英語授業実践記録
シラバス(私案)作成のススメ
茨城県立多賀高等学校
廣木喜博
 
1.「教える側」と「教わる側」

1)-1. 平成15年度茨城県英語教員集中研修
 平成15年度茨城県英語教員集中研修に参加した。その趣旨にはこう書かれてある。「〜全ての英語教員が,英語による実践的なコミュニケ−ション能力の育成に関する言語理論の研修を行うとともに,英語によるディスカッションやプレゼンテ−ションなど様々なタイプのコミュニケ−ション活動を行うことで,効果的な授業を展開する上で必要となる英語指導力及び英語運用能力の一層の向上を図る。」
 今回のような研修でいつも感じる疑問点または問題点を以下のように考える。

ア) 「主催する」側の目的や意図の曖昧さと,その計画と準備の不足
イ) 「参加する」側の目的や意図の希薄さ,仕方なくという目的意識の欠如
ウ) 「研修目的」に沿った効果や結果を得るための過程の軽視

1)-2. 問題点
 ア)〜ウ)をこう置き換えてみる。

ア) 「教師」側の目的や意図の曖昧さと,その計画と準備の不足
イ) 「生徒」側の目的や意図の希薄さ,仕方なくという目的意識の欠如
ウ) 「授業目的」に沿った効果や結果を得るための過程の軽視

 研修などで感じる「退屈・窮屈さ」「不明瞭・不透明さ」「手応えの無さ」は,まるで生徒と同じだと感じている人がいるかもしれない。そういったことを解決するためには何が必要か。

 
2. SYLLABUS

2)-1. 共通理解のための「シラバス」 
教師と生徒お互いの授業に対する考え方を合致させ,学習の進度や内容の方向付けをしてくれるのが,1)「シラバス」なのであろう。それこそが解決の糸口となるはずである。
 「英語を通してどういった学力を身に付けさせるか」これは,授業をつくる側の責任や態度が何よりも重要である。まず学校や学年,教師個人といった教える側に明確な目標や計画,意図や意志が必要なのだ。しかも、それが分かりやすく、目に見える形であらねばならない。
 各学年で,各学期で,日々3年間にわたって,体系的かつ系統的に、生徒に身に付けさせるべき学力を,慎重に吟味・検討するべきである。そして,それを生徒に提示する。そうすることが,教師と生徒,教える側と教わる側の共通理解を生み,生徒が持つ授業に対するマイナスの要素を軽減することにつながるはずである。
 学校や学年で、そして何よりも教師自身が「英語を通してどういった学力を身に付けさせるか」を明確にしておく必要がある。教師自身が「目に見える尺度」を持つのである。

1)SYLLABUS(シラバス)は学期の最初の授業で各科目の担当者から配られる。何月何日にどういう内容を授業で扱うか,試験や課題発表はいつかなどが書かれており,学生はこれに従って予習や準備をする

2)-2. 教師も生徒も「自己評価」
 「評価」について研修をした時に,「自己評価」の大切さを学んだ。これは生徒だけでなく,教師も同じであろうと考えられる。授業がうまくできた。生徒が授業を理解してくれた。ALTと生徒の活動が活発であった。適切な教材の提示や助言ができた。これらのうまくできた経験と,それを上回る数多くの失敗を自己評価、もしくは自己診断しながら,教師としての経験を積んできたのである。そして,これからもそういったプラスやマイナスの経験を積んでいくのである。
 しかしながら、自己評価をするにも,その肝心の評価の対象になるものがなければならない。そして、評価対象の規準をつくりだすのもやはり「シラバス」なのだ。

2)-3. 「シラバス」いろいろ
 教師と生徒が学習の目標や進度状況を把握するためにも、そして、それぞれが自己評価をできるようになるためにも「シラバス」が必要になる。いくつか考えられる例を挙げてみると、

・英語科教師(または生徒)指導目標シラバス 
・授業シラバス(年間学習指導計画)
・課外シラバス
・投げ込み教材シラバス
・総合英語(文法事項)シラバス
・ALT活用シラバス

 自分の考えを文字にすることはかなり難しい作業ではある。しかし、そうすることが自分の考えを整理したり、学習の目標を明確にすることにつながるは確かである。

 
3.「Explicit Knowledge」
 と「Implicit Knowledge」

3)-1.「明白知」と「暗黙知」
 しかしながら,上記のようなシラバスを仮に作成したとしても、授業を上手に創り出せる人とそうでない人では何が違うのであろうか。それは2)「Explicit Knowledge」(明白知)と「Implicit Knowledge」(暗黙知)ではないかと考えるのだ。

 2)知識というのは常に明白な形で存在しているわけではありません。特許やマニュアルで明白に記されている知識をexplicit knowledge (明白知),それに対して職場などで定着はしているものの,明白に記されていない知識をimplicit knowledge (暗黙知)と言います。この暗黙知をいかに若い世代に伝えていくかが重要  (ビジネス英語5月号 から)

