英語授業実践記録
高等学校英語科授業における
文法指導のあり方について
島根県立松江北高等学校
大屋和彦
 
1.はじめに

 コミュニケーション能力の育成が謳われるようになってから,高等学校の現場では,文法指導そのものの要否について議論されることや,文法とコミュニケーションを二項対立的に捉える意識が依然として根強く残っていることはあっても,文法指導をコミュニケーション能力の育成にどのように結びつけていくのか,という視点で,従来の学校英文法を再構成しようという動きは正直に言ってあまり見えてこなかったように思う。
 筆者がこれまで文法指導で留意してきた事項を大まかにまとめてみる。

(1) 文型の指導に際しては,語順と品詞,句と節の理解を徹底させる。
(2) 各文法事項の導入に際しては,これから学ぶ項目や言語材料が,どのような場面で使用されるものかを明示する。
(3) 文法事項を定着させる活動には,パターン・プラクティスなどのドリルだけでなく自分の身の回りのことや,自分自身の考えを書いたり述べたりする活動を入れる。
(4) 従来の文法項目の配列にとらわれず,既習事項を違う視点でまとめ,再提示する。
(5) 説明が可能なものを公式として教え込まない。
(6) 音声指導と結びつけ,実際の運用を意識させる。

 これに基づき,実践してきた取り組みのいくつかを以下に示す。

 
2.文型から語順へ

 5文型は英語の基本的な構造を理解するためには欠かせないものだが,生徒の視点に立って考えれば,文型はあくまでも英文を理解するため,そして英文を組み立てるために役立つものでなければ意味がない。文型の識別そのものを目的とするような活動は避けるべきである。織田(2007)は,「英語の文法が日本語人学習者にとって分かりにくい原因の一つに,この『文の要素』という考え方が,もう一つの文法の柱である『品詞』の分類とどういう関係にあるのか,今ひとつ明瞭でないということがある」と,本来異なる2つの体系にある「品詞」と「文の要素」を無自覚に混同して使用することを戒めている。
 文型の指導に固執するよりも,まず品詞と語順の理解を徹底することが必要である。高校入学直後の生徒に対して,目新しく,複雑な文法用語を濫用するのは好ましいとは言えない。生徒の理解が文型要素の特定という段階まで進んでいなくとも,少なくとも単語の意味が理解できれば,品詞の区別はできることが多い。
 従来の英語教育では基本的な品詞を8つに分類しているものが多いが,語順と品詞を中心にした指導を行うのであれば,基本的な語順を作る品詞である名詞(代名詞),動詞,形容詞,副詞,そして前置詞+名詞によって形成される修飾語句(形容詞句,副詞句)について早い段階で理解をさせておく必要がある。下に,5文型と連動させた,品詞による基本的な語順のモデルを示す。

 次は,文構造を,日本語の語順とも比較対応させながら,生徒に示すモデルである。

 実際にある程度まとまりを持った文章を読み進める際に,それぞれの文を上のようにチャンクに分けながら読む訓練を重ねることは,英文をいくつかのチャンクの集まったものとして捉え,それがどのような規則性を持って配置されているのかを意識するのに役立つ。また書く活動にも非常に有効である

 
3.句や節の概念は早い段階で

 品詞分類に次いで高等学校段階で最も重要なのが,「句」と「節」の働きである。これができないと,「語単位で構成された英文しか理解できない」ということになってしまう。
 例えば文型の要素である目的語や補語の位置に節が来ている場合,生徒の文型の識別はいっそう困難なものになるため,「語句」を語順に従って並べていく段階に比べると,「節」の理解はもう一つ高い段階であるに思えるが,決してそうではない。「文中の文」とも言える働きをしている「節」の形を同時に理解することは,文型の識別の要否に関わらず,文構造を理解する上で欠かせない。

 
4.関係代名詞は目的格から

 関係詞の導入を,目的格の関係代名詞が省略された接触節から始める利点はいくつかあるが,ここでは下の3点にまとめた。

(1)実際によく使われる自然な表現であること
 「目的格の関係代名詞の省略」は省略が意識されているものではなく,ごく自然に使われる表現である。

(2)語順の入れ替えによってすぐ句を作れること
 関係代名詞目的格は,主語+述語動詞+目的語 ,という比較的生徒が理解しやすいと思われる文構造から,語順を入れ替える,という単純な作業で関係詞節を伴う句を作ることができる。これにより,関係詞は複雑で難しいものだ,という先入観を少しでも取り除いていくことができる。

(3) 関係詞の働きを2文の連結と捉えさせない
 例 関係詞を使って,下の2つの文を1文にしましょう

[1] Do you remember the girl?
[2] We met her at the party.

 しかし出来上がった生徒の解答には,

× Do you remember the girl whom we met him at the party?

