教育改革のとりくみ 目次
生活をきり拓く力を育てる学習指導〜つけたい力に迫る授業の組織化を通して〜
岐阜県岐阜市立長良中学校

1.地域の実態及び学校規模

 

 本校の校区は, 岐阜市 の中央部を流れ,「鵜飼」で知られる清流「長良川」の北側河畔に位置している。校区の中央を 岐阜市 の交通の動脈である環状線が東西に通り, 岐阜市 近郊からの交通の要所でもある。また,長良川はもとより,織田信長が天下統一の拠点とした「金華山」などの景勝地や,県内のスポーツのメッカである「岐阜メモリアルセンター」や「長良川球場」などのスポーツ施設,さらに国際会議場などの文化施設が整えられ,景観と機能を兼ね備えた 21 世紀の計画的な街づくりが進められている。

 校区全体としては落ち着いた住宅地であるが,近年の開発に伴って大型集合住宅(マンションやアパート),大型店舗,大手学習塾などが増え,人の交流や出入りが激しくなりつつある。

 保護者は,子どもの様々な問題行動が憂慮される中,心身共に健全な生活を送り,将来への希望を実現させてほしいという願いが強く,学校教育に高い関心をもち,諸活動に協力的である。

 校区内には小学校が1校あるのみであり,本校の学校規模は13学級(特別支援学級1を含む),生徒数450名の中規模校である。この1小1中という条件を生かし,小中一貫教育の推進にも期待がかかっている。

 

2.子どもの実態

論理的に物事をとらえ,考え,表現する力がある。
頑張りたいという願いを強くもっている。
集団生活における規範意識が比較的高く,集団生活の在り方や大切さを比較的理解している。
より質の高いものを求めようとする意欲にやや弱さが見られる。

 

3.学校の教育目標

(本質を)みぬき (可能性に)挑み (生活を)拓く

(本質を)みぬく
 子どもに今の(自分や仲間の)生活を見つめさせ,どのような生き方が真なるもの,善なるもの,美なるものであるのかを明らかにし,その実現のために生かすことのできる自らのよさや取り組まなければならない課題は何なのかを明確にする。
(可能性に)挑む
  困難な局面を正面から受け止め,試行錯誤しながらも,それを乗り越えていくことができる力を培う。
(生活を)拓く
「みぬき」,「挑む」過程を経ることで,どの子どもにも自信と誇りを育む。

 この目標は,めざす子どもの姿であるとともに,教師自身の目標でもある。さらにいえば,21世紀の社会に生きる人間としての課題でもある。教師自らこの生き方の探求に努めることが,目標具現に必要な条件である。

 

4.研究推進

 「落ち着いて学習をしているが,『自分の考えを分かって欲しい』という気持ちを大切にして,もっと相手が理解できるように話すことができるのではないか。」「課題に向かって,『私はこの方法で追究し続けて解決していくのだ』という粘り強さを発揮してほしい。」など,目の前の子どもたちの可能性に目を向けると,私たちの力不足を感じる場面が多々ある。

 情報社会・少子高齢社会に代表される変化の激しいこの時代,子どもたちの生活も激しく変化してきている。そんな変化の波に飲み込まれるのではなく,自分で判断し,変化に対応しながら,よりよい生き方を求めて歩み続ける子どもを育んでいきたいと私たちは願っている。教育に関する国の動向も,平成24年度から新しい学習指導要領が完全実施されることを受け,平成21年度から一部が先行実施される。学校で子どもたちに「生きる力」をよりいっそう育むことが唱えられ,知(確かな学力)・徳(豊かな人間性)・体(健康・体力)をバランスよく育むことが求められている。私たちは,この「生きる力」=本校では「生活をきり拓く力」を中学校3年間で子どもに獲得させたいと考えている。

「生活をきり拓く力」とは…
 生活の中で出会うであろうさまざまな課題に,自分なりに考え,自ら選択した方法で立ち向かい,解決しながら,たくましく生き抜く力である。
 そこで,学校生活の大半をしめる各教科の学習に目を向け,「確かな学力」を育成することに焦点をあて,「生活をきり拓く力」の知的側面に対する指導を充実させること,つまり,教科指導に重点をおき研究を進めている。


