教育改革のとりくみ 目次
 
保護者のニーズを知りそれに応える学校運営〜百ます計算,メール配信などの取り組み〜

兵庫県伊丹市立北中学校

1.はじめに

(1)本校の概要

 本校は,江戸時代から「清酒発祥の地」として酒造りで栄えた摂津の国伊丹の中心に位置しており,平成18年度の生徒数が631名の学校である。

 校区には,阪急「伊丹」駅・JR「伊丹」駅と駅周辺の商業地域や高層マンションを含む住宅地域がある。また,校区の端に伊丹空港があり,空港周辺の工業地域,および昔からの風情が残る農業地域が広がっている。

 生徒は比較的落ち着いており,部活動も盛んである。

 近年,少子化に加えて保護者の私学志向が高まり生徒数が減少するなか,公立として選んでもらえる学校となるよう努力している。

(2)学校評価から見た保護者のニーズ

学校評価を各学期毎にとり,結果を分析した。
保護者の願いで共通しているのは
 
1 心の教育の充実   2 学力向上   3 安全な学校   4 開かれた学校(情報発信)
への要望であった。
保護者の代表的な意見は次の通りである。

 
1 心の教育の充実については
 
心の教育(思いやりや感謝する心)
努力・忍耐 人を思いやる心の育成教育
礼儀や規律をもって思いやりのある人格形成
社会生活のルール・マナーの徹底
2 学力向上については
 
生徒の学力向上
落ち着いて勉強出来る環境と授業の質の高さ
先生の質の向上
基礎学力をしっかり身につけさせる
3 健康・安全については
 
安全な学校(登校中の安全含む)
子どもが楽しく勉強や部活動が出来る環境作り
4 開かれた学校(情報の発信)については
 
学級通信が出ないので,クラスの様子がよくわからない
2学期後半になっても,学校の事情が把握出来ないのは,情報伝達の面で学校側に課題があるのでは
小さなもめ事など,1学期毎にまとめて報告して欲しい
(学校評価の記述面に書かれた意見から抜粋)

「心の教育」の充実については,「朝の10分間読書」を導入し,豊かな心をもち,落ち着いた一日がスタート出来るように取り組んだ。
礼儀やルールを知り,考えるため,「みんなのためのルールブック」−あたりまえだけどとても大切なこと−(ロンクラーク著・亀井よし子訳・草思社)を全教師に配布し各教室にも7〜10冊置いて,規範意識の醸成をねらった。
「学力の向上」については,本年度から百ます計算や音読,漢字などに取り組む「7校時学習」(10分間)を始めた。
今の中学生は家庭学習の習慣がついておらず,休日はだらだらと過ごしてしまう傾向の生徒が多いことから,土曜日に学校の一部を提供し,その場に学生のボランティアと校長,有志の教員が常駐し勉強のお手伝いをする「サタデースクール」を昨年から開始した。
「安全確保」と「開かれた学校」(情報発信)については,PTA会長の提案を受けPTAと協働して行う北中単独の保護者へのメール配信システムを導入することとした。
緊急の子どもの安全に関わる連絡以外に,学校行事の実施および様子や,PTA活動の案内や連絡,部活動内容や緊急連絡などの配信に利用しており保護者から好評である。


2.具体的な取り組み

(1)朝の読書の取り組み

朝の読書の取り組みは,校門指導から始まる。
8時10分から学年の教師と風紀委員があいさつ運動で校門付近に立つ。
遅刻寸前の生徒に「25分から読書だよー!」と教師が声掛けをしている。
8:25に読書開始。
提出物は時間までに教卓上の回収箱の中に入れておく。
担任も一緒に黙って読む。
読書タイムの8:25〜8:35は教師は連絡や話しかけをしない。
副担任が交代で廊下を巡回する。
雑誌,漫画,写真集,ゲーム攻略本などは禁止。

<成果>
日頃忙しい中学生に読書の機会を与える。
1校時開始前の心と体を落ち着かせる効果がある。
本が好きになり,豊かな心を育む。

 

