英語授業実践記録
発表能力育成のための授業実践とその背景
−公立中高一貫校における MILESTONE I を用いた授業実践の場から−
静岡県立浜松西高等学校
山下 巖・若澤克代・児玉清史・松島加奈子
 
1.はじめに

 2001年に筆者達の勤務する静岡県立浜松西高等学校が,中高一貫校として新たにスタートした。80年間に及ぶ歴史を持つ伝統校であり,またいわゆる進学校でもある高校への中等部設置は,当時では他県でも前例が少なく,不確定要素の強いなか具体的な議論が進められていった。
 指導方針の大枠が徐々に決定されてくるにつれ,各教科内では6年間を見越したシラバス作りの検討が始まり,各教科ともに中高一貫のメリットを活かしたシラバス作成を模索した。特に理数教科においては,高校の教育内容を中学時において先取りをしたり,中高での教育内容の重複を回避することに普請した。英語においても,文法項目を軸にしてシラバスを組んでゆけば,確かに効率化は可能である。例えば,中学3年時に現在完了が言語材料として教科書で扱われるが,その際,発展的に過去完了や未来完了を導入することもできる。
 このような先取り傾向を呈した教科のシラバス編成に対して,英語科は別の方針を打ち出した。本来あるべき英語教育の理想を追求しつつ,高校3年生終了時には大学受験にも十分対応できるようなシラバス編成を試みたのである。まず6年間を中1・中2の養成期,中3・高1・高2前半までの充実期,高2後半・高3の受験準備期に3分割し,養成期,充実期を通じて英語運用力の全般的向上を目指し,最後の受験準備期にいたって初めて大学受験において成功するための力を見つけさせてゆくことを狙いとした。こういった編成は,中学3年間と高校3年間が分離していたのでは実現が難しいが,6年一貫教育環境のメリットを活かしてゆけば十分可能であると思われるし,ここにこそ一貫教育の強みがある。

 
2.「表現」と「コミュニケーション」の設置

 「発表力の育成」というと OC 中心の指導が浮かぶが,英Tの授業との有機的連携が図り難く,さらに入学してくる生徒のレベルに合わないことが予想された。そこで,むしろ逆に英 I を中心にすえ,2クラスを3つに解体した少人数クラスで,授業の大部分を英語で行う計画が提案された。しかし,英Tを週5単位に設定することが不可能であったため,3単位とし,残りの2単位を学校設定科目の「コミュニケーション」を導入することとした。しかし,それは英Tの授業と内容・進行の面で独立しているのではなく,その延長線上にあると捉え,英Tの教科書を用いた授業をベースに,「話すこと」,「書くこと」の活動を発展的に行うことを旨とした。具体的には MILESTONE I の各レッスンが終わるごとに,そのトピックに関連したプレゼンテーションを生徒一人ひとりに課した。言うまでもなく生徒はその原稿をライティングの課題として提出することも求められた。詳細にいたっては,本稿の後半で解説する。したがって,週5時間の授業は,「英語 I 」と「コミュニケーション」が綯交ぜとなっており,すべて同一の教員が担当している。

 
3.シラバスの編成と表現活動の目標設定

 本校の「コミュニケーション活動」を段階的にシラバス化するに際し,三浦(2003)に述べられている,コミュニケーション活動のグレード化を参考にした。三浦(2003)では,授業で行われるコミュニケーション活動は,それが扱う意味を基準に以下の4つのレベルにグレード化されている:

    レベル1のコミュニケーション=記号的意味の授受
      単なる字面の意味の伝達で,事実との対応や伝達ニーズは考慮されていない。例えばパタン・プラクティスで教師の prompt に合わせて chorus で生徒が応答する活動などである。
    レベル2のコミュニケーション=場面や文脈に適合した意味の授受  
      事実との対応のある意味の伝達ではあるが,その意味は価値や伝達ニーズと伴うわけではない。ディスプレイのためのコミュニケーション活動である。
    レベル3のコミュニケーション=伝達ニーズのある意味の授受
      伝達するニーズがある意味をやりとりすること。information gap などの activity がこれに入る。ただし,このレベルでは必ずしも当事者間で価値ある意味を扱うとは限らない。
    レベル4のコミュニケーション=人間的な価値のある意味の授受
      発信者と受信者の間で,自分や相手に価値ある意味を持った伝達活動を行うこと。マズロー (A. Maslow) の欲求階層の各レベルの充足につながる事柄や,自己受容,自己防衛,自己向上,他者理解,人間関係作り,啓示的価値,芸術的価値などを含む意味のレベル。