(1)生活をきり拓く力を育てる学習指導

実生活や実社会に生きてはたらく力をつける教科指導の充実
 上記に示した「生活をきり拓く力」を身に付けさせていくためには,日々の学習指導において,考える過程を大切にした指導をくり返し,課題に対して自分なりの考えと自ら選択した方法で立ち向かう姿を鍛えていかなくてはならない。こうした経験を何度も積み重ねていく中で,一人一人の内に鍛えられ,育まれていくものと考える。

 また,発達段階に即した教科の「基礎・基本」を確実に身に付けていくことで,「生活をきり拓く力」を形成する,課題に対して自分なりの考えと自ら選択した方法で立ち向かう姿が段階的に高められると考えた。

「基礎・基本」とは・・・・・・
 その子なりの「見方・考え方・感じ方」を発揮して課題解決に向かう中で,新たに身に付けていく「知識・理解」「技能・表現」,「思考・判断」の力,教科への「関心・意欲・態度」である。

 課題解決に向かう中で「基礎・基本」が定着し,その子なりの「見方・考え方・感じ方」が広げ深められていく。その「基礎・基本」と「見方・考え方・感じ方」が,その子の「つけたい力」となって,授業だけでなく,実生活のさまざまな場面で姿として現れていくことが期待される。

「つけたい力」とは・・・・・・
 その子が身に付けてきた,教科の本質にたった「見方・考え方・感じ方」に基づいて発揮される「認識力・表現力・行動力」である。

 研究主題としている「生活をきり拓く力」を知的側面から担うものが,この教科における「つけたい力」である。

子ども一人一人が必然をもって学び,考える楽しさ,学ぶ喜びを実感できる指導の充実
 私たちは教科の本質を大切にし,考える楽しさや,学ぶ喜びを実感する過程を位置付けることで,子どもが「つけたい力」を身に付け,「生活をきり拓く力」に結びつく学力を育成すると考える。

 一人一人が自己の変容と教科の本質的な魅力に出会い,成就感や有能感を味わい,自ら新たな学びを求めようとすることができる指導を,次の3点からとらえることにした。

個がもつ多様な「見方・考え方・感じ方」を,授業や普段の生活,事前調査など,多様な手法でとらえたうえで,それをもとに学びの必然性をもたせられる指導
課題解決に向かう中で,必然的にぶつかるつまずきを多様に予測し,それを乗り越えさせる手だてを講じる指導
実生活との関連を意図した指導

 私たちは今までの研究において,進んで考えようとする子どもの姿を具現するために,一人一人がどのようなことに興味をもち,どのように学びを深めていこうと願っているのかという個々の「見方・考え方・感じ方」をとらえ,分析することを大切にしてきた。学びの道筋は一人一人が違うという立場に立ち,その道筋の違いこそが,学級集団で授業を行うことの価値であるというとらえで,一人一人をどのように活躍させることが「つけたい力」に迫る上で効果的なのか,どのように考えさせることが自己の変容の自覚につながるのかを追求してきた。

 そうした学習指導を意図したときに,「子どもたち自身の手で課題を追究しながら,『つけたい力』に迫る営み」を組織する教師の力が必要不可欠である。それは,一人一人のよさを引き出し,位置付け,価値付け,方向付けることで「つけたい力」に迫る教師の授業力である。よって,研究の副主題を「『つけたい力』に迫る授業の組織化を通して」とした。

(2)研究推進の実際
「つけたい力」の確かな定着を図るために,次の3つの視点から研究実践に取り組んでいる。

A視点: 子どもの実態を踏まえ,教科の本質にたった指導計画の作成
B視点: 考える楽しさ,学ぶ喜びを実感できる「ひびきあい」の組織化
C視点: 仲間とともに「見方・考え方・感じ方」を鍛え合う学習集団の育成

