物理授業実践記録
私の定番実験と誘導型発電機
−物理 I B 静電気分野−
北海道伊達緑丘高等学校
中原 浩
 
1.はじめに

 筆者が今まで赴任した高校では、物理TBの電気分野は3年生の6月くらいから学習が始まり、授業の時間も充分とは言えず、受験のことも考えると最低限のことを説明し早く演習等に進みたいという現実がある。しかしながら、電気の分野においては最低限のものを生徒が実際に見たり体験したりしなければ基本事項の理解すらままならない。今回は授業の流れの中で私が必ず用いる主な演示実験を紹介する。よく知られたものばかりで多くの方はすでに実践しておられるかもしれない。最後に、まだ授業で生かすところまで進んではいないが、誘導型静電発電機を紹介する。
 
2.授業の流れと演示実験

・摩擦電気、帯電…「塩ビ管と荷造り用テープの電気クラゲ」
 荷造り用テープ30〜40cmの片方に固く結び目を作り、残りを細かく裂いてクラゲを作る。塩ビ管とクラゲの両方をティッシュペーパーでこすり帯電させて、電気的な反発力により塩ビ管の上にクラゲを浮かせる。
 これは、今ではあちこちで紹介されているが、初めて見るものには意外性を感じるものである。塩化ビニルもポリエチレン(荷造りテープ)も紙でこすると負に帯電する。単純な実験だが電気分野の導入、興味付けにいい。「クラゲ」を浮かせるのには、出来るだけ軽く作り、よく帯電させねばならず、試行錯誤が必要である。

・静電誘導、誘電分極…「帯電ストローの実験」
 これも、単純だが筆者の授業にはなくてはならないものである。以前、大阪の山田善春先生が紹介していたのを見てそれ以来使わせてもらっている。つまようじなどを立てた先に帯電したストローを方位磁針のように乗せて回転するようにしただけのものである。(写真1)これに、同種の電気に帯電したストロー、摩擦電気の相手側の紙、導体のドライバー、帯電していない消しゴム、指などいろいろなものを近づけながら話を進めると、スムーズに静電誘導や誘電分極の話が出来てよい。この後「箔検電気」を用いて少し複雑な電荷の動きの理解につなげている。


写真1

・静電遮蔽…「ラジオとアルミ箔」
 ラジオをアルミ箔で覆って音が出なくなることを確かめる。授業ではそれだけにしているが、アルミ箔を敷いただけでも音が鳴らなくなったりしていろいろと考えさせられる。

・コンデンサー…「ライデン瓶と百人脅し」
 これも、体験済みの生徒がいるがコンデンサーの本質を知っておくために、必ず実施している。ライデン瓶にはスチロールコップにアルミ箔を巻いて2重にしたものを使い、塩ビ管と紙で作った摩擦電気をこれにためている。授業は20〜30人位のことが多いがこれが一番確実で危険のない方法だろう。
 
・静電エネルギー…「1Fコンデンサー」
 1Fの大電気容量コンデンサーと手回し発電機を使うと静電エネルギーのことを手軽に説明できるので、これも是非1つは欲しい実験器具である。

 
3.誘導型静電発電機の試み

 2.では授業で行っているお手軽実験を紹介したが、あまり目新しいものはないので、最後に現在試みている誘導型静電発電機を紹介する。誘導型の発電機ではウィムスハースト型の発電機があるが、教室に持ち運び出来るくらいで単純な形のものを自作できないかと、A.D.ムーア著「静電気の話」(河出書房新社)を参考にディロッド型の誘導型静電発電機を作製してみた。
 回転板に取り付けられた導体棒が、ある位置で誘導され、電荷を持った部分だけが離れて次の集電部分に接触して電荷を放出し、集電部分とつながった誘導板がさらに新たな電荷を誘導する原理である。(原理図と写真2)基本構造は市販のアクリル板で、導体部分はアルミ板、導体棒は細いアルミパイプ、導体棒と接触をする部分には導体ゴムで作ったブラシを用いた。模型用モーターとギアで円板を回転させている。今のところ、発電量も小さく(1〜2mmの間隔で火花が見られる程度)まだ演示実験等で使用できるまでには至っていない。より手軽な材料で安定した発電機が出来ないか、試行錯誤中である。


原理図


写真2

 
4.おわりに

 実践といっても特別なことは行っていないので、このような場で紹介するのも恥ずかしい限りだが、今回紹介した静電気の実験は簡単で手軽なものばかりである。しかし、いくら簡単とはいえ、静電気の実験は電流の実験と比べると野生動物を相手にしているような難しさもあるので、何度も実験をして勘所をつかむ必要があるだろう。誘導型静電発電機も原理的には単純であるが、実際に作って思ったように動くまでには試行錯誤が必要だった。これ自体も科学部などで興味のある生徒と取り組むのにもいいテーマかも知れない。

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