教育改革のとりくみ 目次
 
「基礎基本を大切にし,よりよい生き方を求める生徒の育成」

埼玉県児玉郡美里町立美里中学校
1.学校の概要

昭和41年4月1日,学校統合により美里村立美里中学校発足。今年度開校41年目。
学校は田園地帯の中にあり,周辺にはなだからな丘陵が広がるなど,自然環境に恵まれている。
生徒の転出入は少なく,三世代家庭が多い。
通学区が広く,全校生徒が自転車通学である。交通安全意識の高揚が課題である。
地域や保護者の学校教育への期待や関心は高く,協力的である。町主催で将来を担う人材の育成に積極的に取り組んでいただいている(「中学生海外体験学習事業(3年生の希望者)」や「社会体験チャレンジ事業」「町長杯スポーツ交流大会」等)。

 生徒は,落ち着いた学校生活を送っており,授業に部活動にと一つ一つのことに大変前向きに取り組んでいる。文化祭,体育大会,合唱コンクール等の学校行事が年々質的に向上し,全校生徒が感動・充実感を味わい,様々なことを学ぶ機会となっている。また,部活動の大会や各種のコンクール等における活躍を通し,生徒に少しずつ自信が生まれつつあるように思える。職員も明るい雰囲気の下,一体となって教育活動に取り組んでいる。学校教育目標『知,徳,体の調和のとれた豊かな人間性とたくましい実践力を身につけた生徒の育成‐自ら学びよく考える生徒 思いやりがあり助け合う生徒 心身ともに健康で頑張りぬく生徒』の育成に向け,取り組んでいる。

2.目指す学校像

『居がい,やりがい,学びがいのある学校』
居がい   学級や集団の中で一人一人が大切にされる(存在感)
やりがい   学級や集団の中で役立っている(有用感)
学びがい   学んだことがわかる(基礎・基本),学び方が身に付く
み     さ     と
〜 認め合い  支え合い  ともに高まる 〜
(1) 楽しく潤いのある学校   (2) 確かな学力を身につける学校   (3) 歌声とあいさつの響く学校
(4) 不登校0の学校   (5) 体力づくりに励む学校

3.研究課題

教育に関する3つの達成目標の具現化に向けての工夫を図る。
少人数指導や習熟度別指導などの推進を通して,基礎的・基本的な内容の確実な習得と個に応じた学習指導の充実を図る。
学習規律の定着を図ると共に社会性の向上を目指す教育活動の推進を図る。
自己の将来を大切にし,現在の生活の在り方を考えられる生徒の育成に努める。

4.研究の内容

(1) 学力の定着と進路指導の充実に努める。
 
1) 教科指導,道徳の時間における指導を通して
 
指導法の工夫,改善に努め,各教科においての基礎・基本の定着を図る。
生徒が自己理解を深めていくことを援助し,学業・進路に関する適切な指導・助言を与える。
各教科,道徳における進路指導の視点を明確にし,「生きる力」の育成に努める。
読書指導の充実に努め,本に親しむ生徒の育成を図る。
2) 特別活動を通して
 
特別活動の特質を生かし,抽象的な学習でなく,より具体性のある学習の展開に努める。
→啓発的体験学習の充実。
学級活動における進路指導の重要性を踏まえ,3年間を見通した系統的な進路学習の実践に努める。
全教師の共通理解のもと,適切な指導を通し,生徒に自主性,自発性を育てるとともに集団の一員としての自覚を高め,集団生活の向上を図る。
3) 相談活動を通して
 
当面している諸問題の解決のための助言や学校生活における諸問題を自主的に解決していくための自己指導能力の伸長のための相談活動を積極的に推進する。
生徒が将来にわたって自己の進路を切り開いていくために,自己指導能力の育成に努める。
さわやか相談員との連携を図り,「人権侵害や不登校」等の問題解決に積極的に取り組む。
(2) 規律ある態度の育成
 
1) 道徳の時間の指導,特別活動を通して
 
生徒会活動など,生徒の主体的な活動を促し,生徒自らの手でよりよい生活習慣を確立しようとする態度を育てる。
学級活動における主体的かつ適切な活動を奨励し,自浄作用の働く集団づくりを目指す。
教材の開発や指導案の作成等を組織的に行い,同一指導案による実践に取り組む。
2) 各教科の指導を通して
 
学習の手引き(シラバス)を活用し,規律ある学習態度を身につけた生徒の育成に努める。
教科や学年間における生徒の学習規律についての問題点の把握に努め,積極的に改善策に取り組む。
3) 家庭・地域との連携を通して
 