子どもの実態を踏まえ,教科の本質にたった指導計画の作成(A視点)
 私たちが授業の中で,欠くことができないものが指導計画の作成である。A視点の柱を,次の3点とした。

教科の本質にたった「基礎・基本」「つけたい力」の明確化
子どもの実態を踏まえ,学びの必然性をもたせる単元の構造化
指導と評価の一体化

 指導計画を作成するうえでまず大切にしていることは,教科の本質にたった「基礎・基本」を明確にすることである。「基礎・基本」を明確にし,それが確かに身に付いたという充実感をもたせていくことこそが,教科の本質的な魅力を感じ,さらにそれを求めていこうとする子ども一人一人の姿勢を育て,「つけたい力」をより効果的に身に付けさせていくことにつながる。

 一人一人が教科の本質的な魅力を実感しながら,自ら学びを深める学習指導を行うには,子どもがどのような「見方・考え方・感じ方」をもって学習課題に臨むのかを的確にとらえることが大切になる。学習内容と子どもの「見方・考え方・感じ方」を照らし合わせ,順序性や系統性を考えながら,単元を構造化する。こうした,常に学びの必然性をもたせた単元指導計画を作成し,各時間の役割を明確にすることで学びの連続を生み出した。つまずきに対する手だてや,学習形態の在り方等についても,つかんだ子どもの実態を踏まえて工夫するとともに,その姿を評価することで,次への手だてを講じ,進んで単元の「つけたい力」に迫ろうとする子どもの姿を生み出すことを大切にした。

考える楽しさ,学ぶ喜びを実感できる「ひびきあい」の組織化(B視点)
 単位時間における「基礎・基本」をどの子どもにも定着させるために,私たちは学習集団内における「ひびきあい」を大切にしている。

「ひびきあい」とは・・・・・・
 学習課題の解決を求めて,一人一人が「見方・考え方・感じ方」を発揮し合い,互いの共通点や相違点を見抜き,新たな認識・表現へと拓かれていく過程である。

 B視点では,次の3点を大切にした。

本時のねらいの具体化
教科の本質に迫るための「ひびきあい」の在り方
「ひびきあい」の組織

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 課題を解決するために,仲間の考えを自分の考えと比較しながら「聴く」という営みを通して,「私は…な考え方でいたけれど,○○君の発言で…に気付くことができた。」「○○君の…という考え方から見ると,…ということもいえるのではないか。」と,新たな「見方・考え方・感じ方」を獲得したり,自分の考え方を再度見つめ直したりする。やがてはそこに「見方・考え方・感じ方」の対立が生まれたり,課題解決に向かううえでのいきづまりが生まれたりする。ここで子どもたちは立ち止まり,そのいきづまりを乗り越えようと迷い,葛藤しながらも,精一杯考える。その営みを経て,広げ深められた「見方・考え方・感じ方」に拓かれると考える。こうした営みを生み出すためには,まずは教師が,個々の「見方・考え方・感じ方」をかけがいのないものとして,事前にとらえたり,学習中にその変容をとらえたりしながら,「ひびきあい」の意図を明確にもち,位置付けることが大切である。そのうえで,子どもの発言や行動の中にある,教科の本質的な「見方・考え方・感じ方」を見抜き,価値付け,問い返したり,全体に投げかけたりして,的確に方向付けることが大切である。このように授業を組織していくことが,子どもたちの主体的な学びを生み出し,一人一人が自己の変容や学びの成就感を味わい,教科の本質を求める楽しさを実感することにつながる。

 こうした「ひびきあい」は,仲間と考えを出し合う学習場面なら,どの時間でも成立するものであり,それは,学級全体の学習場面であっても,小集団での学習場面であっても同じである。日々の授業におけるそうした場面において,発問,問い返しなどを吟味し,意図的指名を行ったり,学習形態,板書の在り方を工夫したりすることが,私たち教師の授業力を向上させ,子ども一人一人に確かな力を身に付けさせることにつながると信じ,互いに切磋琢磨しながら研鑽に努めている。

