教育改革のとりくみ 目次

生徒がつくりあげる学校生活
岐阜県羽島市立羽島中学校

1.地域の実態

 本校は東海道新幹線岐阜羽島駅や名神高速道路岐阜羽島インターチェンジに近く,交通の便に恵まれている地域であることから生徒数が漸増しており,市内で最も生徒数(748名)の多い学校である。また,木曽川と長良川に囲まれた地域を校区にもつことから地域の住民は昔から水との戦いをはじめ様々な問題に立ち向かい,強い連帯意識で結ばれており,学校の教育活動にも協力的である。本校は校地内に総合型地域スポーツクラブの事務局をもち,生徒や地域の住民のスポーツへの関心が高く,部活動が盛んである。

図1 校舎


2.校訓

 本校は学校生活に活力と規律を生み出す創造的・自治的な力を育て,生徒が主体となって活動し,生徒自らがつくりあげる学校生活の実現をめざしている。この実現のために校訓を定め,この校訓は生徒だけでなく地域の人々にも定着している。

学校の教育目標
校訓
志をもって困難に立ち向かえ
校風 本物を求める心
仲間を大切にする心
美しさをここちよく感じる心

 本校の授業・掃除・合唱などの常時活動,体育祭・文化祭などの学校行事は,生徒会を中心に生徒が企画・立案・運営している。生徒が主体となって学校生活を高めることは本校の伝統である。

 例えば授業では,一人一人の生徒にとって分かる授業・楽しい授業の成立をめざして活動するのは生徒会委員会のひとつのラーニング委員会である。5月にラーニング委員会が実施した「学習評価5キャンペーン」は,2分前着席,ピン挙手,大きな声の挨拶,話す・聞く姿勢など基本的な学習習慣の徹底をめざした取り組みである。各学級のラーニング委員の活動は一人一人の生徒の確かな学力の育成につながっている。各生徒会委員会が展開する常時活動を通して,生徒は仲間の思いや活動の意味を知り,自分なりの活動の意味を見いだして,自分に力をつけるとともに仲間を大切にするために主体的に活動を行っている。

 生徒会執行部が企画・立案・運営する学校行事は,生徒のアイデアを生かし,取り組みを大切にして学級組織を活性化し,日常生活を向上させるために実施している。また,各生徒会委員会が常時活動の徹底を図ることで,集中して動き隅々まで美しくする掃除を実現させたり,聞く人に感動を与える響きのある学級合唱をつくりだしたりして,生徒自らの力で校訓の実現をめざし,学校生活を向上させている。


3.研究推進

 本校は一人一人の生徒に確かな学力を育成することをめざして実践研究に取り組んでいる。本校は平成17年度より3年間,学力向上拠点形成事業(確かな学力育成のための実践研究事業)の拠点校として実践研究を行った。研究を推進するにあたって,研究全体では「学びの工夫」「学ぶ力・授業力の向上」「学び方・学ぶ集団づくり」の3つの研究の柱を設定し,各教科では具体的に「授業改善のための3本柱」「学力向上5つのこれだけは」を位置づけた授業を展開した。平成19年度の公表会では実践研究の成果を公開授業で,生徒が主体的に学習課題をつくり解決方法を工夫して意欲的に解決する姿として示すことができた。また,実践研究の成果として,練り合い,高め合う学習の定着に伴って,自ら積極的に交流することができる生徒が多くなってきた。3年間の実践研究を更に発展させる形で,平成20年度は研究主題を「『基礎的・基本的な知識を身に付け,豊かに表現する生徒を育成するための学習活動の創造』〜一人一人が課題意識をもち,課題解決のために意見を練り合い,高め合う学習活動の工夫を通して〜」として,一人一人の学力をさらに向上させることをめざして実践研究を進めている。

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図2 授業の創造図 図3 研究推進全体計画


4.特色ある活動

 本校は,生徒自らがつくりあげる学校生活の実現をめざして,研究推進,学校行事,常時活動などを特別活動や進路指導などの年間指導計画に位置づけて,計画的に実施している。具体的には,本校は年間指導計画に次に示す「いのちの授業」「トワイライトスクール」などの特色ある活動を位置づけている。


(1) いのちの授業
図4 意見を述べる生徒

 本校はボランティアや専門家との連携を図って「いのちの授業」を実施している。7回シリーズの「いのちの授業」は総合的な学習の時間に位置づけ,岐阜県獣医師会の協力を得て,昨年に引き続き実施した。生徒は,動物のいのちの犠牲の上に人のいのちを救う薬が開発されたり食の安全が保たれていることなどを知り,動物のいのちについて考えることを通して,改めていのちの重さや自分を大切にしたり相手の立場になって考えることの意味を考えることができた。


