教育改革のとりくみ 目次

人を思いやり,命を大切にする心の教育の推進〜家庭・地域との連携による共育の推進〜
埼玉県杉戸町立広島中学校

1.課題設定の理由

 本校は,埼玉県東部に位置する杉戸町の南部を通学区域としており,春日部市や宮代町に隣接している。東に中川,西に古利根川が流れ,校区のほぼ中央を南北に国道4号線が通っている。町の商業地域の一部と住宅地域,さらには農業地域を含んだ広い校区であり,約7割の生徒が自転車で通学している。現在の生徒数は,377名で学級数11学級の中規模の学校である。昭和57年に杉戸中学校と東中学校の一部を分離,開校し,本年度で27年目を迎えた。

 開校以来,学校教育目標に「創造」を掲げ,「自ら学ぶ生徒」「心豊かな生徒」「活動力に満ちた生徒」の育成を目指し,「生徒の夢を育み,生徒教師共に学び・高め合う,地域と共にある学校」を目指している。

 しかしながら,今まで生徒指導上の問題が発生したり,学習や生活のきまりを守ることに乱れが生じたり,時として,些細な事柄で友達への心ない言動も見られた。そこで,家庭や地域と協力した開かれた道徳教育が必要と考え,「人を思いやり,命を大切にする心の教育の推進〜家庭・地域との連携による共育の推進〜」を主題として研究に取り組んできた。


2.研究組織

 本校の研究組織は,「授業研究部」,「実践研究部」,「広報研究部」の3つの部会で活動してきた。主な活動内容は,次の通りである。

 授業研究部 教師の指導力向上を目指し,道徳研修会を開き,指導法の研修や資料分析会を行った。また,道徳の公開授業や研究授業に取り組んできた。
 実践研究部 本校での道徳教育の構想を視覚的にとらえることのできる学年別グランドデザインの作成,それを元にしたシラバスの作成,年間指導計画の見直しなどを行った。
 広報研究部 主に教室環境の整備,家庭地域への啓発活動として道徳だより「心のとびら」の発行やホームページによる情報発信を行った。また,道徳に関する意識調査を行い,生徒の実態を把握し,2.3年生については意識の変容を考察した。


3.研究の取り組み

(1) 重点内容項目の決定

 研究主題をうけて本校の最重点内容項目を3−(2)生命の尊重とした。そして,生命尊重への意識を高め,態度を養うために各学年の目標と土台となる重点内容項目を設定した。

1学年の目標
「あいさつのできる生徒をめざす」
重点内容項目
2−(1)礼儀,適切な言動 2−(2)思いやり,感謝
2−(5) 謙虚,広い心
2学年の目標
「相手の気持ちや立場を考えられる生徒をめざす」
重点内容項目
2−(5)謙虚,広い心 2−(2)思いやり,感謝
1−(1)望ましい生活習慣,節度調和
3年生の目標
「生命の大切さを自覚できる生徒を目指す」
重点内容項目
3−(2)生命の尊重 2−(2)思いやり,感謝
2−(5)謙虚,広い心

 最重点内容項目3−(2)の生命の尊重に迫るためには,単に命の大切さだけではなく,「自己存在」と「他者とのかかわり」を各学年で,意識してスパイラルに取り上げ,価値をより深めることが必要であると考えた。


(2) 道徳授業の充実

1 年間授業時数の確保
 

 中学校では,年間の授業時数が指導要領の標準授業時数に満たない学校や学級が 多いといわれている。そこで本校では,学年ごとに同じ時間に道徳の時間を設け, 計画的に確実な実施を心がけた。

 道徳の授業は道徳教育のかなめの時間である。年間指導計画では,23項目について1時間ずつ実施した上で,残りの12時間で本校の重点内容項目を重複して取り組んでいる。これによって本校の重点内容項目の価値への意識の自覚を高め,年間35時間の授業の実施を行っている。授業によって道徳的価値に対する意識を高め,教科,特別活動,総合的な学習の時間,その他さまざまな場面で,体験的な学習や体験活動を設定し,道徳的価値の実践化に取り組んでいる。