仲間とともに「見方・考え方・感じ方」を鍛え合う学習集団の育成(C視点)
 学習集団内において,自分の思いや考えを素直に出せることが「ひびきあい」が成立するための条件となる。どの子の意見もかけがえのないものとして受け止め,多様な「見方・考え方・感じ方」を出し合い,学びを深め合うことに魅力を感じ,比較し合い,相違を表現しながら,進んで課題を追究できる学習集団に育ってほしいと願っている。

 そのような教科の本質にたった学習集団を育成するために,次の3点を大切にした。

教科の本質を追究する学習集団の明確化
主体的に学び,追究しようとする姿を育成するための手だて
生活集団を基盤とした,学習集団育成の指導の在り方

 落ち着いた学習姿勢はもちろんであるが,強い意思をもって自分の意見を述べようとする姿,自ら学び取ろうとする追究意欲をもった力強い姿を,本年度の研究でも大切にしている。それが,仲間との考えの相違を比較しながら,進んで学びを深めていこうとする姿を生み出し,「ひびきあい」を支える基盤となると考える。

 そのために,授業のリーダーである教科係を中心に,発言の聴き方や話し方,学びを深める「見方・考え方・感じ方」などを認め合ったり,仲間の発言に積極的に反応して自分の考えを出していくことを呼びかけ合ったりする指導を大切にしている。

 こうした子どもの姿を生み出すためには,授業での指導はもちろんのこと,日々の学級づくりの指導が大きく関係する。学級経営の充実を基盤として,子どもが集団の一員として,自分自身をみつめ,仲間とともに考え,高め合っていこうとする風土を醸成し続けていくことこそ,大切な指導となる。

 

5.研究実践の成果と課題

(1) 成果
1 「題材や教材に対してどんな考えをもつのか」「どんなことを学び取りたいと考えるのか」という子どもの実態を,学習状況や意識の面など多様な観点からとらえ,単元の構造や単位時間の教師の手だてなどの指導計画に反映させることができた。これにより,子どもたちにとっての学びの必然性が高まり,主体的に課題解決に向かい,自らの手で壁を乗り越えようとする姿を生み出すことができた。
事前に一人一人の「見方・考え方・感じ方」を把握したうえで,その変容を発言や行動から見抜き位置付け,その場で価値付けたり,意図的に問い返して方向付けたりする,単位時間の指導の手だてを具体化してきた。これにより, 教科の本質的な「見方・考え方・感じ方」が授業の中で明らかになり,ねらいに向けて焦点化されていく授業を組織する方途を明らかにすることができた。また,子どもたちに,互いの「見方・考え方・感じ方」を比較・検討し合いながら,学びを深めていくことの充実感を味わわせたり,変容した自己を実感したりする姿を生み出すことができた。
どの学級においても,学級活動の指導を基盤として,一人一人の子どもがかけがえのない存在として位置付けられ,その「見方・考え方・感じ方」を大切に受け止め合い,取り入れ合おうとする風土を醸成することができた。また,教科の学習において,子どもの発言や行動の背景にある教科の本質的な「見方・考え方・感じ方」を価値付ける指導を継続してきたことにより,自己のよさを自覚し,自信をもって思いや考えを表出する姿が増えてきた。さらには,学習活動委員や教科係会などの子どもたちの自治的・組織的な活動を生かし,「めざす授業の姿」の実現に向けて取り組んできたことにより,「自分たちで授業を向上させる」という主体的な学習姿勢を確立することができた。

(2) 課題
1 「教科の本質」から子どもの実態を分析する教師の技量をさらに高めていく必要がある。そのためには,私たちがとらえている「教科の本質」というものが,適切であるかどうかを常に吟味していかねばならない。
単位時間の指導において,全ての子どもが自ら「見方・考え方・感じ方」のよさや課題を自覚し,仲間の考えと比較しながら学びを深めていけるよう,価値付けや発問の具体的な在り方を常に求め続け,改善していく必要がある。
進んで意見を出し合い学び合う学習集団づくりを行うために,その基盤となる学級経営の中で,どの子もが将来めざす生き方の実現に向けて取り組めるよう,子ども同士の相互理解を推進しなければならない。

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