教育改革のとりくみ
目次

基礎・基本の定着を図り,「自ら学ぶ力」を育てる指導方法の研究
〜算数科・理科を中心に〜

平成15・16年度指定 学力向上フロンティアスクール
福岡県鞍手町立新延小学校

1.研究主題

基礎・基本の定着を図り,「自ら学ぶ力」を育てる指導方法の研究
〜算数科・理科を中心に〜

2.研究目標

 子ども一人ひとりが自ら学ぶ力を高めるために,基礎・基本の定着を図り,問題解決する力を育てる算数科・理科を中心とした指導のあり方を究明する。

3.研究の仮説

 算数科や理科の学習の中で,基礎・基本の力を培い,問題解決の力を高める単元構成をし,個に応じた指導のあり方を工夫すれば,子どもたちが生き生きと学習に取り組み,自ら学ぶ力を育てることができるであろう。

4.仮説実証のための着眼点 〈研究構想図〉

着眼1 個に応じたきめ細かな指導方法・指導体制の工夫・改善

 ・ TT,習熟度別,課題別など学習形態の工夫

 ・ 補充的・発展的な教材の開発

 ・ 個人差に応じた学習プリントの活用

 ・ 集団支援体制の工夫

 ・ 視点児を軸にした授業プラン

着眼2 評価を生かした授業づくり

 ・ レディネスを生かした授業プランづくり

 ・ 評価規準・基準を活用した授業

 ・ 評価カードを活用した授業(自己評価カード・教師評価カード・個人カルテ)

 ・ 机間指導における肯定的評価(○つけ法・声かけ)

着眼3 学力を向上させるための日常的・継続的な指導

 ・ ドリルタイム,くりくりタイム,チャレンジタイム,音読タイム

 ・ 「新延小でつけたい基礎・基本の力」の取り組み(算数・国語・理科)

 ・ 各教科における学び方の習得

 ・ 表現力(特に「聞く・話す力」)を育成する取り組み

 ・ 家庭学習の習慣化(学年や個人差に応じた家庭学習・自学の推進)

 ・ 朝読書

 ・ 基本的生活習慣の育成

5.具体的な取り組み

着眼1 個に応じたきめ細かな指導方法・指導体制の工夫・改善

 (1)  学習内容や児童の実態に沿った学習形態の工夫

<平成16年度行った学習形態の工夫の例>

 ○  単元末の習熟度別学習(主に算数)


 ○  子どもの興味・関心を大切にした課題別の少人数学習(主に理科)


 (2)  個に応じた指導方法の工夫

 ○  できるだけ子どもたちの身近なものを具体的な場面を通しながら,作業的・体験的な活動を多く取り入れ,発展・補充的な教材の開発を行った。

<算数の「量と測定」における発展・補充的な教材の開発の例>

学年 1年生 2年生 3年生 4年生
単元名 長さくらべ 100cmをこえる長さ 重さ調べ 体積
補充的な教材 「長さで,ドン!」というゲーム的活動で,教室の中の物を紙テープを使って2人組で「長さ比べ」をし,媒介物を使った長さ比べができるようにする。 かいけつコース じっくりコース じっくりコース
教室・廊下等の長さを正確に測れるようにし,対象を本やノートの厚さ等にも広げ,単位選択の問題も解くことができるようにする。 重さはかりゲームで,身近なものをはかり,正確にはかりの目盛りを読むことができるようにする。 体積の公式・単位変換等を使って,身の回りにあるものの体積を実測して求めることができるようにする。
発展的な教材 ハッスルコース どんどんコース どんどんコース
体育館にある体操器具(マット・平均台・跳び箱等)を測り,長さの違いを単位換算して解くことができるようにする。 身近なものの重さを手に持って予想して量らせ,重さの量感を育てることができるようにする。 直方体・立方体の体積以外の体積(U字型・石などの不定形の体積)をこれまでの学習を生かして求めることができるようにする。