家庭への啓発
PTAとの連携


【実践例1】確かな学力の定着を目指した教育活動

I.数学科における少人数指導

1.本校の少人数指導の構想

 若者の理数離れが進み,学習意欲の低下や思考力の低下が深刻な課題となっている中,基礎学力・生きる力の向上に向け,これまで以上に少人数指導への期待は大きい。そこで,複数の教師で1単位時間の授業設計を再構築するという指導構想の改革を一層進める必要を痛感している。

 本校では平成8年度から少人数指導加配をいただき,数学科において全学年・全学級で毎時間の少人数指導を続けている。主として1クラスを均等に分割して指導するという形態をとっている。煩雑なクラス分けや選択をさけるという意味だけでなく,教室環境に見合っていない移動教室ばかりの中学1年生の混乱を避けたいという配慮もある。

 数学科の少人数指導では,以下に示す組織図(ワードソフトにある。時間系列の略案やフローチャートではなく,柱とねらいの焦点化された梁だけのもの)のような簡単な指導構想案を単元ごとに2つくらい作成し,簡単な打合せを行い,同一歩調で数学的な活動の充実を図り数学的な見方・考え方の育成に効果を上げたいと考えている。

 以下は,従来の一斉指導時の簡単な指導略案と少人数指導時の指導構想案である。

2.第2学年数学科学習指導支援案


(1) 図形の調べ方
(2) 指導計画 二等辺三角形・・・・4時間(本時3/4)
(3) 本時について
 
1) ねらい(観点別にあげてみると)
 
道具との関連に関心を抱き,いろいろな説明方法や証明方法があることに興味をもって,意欲的に解決しようとする。
関数的な見方で考察したり,線対称な二等辺三角形の仲間と見たりして考察できる。
既習事項を用いて角度を計算し,二等辺三角形の定理で説明したり,証明したりすることができる。
二等辺三角形の定理を利用するのが最も簡単な証明であることを知り,その筋道が理解できる。
2) 展開(学習活動の流れ図)
 
 
 
コンパスで等長何回取れるか
二等辺三角形,正三角形の定理
ベン図

学習活動,ねらい,配慮
指導時の留意,事前準備
1 課題を提示し,内容をつかむ
 
 15°の角の2つの半直線に何回まで等しい長さを取り続けられるか調べよう(先生のやり方を見て下さい)。
2 ワークシートで,各自調べる。
 
コンパスで取れることを確認し,最初は示範する。(コンパスは,少ししか動かさない場合と大きく動かす場合を示す。)
15°は三角定規の30°の角の二等分線から作図可能を引き出してもよい。
3 調べた結果を発表する
 
6回,7回  挙手で複数に分かれる
対立ディベートの発生  関心意欲(正解は1つ)
コンパスで作図できるものの確認 既習事項の関連
(円,基本の作図,等長,三角形,二等辺三角形など)
4 課題を追究し,解決する
 
再度試行実験,観察思考,主張の正当性の根拠考察
初期設定角度(15°)とコンパス(等長)の関連を想起させ,今後の問題解決に生きる見方として,
  ・限界とコンパスが届かなくなることとの関係
・間隔が狭くなることから角度調べの足がかり
・点や辺が重なることへの数学的な意味
があげられる。
一本しか引けなくても,「(意味ある)線を引いてみよう」などと,支援するタイミングを逃さない。
1. 関数的な見方
  (底角が15°ずつ増加で底角は75°が限界)
(頂角が30°ずつ減少で0°にはならない)
2. 図形的な見方
  (円と接線の関係になっている)
(90°を根拠に,垂線は1本しか引けない)
(三角形,二等辺三角形がかけない・できない)
(正三角形や二等辺三角形などの存在)
底角と外角だけを調べるのが最速であるし,その規則性に気がつく。
5 課題を発展させる。
 
(別シートの用意,発展の設定だけしておく)
5-1・ 現在見えるものからベン図へ。
  二等辺三角形の仲間としての正三角形
コンパスで作図できる図形の拡張
5-2・ 出発の角度を変えてみる問題づくりへ
 
6 見方や考え方をまとめる
   角度を1カ所しか与えていない二等辺三角形の全ての角を求めたり,60°で何三角形かを問う問題をやったりしてまとめとすることもできる。
 コンパスで書いたものを二等辺三角形で角度を調べたり,説明したりすることができるという身近で便利な道具と図形の特徴との組合せを知る。この1時間の学習の意義を語りまとめる。
等長から連想することを考えさせるとともに,どんな図形をたくさん書いたのかを観察するよう机間支援する。
微妙な部分をどう説明するかを期待している。(気になることを全体に返すことができれば。)
気づいたことを周りとあげっこをする。
   
