教育改革のとりくみ
目次

意欲と自信を育み,みんなと育ち合う子どもを育てる

大阪府池田市立神田小学校
学校長 佐々木 豊

1.学校,地域の特色

 本校の前進は,明治9年摂津国豊島郡神田村に「第9番小学校」として創立され,明治12年には神田小学校と改称。昭和26年に北豊島小学校に吸収された歴史がある。古くから神田6か村周辺で宅地開発が進み,昭和53年4月,池田市立10番目の小学校として開校した。

 PTAはじめ地域の学校教育への関心は大変高く,施設設備面への協力のみならず近年は学校支援活動も活発である。学校,PTA,地域の連携で多くの方々に見守られ,21世紀を担う子どもたちの健やかな成長が図られている。

2.平成16年度学校教育目標

  (1)  学校教育目標

意欲と自信を育み,みんなと育ちあう子どもを育てる

  (2)  子ども像

生きる力とひろい心を持ったたくましい神田っ子

 1) 基礎・基本の学力をこつこつと身につけようとする神田っ子

 2) 自分を励まし,友達を励ましながら,共に生きようとする神田っ子

 3) 夢に向かって努力し続けることのできるしなやかな心と身体を持つ神田っ子

  (3)  重点目標

 1) < 人 間 教 育 >自分を大切にし,他人(ひと)を大切にする人権教育を中心とした人間教育を推進する。

 2) < 基 礎 基 本 >家庭と学校が連携し,指導法を改善しながら,学習の基礎・基本を定着させる。

 3) < 総合的な学習 >国際理解教育(西欧・アジア等,諸外国における言語・文化の理解)・地域理解教育(環境としての猪名川・人的環境を含む人材としての神田地区理解)等,総合的な学習へのいっそう計画的取り組みを推進する。

 4) < 特別な支援を要する教育 >
  いわゆる特別な支援を要する子どもたちへの理解を深め,組織としての支援を積極的に研究推進する。

 5) < 汗 を か く >清掃など身体を使い汗をかくような活動も大切にしていく。

 6) < 見 通 し >少なくとも,学期単位のスパンで見通しを持ち,学年間・教材間・行事間等の連関を深め,総体としての一貫性を持つ。

 7) < 規 則 遵 守 >みんなで考えて決めた決まりを,徹底して,守り守らせる。

 8) <効果のある学校>計画・実行・見直し(評価)・計画修正を不断に実行し実効を上げる。

  (4)  教職員像

 1) 教職員がチームの一員としての自覚をもって協力・共働し,同時にチームの中での自分の役割を果たし,学校教育目標の実現を図る。必要に応じ地域保護者と人々への啓発・支援も視野に入れて推進する。

 2) 教職という専門性を高め,深めるための研修を自ら積極的に取り組み,教職員相互の建設的批評を機能させる。

 3) 一人ひとりが神田小学校の運営者としての自覚を持って,私たち教職員自身が自分の子どもを進んで神田小学校に通わせたいと思えるような安心・信頼のできる学校づくりをめざす。

 4) 新築の高級な学校(人・物)でなくとも,みんなで磨き上げた温かみのある美しく手入れの行き届いた学校(人・物)をめざしたい。

3.子どもが生きる学校をめざそう

  (1)  子どもを「にんぎょう」にしない

 大阪の子どもがこんな詩を書いている。

にんぎょう    1年・男子

 せんせいのそばにいると,

 にんぎょうに なってしまう。

 うごくにんぎょうに,なってしまう。

 ぼく,

 はよ いえにかえろ。

(山際鈴子編「児童詩の世界」くろしお出版より)

 「せんせい」は,大抵の場合,子どもが好きで「せんせい」になった。子どもが好きな「せんせい」は,これも大抵の場合,子ども達のために一生懸命働いている。それでも,子どもは,「せんせい」に「にんぎょう」にされることを,きっぱりと拒否しています。

  (2)  宮沢賢治の教師像

 賢治が教師であったことは広く知られています。花巻農学校時代の教師像を畑山博氏 がまとめた「教師宮沢賢治の仕事」(小学館刊)の中で,次のように伝えています。
 賢治は子どもたちが授業を受けるにあたって守るべき3つのルールを話したと言われています。

 ○ 先生の話を一生懸命聞いてくれ

 ○ 教科書は開かなくてもいい

 ○ 頭で覚えるのではなく,身体全体で覚えること。そのかわり大事なことは身体に染み込むまで何回でも教えるから。

  (3)  大村はまの教師像

 国語教室の実践家として知られている大村はま氏が,「教えるということ」(共文社刊)の中で,職業人としての教師像を次のように述べています。

 ○ 一生懸命は,人間として当然の姿。

 ○ 優しくて親切は,教師として当然の姿勢。

 ○ 子どもに確実な力をつけ,責任は全部自分がとる。

 ○ 子どもは,常に一人ひとりを見るべきだ。

 ○ 教師は子どもを尊敬することが大切。

 ○ 「子ども好き」だけではだめ。子どもを一人で生きぬく人間に鍛えあげる。

 ○ 教師という職業人としての技術,専門職としての実力を持つ。

 ○ 「教える」ということが,すぐれた技術になっていなければならない。

 ○ 研究することは「先生」の資格。

 このようなプロの教師集団に出会った子ども達は,その教師に魅かれずにはいられないでしょう。「私」を尊敬し,「私」に確実に力をつけてくれ,「私」一人で生きぬく人間に鍛えてくれる。保護者にしても,プロの教師集団で組織された小学校への信頼はきっと大きなものとなるに違いありません。