<理科の発展・補充的な教材の開発の例>

学年 4年生 5年生
単元名 自然の中の水 天気の変化
補充的な教材 「水蒸気を集めよう」コース 「気象予報士」グループ
沸騰している水から出てくる水蒸気の性質を空気の性質と比べながら,確かめることができるようにする。 日本国内や日本付近の都市の天気を予想することで,天気の変わり方の規則性の定着を図ることができるようにする。
発展的な教材 「ミニ雲づくりをしよう」コース 「天気の言い伝え」グループ
水の状態変化の性質を生かしたミニ雲づくりの活動から,雲ができる仕組みがわかるようにする。 天気に関する昔からの言い伝えを天気の変化の規則性を使って説明することで,天気の変わり方に関する見方・考え方を深めることができるようにする。

 ○  個人差に応じた学習プリントの活用


 ○  視点児を軸にした授業プランの作成

 ・ 事前の実態調査で視点児の実態把握をし,その実態に応じた手だてを単元全体で考える。
(学習形態,学習指導のあり方の重点,T1T2の役割分担等)

 ・ 授業プランの中に,1時間1時間の手だてをより具体的に考えて織り込む。

 ・ 視点児の学習の様子を記録評価し,次の支援に役立てる。

 ・ 総括的評価で,視点児の伸びや課題を検証し,さらに支援していく。

着眼2 評価を生かした授業づくり

 (1)  レディネスを生かした授業プランの工夫・改善−個を生かす実態把握の活用−

事前の実態把握の活用
(診断的評価)
既習内容の定着度把握

未習内容のレディネス調べ

意識調査

クラス全体と個々の実態把握と実態分析
授業プラン指導方法の工夫
単元構成の工夫

支援の方法

少人数学習等の学習形態の工夫

視点児を軸にした学習支援の工夫
事中・事後の実態把握
(形成的評価・総括的評価)
評価カードによる形成的評価や個人カルテ等による継続した個別指導

授業改善

学習内容の定着度の把握

事前事後の比較検証

<評価を生かした授業プランの工夫例>


 (2)  評価カードの効果的な活用

 ○  授業プランに沿った評価基準表の活用

 授業プランに沿って評価基準表をつくり,授業改善に取り組んでいる。また,1時間1時間の評価の観点を明らかにし,評価カードを使って形成的評価を行うことで,子どもたちの伸びやつまずきを明らかにし,個に応じた指導に役立てている。


 ○  教師の評価カードと児童の評価カードの共通化を図る。

 授業プラン・評価基準表をもとに,1時間ごとに教師の評価カードと児童の自己評価カードを作成する。また,児童の自己評価カードを1単元分が一目で見えるようにすることで,子どもたち自身の自己評価力・自己認識力・自己の課題意識を高めていく。


 ○  児童の自己評価と教師の評価をリンクさせ,個人カルテで個の実態を把握する。




 (3)  机間指導における肯定的評価 (○つけ法による指導と評価の一体化)

 机間指導の際,肯定的な声かけをしながら○をつけていくことにより,個に応じた即時評価・即時指導を行っている。

着眼3 日常的・継続的指導の推進

 (1)  定着・習熟の取り組み

  ドリルタイム くりくりタイム チャレンジタイム
火・金曜日の朝の活動15分 算数の授業の始まりの5分 単元末の習熟場面



 ドリルタイムカード(前学年と現学年の計算問題)

 今,学習している単元の習熟問題のプリント

 百マス計算プリント

 音読計算ファイル
 授業のはじめにする前時までのミニ復習

学習プリント

フラッシュカードの活用

その日のヒントを包含したミニ問題
 自己診断テストの後,自己選択による習熟度別学習など,単元末の習熟のための取り組み

ワーク・パソコンスキル

体験的・作業的活動

問題づくり

ゲーム的活動

 ドリルタイムカード(前学年と現学年の計算問題)