(2)「みんなのためのルールブック(ロンクラーク著・草思社)」を活用

教師全員に本を配布。
教室に,7〜10冊設置。
学級毎に「今週のルール」として順に取り組んでいる。
朝の読書として読んでいる生徒もいる。

<成果>
本に書かれたルールが,どのクラスでも暗黙の共通ルールに成りつつある。

<課題>
活用と取り組みについては,まだ手探り状態である。
道徳,学級活動,生徒会活動等の中で,どう位置づけるか検討する。

(3)7校時学習の取り組み

保護者の学力向上,基礎・基本の定着への要望に応えることを目的とする。
10分間を7校時目として位置づける。
毎日基礎的な反復練習を継続していくことで,学力向上につなげていく。
 
内容(教材) 数学(百ます計算)
国語(音読・漢字練習)
時間 15:25〜15:35
校時表
<7校時学習時程>
 15:25 席に着く
 15:26 黙想(1分間)
 15:27 ドリル開始
 15:30〜15:35
  ドリル終了
答え合わせ:記録用紙記入

実施方法
 
1 教師全員の取り組みとする。
2 通常,担任が学級で指導する。
(副担任もはじめの1週間はどこかのクラスに入る。その後副担は,清掃場所から教室にかけて巡回)
3 目標タイムを1分30秒とし,最長3分で切る。
4 終了後記録用紙に記録する。
(誤答した場合,1問につき10秒タイムにたす)
5 3分で終了しなかった生徒は正答数を記録する。
6 14日を1サイクルとし,+算−算×算÷算をそれぞれ14日間ずつ続ける。

教師,生徒の動き
教師
生徒
掃除を終了させ,教室へ。
清掃用具を片付け,教室へ移動。
15:25
席に着かせる。
席に着く。
15:26
1分間黙想させる。
1分間黙想。
15:27
問題配布 ストップウォッチを持ってスタートの合図。
プリントに取り組む。
1分・2分・3分・・・と1分ごとに時間を読み上げ,手を挙げた生徒に時間を知らせる。
(黙って手を挙げさせる指導を徹底する)
百ます計算が出来た生徒は,黙って手を挙げる。
自分のタイムを記録する。
問題用紙をファイルにとじる。
15:30
終了合図。
百ます達成できなかった生徒も鉛筆を置く。
15:35
採点と記録をさせる。
引き続き終礼を行う。
解答用紙を見て,採点し記録する。
終礼を行う。
終礼を終える。
15:50
終礼終了後部活動へ。

事前の取り組み
 
1 5月15日から全校実施とし,4月末から各学年1クラス,モデルクラスを設定し,プレ実施を行い,課題を整理する。
2 プレ実施までに,先進校に出向き,視察をする。(2回視察)
3 7校時学習立ち上げ委員会を組織する。
4 事前に必要な物品をリストアップし,揃える。

<成果>
清掃時間や終学活の時間が守れるようになった。
百ます計算により,集中力がついた。
学力に自信のない生徒も興味を持って取り組んでいる。

<課題>
部活動の時間を保証するため時程を変えず,清掃の時間から5分,終学活の時間から5分を短縮して計10分を生み出した。そのため,清掃方法の工夫が必要。
朝の学活では「読書」をし,終学活が5分短縮されたため,短学活を計画的能率的にする必要がある。
「音読」「漢字」については,現在教材を発掘中である。

(4)サタデースクール

開設日 土曜日の10:00〜12:00で隔週
(伊丹市が隔週実施。学校ではその補完的に行う)
場所 北中の木工室と金工室
対象 3年生のみ(希望者)
実施内容
(クラス1) 数学の授業
学習に関する質問
(クラス2) 自主学習に関する質問
学習に関する質問
指導者 校長(数学)
本校有志教員
学生ボランティア
本校では,3年生が部活動を引退した9月から3年生のみ対象に開設している。
市のサタデースクールは1年生から3年生まで対象に実施。

(5)メール配信の導入

学校評価に「2学期後半になっても,学校の事情が把握出来ないのは,情報伝達の面で学校側に課題があるのでは」という声があった。
月1〜2回発行の学校通信や学年通信では,保護者に学校の情報が伝わらない。
学級通信は,担任によって発行の差がある。
安全に関する情報や,行事の実施など出来るだけ細やかな発信を,保護者は望んでいる。
そこで,今年から本校独自のメール配信を始めた。
PTA総会で承認を受け,5月中旬から登録受付とメール配信を始めた。
現在,手探りの中,良い情報を速やかに提供しようと努力している。
配信は,学校だけでなく,PTA会長からもしている。