 といった誤りが見られることが多い。こうした誤りが生じる原因の一つは,2文を関係詞を使って結ぶ一連の手順が,まるでパズルのようにわかりにくい印象を生徒に与えてしまうことである。

Do you remember the girl we met at the party?

 という発話において,the girl we met at the party の部分は,あくまでも一つの意味のまとまりとして認識されるものであって,上の例のように2文の連結によって関係詞を説明することは,それぞれの文がより複雑な構造を持てば持つほど難易度が増し,関係詞は難しいものだ,という意識を生徒に持たせてしまう。

(4) 発音に留意させることで「かたまり」として捉えさせる
 関係詞を学習する際に,発音を意識することは非常に重要である。Swan によれば,

 identifying relative clause usually follow immediately after the nouns that they modify, without a break: they are not separated by pauses or intonation movements in speech, or by commas in writing. (Swan 474-2)

 とあり,名詞とそれに続く関係詞節は,切れ目なく一息に発音することをはっきり述べており,生徒にも必ず意識させていることの一つである。こうした訓練を積み重ねることによって,名詞とそれに続く関係詞節を,「一つの意味のかたまり」と認識する感覚を磨くことにもつながる

(5) 「修飾」というまとめで,復習から新出事項の学習や発展学習につなげる

 関係詞の理解で,最も重要なことは「先行する名詞に,特定の情報を補完していること」だとするならば,この機会に名詞に情報を補完している修飾の例を下のように提示し,まとめることで,文法項目の配列のみにとらわれない,修飾そのものの「まとめ」や「復習」につなげることができる。まずは,身の回りの事物について,次のような句をたくさん作らせている。

a book
an interesting book
a book on the desk
that interesting book of yours
a book to read
the book given by my sister
the book I bought at the store yesterday
the book that sells best at this store

 
5.仮定法の導入は助動詞から

 仮定法を扱う際には,既習事項である助動詞に注目し,助動詞を過去形にする場合にどのような意味を持ちうるのかを確認することから始めている。そのために,英語の「依頼」表現を使って導入部に利用する。例えば次のような導入手順である。

助動詞を用いた2文を提示する。

a. Will you help me?
b. Would you help me?

 助動詞を用いた依頼の表現は,現在形よりも過去形の方が丁寧だとされる。これは,英語には時制をずらして,過去形を使うことにより,断定を避け,婉曲的に自分の意向を伝達する性格を持つからである。そして実は「時制をずらす」ことは,「その時点で起こっていることや,実際の場面から距離をとること」でもある

 ここでは,まず各文の意味の違いを考えさせる。その際に,助動詞を過去形にすることで,直接的な言い回しを避け,文意に丁寧さを含有させていることが理解のポイントとなる。

 以下の対話文を提示する。

c. A: Help me with this report, will you?
 
B: yeah, I could. But I'm busy right now. Maybe later.

 この対話でBは「手伝えない」ということを直接的に伝える,例えば下のような,

Sorry I can't. I'm busy at the moment.

 といった表現を用いる代わりに,「手伝いたい」のだが,「現実的には今すぐ手伝うことは不可能である」という第2文につながる話者の気持ちを表現するのにcouldを用いていることに注目させる。

 次に「イスをちょっと動かしてください」という表現を英語で表現する場合に,以下のa〜hをランダムに提示し,politeness(丁寧さ)を視点にして並べさせてみる。

a. Move your chair a bit.
b. Move your chair a bit, will you?
c. Move your chair a bit, please.
d. Will you move your chair a bit, please?
e. Would you move your chair a bit, please?
f. Would you mind moving your chair a bit?
g. Could you possibly move your chair a bit, please?
h. We would appreciate it if you would be so kind as to move your chair a bit.

(※例では,ほぼ上から下に向かってpolitenessの意識が高まるように配置してある)

 さらにこれらの「依頼」に対して適切と思われる「応答」を,重複しても良いので以下の文から選んでみる。

a. O.K.
b. No way.
c. Sorry I can't.
d. Certainly./ Sure.
e. Not at all. / Off course not
f. I'm afraid I can't.

 ここで,初めて条件節を伴う以下の各文を提示する。

d. If I have enough money, I will buy this bag.
e. If I had enough money, I would buy this bag.

 これまでの一連の説明を参考にしながら,動詞あるいは助動詞を過去形にすることでd,eの各文では,「実現の可能性」という点について,話者の意識にどのような違いが生じているのかを考えさせる。仮定法は,話者の心的態度や微妙な感情を表す場合にも使われる表現方法であって,この場合,「実現の可能性」とは,必ずしも客観的なものであるわけではない。ということが理解のポイントになる。
 次に「以下のような場合はどうだろうか」と例文を提示する。

f. If I lived near my office, I would be in time for work.
g. If I were you, I would plant some trees round the house.

