生徒の考え方を深める相似な図形の指導の工夫
東京都文京区立第七中学校
吉田 修
1.はじめに
 第2学年の図形の領域は,他学年の図形の領域に比べ,論理的思考力の基礎力を養う論証問題と合同を発展させた相似関係の概念に分けられると考えられる。中でも,相似という関係は合同に比べ難しい概念である。図形を見て形が同じで大きさの違う図形を見つけ,それらの関係から長さを求めたり,面積を求めたりと図形を見る目を養う必要がある。
 一方,考え方も多彩で,1つの問題に対して様々な方法で解くことができ,考え方やものの見方を養うのに適している単元でもある。このように図形の問題を様々な角度で考え,論理的思考力も養える教材を通して数学的考え方を伸ばせればと願っている。
 さて,今回,相似の授業を行うにあたり,以下のことに注意し指導,工夫することにした。
 (1)  三角形の合同条件との関連を重視する。合同は相似の一部である。相似の基本は三角形にあることを理解させる。
 (2) 様々な考え方ができる問題を与え,考え方を深めさせる。
 (3) 生徒の意見をできる限り取り上げることで生徒の考え方のよさを見出し,解ける喜び,発見できる喜びを味わわせる。

2.単元指導計画
 図形と相似(配当時間:15時間)
目  標 図形の相似の概念を明らかにするとともに,論証の根拠となる基本性質に三角形の相似条件を加え,図形の性質についての理解をいっそう深める。 
指  導  内  容  
1.拡大・縮小と相似
ある図形と,それを拡大または縮小した図形の関係を学び,それをもとにして図形の性質を調べる。
1点を中心として,図形を拡大したときの対応する辺や角の関係を調べること
相似の意味と相似な図形の性質,相似比
2.三角形の相似条件
三角形の相似条件
縮図をかいて高さや距離などを求める。
3.相似条件と証明
三角形の相似条件を使って図形の性質を証明する。
4.平行線と線分の比
三角形の1辺に平行な直線で他の2辺を切り取るときの線分の比と,その逆
2つの直線を平行な直線で切り取るときの線分の比
三角形の2辺を等しい比に切り取るときの線分の比と位置関係
5.三角形の重心
三角形の中線の交点が重心であるという定理

3.本時の指導(平行線と線分の比)
 (1) 三角形の相似に着目し,平行線と比の関係を導くことができるか。
 (2) 平行線と線分の比の性質を利用し,問題解決ができるか。
 (3) 複雑な問題に対して様々な考え方で対処することができるか。

4.展開と大要
学習内容学  習  活  動  指導上の留意点  
導 入 相似な三角形と対応する辺の比について復習する。

 三角形が相似のとき対応する辺の比は等しい。
展 開
三角形以外の図形について考える。
三角形の相似条件を利用して何か関係がわからないだろうか。                                         
 補助線を引くことで,三角形の相似条件に帰着する。
(問題)
 次の問題は,補助線を引いたりして工夫することで,三角形の相似条件を利用することができます。
(考えてみよう)
(1)Aから に平行な直線を引く。 線分b,cとの交点をB",C"とし,
△ABB"∽△ACC"から
5:8=:(+2.4)
以上から
8=5(+2.4)
=4                                         
(2)A,Bから に平行な直線を引く。線分bとの交点をB",線分cとの交点をC"とする。
△ABB"∽△BCC"
5:3=:2.4
=4                                         
補助線を利用して三角形の相似に着目したが,補助線を利用しないで考えると,平行線と比について何かいえないだろうか。
(1)の考えからAB"=A'B',AC"=A'C'がわかる。
よって,
AB:A'B'=AC:A'C'
(2)からAB"=A'B',BC=B"C"
よって,
AB:A'B'=BC:B'C'
比の値が等しいとa,b,cは平行になる。
 線分を移動することで三角形の相似に帰着できることを気づかせる。
(応用)
 図においてAE=EB,AF=FC
BD:DC=2:1,CG=4 のときEGを求めよ。
BD:DC=2:1よりBC=3
と考える。
△AEF∽△ABCよりEF=1.5
△EFG∽△CDGより
EF:CD=EG:CG
1.5:1=:4
=6                                         
 △AEFと△ABC が相似であることに着目し,さらにBD:DCが2:1であることからEFを比で表せないか考えさせる。

5.授業を終えて
 平行線と比の関係を考えるとき,常に三角形の相似を頭に入れて指導することが大切であるが,一方それによって,右のような誤答例が多く見受けられた。
 また,AB:BC=BB":CC'という比の関係を使う生徒が何人か出てきた。
 三角形の対応する比をきちんと押さえて指導することが大切である。


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