 保護者も子どもと共に幸福に暮らしています。プロの教師は,子どもを一人で生き抜く人間に鍛え上げるのです。

  (4)  「照干一隅」に学ぶ

 これは,比叡山開祖最澄の言葉です。第253世座主山田恵諦氏の「大愚のすすめ」(大和出版)では,この言葉を「自ら照らす」と説いています。太陽の光を反射させて光る月明かりではなく,小さな光でも,自らを発光体として一隅を照らすのです。

 子どもたち一人ひとりが自ら照らし出せる一隅を,一緒に求めていきたいものです。

  (5)  「効果のある学校」に学ぶ

 アメリカのエドモンズに代表されるエフェクティブ・スクール論を「解放教育・第301号・’94.1月号」(明治図書刊)に,大阪の鍋島祥郎氏が「学力保障の観点から見た学校づくり」という論文の中で紹介しています。

 エドモンズのいう「効果のある学校」とは,最低限度の学習到達度に達していない者の割合が人種や階層によって異ならない学校のことです。

 エドモンズの導き出した効果のある学校分析から,次の5要素を上げておきたいと思います。

 1) 子どもを束にして見ないで,子ども達一人ひとりを尊敬していく。

 2) 暴力やいじめをなくし,「にんぎょう」のような子ども達ではなく,「にんげん」らしい生き生きとした子ども達の育成をめざそう。

 3) 基礎的な学力の習得を,教師が責任をもって成し遂げるよう実践しよう。

 4) 目標を達成するために,チームとしてスクラムを組んで継続的に努力しよう。

 5) 私たちの目標と成果をいつも見直し,効果的な具体の手立てを考えていこう。

4.本校の少人数指導の取り組み

 本校では,平成5年度より個性化教育推進教員の配置により,算数を中心に,個々の子ども達が活動しやすい学習形態や指導法の追求を行い,大きな成果をあげてきた。

 平成11年度から総合的学習と情報教育の推進に,平成12年度からは,国語と算数に視点を置き,学力診断テストの独自の実施,また,平成13年度,14年度には少人数指導教育に取り組んできた。平成13年度大阪府教育改革推進事業指定年度には,加配形態,指導方法の確立をめざした。平成16年度には,算数を中心に,専科教員や若特教員を活用し少人数指導を展開している。少人数授業における実質的効果は本校の実績から顧みて,平成13年度教育改革推進事業の指定を受け,ささやかながら公開授業研を実施した。

 昨年度実施した学力診断テスト(算数・国語)の結果から,各学年に数名の低学力児童がおり,基礎学力の向上をめざした学校体制づくりが課題となった。

 そこで,これまでの少人数指導に加えて,2年生以上で週1時間,算数の補充学習を設定した。学級の枠をはずし,子どもたちはあらかじめ準備されたプリントを自分のペースですすめ,わからないときは,学年の先生に聞いたり,確かめたりした。各担任は,特に理解の遅い児童について個別指導をした。

 各学年ともプリントは,計算の反復練習であったが,子どもたちは「今日は〇枚する。」と自分なりに目標を決め,意欲的に取り組んでいた。

 週1時間ではあったが,1学期間継続したので,一人ひとりの計算力は向上した。

 また,効果的な指導形態の一つとして習熟度別編成も取り入れながら,きめ細かな指導を通じて,児童の意欲を引き出して確かな学力の定着をめざしていきたい。

 加配教員1名が配置されてから10年余が経過し,とりわけ7次加配では,この加配教員が校内の研究組織の中心的役割を担い,常に率先して少人数指導等の指導方法の工夫改善に大きな貢献を果たしている。また,夏の池田市教育研究集会の算数分科会でも「一人ひとりの力を高める算数指導の在り方」を発表し,市内の他の学校からも注目され,他校からの資料請求等の要望に応え,本校での研究実践の成果を広げる努力を行っている。

 本校の少人数指導において,加配教員の指導の中で特筆しておきたいものに,カウント外の個別(取り出し)指導の実践と,その成果がある。

 学期末の短縮授業期間,および学期末懇談会期間中に,分割あるいはTT指導で関わっている児童の中から,いわゆる低学力の児童を抽出し,個別指導に及んでいる。この指導による成果は大きく,担任からも,また抽出される児童自身も,「力をつけてもらえる」という期待感,あるいは実感によって,むしろ積極的に加配教員による個別指導を受け入れている。

5.まとめに代えて

 ○ 教室の窓から,先生と子どもたちの交流の愛の火が噴出してくるような教室。

 ○ 平凡だけど,生きている実感がある教室を。

 ○ あたりまえのことだけど,人間が人間を愛することの素晴らしさを腹に染みて感じられるような教室を。


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