 本校のシラバス・デザインも概ね,この三浦のレベル分けに準拠した編成となっているが,三浦が音声によるコミュニケーション活動全般に重点を置いているのに対し,本校では中学3年生から始まる充実前期以降は,プレゼンテーションとライティングという自己表現活動を支柱としている点に特徴がある。さらに,このような枠組設定は,中・高における英語教育が間に入学試験をはさんだ非連続的なつながりにおいては実施が困難であるが,中高一貫という6年間,ないしは5年間というメリットを活用した長期的なサイクルの中において初めて実現がしやすくなる。
 本校においては,前述した3つの養成・充実・受験準備との有機的なつながりを有していることが求められるため,おのおのの表現活動は,教科書の進度と平行し,そこで用いられている言語材料や機能的トピックに基づいて編成されなくてはならない。また,高校2年後半から始まる発展期には大学受験準備へのモード切替が行われるため,表現活動中心の授業は高2前半までの充実後期までに完成することを目標とした。さらに充実期を充実前期(中3と高1前半)と充実後期(高1後半と高2前半)とに二分し,後期ではライティングを中心とした表現活動に力点をおいた。その概要は次のとおりである。

養成期 : 中学1年4月から始まる教科書を用いない音声中心の指導に始まり,次第に教科書を用い,その内容に関する教師と生徒のやり取りが行われる。また養成期後半には,教科書と同様の場面や文脈を,自身の状況に当てはめて自分の状況について発表する。この時期の特徴は,display question による教師対生徒のやり取りが中心となり,初期段階においては事実のやりとりは少ないが,次第に事実に対応した内容を中心に活動が行われるようになる。音声のみならず「書く表現活動」も同様のプロセスをたどる。
充実前期: この段階では,伝達の必要性や意図を伴った意味のあるやり取りが行われる。したがって,information gap のような初歩的コミュニケーション活動に加え,教科書の内容に関連したトピックに関して,自らがクラス内の他の生徒に紹介したい事項についての口頭発表や作文が主な活動となる。ただし,初期から中期にかけては,事実を平明に述べる活動が中心となり,後期に入ると次第にその評価や意見の陳述を行えるような指導へと移行してゆく。この時期は主に中学3年生から高校1年生前期となる。この時期の前半では,「自分の将来の夢」や「英語以外に学びたい外国語」といった,身の回りのトピックを題材にしたコミュニケーション活動が中心となる。
充実後期: ここでは,前段階までの活動に加え,教科書にある各課のトピックに関連した口頭発表やエッセイを書くことを目標とした。ただし,前段階前とは異なり,この段階では生徒の精神的成熟度を考慮に入れ,教科書の内容の評価やそこから学習し得たことを含んだ自己の意見や,自己向上に関するものを作成することが目標とされた。前半では,「環境問題への対策」,「自然保護」「臓器移植」などの社会問題を取り扱い,後半ではそういった問題に加えて,「恋愛」などの人間の複雑な感情といった心の部分に焦点を当てたトピックに基づく活動が中心となる。

 以上,紙幅の関係で詳細な説明はできないが,各段階の目標は,あくまで連続的なもので目安に近いものである。そのため,活動内容の多少の入れ替えは臨機応変に行われている。また,次第にプレゼンテーションなどの口頭発表を中心とした活動から文章による表現活動へと移行してゆくのもその大きな特徴となっている。特に,高校1年生終了時には200語程度の国際理解に関する作文,2年生終了時には500語程度の作文を生徒全員が提出することが目標となっている。これらの活動は無根拠に設定されたものではなく,先行事例としてスタートさせた現高校3年生が行ってきた表現活動をもとに設定されたものである。言うまでもなく,プレゼンテーションは高校1年生では各課が終わるごとに行われ,総合学習との相互乗り入れによる連携を図り,年度末に生徒一人ひとりが約10分程度の英語によるプレゼンテーションを行った。
 ここで問題となるのは,充実前期の終盤から充実後期に当たる高校1年生前半から高校2年生前半の時期において,英語による自己表現力のさらなる向上と,その過程において自己向上,共感的理解,などの人間的資質育成をどのように実現してゆけばよいのであろうかということである。以下,教材における題材の配列と授業活動 (classroom activity) といった二つの面からこの問題を検討してゆきたい。

