教育改革のとりくみ 目次

活力ある生徒の育成〜心豊かでたくましい生徒の育成に向けた取り組み〜

石川県かほく市立宇ノ気中学校

I はじめに

1. 本校の概要

 本校は,県都金沢市と能登を結ぶJR七尾線宇野気駅の近くに位置し,周囲は緑豊かな田園地帯が広がっている。3年半前までは,世界的な哲学者西田幾多郎博士を輩出した旧宇ノ気町立であった。そのため,校舎の内外には石像や言葉を織り込んだ記念碑等が多く配置されている。

 校舎は昨年4月に完成したばかりで,校舎棟の延床面積は8,283平方メートルもある広々とした空間である。さらに,柔らかい木を校舎内部の床や腰壁にふんだんに使用したり,床下の設備空間を通して冬暖かく夏冷たい新鮮な空気を各室に供給するなど,地球環境に優しい建物でもある。生徒はゆったりとした優しい空間で生活できており,情操教育に相応しい学びの場となっている。

2.生徒の実態

 平成19年度の生徒数は435名で,大規模小学校と小規模小学校の2校から入学してきている。学級数は,各学年4・特別支援学級1の中規模校である。

 生徒は素直で真面目であり学校行事や部活動にはよく頑張るが,表現することや主体的に活動することに苦手意識を持っている子が少なくない。近年,友達関係でのトラブルをうまく解消できず,以前に比べ悩みを抱え込む生徒が増えていると懸念している。

3. 平成19年度学校経営重点努力事項

1) 確かな学力の育成のための指導の充実 2) 心豊かでたくましい生徒の育成
1 教科毎の学力向上に向けた重点内容の確実な実施 1 人権意識や倫理観,豊かな情操等を育む教育の推進
2 生徒が意欲的に取り組める授業の展開 2 読書活動や文化的活動等の推進
3 家庭学習の習慣化を図る取り組みの推進 3 ボラアンティア活動や体験活動の計画的実践
4 生徒が自己の将来を意識できる教育活動の展開 4 健康な身体づくりに資する教育活動の工夫展開
3) 生徒理解に基づく生徒指導の充実 4) 生徒のよさを生かす生徒活動の推進
1 生徒との深い信頼関係に基づく適切な指導の推進 1 生徒主体の学校行事・生徒会活動の工夫実践
2 生徒指導の機能を全教育活動に生かす取組みの充実 2 生徒の思いが反映される学級経営等の展開
3 問題行動や不登校等に全校体制で取組む指導の充実 3 校外への視野が広がる指導及び校外活動の充実
4 楽しい学校生活に向けた特別支援教育の充実 4 部活動等課外活動の活性化
5) 地域の力を取り込む学校づくりの推進 6) 安全で楽しく過ごせる学習環境の整備
1 積極的な情報発信及び受信の実践 1 各種危機に対応する避難訓練等指導の充実
2 地域及び家庭の教育力を生かす取組みの充実 2 学習意欲や存在感を大切にした掲示等の充実
3 小学校との交流を図る取組みの工夫実践 3 校舎を大切にする思いを育む清掃指導等の充実


II 心豊かでたくましい生徒の育成に向けた取り組み

 新しい校舎に対する愛着度は昨年度より高くなってきており,夏休み前のアンケートでは86%の生徒が校舎を大切にしていると回答している。

 このような心をさらに育て,校舎がもつイメージのように,「力強く心優しい」人としての成長を目指した取組みを進めていきたいと考えている。

1. 人権意識や倫理観,豊かな情操等を育む教育の実践

(1)道徳授業の時間の確保と内容の充実

  1 組織:学校全体の道徳を推進する担当教諭の他に学年担当2名を置く。
  2 方策として

毎月の職員会議で,学校担当が年間指導計画に従い各学年の翌月分の道徳授業の内容項目やねらい・資料名を提示し,授業実践し易い環境をつくる。
各学年会では,提示された内容のうち,生徒の状況等を踏まえ,全ての学級で必ず実践するものについて協議し決定する。なお,実践後の意見交換も行う。
翌月の職員会議で,学校担当が内容項目毎に実践できた学級数と生徒・授業者の感想等について学年担当から報告を受けたものを,一覧表にまとめ報告する。

<2年生6月の例…一部>

内容項目(資料名) ね ら い
2−(3) 信頼・友情
 
自分だけ,余りになっ てしまう。
 
信頼し合える友達関係を自ら築こうと努める心情を養う。



実施クラス 生徒・授業者の感想
3/4
 
もう1学級は今週中に実施予定である。
今日の話は,すごく共感できるなあと思ったり,そうなんだと感じたりしたことがたくさんあった。自分が一人になるのは嫌だから,友達にも絶対したくないと思う(女子)。
 