(2) トワイライトスクール
図5 質問する生徒

 本校は,生徒の「基礎・基本の学習をしたい」「自学自習を進めるときに問題解決のアドバイスを受けたい」などの願いに応じた学びの機会を充実させるためにトワイライトスクールの時間を設けている。「セルフスタディーコース」と「ベイシックコース」を用意して,週1回の相談日だけでなく長期休業日にもトワイライトスクール開催し,昨年度は多くの生徒が参加した。 内容は,生徒が自ら選択した国語,数学,英語の練習問題に取り組んだり,生徒が家庭学習で生じた疑問などを質問したりする時間としている。トワイライトスクールでは本校の教師だけでなく,教育ボランティアとして参加している学生チューターの協力を得て個に応じている。


(3) チャレンジ検定
図6 教えあいをする生徒

 本校は毎月1回のチャレンジ検定を実施している。チャレンジ検定は本校が独自に作成・実施する検定であり,生徒は難易度の異なる1〜10級の検定に挑戦できる。チャレンジ検定は,国語,数学,英語の3教科で,個人キャリアアップカードを作成し,生徒は自分の学習状況を確認して,難易度の高い級に挑戦している。担任は生徒との学習相談を行い,家庭との連携も図りながら学習の進め方のアドバイスを行っている。チャレンジ検定のねらいは,1習得すべき基礎的・基本的な内容の確実な定着を図る,2生徒自身が自己の学習状況を把握して自学自習に生かす,3学習状況のチェック,ラポートを通して個に応じた学習を進める,4生徒にあった家庭学習を行うことである。


(4) 選択教科

 本校は選択教科に「こだま」「ひかり」「のぞみ」の3つのコースを設けている。「こだま」は自分の弱点を克服するためのコースで全学年5教科を設定している。「ひかり」は自分の可能性を高める選択コースである。3年生の「ひかり」は各種検定や資格に挑戦するコースで,漢検,数検,歴検,理検,英検,パソコン検,柔道,コンクールへの応募など多様なコースを設定している。「のぞみ」は自分の興味関心に基づき,学びを広げるコースである。スポーツから,芸術まで幅広いコースを設定している。


(5) まなび合宿

 本校は全ての1年生の生徒が参加して学習の仕方を学ぶ4泊5日の「まなび合宿」を実施している。まなび合宿は,岐阜市少年自然の家で,昼間は学校と同じ時間帯での授業を行い,夕食後から就寝までの時間帯は自学自習を行っている。自学自習の時間に自分一人で復習や予習が行える生徒は黙々と学習に取り組み,質問があったり問題解決の方法がわからなったりする生徒は,別室でボランティアの学生チューターやPTA,教師の助けを得て個別学習を行っている。まなび合宿では,各教科の教師や外部講師を招いて,「家庭学習の仕方」「自学自習の仕方」などを指導する時間があり,4泊5日の「まなび合宿」を終えた大部分の生徒は「家庭学習の仕方が分かった」「黙々と学習に取り組めるようになったので,家での学習に生かしたい」「規則的な生活をすると朝から学習に集中できるので,家でも規則的な生活をしたい」などと話している。


(6) 青春カメラマン

 校風「本物を求める心」を実現する学校行事のひとつが「青春カメラマン」である。「青春カメラマン」は本年度で6年目を迎える行事である。著名な写真家の「稲越功一」氏を迎えて,一人一人の生徒がテーマに沿って写真を撮り,キャプションを添えて作品にし,稲越氏に審査をしていただく。本年度のテーマは「身近な友人」である。「稲越功一」氏からは,写真に掛ける人生,生き方についてなどの講話を聞き,生徒が自分の進路や生き方について考える機会としている。


(7) 学級の絆を深めるための体育祭

 校風「仲間を大切にする心」を実現する体育祭は,全ての競技が学級の絆を深めるために計画されている。学級対抗で行われる競技のひとつが学級対抗リレーである。学級対抗リレーは学級の全ての生徒が参加する。競うのはタイムではない,仲間を大切にする心である。車イスで競技に参加する生徒もいる。その学級は生徒会で相談して特別ルールを作り,車イスの生徒が走る距離を10mとして,バトンを渡された生徒は190mを学級の仲間のために走る。一人一人が真剣に走ることでバトンをつなぎ,学級の絆を強くするのである。このようにして体育祭では団席の生徒と競技をする生徒の一体感が生まれ,平日に実施しているにも関わらず,たくさんの地域の方が応援に来ていただける。また,体育祭では32年の伝統をもつ応援団が活躍する。各学級から立候補して選ばれた応援団員は体育祭だけでなく日常生活においてもリーダーとして動き,後期の生徒会執行部や学級のリーダーになっていく。


