教育改革のとりくみ 目次

子どもたちを本物に出会わせる学習体験の実践
〜尾形乾山に学び,そしてチャレンジ!〜

滋賀県野洲市立篠原小学校

写真1
▲ 全ては尾形乾山との出会いから・・

1.学校の概要

 平成15年に創立100周年を迎えた本校は,田圃の真ん中に建つ児童数217名(平成17年5月1日現在)の小規模校である。

 地域的には新しい住宅地と旧来の在所があるが,大変教育熱心な地域である。

 このような土地柄で,100周年事業には陶芸施設として「しのたけ記念館」が建設され,児童はもちろん保育園,幼稚園,そして地域活動にも活用されている。

2.基本テーマ「子どもたちを本物に出会わせる」とは

 授業をどう活性化させるか,特に「総合的な学習の時間で,どのように取り組むか」を課題としている。これは,今教育を取り巻く環境が「総合的な学習の時間への否定的な見方」からというわけではない。

 これまでこの時間の中で取り組まれてきた内容や学習活動が,ほんとうに子どもたちにとって,真剣で意味のあること(特に人間形成において)をやっているのか,という反省からである。

 そこで,学習体験を構想していく中で,「子どもたちを本物に出会わせる」ことを基本においたが,尾形乾山についての取り組みから「子どもたちを本物に出会わせる」3点をあげる。

 (1)  「尾形乾山」の本物の作品との出会い <新しい形での美術館との連携授業の実践>
 … 学芸員から作品の解説を受けるとともにスケッチをする。

 (2)  学習に関わってくださった本物の多くの方々との出会い
 … 3.活動の実際 参照

 (3)  自分自身の本物の内面の世界との出会い

 … 子どもたちは尾形乾山の作品に出会い,学習に関わってくださった多くの方々に出会った。そこで美しさに対する感性を自分の中に見いだし,関わってくださった方々のすばらしい専門性と人間性に出会った。それは「作品といえる」すばらしい作品(卒業制作)に結晶したが,子どもたちの中にも「人として生きる,将来の自分像」を結晶させていく。

 この取り組みについては,具体的に以下の活動の実際で,述べているので参照していただきたい。平成17年度に入り,この学習を基に取り組みをはじめている(琵琶湖ホールの合唱団,狂言とそのワークショップ等)が,基本は「子どもたちを本物に出会わせる」ことであり,うまく繰り返していくことから,明らかに子どもたちの取り組みの様子は変わってきている。

3.活動の実際 6学年 総合的な学習の時間(わくわく)学習指導案

 ■ 平成17年1月28日 (金) 10:50〜12:25
(コミュニティセンターしのはら 2階 和室)

 ■ 児童 36名, 指導者  担任教諭 相間 幹子

 ●
外部指導者  ミホ・ミュージアム学芸員  畑中 章良氏

 陶芸家  宮本 博 氏,猪飼 祐一氏,橘 功一郎氏

 武者小路千家師範  但見 修一氏

 子どもの美術教育をサポートする会代表  津屋 結唱子氏

 (1)  学習テーマ  尾形乾山に学び,そしてチャレンジ!

 (2)  活動のねらい <全15時間計画>

 6年生の社会科歴史学習で室町・元禄文化を学習する中で,その発展として体験的に学ばせるために,ミホ・ミュージアムでの尾形乾山展をきっかけに,抹茶椀や角皿を作陶・絵付けをし,それらを使っての茶の点前を体験することにより,直接体験的に室町・元禄文化をとらえさせる。

 この体験的な活動を通して,授業に関わってくださった学芸員,陶芸家,茶道家,ボランティアの方々の人柄や生き方のすばらしさに出会わせる。

 (3)  これまでの活動の概要 <2学期>

 ○ ミホ・ミュージアムに行き,学芸員さんからの解説を聞いたり,自分の好きな作品をスケッチする。そのスケッチをもとに,自分が創りたい作品のイメージ(形・大きさ・詩歌・絵模様など)を持つ。

