教育改革のとりくみ
目次

基礎・基本の定着を図り,確かな学力の向上をめざす指導の工夫
〜「数と計算」領域の指導を通して〜

愛知県海部郡蟹江町立蟹江小学校

1.研究のねらい

 今日の教育は,学習内容の確実な定着と個性尊重の重要性が叫ばれている。一方で,学力低下の声も聞こえてきている。そこで,児童の学習意欲を喚起し,学力向上を図るにはどのような指導方法が効果的かを考えていくことが重要であると考え,本校では基礎的・基本的な内容を一層確実にしていくとともに,一人ひとりの個性が生きる学習活動をめざし,「基礎・基本の定着を図り,確かな学力の向上をめざす指導の工夫」をテーマとして研究を進めることにした。

 「確かな学力」とは,基礎・基本を確実に身につけ,それらを次のステップに進んで活用して問題を解決できる力として捉え,確かな学力の向上のためにまず,基礎・基本の内容を(今年度は「数と計算」領域において)学年ごと,単元ごとに検討し明確にした上で,授業を進めていくことにした。

 そして,指導の方法を工夫すればそれらの基礎・基本の定着を図ることができ,児童一人ひとりが1時間ごとに満足感を得ると考え,定着を図るための指導の工夫や満足感を得るための様々な手だてをもって研究に取り組んでいきたい。

2.研究の仮説

 既習事項を繰り返し練習し,自力解決の場で個に応じた指導方法を工夫し,支援していけば,個々の計算に対するイメージが確立され,確かな学力を向上させることができる。

3.研究の進め方

 (1)対象学年 … 全学年

 (2) 研究の方法

1) 実態調査 … アンケート,学力テスト

2) 基礎・基本の内容の検討

3) 評価規準の見直し

4)  定着の手段

 朝の基礎トレ ……  計算力アップをめざしたトレーニングタイム(朝始業前)

  ・ 既習事項の復習(百マス計算,○つけ法,音声計算など)

  ・ 誤りのパターンを発見し,指導に生かす。

 指導過程の検討 …  各段階における学習活動の工夫

  ・ めあてを知る段階 …… 既習事項の復習(意欲をもたせる工夫;音声計算など)

  ・ 考え・確かめる段階 … 個に応じた工夫(アルゴリズム,コース別プリントなど)

  ・ 深め・広げる段階 …… 意欲的に取り組ませる工夫(ふりかえりカードなど)

音声計算:  問題が書かれたプリントをもち,声に出していってスピードを競う練習法で,声を出すなど五感を働かせる志水式は,脳を鍛える効果で優れていると言われている。
(中日新聞より抜粋)

4.実践

 (1)  朝の基礎トレ

 朝の基礎トレとして,10級から1級のチャレンジ学習プリントを用意した。

 10級…繰り上がり・繰り下がりのないたし算・ひき算

 9級…繰り上がり・繰り下がりのあるたし算・ひき算

 8級…2桁の筆算

 7級…3桁の筆算

 6級…かけ算

 5級…わり算

 4級…3桁のたし算・ひき算

 3級…あまりのあるわり算

 2級…かけ算の筆算
(2桁×1桁・3桁×1桁)

 1級…かけ算の筆算
(2桁×2桁)


 3年生において,3桁の筆算の仕方を理解し,正確に計算ができるためには,それまでの加減の計算が定着していなければならないと考えた。

 そこで,10級15,9級15のチャレンジ学習プリントを与えた。10級では,+ と − の見間違いや,= のかき忘れ等によるミスが目立った。再チャレンジをすることにより,このようなミスには気をつけるようになった。

 9級では,ひかれる数が同じである問題が続けば間違いは少なく,順調に復習ができた。

 9級 5 のプリントになると,13−9=6 のようにひく数・ひかれる数に関係なく一の位の大きい数から小さい数をひくという間違いがみられた。このように誤りのパターンを発見し,繰り返し学習することにより,基礎的な計算力をつけたいと考えた。

 (2)  授業実践

 3年 「たし算とひき算の筆算」

 ア  音声計算

 本校では,授業のはじめに授業内容に関連性をもたせた暗算でできる計算プリントに取り組ませた。

 やさしいルンルンコースからスタートし,やや難しいわくわくコースへ一定時間内にどこまで進むかを毎時間記録していく方法をとった。

 答えを言う人,答えを確認する人と役割を決め,二人一組で行い,全員が声を出したり,一定時間内にどこまで進んだか記録をとらせたりすることによって,授業への意欲付けを図った。

 この単元においては,3桁±3桁の計算が円滑に行われることをねらいとして,単元の前半は繰り上がりのある1桁のたし算,後半は繰り下がりのある2桁−1桁のひき算の練習を行った。



 イ  アルゴリズム

 コンピュータで計算を行うときの「計算方法」をいい,広く考えれば何か物事を行うときの「やり方」といわれている。本校ではこのアルゴリズムを大切に考え,復唱することにより計算手順の理解の徹底を図ろうと指導に取り入れている。

