英語授業実践記録
「問う」学習の実践
〜ライティング・リーディングの総合活動〜
静岡県立韮山高等学校
細井 薫
 
1.はじめに

 進学校にて英語を教える場合,否応なしに大学入試を意識した授業に傾いてしまう。文法事項や長文読解など,求められている力は閉ざされた競争の中で必要とする創造性に欠けた能力の育成に陥ってしまう。現前の生徒に対し,あくまでこの現実の枠組みの中で,いかに能動的な知的作業でありうるかと伝えるため,リーディングとライティングを総合し,「問う」学習を実践するに至った。その働きかけの一例を紹介したい。

 
2.「問う」学習の実践
 :情報処理能力の視点に基づいた英語 II

 今日のような情報化社会において,的確にあらゆる情報を摂取する力を養う必要がある。自らにとって必要な情報を集め,選び抜き,比較し,批判精神を持ちつつそれらに基づいて自らの考えをアウトプットする力は,メディアリテラシーが叫ばれる現在において,必要不可欠な能力である。この知的作業は母語たる日本語で実施するのも難しいとされるが,それをあえて修得途上にある第二言語で行うことは,生徒の思考力・論理力,よっては「考える力(問い続ける力)」を構築するためにも,効果的であったといえる。

(1)教材
 採用した題材は,時事問題を扱う教科書以外のより高度な読解中心の教材からが主であるが,より掘り下げるために文学作品,各トピックに関連する条文・法案要約,新聞記事等と情報源を多様化した。長文読解の傾向とされる文法・文章構造の理解といった所謂ミクロ・リーディングを目的とするのではなく,限られた時間内で内容を的確に読み取る技術の訓練をその趣旨とした。

(2)授業構成
 毎週英語 II の一時間を使い,それらを4時間ずつに区切って一つのトピックを扱った。一単元に対する授業構成は以下のようである。

    [1] reading = input
    [2] further reading = input
    [3] organizing = input
    [4] in-class essay writing = output

 [1][2] は,必要情報を峻別すると同時に限られた時間内で的確に読み取るリーディング力を増強するために,パラグラフリーディングと解読にあてた。実践的なコミュニケーション能力の育成といえども,大量の input をこなして初めて output が可能であり,また,言語能力習得のプロセスは,読・聴・書・話の順だと考えるためでもある。「問う」ためには,まずその原点である「問いかけ」が不可欠である。
 [3] は,大量の input の情報を整理整頓する作業にあてた。その手段と一つとして,brainstorming and webbing を採用した。各単元には中枢となるテーマが内在しており,それに導く道筋と,その背景となる要因(factors)を,多様な視点に基づき各々整頓していく。単純な一例として以下をあげたい。

 [4] は,[3] までの input を吐き出す機会とした。In-class essay と称し,単元に基づいた課題を与え,30分で小論文を書く。課題はいずれも意見を述べるに留まらず,なぜそう考えるのかといった解釈や「問い」のプロセスに必然と焦点を置くものを挙げた。

【課題例】
(1) Imagine yourself as the Prime Minister of Japan. Would you or would you not accept bigger numbers of immigrants in Japan? Explain your reasons why.
(2) Compared to the United States, do you think obesity is a serious problem in Japan? Share your opinion, and discuss what we can do for the future.
 
3.「問う」学習における
  指導方法とその留意点

(1)input段階
 [1] 情報を情報として位置付けるその前提には,その情報の信憑性(reliability)が確保されたことを意味する。したがって,常にリソースの出所を把握する学習を実践した。これは「問う」学習にも関連する。筆者の意見の社会的位置付け,バイアスの色,時代性等を見抜き,情報を比較(compare and contrast)する作業を練習した。
 [2] 情報は選び取るものであるといった概念を与えるため,主な情報源とした教材の中からどの情報が「ネタ」として使えるのか,pick up 作業を実施した。「ネタ」はファクトに限らず,接続節や副詞といった表現方法も含む。ねらいは,生徒の引き出しを増やして表現方法を多様にすることだった。
 [3] 情報は選び取るものであるため,brainstorming and webbing 活動では,2ステップを用いて実施した。まずは,文字化できることをすべて書き出し,序列化・グループ化し,関連させていく。次に,グループごとに最も議論の余地のある有力なポイントを選び,それらをまとめられるよう援助した。また,グループごとのポイントを比較し,それらを戦わせて議論をすることが可能か確認させた。

(2)output段階
 [1] 課題は事前に提示されないが,in-class essay 前の10分間は構想時間としてオープンブックにしている。よって,この10分間では何を見てもよい。この時間内に,小論文において重要な起点の位置付けと起点から発信される議論の構造を整理する。
 [2] in-class essay は提出される前に,生徒同士で読み合いコメントを書く。評価後の模範解答を参考にするばかりでなく,他の生徒の評価前の作品を読むことを重要とした。
 [3] in-class essay は評価すると同時に,添削して返却するといったパターンを採っている。定期試験にて同じ課題の50字以内要約を5点配点問題として出題するため,生徒に推敲といった作業を身に付けさせるのと同時に,要約の技能を定着させるねらいがあった。

 
4.評価方法

 評価は満点を20点とし,以下の4点を軸とした。
(1)構造・形式
(2)論理性・論の説得性(思考力,関連性,論証の有無)
(3)表現力(文法文章の正確さ,独創性)
(4)字数(130字以上)
 字数を評価対象に取り入れた理由として,限られた時間内での書ける量が実際に読解の早さと比例し,同等にリスニング力とも一致することが認められるからだ。既に述べたように,母語を既に確立している人間が正式な能力として外国語を修得するには,読・書・聴・話の順,ゆえに,input から output の手順を追うのが最も望ましい。

 
5.効果について

 継続的に input と output の作業をすることによって,明らかに3つの力が育った感がある。第一に,大量の文字情報を汲み取り整理する速度が上がったのと,そのこなせる量が増えた。ゆえに「情報処理の力」がついた。第二に,情報処理能力と比例関係にある「表現力」も向上した。単語数のみならず,根拠のある意見,論理的思考を文字情報化する力がついたと感じる。それは英語表現のみならず,物事を関連付けて論じる技能も培ったと思われる。三に,自らが論を構築していく作業を繰り返すことにより,考える力=「問い続ける力」ができた。

 
6.終わりに

 「問う」ことを手段とした学習は,教科の枠組みにとらわれ試験対策のごとくに学ぶのではなく,その教科を「学問」の一体系と見なし,自らの内に捉える学習である。生徒は,解答する・理解する・受け入れるといったことを盲目的にしてはならない。理解するのではなく疑問視すること,そしてその問題を新たなる問題として投げ返していくことが目的である。解答するのではなく問題を構築していく学習のプロセスは,本質をつかもうと自らが吸収する内容を選び取ることであり,その選び取ったものを内在化し,外へと発信していくことである。この力の構築が,実践的なコミュニケーション能力に繋がるのではないかと考える。