 ○ ミホ・ミュージアム近くの古民家で武者小路千家師範より抹茶をいただく体験をする。


▲「緊張の連続」でも,「おかわり!」

 ○ 本校にある陶芸施設「しのたけ記念館」で陶芸家の指導のもと抹茶椀・角皿・花入れを作陶する。


 ○ 素焼きに京焼きの陶芸家の指導のもと,自分がイメージした乾山風の絵付けをする。


「ほんとうに,子どもも陶芸家も真剣勝負」

 (3)  本時のねらい

 焼き上がって完成した自分の作品とはじめて出会い,指導してくださった陶芸家の先生から作品についての話を聞き,また,学芸員の先生から乾山や茶道についての話を聞き,茶道家の指導を受けて実際に自分が創った作品を使って点前の体験をすることから,陶芸や茶道についての伝統文化を新鮮に自分の中に受け入れる。

 (4)  本時の活動<授業時間:10:50〜12:25>

学習活動 <時間は目安です> 学習活動で大事にしたいこと
1. 一礼をして部屋に入り,自分が創った作品が入った箱の前に座る。
<2分>

2. 箱を開け,作品を取り出して鑑賞する。
<5分>

 思い通りだったところ

 思っていたのと違っていたところ

 となりの友達の作品も見合う。

静かな気持ちで入らせる。
(箱に子どもが書いたサインが書かれている)

自分の作品に出会った感動を大事にし,じっくり見させたい。



ゲストの先生方も子どもの所へ行って一緒に鑑賞してやってください。個別に話してくださって結構です。
3. 壺の3人の作品に,但見師範より茶花を活けていただき,みんなで鑑賞する。
<5分>

 壺だけでもきれいだったけれど,花を活けたらまた違って見える。

 いろいろ変わって見えるんだなあ。

 いろいろ変わって見えるんだなあ。

 すごいなあ!
但見先生より茶花の意味や花を活けることから壺がどのように命を持ってくるかについて見せ,話しください。

 一つの作品が花を活けることによって,どのようにさらに生きてくるかを感じさせたい。

4. 作陶を指導してくださった宮本博,猪飼祐一,橘功一郎の3人の先生より,子どもたちが創った作品についての話を聞く。
<9分>

 あらためて自分の作品を見直す。

 そうだったのか!

 うれしい!

この一連の指導を通して,陶芸家として,指導者として子どもの作品を見た率直な感想を述べてやってください。具体的に作品を取り上げてくださっても結構です。子どもの心に残っていきます。

5. 学芸員畑中章良先生より,乾山や茶の湯に関わっての話を聞く。
<3分>

 乾山や茶の湯は昔のものではないんだ!

 今こうしていることが大事にしていることなんだ!

乾山や茶の湯に関わって,文化としてどのように今に生き続けているのかについて話してやってください。先生の思いを存分に出してくださって結構です。
<一期一会>

6. 武者小路千家師範但見修一先生より茶の点て方,お菓子の出し方,いただき方について指導を受ける。
<15分>

 なんとかやれそうかな

 やってみたいな

 今日のお菓子はおいしいそう!

子どもたちは「作法の形」に緊張すると思いますが,楽しんでいただくことを大事にしてやって,気をほぐしてやってください。

モデルの子どもを出して指導してくださっても結構です。

7. 3つのグループに分かれて体験する。

 私が点てたのおいしいといってくれるかな?

 うまくできたよ。もう一回やってみたいな

ゲストの先生方は子どもたちに遠慮無くどしどし関わってやってください。そのかかわりに,この授業の大きな意義があります。


8. この学習を通して,自分の中で学んだこと,気づいたことはなにかを発表する。
素直な感想を出し合うことで今日の学習を心地よいものとして子どもたちに残していきたい。
9. 但見師範より今日の学習についての話を聞く。
<5分>

これまでの一連の学習を通して茶の湯の師範として率直な感想や思いを子どもたちに伝えてやってください。
10. お礼を言って部屋を出る。
教室で,これまでの学習の感想や教えてくださった先生方へ手紙を書く。<この学習で学んだこと>


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