 わずか3年間という短い高校生活の間に、「何を」「いつ」「どのように」教えるのか。
これを的確につかんでいるか、そうでないかで生徒の学力の成長は大きく異なる。
 広い年齢層にわたる教師がどの学校にもいるのにもかかわらず,その現場での経験が生かされていなかったり,教師側が抱える疑問や矛盾が解決されないままでいるのは非常に残念なことである。それは教師のためにも,生徒のためにも良くないことである。年間学習指導計画を「明白知」とするならば、各教師が経験した「暗黙知」なるものも、明白にされるべきだと考える。そういった経験や積み重ねをシラバスに載せるのである。
 学習指導要領を基盤にしつつも、それぞれの学校が向き合うべき生徒の姿は様々であるために、各教師が教える内容やスタイルも変化に富んだものになる。生徒に身につけてほしい英語力、教師が持つ英語観、各種教材の活用方法や提示時期、それぞれの学校が向き合うべき生徒のレベルは同じではないのだ。にもかかわらず、教師の持つ尺度が変わらないことが、様々な問題を生み出す要因になるのだろう。生徒の要求に適切に応えることが出来ない教師は,そのたびに生徒からの信頼を失う。時には,学習への興味や関心を減じたりもする。
 こういったことからも教科書の単元の区切りや学習目標を載せた年間学習指導計画と,現場の先生方の意見や経験を反映し,生徒の学力とその実態に合う経験や意見をうまく組み合わせたものを、目に見える形で具現化するのだ。
 そこで、「Explicit Knowledge」(明白知)と「Implicit Knowledge」(暗黙知)を含むシラバスの作成を考え、それこそが学校や学年,または教科担任が生徒と共有できる尺度になり得るのだ。

3)-2. シラバスの有効活用
 もしこういうものが作成できれば、以下のような利点が考えられる。

「英語科の意見交換」
ある考えが提示されれば、それを元に各教師の意見も言いやすくなるはずだ。そしてそれが、その学校の英語科の学習目標を映し出し、意思統一を図る尺度にもなる。

「授業内容の変化」
一定の授業スタイルは持ってはいるが、様々な英語に触れさせられないでいる場合には、系統的・段階的かつ多種多様な授業づくりの目安になる。                

「評価と対応」
内容や教材、進め方といった授業を評価できるようになり、そして、その失敗と反省をふまえつつ、生徒への対応や英語の授業を改善していくことが出来る。

 
4. 生徒のつまずき

4)-1. 「教師が教えるべきこと」
 これまでの経験からこういうことは、授業を通して生徒に身につけさせた方がいいのではないかと考えられる項目を一部挙げてみる。「4技能のバランス」をふまえながら、
「基本」 語順 主語+動詞の語順の徹底、主語と動詞の発見
品詞 日本語と英語を比較しながらの品詞の理解
単語 接尾辞や接頭辞、派生語、語形変化。内容語と機能語
修飾 修飾という概念の確認と習得
「発展」 動詞 動詞表現の広がり
接続詞 「and」が結ぶ(語・句・節・文)
多機能語 「that」や「as」の意味と機能
「応用」 ネクサス 意味上の主語と述語の関わり
後置修飾 to不定詞、分詞、関係詞
代名詞 人称・指示「that」「they」「them」の理解
その他 副詞、段落標識、言葉の単位
「リズム」 強弱 強弱のリズム、音の「化学変化」(連結・同化・弱化・消失)
音読 音声練習方法の提示と実践
「その他」 学力 見えない学力の育成 「集中力」「持続力」「計画力」
目標設定 修正・確認(「実用英語」「学校英語」「入試英語」「資格英語」)
英作文 「動詞」「主語」「接続詞」「熟語・構文・文法」の手順

 生徒に関わる時間が増え、教えれば教えるほど、もちろん上記の内容だけではないが、「生徒のつまずき」に立ち戻る必要性を感じる。上記の内容をバランス良くシラバスに組み込み、教科書や投げ込み・視覚教材等を使い、知的好奇心を喚起しながら、生徒の学力を見極め、体系的かつ系統的に教えることが、単位数減や授業時間の確保と嘆く教師が抱える問題解消につながる。

4)-2. 評価規準と観点別評価
  新教育課程の導入に伴い、「評価規準」と「観点別評価」がクロ−ズアップされている。観点別評価と評価規準をどのように決定し反映させるのかはかなり難しい問題になるはずである。
 教科会で上記のことを話し合ったときに、「開示」や「客観性」の問題を含め、改めて「シラバス」の必要性を感じた。「関心・意欲・態度」、「思考・判断」「技能・表現」「知識・理解」を一体どうやって評価するというのか。このような問題を解決するためにも、英語科や教師自身が、授業指導の内容や目標を明確にする必要性がますます高まってきているのだ。

参考文献
・「英語にとって学力とは何か」 (三友社)寺島隆吉
・「英語にとって評価とは何か」 (三友社)寺島隆吉
・「教科指導と生徒指導」 記号付け研究会月刊誌
・ VIEW 21 Benesse 2003年度新旧両課程生比較研究号
・ 東京都立城東高校シラバス
・ 進研ゼミシラバス
・「英語力を絶対評価するとはどういうことか」 東京大学大学院博士後期課程 長沼君主
・「ビジネス英語」 NHKラジオ講座 5月号
・「ポートフォリオ評価の実際」 (金子書房)加藤幸次
・「英語にとって音声とは何か」 (三友社)寺島隆吉