 
4.自己表現重視の英語教育と人間形成

 昨今,英語教育における人間(人格)形成を耳にするが,英語教育とは,単に学習者の英語スキルの向上を目的とするだけではなく,英語学習を通じて学習者本人の見聞を広め豊かな人間性を育むことであるとよく言われる。また,縫部(1985)は,Maslow や Ausubel といった人間性心理学者の研究成果をもとに,人間中心の英語教育の重要性を説いている。
 本校のように自己表現能力の育成に力を入れた英語授業を行っている場合には,ますますその人間形成の部分が重みを増してくる。というのも,自己表現力は,人と人との平和的係わり合いを構築するための基盤となり,異文化との接触において自分と大きく異なるアイデンティティを持つ人々の考え方や意見の尊重と受容の上に成り立つものであるからである。ただ単に英語を理解し英語に関する知識が増加してゆけばいいというものではなく,英語は互いを理解し合うためのツールであるという認識を深めてゆくことが重要である。やや大げさな言い方をすれば,これは,人間教育としての英語教育であり,英語における真のコミュニケーション能力は,こういった自己表現力に支えられ,異文化との心のふれあいを望む知的精神的成熟に裏打ちされたものでなければならないということになろう。ここでは,中高一貫教育における自己表現力の育成過程に,その根本をなす人間形成をどのように組み入れてゆくかを本校の例を参照しながらみてゆきたい。

4.1.教科書の題材における連続性
 主な活動となるライティングやプレゼンテーションの題材は,充実期の中等部3年では,主に物や人物の紹介や,数学の証明問題の説明など,他の教科で学んだことを英語で表現してみるといった,事実の報告が中心であった。授業においても教科書の内容についての理解度チェック的な display question に答える活動が大半を占めた。しかし,高校1年になり完成期に入ると,単なる事実や出来事について客観的に述べるだけでなく,自分の意見や考えを述べる活動の割合が増加してくる。一例を挙げると,MILESTONE I の「臓器移植」を扱った Lesson 10 では,臓器移植そのものについての賛否はもちろんのこと,自分はドナーカードを記入するかどうかまたその理由は何かといった問いがされる。こういった問いに対しては様々な応答が可能となり,中には,「他の臓器を提供することは構わないが,自分の眼球だけは提供したくない」という応答などがあった。このように授業では,教科書の内容理解はもとより,扱われるトピックを題材にしながら,自分の意見を述べる活動が中心となる。
 そこで重要なことは,「英語 I 」と「英語 II 」の教科書で扱われる題材が,身近な話題に関するトピックから,社会問題への意識を喚起させ,最終的には人間の内面に在る問題を掘り起こす内容へと発展してゆくように配列されていることが望ましい。それにつれて自己表現活動に求められる英語力も高度なものとなってゆく。こういった視点から MILESTONE I を見てみると,各課で扱うトピックが有機的連携を持って巧みに配列されているということが分かる。詳細については次節を参照されたい。

4.2. 効果的なタスクとその特徴
 英語による表現活動を効果的に育成してゆくことを考えてみた場合,タスクの積極的活用法が重要な鍵を握る。どのようなタスクをどの段階で導入してゆけばよいのであろうか。大下(2001)は,授業で行われている様々なタスクを表現活動の質に応じて以下のように分類している。

(1) 操作的活動 (manipulative activity)
(2) 情報処理的活動 (procedural activity)
(3) 解釈的活動 (interpretive activity)
(4) 人間的活動 (humanistic activity)

