教育改革のとりくみ 目次
国際交流による異文化理解〜インディアナポリス市の私学オーチャードスクールとの交流を通して〜
神奈川県藤沢市立第一中学校

【新校舎 2009.3完成予定】


1.交流のはじまり

【オーチャードスクール】

 1990年に,SIA(スバル・いすゞ・オートモーティブSubaru-Isuzu Automotive Inc)によって教師交換プログラムTEECAP(Teacher/Educator Exchange Cultural Awareness Program)が企画された。SIAはアメリカインディアナ州ラフィエット市にある。SIAの親企業である日本の富士重工といすゞ自動車が,日本とアメリカの双方の教育者にユニークな機会を提供するために,インディアナ州の教師2人といすゞ自動車のある藤沢市の教師1人・ラフィエット市の姉妹都市である群馬県太田市の教師1人を双方に派遣してきた。TEECAPはホストファミリー,学校関係者,地域の人々との教育と文化の交流を通して,教師と生徒に新たな見方や経験ができる異文化交流ができるように後援してきた。TEECAPは1990年代で終わりになったが,インディアナポリス市にある私学オーチャードスクールのRebecca Burton教諭より,教師間交流と共に生徒間交流も行いたいとの意向を受け,藤沢市教育委員会の担当指導主事が本校を紹介したのが交流の始まりである。


2.交流の経過

 2003年2月,藤沢第一中とオーチャードスクールとの交流が始まった。英語科の一人の教諭とベッキー・バートン先生とのEメールでの交流がスタートした。Eメールでの会話交流は進展し,早速同年6月にはオーチャードスクールからバートン先生と3人の先生方が本校の視察に訪れた。

 具体的な交流方法については会議の場を設け,双方の複数教員が意見交換を行うことで少しずつ決まっていった。その後,同年8月には一中職員2名がオーチャードスクールから招待を受け,一中職員による初のオーチャードスクール訪問視察も実現した。そして本格的に生徒同士の交流が始まったのは同年9月オーチャードスクールが新学年が始まった月からであり,本校は夏休み明けの2学期が始まったところからだった。バートン先生と英語科教諭はEメールで瞬時に連絡を取り合う事ができ,その後交流活動はスピーディーに進んだ。

 2005年4月にオーチャードスクールより2回目の招待を受けて校長と教諭の二人が訪問視察した時,オーチャードスクールの生徒達にそのビデオを紹介することが出来た。

 生徒達は皆,興味津々にビデオを視聴し「日本ではなぜ徒歩通学をしているのか。なぜ靴をはきかえるのか。」などの様々な質問を投げかけてきた。

 帰国後,そんな土産話を部員達に伝えた時,「私もいつかオーチャードスクールに行ってみたい。」と部長のMさんが言ってきた。そのMさんももう高校3年生。Mさんはアメリカ行き実現に向けて英語力に磨きをかけ,英語弁論大会県大会出場を成し遂げたと聞いている。


<1. 一般的な生徒間交流

 英語部の部員たちが交流活動の中心的役割を担い,様々な活動に貢献してきた。交流が軌道に乗り始めて間もない頃,当時,英語部の部長をつとめていた一人の中3生徒が,学校紹介や家庭紹介ビデオの制作を発案し,すばらしい作品を他の部員達とともに作り上げた。

【主な交流形態】
1 VTR.DVD交流(学校生活や家庭生活の紹介・カバンの中身の紹介)
2 ポスター等の美術作品交流(環境・自然・酒・たばこの害)
3 メール交流(エアーメール・Eメールなど)


<2. 本校のオリジナル交流

 部活動以外に各学年とも英語の授業を通じても様々な交流学習活動を実践してきた。

1 作文の添削
一中生の英作文を現地に送り,オーチャードスクール生がその作文を読んで添削をしたりコメントを書き込んだりして返送してくれる交流。
2 意見交換
本校生徒の美術作品と英語の解説を送り,オーチャード生が感想を述べているVTRを返送してくれる交流
3 試験の読解問題
オーチャードスクール生の一中訪問日程などを読み取りテスト問題に取り入れる交流。

 上記の12では現実の相手に真実の手紙や作品を送る事が出来るので,架空の人物に作り話の手紙を書く練習などは不要である。しかもその返事が相手から戻ってくるのであるからまさに生の交流学習である。3においては,どの生徒も真剣に取り組む試験問題というものに「生の交流内容」を取り入れることで,多くの生徒達にオーチャードスクールの生徒達の事をより正確に理解させ交流を深させることができた。