2 板書事項の工夫とティームテーチング
 

 その時間の授業の流れがわかるような視覚的,構造的な板書づくりに心がけた。写真は,場面絵を用いて授業の流れを表した板書とゲストティーチャーとのティームティーチングである。板書に場面絵を用いることで,生徒が場面や人物をイメージするのを容易にした。また,ティームティーチングでは,ゲストティーチャーをお招きして,普段聞くことができない貴重な体験を聞くことができる。しかし,事前に授業のねらいを伝えるなど打ち合わせをしっかりしておくことが大切である。


3 「心のノート」の活用
 

 1時間の授業の中やその他の場面のどこで活用するか検討し,積極的な活用を心がけた。また,道徳だよりや掲示物としても「心のノート」の詩などを活用した。



(3) 実践力につながる豊かな体験活動

 教科,特別活動,そして総合的な学習の時間では,体験活動を5つのふれあいを視点に「人・本・物・自然・家族」とのふれあいの中で,道徳的な価値をねらいと関連させながら,道徳的実践力の育成の場ととらえて取り組んでいる。まず,望ましい生活習慣を身につけ,法やきまりを遵守する態度の育成をねらいとして薬物乱用防止教室や非行防止教室を実施している。また,礼儀,感謝や思いやりの心を育てる福祉体験学習,幼稚園訪問,ふれあい体験活動。自主性や礼儀,役割と責任を自覚して,集団生活の向上をねらいとして,臨海体験学習,自然教室,修学旅行などの体験活動を行っている。


(4) 心を育てる教育環境の整備

 道徳掲示コーナーを設置し,時候にあった詩やメッセージを掲示している。また,整美委員会の美化コンテストや環境委員会の花壇の草花の植え付け,池の清掃など,委員会活動でも心を育てる環境整備に努力している。




(5) 家庭や地域との連携

 学校での活動を情報発信したり,保護者と共に汗を流す活動を行っている。主な活動としては,道徳だより「心のとびら」の発行,シラバスの配布,各学年の学年だよりによる情報発信がある。ホームページでも学校の情報を提供している。また,保護者・地域との活動では,あいさつ運動や親子除草,いきいきふれあい体験活動などがあり,「環境を変えずして子どもは変わらない」という考えのもと,保護者・地域を巻き込んでの活動を通して,家庭・地域が共に変わることに努めている。

 図は,毎月発行している道徳だより「心のとびら」である。心に響く詩や新聞記事,授業の取り組みや授業後の生徒の感想などを載せている。また,毎号必ず「心のノート」の言葉を引用し,「心のノート」の活用にも心がけている。保護者や地域の方より,「心のとびらを楽しみにしている。」というありがたい声も聞かれるようになった。



4.研究の成果

 生徒の変容としては,道徳授業の確実な実施によって,自分の考えを気軽に発表できる雰囲気ができたため,生徒の素直な意見が聞けるようになったこと。また,授業後の感想でも自分の考えをたくさん記入できるようになったことである。また,学校生活でも,道徳の授業を意識した行動が見られるようになり,道徳的な価値への意識は,高まってきている。

 教師側の変化としては,研究授業や資料分析会を重ねてきたことで,資料分析の重要性が理解され,資料分析の方法やその力が高められたこと。そして,職員室での道徳の授業に関するコミュニケーションが多くなったことである。

 家庭,地域との連携では,定期的な道徳だよりの発行により,保護者や地域の方にも学校での指導内容が伝わり,家庭・学校・地域の3者による共育が強化されつつあることである。



5.今後の課題

 まず,「ねらいに迫る授業,考えさせる授業への質の改善」があげられる。教師は授業で生徒に十分話し合わせ,ねらいに迫る授業,考えさせる授業ができるように指導力を高める必要がある。そのためには,教科の教材研究と同様に,資料をよく読み,確実に資料分析を行った上で授業に望むことが必要になる。また,教材研究を深めた資料が容易に活用できる資料コーナーを設けるなど,質の高い授業が容易に積極的に行えるよう環境を整えていくことも必要である。

 次にあげるのが,「意識化から実践化につなげるための手だての工夫」である。道徳授業の充実にともない生徒の道徳的意識は高まってきたが,それをいかに実践化に結びつけたらよいかを考える必要がある。

 最後に「道徳だよりの継続的な発行とシラバスの内容の充実」があげられる。道徳だよりやシラバスにより学校の活動を発信し,家庭,地域とのつながりをより一層強めていきたいと考える。そのためには,道徳だよりの継続的な発行とシラバスの内容の充実が必要である。



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