<システムの導入>
コンピューターシステムによる携帯電話への一斉メール送信を利用しリアルタイムの情報を発信する。
北中独自の情報発信システムとする。
保護者の任意加入とする。
緊急発信だけでなく,日常的に学校行事やPTA活動の情報を共有することで,学校やPTAを,より身近に親しみやすく感じ,距離が短くなる効果を期待。

<配信内容>
子どもの安全に関わる情報 ・・・ 緊急性・必要性がある場合など
緊急災害に関わる情報 ・・・ 暴風警報発令時等の対応など
学校行事に関わる情報 ・・・ 行事の実施および様子など
PTA活動に関わる情報 ・・・ 各種行事の案内や各委員への連絡など
部活動に関わる情報 ・・・ 部活動内容や緊急連絡など

<セキュリティについて>
情報管理・発信者は,学校長・教頭・PTA会長・副会長などに限定している。
登録はメールアドレスだけで,個人の氏名・住所・電話番号などは登録しない。

<ライン>
学年学級ライン,部活動ライン,教職員ライン,PTA役員ラインがあり,ライン毎に情報の発信が出来る。

<メール配信の例>
(修学旅行中の沖縄からのメール・・・12通配信した中から抜粋)
5/18(木)
全員無事に那覇空港につきました。沖縄は晴れです。
  平和記念公園「平和の礎」前で平和セレモニーをしました。「島唄」を精魂込めて歌う姿に,周りの人から拍手が起こりました。感動的でした。
5/19(金)
午前中晴れ間も見えた天候が,雨に変わりました。台風の影響で風が強いため,午後のマリン体験を断念し「美ら海(ちゅらうみ)水族館」に行きます。
5/20(土)
世界遺産首里城の荘厳さに打たれました。今から国際通り自主研修にうつります。 買い物と自由に食べる昼食が楽しみです。沖縄の方言では「a.i.u.e.o」の発音が,「a.i.u.i.u」となります。雨は「あみ(a.mi.)」となります。
ほぼ予定通り,関空に着きました。バスに乗って伊丹に向かいます。お土産を楽しみに待っていてください。

(部活動関係のメール)
1年生の12日(月)・13日(火)の代休時の練習についてお知らせします。12日(月)は1年生のみ休みで林間の休養をしてください。13日(火)は予定表通り練習があります。

(保護者へのお知らせのメール)
1年生学年・学級懇談会を6月15日(木)午後4時から,北中会議室で開催します。ご予定ください。明日案内状を配ります。
北中理科部のエコクラブの活動が,6月1日付け広報「伊丹」に掲載されました。ぜひご覧下さい。また,英語の授業「グローバル・コミュニケーション科」の北中の様子が,今,ケーブルTVで放映されています。

<保護者の声>
宿泊行事などもリアルタイムの情報が得られるため,様子が分かって安心である。
懇談会なども,早目に知らせてもらえて嬉しい。
「沖縄だより」はメールをおばあちゃんに転送したところ,好評だった。
登録開始当初180名程であった保護者登録が,メール発信するにつれて増え続け,現在365名(生徒数631名)となっている。

<課題>
保護者はメールへの関心が高く登録者も多いが,教職員は関心が低い。
(登録者数:管理職を含め12名/39名)
部活動などで発信しようとする教員はまだ一部である。


3.おわりに

 学校には様々な課題があり,頭を抱えるような問題が日常的に発生する。その中で,保護者の理解を得て,学校の営みを継続するには,出来るだけ情報を公開し,教育活動に透明性を持たせることが大切であると考えている。また,保護者のニーズをキャッチし,応えようとする姿勢が信頼へとつながる。今後も,学校評価を活かしながら,新たなワクワクするような取り組みを続けていきたい。

 平成18年10月31日(火)に「生きることに意欲的な生徒の育成」 −基礎・基本の確実な定着のもと,伝え合う力を高める− をテーマに,学力向上の取り組みについての伊丹市指定研究発表会の開催を予定している。近隣地区の先生方にはご参観いただき,ご助言,ご批判をいただければ幸いである。



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