 授業中の児童の発表の手助けにと考えて,学習プリントにひらめいたコーナーを設け,アルゴリズムの言葉を書かせてから発表させようとした。しかし,書くことにより,発表の手助けになるという成果があまりみられなかった。

 この失敗をふまえて,ひき算では,プリントにはメモをさせないで唱和させた。児童もこのころになるとパターン化したことに慣れ計算がスムーズにできるようになった。

 また,ひき算の筆算において,ひけない場合にはひかれる数とひく数を逆にして計算する間違いがみられたが,「ひけません」と声に出すことにより,安易な計算をしないという意識づけになった。


アルゴリズム(例)

(1)  500+600の計算

100円玉で5+6=11
答え1100円

(2)  265+178の計算

一の位をたして5+8=13

十の位に1くり上げ
1+6+7=14

百の位に1くり上げ
1+2+1=4

(3)  263−128の計算

一の位から計算して
3−8はひけません

十の位から1くり下げ
13−8=5

…以下同様



(4)  302−165の計算

一の位から計算して
2−5はひけません

十の位からくり下げはできません
百の位から1くり下げ
(十の位に9,一の位に1をかき)

12−5=7

…以下同様


 ウ  コース別プリント

 のびのびコース,ぐんぐんコースのどちらかを児童自身が選択して取り組むようにした。さらに学習できる児童には,発展コースとして買い物レシートを利用した課題を与えた。いろいろな品物のなかから2つの数を選択してそれを計算するようにした。

 のびのび・ぐんぐんどちらのコースを選択しても,レシートプリントに取り組めることや自分で数を選択できるという自由さが意欲的に取り組む結果となった。

 エ  ふりかえりカード

 毎回授業の最後に記入させた。表現力が乏しい3年生の児童にとって短い言葉なりにも,素直な感想が書かれてあった。

 「筆算は簡単」という意識が強くなったことがわかった。また,「お買い物レシートはおもしろかった。」と好評であったことや,ひらめいたコーナーの書き方はわかりづらいことの把握もこのカードからでき,次時からの授業に生かせることができた。


5.成果と課題

 ●  朝の基礎トレは,単元の学習に至るまでの基礎的な計算力をつけるうえで有効である。

 4年生では,わり算の難しいところは,たし算・ひき算・かけ算のすべてができないと解けないというところである。不確かな学力のまま進んできた子どもにとっては,わり算は苦痛以外の何ものでもないのだろう。九九は朝の基礎トレでも気をつけて復習させてきた。

 わり算の筆算では,ひき算のまちがいが意外と多いことがわかった。基礎トレにくり下がりのあるひき算を取り入れる必要を感じた。また,商の一の位が0になる場合や商の真ん中に0がたつ場合に注意が必要であることがわかった。

 ●  音声計算は全員が声を出すことにより,授業への意欲づけを図った。計算を声に出して行うことにより,その後の授業のリズムをつくることができた。また,5年生の小数のかけ算では,整数のかけ算と基本的には同じであり,下地づくりとして有効であった。

 アルゴリズムを唱えることで,計算領域を学習中は誤りが比較的少なくなっていた。

 下位の児童も意欲的に取り組む姿が見られ,計算の練習問題でも成果がみられた。しかし,忘れやすいのが児童の特徴である。

【アルゴリズム えーっと 一の位から計算して】
 この操作を忘れないようにするためにも,朝の基礎トレなどの時間を使って反復練習が必要である。

 アルゴリズムいわゆる計算の手順は,簡潔でしかも覚えやすいものでなければならない。3年生のたし算の筆算においては,プリントに記入して発表する人と板書する人という手段をとったが,繰り下げマンや一の位君,十の位君といった役割を分担するなどの工夫により,飽きずに繰り返し学習できることがわかった。

 アルゴリズム並びにそれを復唱する工夫もさらに考えなければならない。

 ●  コース別プリントにおいては,同じ内容ながら問題数を変えたり,ときには計算がしやすい問題にしたりと配慮した。どちらのコースを選んでも次に進めるので意欲を高めることができた。音声計算とともに計算の内容はさらに検討していく必要がある。

 ●  ふりかえりカードに書かせることは,1時間の学習内容をふりかえり児童一人一人にわかったこと,わからないことを問いかけ自己評価させるものである。これは,到達度を自己評価する手段であるとともに,「わかった」「できた」という満足感は次のステップへの意欲づけにもなる。満足感を得られなかった児童にとっても,「次はがんばるぞ」と意欲をもたせたいと考える。

 わかりづらかった箇所を明らかにして記入することにより,そのつまずきの内容を朝の基礎トレで反復練習をしたり,音声計算で取り入れたりすることにより,習熟を図っていきたい。

 ●  意欲をもたせる工夫は限りないものである。4年生では『たてかけひく夫』君の登場でとたんに教室が活気づいたり,アルゴリズムリレーでわり算筆算をやると目を輝かせたりする児童の姿を見た。児童の意欲を湧き立たせるような教材への工夫をこれからも考えていきたい。


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