 それぞれ,(1) は模倣反復やパターンプラクティスのような機械的操作を中心とした活動,(2) は性格に情報を引き出したり表出したりする情報授受の活動,(3) は得た情報に対して自分なりの解釈を加え,それを自分の意見や考えとして表す活動,最後に (4) は学習者が情意面で強いインパクトを感じる活動を意味する。
 竹本 (2001) は,これら4つの活動の特徴を分析し,(1)や(2)が言語を正確に操作する能力を伸ばすのに適しているのに対し,(3) や (4) が表現能力を養うのに適しているとしている。またこれら4つのタスクは,それぞれ三浦 (2003) の提唱するレベル1からレベル4までのコミュニケーション活動の意図とも合致しており,中高一貫教育を前提とした場合,操作的活動から人間的活動にいたるまでを,中学1年生から段階的に通時的・蓄積的に導入してゆくことが望まれる。
 さらに,解釈的活動と人間的活動はいずれも表現力養成に大きく貢献できるものではあるが,その違いは,表現活動に選ばれた題材における質的違いによって生ずるだけではなく,題材そのものとの質的な関連によっても生じてくる。例えば前出の「臓器移植」といった題材を扱う場合でも,課題の与え方しだいで,「臓器移植の是非」を問う課題を与えれば解釈的活動となり,「家族の気持ち」を問う課題を与えれば人間的活動となる。解釈的活動においては,資料やグラフの読み取りから得た情報をいかに論理的に分かり易く表現するかといった認知的側面の発達が重視されるのに対し,人間的活動においては,学習者各自が持つ背景知識や言語形式・語彙を総動員し,いかに自己の感情や人間関係を表現するのかといった情意的側面が強調される。また,前者の場合には,定まった解答がある場合があるが,後者の場合にはそれがないため,学習者の creative な思考力が反映される。

 
5.実践例の紹介

 ここでは, MILESTONE I を用いてどのように各課を扱い,具体的にどういった質問やプレゼンテーションの課題を設定しながら,英語による授業を進めてきたかその一端にふれたい。

<Lesson 1> How's Your School Life?
 Lesson 1ではナイジェリア,タイ,韓国からの3人の留学生の日本での学校生活がトピックとなっている。まず生徒たちにこれら3国について,地図上の位置,首都,使用されている言語,国土面積,宗教等に関して英語で質問してみた。すべての質問に答えられたわけではなかったため、疑問点や不明な点は次回までの宿題となり,生徒はインターネット等を利用して次回の授業までに必要な情報を入手しておくことになった。
 本文は会話体で書かれているため,英問英答形式での内容理解が非常に円滑に進んだ。教師は3人のうちの一人になり,教科書に記載されている質問以外のことも問うた。また,生徒を日本人学生としてこの3人の会話に加え,新たな質問や解答を作成させることにより会話を発展させることも可能であった。例えば,現在タイで流行している音楽は何か調べていくうちに,地元にあるレンタル CD ショップがバンコクにもあるいることや、Chemistry や Glay の曲が流行していることなどがわかり,授業は大いに活性化された。文中に挿入されている4枚の写真に基づいた様々な発問も可能であった。ソウルのカラオケ店の写真に若者が写っていないのはなぜか,Rum Thai ではなぜ皆の爪が異様に長いのか等,生徒の興味を引くものが多く,生徒は疑問点を主にインターネットを利用して調べ,それを発表することができた。
 本課のプレゼンテーションのテーマは「 Lesson 1 に登場した3人の中から一人選び,その人物を紹介する」と設定した。生徒は授業の中で得た様々な情報をプレゼンテーション実施のために再構築し,さらに必要な部分を追加し発表の形にまとめ上げた。多くの生徒にとって、今回の発表は英語で相手を納得させる初の機会であったため,戸惑いを見せたり,十分な声が出ない,適切な資料提示ができない等の問題点が明らかになった。しかし,これからの1年間を通じ,プレゼンテーションに関わらなければならないという覚悟が生徒の中に形成された。

<Lesson 2> What is your Dream?
 生徒にとって夢というテーマは非常に取り組みやすく,本文の内容理解も比較的容易であった。生徒への発問の題材も豊富にあり,オーストラリア,ドイツ,ブラジル,アメリカ等の各国事情,将来の夢,職業などに関して教師はバラエティーに富んだ質問を生徒に発することができた。
 プレゼンテーションは,この課を学習中に2つのテーマで行った。一つは「行ってみたい国」であり,もう一つは「あなたの Realistic Dream と Unrealistic Dream について」であった。前掲した4つの国はもちろんのこと,Lesson 1 で学んだ国々を含め,生徒は多くの国に興味を持っていた。5分間のプレゼンテーションに耐えうるには,その国に対する漠然とした憧れだけでは不十分で,確固とした具体的な理由付けが求められた。生徒の用意した理由は,教師の想像を超えるものが続出した。その反面,海外への渡航経験のある生徒ほど,同じ国へもう一度行きたいという希望が多く保守的な面も目立ったプレゼンテーションであった。2つ目のテーマは,本文中のブラジル人 Daniel の文面から採用し,生徒の夢と現実を考えさせる大変おもしろいトピックとなった。仮定法を使わなければ表現できないものや,純粋に未来形のみで表現できるものなど,言いた内容を的確に伝えるために必要となる道具としての文法の大切さを生徒に実感させた。