生徒にとって身近な話題だったせいか,いつもより発言も多く,考えこんでしまった生徒もいたくらいである。資料選択の大切さを改めて思った(授業者)。
 

3 研修会:道徳研究校から実践者を招き,副読本の資料の使い方について研修する。

(2)人権について学習する機会の積極的な設定

1 組織:学校全体の人権教育を推進する担当教諭の他に学年担当2名を置く。
2 主に総合的な学習の時間に,学年毎にテーマを設定し計画的に実践している。

1年生 福祉 ・・
身体障害者や高齢者の疑似体験,高齢者等との交流
福祉施設等への清掃や慰問活動 等
2年生 環境 ・・
リサイクルプラザ見学,環境問題の映画鑑賞
海岸クリーン清掃,環境保全ポスターや作文を応募 等
3年生 国際
理解
・・
外国に絵本を届ける活動,国際協力の必要性を地域に
呼びかける活動,JICAエッセイコンテストに応募
手作りのおもちゃをJICAに寄贈 等




<1年生の例>
5月17日(木) 能登半島沖地震被災M中学校へ送る応援メッセージを書く。
5月24日(木) 映画“クィール”を鑑賞し,盲導犬について知る。
5月31日(木) 福祉に関する新聞記事を読んで感想を書く。
6月14日(木) 県リハビリテーションセンターによる福祉について体験する。
<高齢者疑似体験,車椅子体験>
6月19日(火) 県立看護大学S教授から福祉について学習する。
<講演会,ブラインドウォーク>
7月12日(木) 福祉施設等でボランティアサービス活動(清掃や合唱)を実施する。
高齢者擬似体験 特別養護老人施設で合唱 車椅子の清掃
(高齢者擬似体験) (特別養護老人施設で合唱) (車椅子の清掃)

3 12月の人権週間に,世の中の動きと相まって人権意識を高める活動を実施する。
講演会(全学年対象):ハンセン病に関する学習会予定(H19)
映画鑑賞(各学年):自閉症児との出会いや高等養護学校を舞台とする作品(H18)
各学年の優秀な作文を1点ずつ朗読する会(全学年対象)
(1年生:社会を明るくする作文,2年生:人権作文,3年生:読書感想文)

  4 講演会
福祉について学ぶ講演会(1年生対象)
命の重さについて考える講演会(1年生対象)
世界の哲学者西田幾多郎博士の生き方を知る講演会(3年生対象)
親子の在り方について考える講演会(全学年および保護者対象)

  5 人権に関する作文や標語等への積極的な応募
社会を明るくする運動に関する作文(1年生:夏休みの課題)
人権作文(2年生:夏休みの課題)
親子の手紙や河北郡市青少年健全育成標語,いじめ防止ポスター等への応募
 
 
 生徒の自由意志で応募することを基本にしているが,帰りの会を10分延長するなど,
標語等の作成を通してその趣旨について考える時間を確保する。
 
  <河北郡市青少年健全育成標語の例>
聞いてください 私の話 話して下さいあなたの話 (H18最優秀賞)
  どうしたの? 一人じゃないよ 僕がいる (H19優秀賞)  

2. 読書活動や文化的活動等の推進

(1)読書に親しむ時間の確保

  1 組織:学校図書館司書教諭を学校担当とする他に,国語科教員を補助とする。
  2 毎日朝読書を年間通して実施している(20分間,1・2年生対象)。
  3 総合的な学習の時間に,一斉読書や気に入った本や文章を紹介する活動を実施する。
  4 夏休みの宿題として,読書感想文コンクールへ応募する作文を書く(3年生対象)。
  5 地域のボランティアグループによる読み聞かせを学期毎に1回実施する。

(2)文化的な活動に触れる機会の提供


  1 本物の芸術に触れる機会を提供する。
狂言鑑賞会(H19) ピアノコンサート(H18) オーケストラ演奏(H17)

2 合唱コンクールを充実する(学校祭の催し物)。
学級の結束を固めながら,音楽性にも優れた合唱を求めている。
練習場所を割り振る(学校祭20日程前に,12学級の練習場所の割り振りをする)。
練習時間を確保する(帰りホームの時間を10〜15分延長する)。
本番前に学年毎のリハーサルを行い問題点を確認し,練習の目当てを再確認する。
(合唱コンクール)
(合唱コンクール)
12学級の中から最優秀賞クラスを決め,河北郡市音楽会への出場権を与える。

