英語授業実践記録
歌を使って言語4技能を育成する
岐阜県立揖斐高等学校
谷口雅英

 歌の教材はその意義をしっかり確認して指導を行えば、効果は絶大である。本稿では、英語の歌を使って、言語4技能の育成を目指した指導を紹介する。紹介するのは、ビートルズの“Yesterday”での実践である。

 
英語の歌を授業で扱う意義

 英語の歌を授業で扱う意義について、小菅(1988)は、次の4点を挙げている。

1 声を出す良い機会になる
2 学習の準備となる
3 学習効果を高める
4 英語圏の文化を学ぶことができる

 1と2は授業の雰囲気作り、3は言語材料(語彙・文法・表現など)の定着、4は異文化理解に寄与するという意義だと考える。歌は一般的に個人の体験や理解に基づいて書かれており、異なる文化や社会さらには違った世界観を理解させる上で非常に有効な手段となる。それ故、文化理解は英語圏に限定されるものではない。
 これらに加えて、次の3つの意義を加えたい。

5 「情意フィルター」を薄く低くする
6 「英音法」を学び身につけることができる
7 歌はauthenticity(典拠性)が非常に高い教材である

 「情意フィルター」という用語は、Krashen, Stephen(1982)によるもので、学習者が言語習得に成功するために大きく関わっているという。歌は生徒にとって最も人気のある教材であり、歌自体が人をリラックスさせるような作用を持っている。「英音法」という用語は、東後(1977)によるもので、読みに「文法」が必要なように、聴くためには「音法」が必要であるという指摘である。國弘(1984)は、英語の歌を聞き実際に歌ってみることは、英音法を身につける非常に有効な方法であることを述べている。

 
聞く力と読む力の育成

 歌の導入時が、聞く力を育成する最も良い機会になる。導入の仕方には、歌詞のある部分(語・句・節・文)を空白にして、その部分を聞き取らせるというのが、最も一般的な方法だと思う。しかし、私の勤務校(英語が苦手で嫌いな生徒が非常に多い)で実践して一番盛り上がるのは、聞き取れた単語をすべて書き取らせ、その数を競わせる指導である。どの班が一番多くの単語を聞き取り、正しい綴りで書くことができたかを競うというものである。
 班の構成人数は4人くらいがベストだが、人数はクラスサイズと黒板のスペース(教室の後ろの黒板が使えるか否か)によって変わってくる。まず、歌を2回流し(1回でも構わない)、その間に生徒は聞き取れた単語をノートなどに書き取る。次に、歌を2回流し(3回でも構わない)、その間に各班は聞き取れた単語を集約し、黒板の指定された場所にすべて書き出す。2回目(または3回目)に流した歌が終了したときがタイムリミットになる。その後、歌詞が印刷されたプリントを配布する。各班が別の班の書いたものを採点し、正答合計語数を書く。各班はその採点と正答語数が正しいかどうかを確かめる。
 次に読む力の育成について説明する。各センテンスを読んだ後、たとえば、次のような発問をすると、読みを深化させることができる。これらの発問はすべての歌に有効である。

・歌の主題は何ですか?
・歌を起−承−転−結の4つの部分に分けなさい。
・歌で対比されているものは何ですか。その表現を抜き出しなさい。
・歌の行の最後が共通の音の箇所とその音を指摘しなさい。

 “Yesterday”で言えば、主題は「失恋」、「後悔」あるいは「郷愁」であり、起は第1連、承は第2連、転は第3・5連、結は第4・6連である。対比されているのは、yesterday ⇔ now、I used to be ⇔ I'm、韻を踏んでいるのは、第1連は yesterday → away →stay → yesterday、第2連は suddenly → be → me → suddenly、第3・5連は say → yesterday、第6連は yesterday→ play → away → yesterday である。
 これらの指導は文レベルから文章全体への読みへと導くだけでなく、取り組み過程で何度も英文を読むことになるので、文レベルの読みを強化することになる。

 
話す力と書く力の育成

 寺島(2000)は、英音法の指導において、「リズム」(文強勢)こそが英音法の根幹であり、「音の化学変化」(國弘1984による。音の連結(linking)・同化(assimilation)・弱化(weakening)・脱落(elision)のこと)、音節の基本(CVC)という順に優先順位をつけている。氏はたとえば次のような教材を作成し、「リズム読み」なる指導を行い、実際に「歌う」ことを提唱している。  

 

 リズム読みや実際に歌うことは、意味がわからずに行っても話す力をつけることになるが、歌詞の内容を理解した上で内容を伝えるつもりで行えば、より効果的である。また、リズム読みや実際に歌うことは、話す力だけでなく、聞く力の育成にもつながる。
 福田・ローゼン(1986)は、この歌の‘a place to’の表現について、次のような口頭練習を用意している。これらは、書いて行えば、書く力の育成になる。

  A barber is a place to get a haircut.
  A restaurant
  A library
  A hotel room
  A kitchen

 これは言語材料を定着させる試みである。教材の内容について、たとえばこの歌の主題に関連して、次のような自己表現活動も可能である。

  I was very happy, when I was ten years old.
  My younger brother was born.

 自己表現活動はまず書かせて、その後に対話で情報交換をし、全体で発表させるとよい。

  When were you very happy?
  I was very happy when I was     years old.
  Why were you so happy?
  Because                 .

 これまで述べた指導は、どの歌でも同様な指導を行うことが可能である。ACORN I の“If we hold on together” 、ACORN II の“Yesterday once more”などでも、是非実践してみたい。これらの歌は、英語 I 、英語 II の教科のまとめとして行ってもおもしろい。歌は authenticity が非常に高い教材であり、この1年でどれくらい聞き取る力がついたかの目安になりうる。聞き取れる単語が多ければ大きな自信にもつながる。

引用文献
・ 福田昇八・アランローゼン(1986)『ビートルズの心』76-85.東京:大修館書店.
・ 小菅敦子(1988)「第3章授業運営上の工夫 VIII 歌」語学教育研究所(編)『英語指導技術の再検討』132-134.東京:大修館書店.

参考文献
・Krashen, Stephen(1982)Principles and practice in second language acquisition. New York:Pergamon
・國弘正雄(1984)『英語の話し方』(新版)サイマル出版会.東後勝明(1977)『英会話の音法50』東京:ジャパンタイムズ.
・寺島隆吉(2000)『英語にとって音声とは何か』東京:あすなろ社.