<Lesson 3> Hot Peppers
 トウガラシは種類が豊富で,スーパーや専門店でトウガラシそのものやトウガラシを使ったスナック菓子を授業準備として入手し,実際に生徒に提示した。また、スペイン語が得意な英語教員から,トウガラシを意味する pimento がフランス語の piment になり,日本語のピーマンになったという話を紹介してもらい、それをもとに様々な話題を持ち出して生徒の動機付けを行うことができた。トウガラシは科学的な成分,その歴史,料理法等,調べようと思えば限りなく調べていくことが可能であった。生徒はインターネットを利用して,授業中に生じる様々な疑問を解明していった。多くの生徒が2年時の修学旅行で韓国を訪れることになっており,トウガラシを使った料理に興味を抱いていたことも,本課学習のモチベーションの大きな原動力となった。
 この課に関するプレゼンテーションは,「トウガラシ以外の香辛料を一つ選び,その起源,世界各地への伝搬,使用法,料理への利用法等についてまとめる」ことであった。これまでのプレゼンテーションは個人で行ってきたが,今回は3人のグループで行い,グループ内のそれぞれが「歴史」,「料理法」,「効能」等について調べ,その内容を一人ずつ発表した。香辛料として日本の山椒やシナモンも登場した。実はトウガラシは,豊臣秀吉によって日本から韓国に渡り,辛いキムチの生産につながったということなど,我々教師も初めて知らされるようなことが多く,驚かされる場面が続出した。生徒にとっても,友人の英語を聞きそれを利用して自分の考えをまとめていくというプロセスが経験でき,グループでのプレゼンテーションの効果は大きかった。

<Lesson 4> An Interview with Ruiko Yoshida
 この課では,interviewer や Ruiko Yoshida の役割を演じながら,生徒に様々な形での問いかけが可能であった。ありきたりの問いではなく,どうして当時女性が留学するのは大変だったのかとか、奨学金をもらうにはどうすればいいだろうかといった質問も織り交ぜながら授業を進行させた。また,テキスト中に吉田本人の作品が掲載されており,生徒に彼女の印象を問うには好都合であった。写真の撮られた,南アフリカ,アメリカ,ミャンマー等の国々の現状を考える契機ともなり,生徒は英文の裏にある多くの情報を学び取ることができた。
 この課でのプレゼンテーションのテーマは「My Favourite Picture」であった。幼少期の思い出を語る者,現在の部活動のことを語る者,これまでに訪れた場所の思いを語る者等,1枚の写真についての一人ひとりの思い入れは,いずれも興味深く,Ruiko Yoshida が語ったように,生徒自身の思いがその中に凝縮されていた。

<Lesson 5> Chris Moon
 
本課では,通常通り “Chris Moon lost his right arm and leg. But he looks happy in this picture. Why is he smiling in this picture? What do you think?” といった質問をしながら,テキストの内容理解を行った後,“Chris Moon said, “life is not fair.” Do you agree with him? Do you think life is fair? Write your opinion in about 80 words in English” というライティングの課題を設定した。
 生徒からの回答のほとんどが,Life is not fair という考えに賛成であった。その理由としては,世の中には何でもできる人がいれば,自分のように運動が苦手な人もいるというものが主な理由だった。数少ない反対派の中には,自分の人生に満足するかどうかは自分次第である,どんな人生を生きるかの選択は平等に与えられているという意見があった。
 さらに,本課ではその扱うテーマを International Understanding に拡大し,生徒個人がトピックを選択しプレゼンテーションを行った。そのトピックは広範に及び,生徒はインターネットから取った資料や写真を駆使して,プレゼンテーションを行った。そのいくつかを紹介する。

  • 国境なき医師団の紹介(医師を目指す生徒が自分の将来の夢について語った)
  • The Beatles 人気の秘密と世界に与えた影響(様々な角度からビートルズを語り,“In My Life” をギター持参で弾き語りをした)
  • スポーツを通じての国際交流(ボート部の生徒が,世界のボートについて形や形態を黒板に絵を描くなどして説明した)
  • 日本と中国の歴史について(中国史)好きの生徒が,対日感情が悪化している中国について話し,その後遣唐使が日中交流を行っていた時代の様子を紹介。当時のような良好な日中関係を築いていこうと主張した)。