3. ボランティア活動や体験活動の計画的実践

(1)生徒会活動等による様々なボランティア活動の計画的実践

  1 生徒会活動として,地域に向けて積極的に実践する。
緑の募金,ユニセフ募金,独居老人宅への訪問,書き損じはがき集め
能登半島地震被災中学校へ励ましの作品等をプレゼント 等
  2 ボランティアサービス活動を全学年で実施する。

1年生:福祉施設等への慰問および清掃活動
2年生:海岸清掃活動
3年生:国際理解に関する活動
(外国に送る絵本集め)
(外国に送る絵本集め)

4.健康な身体づくりに資する教育活動の展開

(1)食育を推進する工夫ある取組みの推進

1 組織:給食担当を学校担当とする他に,養護教諭を補助とする。
2 毎月の食育の日(19日)を中心に,学年毎のランチルーム給食を実施する。
3 栄養士の先生や地域の生産農家の方から, 栄養や食材についてお話を聞く。
4 給食委員会が,残菜調査やエコ活動としての堆肥づくりの活動をする。
5 保護者啓発の取組みを進める。

給食試食会で,栄養士とのQ&Aなども含め食の大切さを啓発する(H18〜19)。
家族の団らんの大切さについて考える講演会を開催する(H19)。
本校発行の学校便り等への記載で,食育への関心度を高める。

 
 
 
(栄養士と生産農家の方のお話)
(栄養士と生産農家の方のお話)

(2)体力アップ1校1プランの実践


1 組織:保健体育科教員が担当し,授業の中で推進することとしている。
2 取り組み内容
自己の体力測定結果から高めたい体力を把握し,体力アップマイプランを作成する。
年間2回の体力アップチャレンジ期間の後に体力を測定し,マイプランを評価する。
体力づくり補強運動を年間通して授業の中で実施する。

(3)運動部活動の推進

1原則として,生徒全員が本校部活動に加入するものとしている。
2運動部活動一覧
陸上競技 (男子・女子) 28名 塁  球 (   女子) 22名
野  球 (男子   ) 39名 庭  球 (   女子) 19名
排  球 (男子・女子) 50名 剣  道 (男子・女子) 33名
籠  球 (男子・女子) 54名 柔  道 (男子   ) 14名
羽  球 (男子・女子) 46名 10 弓  道 (男子・女子) 34名
計339名の生徒(全体の約80%弱)が,放課後2時間ほど活動している。
技術面だけでなく,体力の向上や精神面(協調性,耐性等)の鍛錬ができている。
部活動の保護者会も,各部の顧問が指導しやすい環境設定に協力してくれている。

III 取り組みを振り返って


1. 生徒の様子(1学期末に実施した中間アンケートから)

< ア たいへんそう思う イ そう思う ウ あまり思わない エ 思わない>
調  査  内  容 ア+イ
1 校舎を大切に使っていますか 86 41 45 12 1
2 人としての生き方について考える場は必要ですか 75 25 50 22 3
3 読書や文化的な活動に親しむことはよいですか 78 33 45 18 5
4 ボランティア活動に参加したいですか 62 18 44 30 9
5 食生活に関心をもち自分の健康に注意していますか 75 32 43 23 3
6 健康な体づくりを自分で気をつけていますか 80 33 47 18 3
7 部活動などに積極的に参加していますか 83 46 37 12 5
8 先生以外の人が教えてくれるのはいいですか 78 28 50 18 5
9
学校生活は楽しいですか
77 36 41 17 5
( 単位:% )

2. 考察


(1)  心の豊かさを判断することは大変難しく,今回は一つの目安として上記のような内容で生徒自身の思いを受け止めたが,多面的に生徒の様子を観察しなければならない。ア+イが80%を超えることを目標とし,今後はウと回答した生徒が何を求めているのかを把握しなければならない。
(2)  調査内容3については,学校図書館の活性化が課題である。開館時間が昼休みだけでなく入館したいと思う時に可能であったり,本に関する相談が何時でもできる人がいれば,入館生徒数は確実に増える。多感な中学生に,読書を通して生き方の示唆や感性の涵養・語彙力の充実などを図りたいものである。
(3)  夏休み前の保護者アンケートで,「85%が学校を信頼している」と回答してきた。今後,さらに数字を高めていく上で気になることがある。従前より,子どもにとって不安定な家庭や,保護者との協力が得にくい状況が増えていることである。この点をどのように改善できるかが,今後の学校としての大きな課題だと考える。

前へ 次へ