<3. 生徒・保護者による初めての本校訪問

 2007年6月にオーチャードスクールから生徒21名,保護者20名,教師2名の計43名が来校した。ホストファミリーを引き受けた家庭の生徒たちは他の生徒達よりも2日早くオーチャードの生徒達と対面することができた。

 学校訪問と交流授業当日の朝,本校生徒の家庭に滞在したオーチャードの生徒達はその滞在家庭の一中生と共に徒歩で登校してきた。その後外靴から室内履きに履き替えて図書室に集合した。全校朝会は歓迎会に変わり,司会進行は生徒会の生徒が英語と日本語で行い,吹奏楽部がラテン音楽の演奏を披露した。また生徒会長が英語であいさつを行い,オーチャードの生徒達も一人ひとりが日本語で自己紹介をした。

1 【交流授業】
【餅つき交流】

 2時間目以降の交流授業では21名のオーチャードの生徒達が2年生の4つのクラスに分散し,美術「浮世絵」,国語「象形文字」,英語「すごろくゲーム」,理科「電気」などの授業を本校生徒と共に受けた。昼食はホストファミリーお手製の弁当を持参して一中生と共に教室で食べた。放課後には一緒に掃除もした。放課後のお別れ会では,英語部員たちと「フルーツバスケット」を楽しみ,その後「空手」や「剣道」などの武道を興味深く参観して生徒同志の交流は深まっていった。

2 【保護者間交流−リサイクルチャリティーバザー】
【チャリティーバザー】

 一中のお母さん達は家で眠っている引き出物の和食器や不要になった帯や着物,浴衣などを持ち寄り,オーチャードスクールのお母さん達はケーキミックス粉,コーンホールダー,アクセサリー,石けんなどを持ち寄って,バザーでのショッピングを楽しんだ。商品には値札が付けられないかわりに募金箱が置かれた。
 「プロジェクトX」というNHKの番組で紹介されたルダシングワ真美さんにもバザー会場にお越し頂いた。彼女は地雷被害者のためにルワンダに義足工房を立ち上げて,義足作りやその制作指導に貢献されている。募金箱に投じられた金額はドル紙幣と日本円併せて61,415円,そのすべてを彼女が活動するルワンダにおける障害者支援活動に寄付した。


<4. 保護者・生徒二度目の来校

【体育の交流授業】

 2008年6月14日に生徒保護者合わせて35人が再来日し,2度目の本校訪問が実現した。2007年度に日本に行きたくても行けなかった生徒や保護者達に加え,嬉しいことに「昨年度行ったがもう一度行きたい。皆に会いたい。」と名乗りを上げた生徒と保護者達も訪れた。今年は本校が校舎改築中のため,グランドも体育館もないため,交流時間は昨年より縮小されたものの内容は昨年とほぼ同様に充実していた。また,ホストファミリーを希望した本校保護者の数も昨年を上回った。


<5. 本校教師・生徒・保護者が初めてオーチャードスクールを訪問

【歓迎の横断幕の前で】

 2008年8月19日から5日間にわたり本校生徒と保護者・職員による「アメリカオーチャードスクール訪問とホームステイの旅」を実現することができた。オーチャードスクールでの交流授業や本校の複数教員による授業実践などを通し,生徒・教員そして保護者との交流の和がより広がり,深められた。



3.生徒の感想

オーチャードスクール生徒の感想

 I thought that all the students at the school were very nice and helpful. They seemed to like to have all of us there and it was cool meeting all of them. The main girl I was with spoke a lot of English so it was good for me. But overall I thought everyone there was awesome. I thought that the school life there was cool everyone there would talk even when the teachers were speaking and they wouldn’t get in trouble. I also thought that it was a good idea that they had school clean up because the school was spotless. But I did think that it would be hard to walk on foot everyday to school.