 この場合は,どちらの文も「可能性」を示唆している文ではなく,完全に事実と切り離された仮想状況を設定している。つまり実現の可能性はゼロである。しかし,fは,「もう少し職場にちかければいいのに」といった願望を,gであれば「わたしなら〜するがね(〜してみたらどうか)」といった話者の聞き手に対する示唆や,話者自身の判断を表しているという点ではeと同じである。つまり,仮定法過去=「現在の事実に反することを仮定」という紋切り型の表現を用いて説明するだけでなく,話者の心情に焦点を置いた理解が必要なのである。
 ここでの仮定法過去の導入方法のねらいは,助動詞を過去形にすることによって生じる違いに注目し,そこから英語の「時制を過去にずらすこと」の持つ意味に言及し,最終的には動詞の過去形の使用は,単純過去の用法だけではなく,「回想から想像に,想像から空想に,そして空想が非事実の仮定へと結びついていった」(織田2007)イメージを生徒に持たせることである。
 仮定法過去完了についても,過去の視点からさらに仮想状況を創り出すためには,同様に「時制をずらす」ことが必要なのだ,(過去形→過去完了形)という理解がなされれば,公式を暗記するかのごとき授業を避けることができる。
 最後はペア・ワークによって依頼文の作成と応答の練習,さらに自分自身のことに関する仮定法を用いた作文とその発表へと続く。
 「命令文」「助動詞」「条件節」「仮定法」といった個別の言語材料をリンクした形で提示してやることで,これらの既習事項を有機的に結びつける機会を与えると同時に,仮定法の時制のずれを感情的な視点と言語の使用場面を踏まえて考えさせることをねらいとしている。

 
6.おわりに

 発信型の文法指導などと言っても,生徒に発信を促すことが可能な学習環境が作れなければ,実践は困難である。
 教室における英語教師は生徒に対して「正確さ」を要求しすぎるきらいがある。過度に「正確さ」を求めることは生徒を萎縮させ,無用のプレッシャーを与えることにもなりかねない。
 これまで取り組んできた授業実践の中で最も生徒が評価してくれたのはペア・ワークやグループ・ワーク等の参加型の授業展開である。クラス全体の前で話すことは出来なくても,グループの中でなら話すことが出来る生徒もいる。グループでは無理でも,ペアなら可能な場合もある。
 大切なことは,教師対生徒あるいは生徒対生徒の対話の中で,きちんと「意味のやりとり」を含んだ活動を設定していくことである。文脈や状況が与えられない,形式と意味だけの疑似言語使用は表層的で空虚なものにしか成り得ない。実際の運用を念頭に置くのであれば,使用場面を例に挙げながら,表現を使用する場合の適切さ(appropriateness)に踏み込んだ指導を行うべきである。そうすることで自分の意向を相手に伝えることだけでなく,相手の意向にも配慮した,血の通った表現を生徒に考えさせることになる。
 場に応じ,相手に応じて,適切な表現を選んでいくことの大切さを指導していくことを心がけたい。生徒が「文法は言葉を紡いでいくための強い味方である」と実感できるように。

引用文献
・ Michael Swan. 1995. Practical English Usage. Oxford: Oxford University Press.
・ 織田 稔著 『英語表現構造の基礎ー冠詞と名詞・動詞と文表現・文型と文構造ー』 (風間書房 2007年)

参考文献
・ 高島英幸編著
『実践的コミュニケーション能力のための英語のタスク活動と文法指導』 (大修館書店 2000年)
・ 田中茂範・佐藤芳明・阿部一著
『英語感覚が身につく実践指導 コアとチャンクの活用法』 (大修館書店 2006年)
・ 安藤昭一編 『英語教育 現代キーワード事典』 (増進堂 1991年)
・ 渡部時夫,森永正治,高梨庸雄,齋藤栄二共著
『インプット理論の授業』 英語教育の転換をさぐる (三省堂 1991年)
・ 佐野正之 「インタラクション」 『英語教育』 (大修館書店 2000年 10月 増刊号)
・ ゾルダン・ドルニェイ著 米山朝二/関昭典訳
『動機付けを高める』英語指導ストラテジー35』 (大修館書店 2005年)
・ 田中武夫・田中知聡共著 『「自己表現活動」を取り入れた英語授業』 (大修館書店 2005年)
・ 高梨庸雄編著 『英語の「授業力」を高めるために』 授業分析からの提言 (三省堂 2005年)
・ 高島英幸編著 『文法項目別「英語のタスク活動とタスク」34の実践と評価』 (大修館書店 2005年)
・ 片山嘉雄・遠藤栄一・佐々木昭・松村幹男編 『新・英語科教育の研究』 (大修館書店 1994年)
・ 岡秀夫・赤池秀代・酒井志延共著 『英語授業力』強化マニュアル (大修館書店 2004年)
・ 高等学校学習指導要領解説 外国語編 英語編 (文部科学省 1999年12月)