<Lesson 6> Robopets
 本課では,ファービーの実物や掃除機 robopet を教室に持参し,テキストの内容の真偽を確かめながら読み進んだ。 “When a robopet is angry, how does it show its emotions?” というような問を発し本文の内容理解を深めるよう工夫した。ちなみにこの発問に対する生徒の回答は,“It goes wild.” “The color of its eyes changes red.” などであった。これに対し,“Why red?” とさらに質問したところ,“Because our faces turn red when we are angry.” という気の利いた回答があった。
 プレゼンテーションは,“Advantage (s) and Disadvantage (s)” というトピックを与え,生徒は何か1つ自分が選択したものについて,その advantages と disadvantages を 述べ,最後に自分の意見を述べる形を取った。ここでは以下のようなプレゼンテーションがあった。

  • Left-handedness 左利きの生徒が発表し,advantage は作文を書いても腕が汚れない点だと主張し,実演してみせた。disadvantage は,レストランで食事をするときに,角の席に座らないと右利きの人の腕とぶつかって食べにくいことなどをこれも実演してみせた。
  • The Only Child  一人っ子の生徒が発表し,何かと大切にされるが,話し相手がいないことなどを例に,一人っ子はよくないという結論を導いた。
  • Examination テストの利点は,勉強する機会を作ることや不明な点を発見できることなどを多数あげた。そして,テストには不利な点はないと述べた。

<Lesson 7> Albatross
 本書に掲載されている豊富な写真や絵をヒントに発問を行った。例えば,“Why did the albatrosses make their nesting site there?” など,これまでもそうであるが,単なる comprehension check 程度の質問に終始することなく,その場で返答を考えなければならない質問や,referential question なども多く取り入れた。上記の問に対し “Because it is the farthest place from the landing point. I think they thought it was the safest place.” という教師を唸らせる回答があった。
 この時点で,総合学習と英語のプレゼンテーションの連携を図りたいという要望が学年から出され,international understanding というトピックでのプレゼンテーションの準備に入ったため,この課では特にプレゼンテーションは行わなかった。
 なお,この課に登場する長谷川先生は静岡県の出身であり,本校を来校しアホウドリ繁殖に関する講演をしていただいた。

<Lesson 8> The Gift of Life
 生徒にドナーカードの実物を配り,ドナー登録について考えさせた。「病院でのアサコさんの家族の話し合いでは,どんなことが話されたのか」,「あなたが,アサコさんのお父(母)さんなら,どういう決断をしただろうか」などという,問いを発しながら授業を行った。
 この課でもやはり総合学習でもプレゼンテーションの準備があるため生徒の負担を考慮し,Do you want to donate your organs? というトピックでの writing を課すにとどめた。この問に対し,3分の2の生徒は肯定的な回答をした。その理由としては,病気で苦しんでいる人を助けたい,自分の死後は自分にとって臓器は必要ないから必要としている人にあげたいというもなどがあった。逆に臓器提供はしてもよいが,目(眼球)は抵抗があるという女子生徒もいた。また,否定的な理由としては,自分の体が他人のものになるのは嫌だ,自分の体は両親からもらった贈り物だと思うからそれを他人に与るのは嫌であるといった意見があった。

<総合学習との連携>
 最後に総合学習と連携したプレゼンテーションプロジェクトについて触れたい。1年部と協同し,国際理解や国際問題について調べ,各自5分から10分程度のプレゼンテーションを年度末に行うという計画を立てた。生徒が内容をまとめる時間は総合学習で行い,一方,英語の時間ではそれをいかに分かりやすく理路整然と英語で表現するかという Academic Writing に関する指導を行った。また,発表用の資料の準備は総合学習の時間に行い,総合学習のゼミ担当(必ずしも英語の教員ではない)が指導にあたった。発表は,英語の授業と総合学習の時間に2回実施した。生徒は同じ発表を2度することになったが,発表する集団を入れ替えたため,異なる環境で発表を行った。
 1年の総まとめにふさわしいプレゼンテーションとなった。資料もただ,写真を見せるのではなく,内容の説明に必要なところで的確に示せるようになった。音楽を効果的に流したり,パワーポイントを駆使してビジュアル効果を狙った生徒も登場した。このプレゼンテーションは春休みの課題として,150語程度の英語による原稿にまとめ,生徒各自が授業担当のところへ e-mail で提出する形を取り,小冊子にまとめられている。