Sam Arregui


本校生徒の感想

【全校朝会の後で】

 8月19日から24日までの計5日間,一中の交流校であるオーチャードスクール訪問とホームステイの体験旅行でインディアナポリスへ行きました。私の家は昨年と今年,オーチャードスクールの生徒とその家族のホストファミリーを引き受け,今回,昨年引き受けたSutphin家族の家に今度は私たち親子が5日間ホームステイをさせてもらいました。20日にSutphin家の娘Sarahが通う交流校オーチャードスクールを訪問しました。


【ダンスの授業に参加】

 交流した学年は6年生で一緒に浮世絵・ダンス・体育の授業に参加したり,お昼も一緒に食べました。生徒達はとても親切で優しく,おもしろく,私は英語を話すことが出来なくても,とても楽しむことが出来ました。日本では英語を習っているので簡単な英語なら話せるのではないかと思っていました。でも実際に英語で話しかけられるとどう答えたら良いのかわからずに落ち込んだり,もどかしかったりして,もう少し話すことができたらもっと交流が楽しめたのだろうと思いました。


【グループ活動に参加】

 ホストファミリーとの会話ではほとんど母に通訳してもらうような形であまり積極的に自分から英語を話すということができませんでした。「もどかしい。もっと英語を勉強して会話ができるようになりたい。」と思えたことだけでもとても良い事だと思い,次回また行く機会があればそれまで出来る限り勉強して少しは話せるようになりたいとこの体験が思わせてくれました。素晴らしい5日間でした。ありがとうございました。 (中2女子)



本校保護者の感想

 この度このような素晴らしい機会に巡り会い,ツアーに参加することが出来た事を大変にうれしく思っています。行く前は多少不安もありましたがオーチャードスクールの教職員の方々やホストファミリーの暖かいおもてなしを受け,本当に楽しく充実した5日間をすごすことが出来ました。

 初日スクールを訪問した時は主に平牛先生の浮世絵の授業のお手伝いをさせて頂きました。いろいろなタイプの生徒がいて,絵の上手な子,あまり得意そうではない子,おしゃべりをしている子やすごく真面目に取り組んでいる子など生徒達の様子を楽しく観察させて頂きました。教室の雰囲気はやはり海を越えても同じような感じなんだなと微笑ましく思いました。色々な授業を見て回る中,60歳になるダンスの先生が日本の富山県の民謡,「小切り子節の踊り」を生徒達に教えているのには驚きました。60歳とは思えないスラリとしたプロポーションときめ細やかな踊りには目が釘付けになりました。先生は世界中のダンスを子ども達に教えているそうです。とても生き生きとしたエネルギッシュな先生で印象に残りました。

 ホストファミリーは昨年我が家にホームステイしていただいたSutphin 家にお世話になりました。1年ぶりの再会を喜び合い,今回は昨年の様な初めて会う者同士の緊張感もなく,とても気楽に滞在させていただきました。ホストマザーのPeggyさんには特に色々気を遣っていただきました。お話も沢山できました。日常生活のいろいろな出来事や,子ども達の話など,話していく中で「私たちには沢山の共通点があるね。」と言ってくれました。文化や生活習慣の違いこそあれ,物の価値観や家族に対する思いなどは同じであると改めて思いました。そして何かハードルを越えてお互い気持ちが一つになったようなそんな気がしました。今回の旅行は期間も短くあっという間でしたが中味の沢山詰まった生涯思い出に残るであろう意義深いものとなりました。子どもにもとても良い刺激となったようです。


4.取り組みの成果

1 本校生徒の美術的な作品や英文の表現作品を持参し,直接オーチャードスクール6年生(12〜13歳)の生徒に紹介し,英語による国際理解,異文化交流を行うことができた。また,同行したこども達や保護者と共に,一緒に授業に入る事ができたのは,とても意義のある異文化体験・異文化交流・教育交流になった。
2 教職員や・生徒との「ふれあい」を通して,オーチャードスクールのこども達や教職員が,直接日本や日本文化について理解や学習を深めることができた。
3 本校の教師が書道の授業や,文化交流の授業,子供たちによる紙芝居の授業は意義深い交流となった。どの授業も現地の子供たちは一生懸命受けてくれた。
4 今までの交流の成果を相互に確かめることができたことと,これから先の交流内容について,直接意見交換し,相互に確認することができた。
5 短期間でもネイティブの英語に触れる英語づけの生活は,英語のコミュニケーション能力向上にとても効果があった。


5.今後の取り組み

 今後更に次のような形で交流を続け,国際交流による異文化理解を深めるとともに,子どもたちが生の英語に触れ,英語を使える機会を増やしていきたい。

職員と教科 校長 教頭 天野 中川 平牛 英語科 美術科 音楽科 社会科
交流生徒 全学年+英語部
交流内容
1 共通教材による感想や意見の交換
2 作品交換
3 メールレターの交換
4 時事問題についての意見交換
5 ワークシートの添削交流
6 チャリティー活動
交流形式 生徒間・教師間・保護者間


前へ 次へ