英語授業実践記録
英語での討論を段階的に指導する
大阪市立東高等学校
板垣秀和
 
はじめに

 高校3年生を対象とした「時事英語」という授業実践をご紹介します。時事的なトピックを題材として、最終的には、それについて英語で話し合える力を養うことが目的です。

 
題材を易から難へ段階的に

 生徒の知的レベルと英語のレベルのギャップはかなりの開きがあります。生徒の知的レベルに合うような題材を最初から使用すると、「英語自体の難しさ」と「題材の内容の難しさ」の二重苦になりますので、生徒にとってはハードルが高すぎるということになります。よって、「内容」のハードルを最初は低いところから始めます。例えば、昨年ですと、サッカーのデビット・ベッカムがスペインのチームに移籍した話があります。移籍後しばらくして「奥さんがスペインに馴染めず離婚の危機か?」という記事が英字新聞に載りました。これを使って「ベッカムは家族のためにイングランドに戻るべきかどうか」という内容で話し合ってみました。最終的には人にとって大事なものは何か?(家族、自分の夢、お金など)という話に行き着くわけです。このような軽い話題から始めて、最後は、地球環境の問題や政治的な問題(いわゆるGlobal Issues)に到達するのが最終目標です。
 「時事問題を英語で語る」という高校生としては高めの目標を掲げていますので、一足飛びでは達成できません。できるだけスモールステップの段階的な指導が必要となります。次に指導上のアイディアをいくつかご紹介したいと思います。
 
Shadowing

 通訳ガイドなどの訓練方法として知られ、中・高の英語授業でも使われることが多い (*1) Shadowing ですが、これを家庭学習に組み込みます。そして、listening能力のみならず、speaking 能力の向上にも役立てようというのが趣旨です。まず、次の定期考査までのトピック・題材を決定します。次にそれぞれの題材に関して短い英文(はじめは10秒くらいからスタートして徐々に長くする)を作成しテープに録音します。これを生徒分ダビングして生徒に配付します。ただ、昨今テープの再生機器を持っていない生徒もいますので、そろそろMDかCDに移行すべきかと思案中です。実施の方法は、

[1] 最初の授業で、Shadowingによる学習方法を指導します。モデルとなる英文を実際に聞かせながら1,2回やらせてみれば十分です。テキストは渡しません。生徒には、dictationではないので書き取らないこと、ひたすらできるようになるまで繰り返し練習することを指示します。
[2] 家庭学習では、次の授業の題材に関するものを練習してくることとします。寝る前に体操をしながら聞く生徒や、MDにダビングして登下校に聞く生徒など様々です。
[3] 授業のはじめにチェックします。まず全体で1回。ALTと私で半分ずつ(全体が20名なので10名ずつ)の生徒を観察します(実際は眺めているだけですが生徒にはプレッシャーになります)。次に数名指名して、一人ずつやらせます。これは評価に入れます。

 この方法でいくと、チェックは簡単ですし、授業時間の最初の5分程度を使うだけで済みます。
 テキストはその日に扱う題材に関するものなので、自分が意見を述べる際に、出てきた表現などを使うことができるという意味でspeakingにも転化するであろうと考えています。それから、失敗しないコツは、はじめから難しいものを与えないことです(内容・分量・スピードで調節します)。テキストを与えないわけですから、生徒が挑戦してできる範囲のものから始めて、徐々に難易度を上げていけばよいでしょう。

 
Copying

 Shadowing は単に言われていることをそのまま再生するだけです(もちろん正しく聞き、再生するためには listening 力以外にも文法力なども必要なわけですが)。自分自身の意見を述べるレベルに向かう次の段階として、この Copying(「声に出して読みたい日本語」で有名な斉藤孝氏のアイディア「先生増殖方式」を拝借して私が命名)を今年度取り入れてみました。これは要するに教師の話をそっくり生徒に真似させるというものです。

[1] 教師はその日の話題に関して、30秒(くらいから始めて徐々に長くしていく)の英文を作成します。
[2] 授業の最初にその英文を生徒に聞かせます。生徒には、後で先生の言った内容を再生してもらう旨を伝えて、そのために必要なメモを取らせます。
[3] 教師の話が終わったら、ペアワーク開始。片方がメモを見ながら、教師の話を再生します。もう一方は自分のメモを見ながら訂正や補足を行います。終わったら、交代して同じことを行います。
[4] 数名指名して、前に出させ、実演をさせます。

 生徒は、自分が作成したメモを見ながら、教師の英文を再生するだけなので、表現力・文法力などが要求される一方、内容に関しては考える必要がありません。よって、自分で内容を考えて発表するよりはハードルが低くなるわけです。
 上記のような指導を毎時間のはじめの5〜10分行う一方、残りの時間は自分自身の意見を少しずつ言えるように次のような指導を段階的に行っていきます。

 
Read, look up and say

 これは、指導の一環に入れておられる方も多かろうと思います。自分の意見を書いたものを読むのではなく、より話すことに近い形で発表させる方法です。書いてきたものを読みながら発表するのですが、話すときは必ず一旦顔を上げて発表します。これはプレゼンテーションの基本でもありますから、1,2年生段階で繰り返し指導して徹底しておきたいところです。3年生の最初の段階では、毎回の時事的題材に関して、具体的な質問を事前に与え(例えば What would you do if you were David Beckham?)発表させることになります。
 
Key Words

 次に、Read, look up and say と内容的には同じ活動をさせるのですが、自分自身の意見を全て書かせるのではなく、key words のみを書かせます。機能語と内容語に分けた場合の内容語のみです。それを見ながら発表させるのです。ただし、いきなり全体活動(全体に対して発表したり、全体で話し合う)をするのは難しいので、私は必ず最初にペアワークを入れます。「ペアで一度話し合わせてから全体活動」という流れを作っておくと生徒は一度「練習」しているので、比較的抵抗なく全体活動に入っていくことができます。
 
Bubble Chart

 次なる段階は、brain storming で使う手法ですが、(*2) Bubble Chartを作り、それを使って発表させるものです。まず紙の中心に円 (bubble) を描き、その中に題材のトピックを書き入れます。その周りに思いついたアイディアを付け加えてつないでいくわけです。bubble の中に書き入れるのは1〜数語のアイディアのみです。この作成を通して、その題材に関して思考を深めていくことができます。Key Words までの段階ですと、自分の意見を一部書き出すのみになりますが、これを使えば、より広範囲で包括的な意見を準備することができ、全体活動をよりディスカッションに近いものにしていくことができます。ただ、最初はディスカッションから始めるのではなく、この Bubble Chart を用いて(大きな紙に書かせたものを黒板に貼らせるか、OHP を使用する)発表形式にするとよいでしょう。生徒は思いのほか自分が話せることに気づきますので、Bubble Chartのよい導入となります。

 以上、いくつかのアイディアを示しました。時事的な題材を使って英語で討論するというのは、生徒にとってはかなりハードルが高いことです。しかし、それを上手く支援するような段階的な方法があれば、彼らの知的レベルにあった授業になるであろうと思い、日々模索を続ける毎日です。

参考文献
『日本語力と英語力』(斎藤孝・斎藤兆史)中公新書ラクレ

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