 授業へのウオーミングアップ

 基礎・基本の定着
単元における習熟を図る。

 レディネスをそろえる。
 毎日の繰り返しによる習熟を図る。
 発展的な学習でさらに学習を深める。

 (2)  算数・国語・理科の「新延小でつけたい基礎・基本の力」の取り組み

 子どもたちにつけたい基礎的・基本的な学習技能を各学年ごとに洗い出し,日常の授業やドリルタイムに連動させて,これらの力をつけていくために,1年間を通して取り組んでいる。また,取り組みの結果は,名簿の一覧表に記録を取り,一人ひとりの状態やクラス全体の傾向もつかむことができるようになっている。また,この記録は,個人カルテとして次の学年に受け渡すことができるようにしている。


 (3)  学習を支える基盤づくり

 ○ 「聞く」「話す」を中心とした人とのコミュニケーション能力の育成

 ○ 授業を成り立たせるための学習習慣の定着

 ○
 朝読書…毎週水曜日の「朝の時間」は,全校一斉に朝読書をしている。1,2年生は,担任やTTが読み聞かせをして,3〜6年生は,自分で好きな本を選んで読んでいる。

 時には子どもたちどうしで,読み聞かせをすることもある。1学期には,6年生が1年生の教室に行って読み聞かせをしている。

 毎週木曜日には,地域ボランティアの方が1,2,3年生を中心に読み聞かせをしてくださっている。

 また,国語の中で必ず声に出して読む時間(音読タイム)を取るとともに,家庭学習の習慣化の中で,特に低学年は音読チャレンジカードを作って取り組んでいる。

 ○  家庭学習の習慣化

 家庭での学習習慣を図るために,「家庭学習のめやす」をつくり,全校で共通理解をしながら取り組んでいる。

 低学年では宿題を中心に,高学年になるほど,自分で計画を立てて自学の取り組みができるようにし,自学自習の力を育てていくことを大切にしている。

 ○  家庭・地域との連携による基本的生活習慣の育成

 生活リズム表…望ましい生活習慣形成の指導

 グットライフの取り組み…自分の生活を見直させ,よりよいものにしていこうとする態度の育成

 地域懇談会・学級懇談会・家庭訪問・通信などを通し,地域・家庭への啓発

6.取り組みの成果と課題

 着眼1 個に応じたきめ細かな指導方法・指導体制の工夫・改善

 ○  成 果

 TT,均等2分割,習熟度別学習,課題別学習など,集団支援体制をもとに様々な学習形態や指導方法の工夫をすることができた。また,自己評価カードや自己診断テストなどを使うことにより,子どもたちが自分を振り返り,次時からの学習を自己選択することができ,個の課題や習熟の度合いに応じた学習を進めることができた。

 ○  課 題

 習熟度別学習における発展的・補充的学習の内容や指導方法の工夫や,学習の中で,場面を把握し,条件を整理し,問題を解決していく力をつけていくための指導方法の工夫に取り組んでいく必要がある。

 着眼2 評価を生かした授業の工夫・改善

 ○  成 果

 子どもの自己評価カードに取り組ませることにより,どの部分ができて,できていないのかを把握することができ,自己認識力が高まっていった。また,教師も評価カードをつけていくことにより,子どもたちの理解度を把握することができた。さらに,このような評価カードに取り組むことは,授業に対する教師自身の振り返りにもなり,次時以降の指導に生かすことができた。

 ○つけ法で,即時評価・即時指導をすることで,指導と評価に一体化を図ることができ,子どもたちの学習意欲を高めることができた。

 ○  課 題

 簡単で日常的に継続して取り組んでいける評価カードの工夫と活用を考えていく必要がある。

 着眼3 日常的・継続的な指導の推進

 ○  成 果

 日常的・継続的な指導を続けていくことで,学力向上においてどの学年も1年間だけではなく,何年間かの積み重ねた成果が出てきている。

 家庭学習についても,各学年の取り組みが進んできており,家庭で学習する習慣が身についてきたといえる。

 ○  課 題

 自学を中心にした家庭学習の推進,自ら学ぶ学び方の習得,筋道を立てて考え表現する力の育成を図っていく必要がある。



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