物理授業実践記録
授業で遊ぼう
(兵庫)神戸村野工業高等学校
北野貴久
 
はじめに

 本校は兵庫県唯一の私立工業高校です。工業高校だから理科好きが多いと思いきや?現実は・・・そこで授業ではいつも小ネタを用意し挑みます。その小ネタのいくつかを紹介いたします。
 
1.弾まないピンポン玉で
エネルギー保存の法則

 ピンポン玉とラケット持参で授業です。教卓が即席の卓球台に・・・。しばらく生徒と対戦しているのですが,すきを見て用意した「弾まない」ピンポン玉にすり替えます。どっと笑いが・・・。なぜ弾まないのかということからエネルギー保存の法則の導入としました。

弾まないピンポン玉の作り方
 よく教材に「弾まないゴムボール」がありますが,ピンポン玉で自作してみました。

(用意するもの)
 ピンポン玉,針,ライター,コップ,お湯,水,接着剤

[1] ライターなどで針をあぶり,その針先でピンポン玉にごく小さな穴を開ける。
[2] コップにお湯を入れて,ピンポン玉を浸ける。すると,小さな穴から空気が膨張して出ていく。
[3] 暖めたピンポン玉をすぐに水に沈める。小さな穴から水が吸い込まれる。
[4] 水はピンポン玉の1/5ぐらいでよい。ピンポン玉の水を拭いて,穴を接着剤でふさぐ。

 小さな穴から水をどのようにして入れるかを考えていたとき,中国のおしっこ人形を見て,上記の方法を思いつきました。このピンポン玉を作ることは別の単元の授業ネタとして使えそうです。

(原理説明)
 作ったピンポン玉を落下させると,ほとんど弾みません。これはピンポン玉全体のもっていた「位置エネルギー」が床に衝突することによって,ピンポン玉内部の水を振動させ「熱エネルギー」に変換されたためです。


あぶった針で小さな穴を開ける


お湯にピンポン玉をつけ,その後,水の中へ沈める


穴を接着剤でふさぐ

 
2.みんなで作ろう
「レーベンフックの顕微鏡」

 単レンズ顕微鏡である「レーベンフックの顕微鏡」は,いろいろな作り方が紹介されていますが,教室で簡単に,しかももっとも廉価で作る方法があります。今流行?のカード式。ビー玉で作ったものと比較して,倍率の違いなどを学習できます。

カード式レーベンフックの顕微鏡の作り方

(用意するもの)
ガラスビーズ(直径1.5〜2mm),名刺用紙,パンチ,絶縁テープ(黒),ブッカー,クギ

[1] 名刺にパンチで穴を開け,そこに2cmぐらいに切った絶縁テープを貼り付ける。
[2] 絶縁テープの真ん中にクギで穴を開ける。
[3] その穴にガラスビーズを一つ置く。
[4] 上からブッカーを小さく切ったものを貼り,蓋をする。

(原理説明)
 透明なビー玉で作った顕微鏡と比較してみます。生徒はガラス玉が大きい方が倍率が高いと思いきや・・・ビー玉よりもガラスビーズの方がずっと倍率が高いことに驚きます。レンズの倍率の授業に使っていますが,小さいガラス玉の方が曲率半径が小さくなるため,それに伴い,倍率が大きくなるのです。

(追加)
 この顕微鏡は,絶縁テープに穴を開けた側からのぞきます。また,顕微鏡にぴったりと試料を押し当て,蛍光灯などの光源を見るようにします。
 名刺用紙の反対側にもパンチで穴を開けて,ブッカーで食塩などをはさむとプレパラート付き顕微鏡になります。


パンチ穴にビニルテープを貼りクギで穴を開ける


ビーズ玉を乗せ,ブッカーを貼り付ける


名刺用紙の反対側にも穴を開けてブッカーで試料(食塩など)をはさむ


ビニルテープの方からのぞく。名刺を2つ折りにして,ぴったり押し付けること

 (追記)ガラスビーズはケニス株式会社で1kg3,200円で手に入ります。ブッカーは図書館などで使われる本を保護するための透明なビニルカバーです。

 
3.不思議な鏡

 光の反射,屈折で使える?鏡を作りました。鏡と言えば「シンデレラ」。この鏡に向かって「鏡よ鏡よ,世界で一番美しいのはだぁ〜れ?」と尋ねるとその答えが返ってくるのです。

(作り方)
 まず鏡を用意します。現在,100円ショップで安く手に入れることができます。フッ化水素を用意し,3倍程度に水で薄め,綿棒で「あなたです」と書きます。書いて数十秒後には水洗いしフッ化水素を完全に流してしまいます。すると,綿棒で書いた文字の部分だけ,こまかい磨りガラス状になります。これは普通に見てもわかりません。これでできあがりです。

(演じ方)
 鏡に向かって「鏡よ鏡よ,世界で一番美しい(かっこいい)人はだぁ〜れ」と唱えながら,その息を鏡にかけるように指示します。鏡に向かって「はっー」と息を吹きかけると,文字の書いた部分は透明状態で浮き上がり,その他の部分は曇りガラスになります。つまり,問いかけて息を吹きかけると「あなたです」の文字が浮かび上がります。これは,磨りガラスにセロテープなどを貼り付けると透明になるのと同じです。当然のことですがこの時,鏡が冷たい程,曇りやすく文字は見やすくなります。
 その他,磨りガラスを持っていき,ガラスのザラザラした面に水をつけてみた時とサラダ油をつけてみた時との透明度の違いなども興味を引くようです。よく油の中にガラス製品を入れて見えなくなる実験があります。

(注意)
 フッ化水素は大変危険です。必ず手袋などをして扱うようにして下さい。この実験で生徒に鏡を作らせるのは危険ですので,必ず,教師が作ったものを使用して下さい。


息を吹きかけた鏡(左)と吹きかけていない鏡

 
おわりに

 物理は,どうしても計算があり,それだけでイヤになってしまう傾向があります。まず興味を引き付け「どうしてかな?」と思わせることができる授業を何より大切に考えていこうと思っています。大きな実験器具よりもポケットから出てくる「小ネタ」に生徒の期待が注がれているこの頃です。