<定期テストと実力テスト>
 プレゼンテーションの機会が多くなったこともあり,授業の進度は従来の訳読式の授業に比べれば,幾分遅れ気味だった。前期の中間テスト(6月初旬実施)までに Lesson 2 までしか進むことができなかった。本校では「コミュニケーション」の定期テストと実力テストの際には,必ず70から100語程度のテーマ作文を課している。前期中間テストでの作文のテーマは「英語以外にあなたが学びたい言語とその理由(70語以上)。」だった。作文の配点は20点とし,ALT もその採点に加わっている。文法事項のミスは1年生の段階ではあまり細かく指摘しない。まとまった量の英文を与えられたテーマに沿って書くことができる能力の育成がこの時点での主旨であるからである。また前期の期末テストでは先述した Lesson 3 の内容に絡めて「ALT の Jennifer に紹介したい日本の食べ物とその理由(70字以上)」を課した。後期の中間・期末試験では,それぞれ,「 (mobile phone, car, microwave, the Internet, an electronic dictionary) の5つの中から1つアイテムを選び,その advantage (s) disadvantage (s) を150語程度で述べなさい。第1段落で advantage (s) を,第2段落で disadvantage (s) を,第3段落であなたの意見を述べなさい。」という本格的なものと「日本では15歳以上でドナー登録ができます。あなたはドナー登録をしますか。その理由と共に80語程度の英語で答えなさい。」といったものを課した。
 第一回実力テストでの作文のテーマは「My Favourite Subject について(80字以上)」,さらに夏休みの課題として「My Friends」というテーマで250語から500語の作文にも挑戦させた。この作文の優秀者2名は1年生ながら,その原稿を元にスピーチ原稿へと書き換え,外部団体が主催するスピーチコンテストへ参加した。生徒がこれだけの語数の英文を作成できるようになったということは,我々にとって大きな喜びであった。
 また,「コミュニケーション」の試験においては当然のことながら毎回リスニング・テストを課した。 TOEIC の写真問題を手本とした,浜松西オリジナル問題を作成し,生徒の興味関心を引いた。

 
6.あとがき

 Stevick は,学習行為を防御型学習 (defensive learning) と受容型学習 (receptive learning) の二つに分類している。防御型の学習とは,教師から学習者へと教授内容が一方通行で流れる授業を意味する。このような授業において,学習者は教師からの質問があたかも矢が飛んでくるように感じ,不安と緊張感におびえながら受動的な姿勢で授業に取り組まざるを得ない。これに対し,受容型学習では,学習者の心理的不安を取り除き,情意フィルター (Affective filter) を下げることを第一目的とする。
 そもそも自己表現力を高めようとする授業では,生徒の使用言語形式よりも伝達しようとする内容の方に重点がおかれる。言語形式に重点がおかれる知的ゲーム形式の授業においては,正解というものが存在する。また教師は生徒よりも言語的知識量において大きく優れている。知識注入型の授業が可能となるのはこのためである。それに対し,自己表現に基づくプレゼンテーションやライティングは創造的な活動であり,正解というものはもはや存在しない。生徒は,インターネットなどを用いて自分が選んだトピックに関する情報収集を行い,時には教師がまったく未知の領域に関する情報を提供してくれることがある。そのため教師と生徒の知識量に大きな差が生じない場合が多く,教師は生徒に対して知識量における優勢を誇れなくなってしまう。こうして自己表現重視型の授業においては,教師主導の知識注入型授業自体が成立しなくなる。したがって教師は自然に受容的な姿勢で学習者に接するようになり,学習者の発言の正誤を指摘するよりも,むしろ発言しようとする学習者の意欲を評価するようになる。このようにして,学習者は内発的に動機付けられ,積極的な態度で学習に取り組むようになり自己学習型の姿勢を身に付けてゆくのでなかろうか。
 我々英語教師は大きな転換を迫られているのかもしれない。

引用文献
大下邦幸編著(2001)『コミュニケーション能力を高める英語授業』,東京書籍
小西正雄 (1997) 『消える授業 残る授業』,明治図書
竹本俊穂 (2001) 「実践的コミュニケーションを育成する効果的なタスクとその指導過程」『中部地区英語教育学会紀要』31号
縫部義憲 (1985) 『人間中心の英語教育』 ニューベリーハウス出版社
三浦 孝(2003) 「日本人の対人コミュニケーション状況と英語教育の使命」『中部地区英語教育学会紀要』33号