楽しく体験して実感する数学の学習
−操作活動を取り入れた確率概念の形成−
名古屋市立守山中学校
長崎 正司
1.生徒の実態
 数学を教科書の中のことがらと考え,現実の生活では特に役立つものは少ないと考えている生徒は意外と多い。3年生ともなれば,いろいろなことを学び活用することができる事象も増えるはずであるが,その傾向は一段と強くなるように感じられる。 そこで私は, 日ごろから体験的に数学を実感できるような学習ができないかと考えている。
 本単元の確率においては,単に場合の数の比や相対度数ではなく,ある偶然的な事象の起こる期待の程度を表す数であり,起こる度合いを予想する数であることを実感させたいと考えた。

2.教材観
 平成元年度の学習指導要領改訂により,小学校6年で行っていた簡単な場合についての確率が削除されたため,生徒はここで初めて確率という概念を学習することになる。そこで,特に導入場面では,生徒自身による具体的な実験などの操作活動を通して,確率概念の形成を図ることが重要と考える。中学校で学習する確率には,先験的確率と経験的確率の2つがあるが,確率の意味をわかりやすく理解するために,その両方が考えられる事象を取り上げ,実験的な方法で確かめる過程を通して確率の意味を明らかにしていく。

3.指導のねらい
 1つのさいころを振って1の目の出る割合を予想させ,さらに,確認する方法としての実験の試行回数も予想させてから実際の実験に移ることとする。多数回試行の実験を通して,1の目の出る相対度数が一定の値に近づくことに気づかせたい。このとき,10回や 100回の試行では大きなばらつきがあり,学級全体の累積回数(4000回程度)のような大数になると一定の値に近づくことを体験的に実感させ,確率の概念を形成していく。
 また,統計の処理に対しては,電卓を活用して効率的に行えるようにするとともに,メモリー機能なども復習して日常生活でも使えるような態度を育てていきたい。

4.授業の実際
 【1の出る確率の予想と実験に必要と考えた試行回数】
 さいころをふって1が出る割合はどのくらいだと思う? また,その理由は?
 じゃないかな? 6つあるうちの1つだから?
 本当にそうなのかどうか,どうやって確かめますか。
 ふってみればいい。
 何回ぐらいふったらが確かめられると思う?
*右の表参照(対象生徒数:39人)
生徒の考えた試行回数
無答 3人
10回以下2人
11〜 50回4人
51〜100回21人
101〜200回5人
201〜500回 2人
501〜1000回1人
1京回 1人
 《考察》
 身近なさいころを取り上げたためか,予想はほとんどの生徒がと答えることができた。しかし,多くの生徒が,試行回数は 100回程度までの間に確かめられると考えており,6回の10倍程度の60回という回数を答えている生徒が13人と最高であった。また,1京と答えていた生徒が最高の回数であったが,この生徒は,無限という意味で非常に大きな桁数を答えていると思われる。
 3学級で行ったが,このことは同様の傾向であり,意外にも少ない回数でも確率が当てはまると考えている生徒が多いことがわかった。

 【試行によるデータの集積】
 では,実際にふって確かめてみよう。本当は1つのさいころで何回も実験するのですが,学級全員で行うので,10グループに分かれて,10個のさいころを使ってその結果を集計します。

 <実験方法とその処理>
 4人で1グループとし,1人が10回ふったら交代してそれを各生徒が10回,計100回の試行を行う。次に10回,20回,・・・と累積していく間に変化する相対度数を求め,グラフに表し最終的に100回の実験における1の出た相対度数を求める。また,学級全員の10回でのばらつきと100回でのばらつきを発表し合った後,学級全体での試行回数(3900回)における相対度数を求めた。
→「学習プリント

 <実験結果>
 あるグループの4人の実験結果
 名 前102030405060708090100累 積
Kさん2/101/100/103/100/102/101/102/101/102/10 
累積回数Kさん2/103/203/306/406/508/609/7012/8014/9014/10014/100
相対度数Kさん0.20.150.10.150.120.130.130.140.13 0.14 0.14
Aくん2/105/100/101/100/100/100/105/102/10 2/10 19/100
Iくん3/101/101/101/103/102/102/102/100/10 2/10 17/100
Nさん0/102/101/103/102/104/101/103/102/10 3/10 21/100

Kさんの相対度数の変化と学級全体の相対度数
各生徒の各10回の試行で1の出た回数
最低回数出た回数最高回数
34人 0回 
5人 1回 
  2回3人
  3回21人
  4回9人
  5回6人

1が出ますように!
僕の場合の相対度数は・・・

学級における回数と相対度数のばらつき
最低 8回 ・・・ 0.08
最高  22回 ・・・ 0.22


学級全体での回数と相対度数

100回の試行で1の出た回数と相対度数
回数・人数総数・相対度数
8回・・1人8回・・0.08
12回・・2人24回・・0.12
14回・・7人98回・・0.14
15回・・4人60回・・0.15
16回・・2人32回・・0.16
17回・・2人34回・・0.17
18回・・5人90回・・0.18
19回・・4人76回・・0.19
20回・・6人120回・・0.20
21回・・3人 63回・・0.21
22回・・1人22回・・0.22
学級の合計 645回:0.1654・・

 《考 察》
 100回の試行に対して1の出た回数に8回から22回までのバラツキがあったことは,生徒にとって予想以上に大きなバラツキであった。また,学級全体の回数に対する相対度数が0.1654・・・となったことは, であることから,かなり近づくことを体験させることができたと思われる。授業者のこれまでの経験から,40人学級における学級全体の相対度数は,0.155〜0.175の間にほぼ収まり,複数学級を合計すればかなり 0.166・・・,つまりに近づいていく。
 さらなる指導の工夫としては,4人のグループで400回の試行に対する相対度数を求めることで,より一定の数値に近づく変化への理解が深まるのではないかと考える。

5.生徒の反応と指導の成果
 授業後の生徒の感想には右のようなものが多かった。
 ある程度の確率の概念と大数の法則を実感できたのではないかと考えている。

6.今後の課題
 生徒の卒業後の進路は様々であり,数学とのかかわり方は個人により大きく異なっていくであろう。理数離れの増加が叫ばれる今日において,数学を実感するような授業体験はとても有意義ではないかと考える。今後も,いろいろな実践を積み重ねて数学好きの生徒を育てていきたい。


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