火成岩の分類実習
兵庫県宝塚市立高司中学校
荒金 孝明
E-mail:Takaaki.Aragane@ma4.seikyou.ne.jp
1.はじめに
 火成岩は,その鉱物組織と鉱物組成によって大きく6種類に分類することができる。鉱物組織については,斑状組織の火成岩と等粒状組織の火成岩を見分け,火成岩か深成岩かを判定することは容易にできる。
 一方,鉱物組成については,個々の鉱物を見分けることは難しい。そのため,生徒が自ら火成岩の種類を判定する実践については指導がしづらい面がある。大地の変化の単元を学習し終えても,生徒が身のまわりの岩石を調べようとする意欲につながらず,「先生,この石は何という名前ですか?」と質問してくるにとどまることが多い。
 生徒が身のまわりの自然に積極的に関わろうとする態度を養っていくためにも,火成岩の分類の実習は必要ではないだろうか。そこで,今回紹介する比較的簡単な方法によって火成岩の岩石名を決定していく実践を試みた。

2.火成岩の分類表について
 教科書に紹介されているような分類表や図では,実際に鉱物組成を調べてもその岩石の種類を特定するのは難しい。そこで今回,三角図を用いた火成岩の分類図(図1)を利用した。この分類図では,石英,斜長石,そしてカリ長石の3種類の鉱物の含有量の比をもとにして火成岩を分類している。

3.三角図の見方
 三角図(図2)は普段見慣れないグラフであるが,3つの成分の比を手軽に表現できる。
 図2の角頂点のQは石英,Pは斜長石,そしてAはカリ長石を示している。図2の底辺に平行な線は石英のパーセントを示し,左の辺に平行な線は斜長石のパーセントを示している。また,右の辺に平行な線はカリ長石のパーセントを示している。
 各頂点はそれぞれの成分が100%の点である。各辺上の点は,それぞれ2つの成分のパーセントを示している。そして,三角形の内部の点は3つの成分のパーセントを示し,例えば,図2の点Xは石英が40%,斜長石が20%,カリ長石が40%である。図1から,点Xの鉱物組成の岩石は深成岩ならカコウ岩,火山岩ならリュウモン岩であることがわかる。

4.長石の染色について
 実際の火成岩を使って実習をする場合,斜長石とカリ長石の区別が難しい。そこで,あらかじめカリ長石の染色を行って黄色に染めておく(写真1参照)。その結果,もともと石英は透明(ネズミ色),斜長石は白色であり,カリ長石は黄色に染めているので3つの鉱物の区別は容易になる。
 カリ長石の染色のしかたは次の通りである。
 1) 実習に用いる岩石の片面を平らに研磨し,滑らかな感触になる程度に仕上げる。
 2) フッ化水素酸に3分間ほどひたし,研磨面をエッチングする。
 3) 水洗した後,塩化バリウム水溶液(5%)に30秒ほどつける。
 4) 再び水洗し,亜硝酸コバルトナトリウム飽和水溶液をエッチング面全体につけ,1分間放置する。
 5) カリ長石が黄色に染まる。処理した岩石を乾燥させ,クリアラッカーを塗り,表面を保護する。

写真1

5.実習のしかた
 カリ長石を染色処理した岩石を用意する。最低でも実習班の数は必要である。実物の岩石と合わせて,その写真・図版など生徒分用意できると一度に全員の実習が可能になる。
 3o方眼をコピーしたOHP用のシート(写真2参照)を用意し,染色した岩石の表面に被せてテープで固定する。そして,その方眼の交点にかかる鉱物を識別し,その数を数えていく。各鉱物の個数比をもって体積比と見なし,図1を用いて岩石名を決定する。

写真2

6.学習の流れ(2時間計画)
時間学習の流れ指導上の留意点
はじめに
火成岩について,教科書とは違う分類法について紹介する
三角図による火成岩の分類法
石英,斜長石とカリ長石の含まれる量によって分類する方法であることを押さえる。
長石が斜長石とカリ長石に細分されていることを簡単に説明する。
センリョク岩とハンレイ岩,アンザン岩とゲンブ岩については,有色鉱物の含まれる量(色示数)によって区別することをつけ加える。
15三角図の使い方
各辺に平行な線がそれぞれの成分のパーセントを表していることを説明する。
代表的な点について,各成分のパーセントを読みとらせる。
各成分のパーセントを指定して,三角図上に点を取らせる。
50
火成岩分類の模擬練習
プリント上の岩石の図を用いて実習の練習をさせる。
等粒状組織であることを確認させる。
方眼の交点上の鉱物が石英(透明,ネズミ色)か斜長石(白色)か,またはカリ長石(黄色)かを見分け,それぞれの数を数えさせる。
それぞれのパーセントを計算し,三角図を利用して岩石名を決定させる。
15火成岩分類の実習
実際の岩石を用いて実習を行う。
OHPシートの方眼を岩石に固定させる。
実習に用いる岩石が各班に1つ程度のときは,染色した岩石の写真などを用意したり,方眼の点を複数で数えさせたりして,全員が実習に参加できるようにする。
45実習のまとめ
各自が決定した岩石名を発表させる。
自分で岩石の名前をつけることができたことを確認する。
50おわり

7.実践を終えて
 今回の実習は岩石に色をつけたことと三角図を用いたことで,生徒たちは目新しさを感じていた。また,実習の内容も難しくなく,どの生徒も積極的に実習に参加できた。
 その一方,この実習は最低でも2時間ほど必要である。授業の進度にゆとりがなければ実践しにくい。また,火山岩では実習しにくく,利用できる火成岩の種類が限られる。
 さらに,今後は選択授業の時間を利用して,長石の染色から実習させていくことも考えている。

 参考文献
地学団体研究会編:自然をしらべる地学シリーズ3,土と岩石p.81〜83 東海大学出版会 1982
E.G.Ehlers,H.Blatt:PETROLOGY p.100〜110 1982


前へ 次へ

閉じる