科目に位置づけられており,理系選択者は化学が必修で,物理か生物のいずれかを選択するという教育課程となっている。理科を3科目とれる選択もあるが,毎年希望者が少なく開講されていない。大学での勉強を考えれば,3科目の方が良いと思われるが,受験での負担を考えて二の足を踏む生徒,教員が多いのが現実である。
 物理を選択している生徒は,大学受験を目標にしている生徒ばかりなので,よく授業についてきてくれる。以下,私が今まで試みてきた授業の工夫の一部を紹介してみる。
 
新しいカリキュラムが始まり

 H15年度より新カリキュラムが始まった。配列が変わり,少し内容が増え,物理Uにおいては選択が導入された。たいへんである。
 しかし,今まで口絵だけであったカラー写真や図が教科書全ページになったことにより、生徒には物理現象がより身近なものとなったように思われる。今までも,図解などの図を利用したりして,自作のテキストやプリントを作って授業に利用してきたが,教科書も大いに活用でき,じっくり生徒と考えることができるようになってずいぶん助かっている。加えて,ほとんどの図表をCD,またはインターネットを通して公開してくれたおかげで、授業でのプリント作りがたいへん楽になった。カラー図版になっても教科書は割に安い価格であり,教科書会社も大変と思うが、より一層カラー化を推し進めてもらいたいと思う。
 また,教科書に小さな実験観察や機器の説明のコラムが増えた。実験は今まで多くの先生方がやってきたものが多いが,簡単にでも教科書に取り入れてくれたのは有り難い。プリントを作成する手間が省け,実験準備の時間がとれるからである。生徒にとっても,数多くの実験観察の経験が,様々な現象をイメージする力や問題解決の方法を見つける能力を養ってくれると思うからである。

[理解定着のために]

 基本的には,以下のような授業形態で行っている。
 (1)5分間テスト
 (2)授業プリント
 (3)映像の利用
 (4)小実験観察
 (5)演習プリント

(1) 5分間テストで開始
 理解の定着のためにどの教員もやることであるが、1問2分として,前時の授業の理解度について、教科書の基本問題やセンター試験問題などをもとに選択形式にして確かめている。邪道かもしれないが,計算問題は積極的に電卓を使用させている。
 時間が短いので,グラフの選択などの問題を利用しているが,問題作成ソフトが非常に役に立っている。昔なら,手書きでグラフを描いているところが,今は貼り付けで済んでしまう。類題を増やすのも簡単である。
 テストというと成績を気にする生徒もいるので,簡単な解説で答合わせをし,その場では集めず,学期末にチェックをしている。

5分間テストの例

(2) 授業ノートのプリント化
 問題演習ノートは別にして,物理の授業ノートは生徒からは完全になくしている。
 話したい内容の図や式をプリントにまとめ,授業でマークさせ,図に色をつけさせ,計算は電卓を利用させている。以前は,板書をさせていたが生徒たちはまじめで,板書はすべてノートに記そうとする。しかし,ノートを取りながら理解することはたいへんであり,復習をしてくれれば良いのであるが,なかなか手が回らないようで,ノートだけ残るという結果になっていた。(板書の時間を与えるほど物理の内容は少なくないので,私の授業では余裕はない。)それならと,授業プリントを作成した。考えることを重点にした授業展開に変更である。今までは,自分で少しずつ図を作ったり、ビデオをとったり(演示実験の補足)していたが,今では教科書の内容(写真や図など)入りCDや「理科ねっとわーく」を含めたWeb上での資料が、私のプリント作りの強い味方になっている。

(3) 映像による物理の学習
 NHKやインターネットの「理科ねっとわーく」などで,授業に関係する科学番組が多く放送されたり、教材が収録されている。これは,授業展開には非常に役に立つ場合が多い。ただ,番組は時間が長く,そのまま使用できないので,どうしても編集が必要となり苦労も多い。しかし,生徒の理解は良い。

 問題提起などに使用した映像(公共版)
  「10minボックス」,「スペシャル」,「高校講座」,「サイエンスゼロ」、「ジュニアスペシャル」,「プロジェクト X」,「クローズアップ現代」など

(4) 生徒が触れる小さな実験
 理科嫌い,理科離れという言葉をよく耳にするが,どんな小さな実験,それがただ触るだけでも,実験観察は楽しんでくれる。たいへんではあるが,授業に10分ぐらいの実験観察の作業を入れている。大袈裟なものでなく,材料も安い店を探し歩いて買い求め,実験も本やインターネットから集めたりしている。インターネットからの資料は図が含まれているのでたいへん便利である。


小実験1 点電荷のまわりの電場


小実験2 電磁誘導


小実験3-1 レモン電池1


小実験3-2 レモン電池2


小実験4 百円で見える保存則


小実験5 ストローは回る(ビデオ版)

(5) 演習の時間
 授業の最後には,演習の時間がある。映像鑑賞や小実験が長引いたときには,問題の説明で終わることが多く、残念ながら宿題となる。
 この問題の作成には,教科書会社の教材作成ソフトやインターネット上の資料が役に立ってくれる。過去の大学入試問題などもDB化しているので,これらの問題,解答や解説に注釈をつけたりして,一人ででも考えられるようにしている。急いで作成したときには手書きになり,汚くて読めないと生徒におこられることもあるが,頑張ってやってきてくれる。

追加 教科「情報」を利用して
 週1単位ではあるが,コンピュータの利用が可能になっている。1年次に引き続き,2年次では,情報の統合的な処理とコンピュータの活用ということで,表計算ソフトを利用し,データ処理,グラフを利用した表現の学習を行っている。今後,インターネットを利用し,「理科ねっとわーく」などやデジタル映像にアクセスし,理解を深めたり,また,ノートパソコンを利用し,自動計測の体験を計画している。

 
最後に

 学校の情報機器の環境もだんだん整ってきた。学習指導要領の内容すべてを消化するためには,物理の授業からチョークをなくし,ノートもなくした形にし,最終的には説明,写真,図,動画が入ったウェッブノート(ウェッブプレゼンテーション)にすればよいのではと思っている。
 ただ,誤解のないようにしてもらいたいのは,あくまでも私は、実験,観察を通した授業が理科教育の原点であると考えているということである。現実には,3年生になると入試問題を1問でも多く解こうとなる。しかし,実験に触れることが、現在においても,未来においても必ず役に立つと思っている。チョークやノートをなくすのは、その時間を確保する一つのやり方と考えていただきたい。