5.情報モラル教育

(1) 全校で進める情報モラル教育

 本校では情報モラル教育の充実,特に危険回避の側面が喫緊の課題となっている。情報モラル教育は全ての教員が指導すべき性格のものであり,保護者を巻き込んで学校全体で取り組むべきものである。そこで本校は全校で体系的に情報モラル教育を推進している。携帯電話やインターネットで利用できるSNSやプロフなどの新しいサービスが登場し,便利になればなるほど生徒が危険に遭遇する機会が増す。情報社会で安全に生活するためには「相手の立場になって考えること」や「いのちを大切にすること」などの指導を計画的に行うのと同時に,これらとつないで情報モラル教育で「自分の身は自分で守る」「相手の立場に立って考え,行動する」ための知識や態度を学ばせる必要がある。そこで本校は情報モラルの授業で知識を獲得させると同時に生徒が自分の問題として考え,自分で判断して行動できるよう疑似体験したり,考えたり,話し合ったりする時間を設けている。


(2) 生徒会・PTA・学校が連携して進める情報教育

 生徒会執行部は毎年8月に実施される羽島市の生徒会サミットに参加し,市内の全学校が取り組む「はしま生徒会サミット宣言」を作成している。宣言は携帯電話やパソコンの問題を取り上げた。そこで生徒会執行部は正しい使われ方をしていない携帯電話の問題を生徒会の活動のひとつとして取り上げた。生徒会執行部は生徒会議会に,1全校生徒の携帯電話利用実態をつかむ,2全校生徒に携帯電話の正しい利用ができるようにはたらきかける,3保護者に携帯電話の正しい利用ができるようにはたらきかけることを提案し,「携帯電話の正しい使い方」の取り組みが始まった。

 生徒会は全校の生徒の実態をつかむためにアンケートを実施した。アンケートの質問項目は教員と生徒会で決め,質問紙法で全学級が一斉に行った。アンケートは各学級の議員により実施され,生徒会が集計した。有効回答数686人の集計結果から,家族で携帯電話を使うときの約束を決めている生徒が47%しかいないことやうわさ話や悪口を書き込んだことのある生徒が8%もいることなどが分かった。生徒会はアンケート結果からできるだけ早く携帯電話利用の約束を決め,全校の生徒や家庭に呼びかけていくことを決めた。携帯電話利用の約束はアンケート結果をもとに生徒会・教員・PTAが協議して決めた。生徒会はこの約束をアンケート結果とともに全校に伝え,活動の様子を生徒会Webページに掲載し,全家庭に印刷配布した。携帯電話利用の約束は学校が一方的に決めるものではない。携帯電話利用の約束は,生徒会活動の一連の流れの中で,教員のアドバイスを得ながら生徒が約束づくりに参加し,PTAの理解も得ながら三者が協議して決めていくことで効果が期待できる。そして,この約束は生徒だけが守るのではなく,教員や保護者も守ることで三者が連携して活動しているという連帯感を生み出す。

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図7 携帯電話を使うときの約束


(3) 保護者への啓発

 携帯電話を買い与えたり利用料金を払っていたりするのは保護者であり,生徒は学校から帰宅後,携帯電話を利用している。携帯電話でのトラブルを防ぐには家庭での指導が不可欠である。そのため学校は携帯電話やインターネットの危険性と対処の仕方,家庭での指導のポイントを保護者に伝え続ける必要がある。本校はPTA総会,学年懇談,家庭教育学級,新入生説明会などの機会を捉えて,繰り返し保護者への啓発を行っている。啓発は本校の生徒の実態を伝え,携帯電話を利用するときのマナーやルール,危険から身を守る方法を保護者に理解してもらうことから始めている。また,Webページや各種の通信で,学校で進めている情報モラル教育の内容や活動を詳しく家庭や地域に伝えている。その際,生徒会中心に進めている携帯電話利用の約束について,生徒が家族と話し合う機会をもつようにしている。本校はこれらの活動を継続して実施しており,生徒や保護者の意識が高まるとともに携帯電話を所持する生徒の割合が低下(平成18年度40%,平成19年度35%)してきている。


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