1. 角度の変化
問題の中での,動的な変化(関数的)
終90°だけに注目した静的な焦点化(図形的)
2. 図形自体の名称や特徴
教師の準備・用意として。
(1) コンパスとの交点を結んだ二等辺三角形が見られるもの
(2) 最後に円と半直線の接する様子が見られるもの
 
三角形の内角の和だけを利用して角度を求めている生徒には適度に助言をする。
コンパスをもって考え続ける生徒には,場合によってはしっかり円を書かせてしまってもよいかも。
   
   
仲間分けをベン図で確認する。
  5-2は時間や集団の実態に合わせて。
角度を変えてみると回数が変わることは,直観で引き出せる。
   
図形の特徴で代表的なものは定理としてまとめることの意義。
   
   
   

(4) 生徒による問題づくりのための教材研究
 
1) 上記,簡略指導案にある5-2の出発の角度を変えてみる場合の例
  角度を変えると,回数が変わるが,初期15°のときには,15°ずつ増加。初期30°では,30°ずつなので,5°ずつの初期設定で回数を分類できるか,考察する。
 
初期角x
限界の底角
回数
初期角
限界の底角
回数
初期角
限界の底角
回数
85°
18
10°
80°
9
15°
75°
6
20°
80°
5
25°
75°
4
30°
60°
3
35°
70°
3
40°
80°
3
45°
45°
2
これらのことから,
90°を底角にすることはないが,頂角を90°とするのはよい理由
二等辺三角形は,内角・外角をすべて求めるのに,角度は1つ与えられると良い理由
を考えさせやすい。また,正三角形は,二等辺三角形の特別な場合として書けたから,作図の方法も分かるし,すべて60°に等しい証明も二等辺三角形の底角を根拠とする見通しが持ちやすい。


3.この1時間の少人数指導での数学教師の構想

数学的な活動を重視し,反対意見を尊重し意欲を喚起する。
コンパスの可能性を拡張し,絞り込まれた条件(仮定)を手がかりとした解法の発見の仕方を身につける。
既習事項を生かし,統合し,関連を知る。分類・整理ができ,証明の足がかりができる。
課題は簡単。問題意識も生まれやすく(証明の根拠を探り当てる)流れや到達する地点も様々であるが,考えようとする雰囲気や持続して考える材料を豊富に提供できる。


4.組織図(指導構想案)

 この課題を示し,それぞれの観点から,何が期待できそうかを組織図だけで説明する。
その後は,それぞれの教材研究に応じ,事前に1分程度で見えたことを確認する。授業に臨み,修正を加える。組織図の下に簡単にメモを行い授業記録とする。

 いずれも負担にならない程度で実施していくことが長く続けることにつながり,指導方法の積み重ねにつなげられると考える。



この組織図を,次のような形式でノートを作りストックしている。


左ページ
課題
発展課題


右ページ
組織図
記録・修正



II.規律ある学校生活の確立

1. 生徒会学級委員会による『朝のあいさつ運動』
2. 生徒会による『規律ある学校を目指したアンケート』
1時間,2身の回りの整理/整頓,3あいさつや返事,4言葉遣い,5学習のきまり,6生活のきまりの6つの観点,18項目について,「よくできる,できる,あまりできない,できない」の4段階で全校生徒が自己評価した。結果を考察し,取組課題を明らかにし,次学期の重点項目を設定し,生徒の意識化を図った。
3. 道徳部会による『道徳性に関する意識調査』
23の内容項目に照らし,生徒及び保護者を対象に実施。生徒の現状を把握し,指導内容の重点化を図った。


【実践例2】読書活動の推進の取組

 本校は,平成16年度埼玉県教育委員会から「彩の国パイオニアスクール」の指定を受け,町内3小学校とともに「読書指導を中心とした基礎学力の向上を目指す取組」をテーマに研究に取り組んだ。

(1) 読書に関する意識調査
(2) アンケートからは,「読書が好きな生徒が多い」「長期休業中なども趣味として読書に親しんでいる」などの実態が明らかになった。
  本への親しみを高める工夫
 
1) 本の読み聞かせ活動
地域の学習ボランティアの支援により,朝の10分間読書の時間に実施。学級を3グループに分け,別々の教室で10数人ずつが,ボランティアの方の用意された絵本を聞く。生徒からは好評で,「本」のよさを再認識できたようだ。
2) 図書委員会による『読書マラソン』
期間内に図書室または学級文庫の本2000ページ以上読んだ生徒を評価し,PTAの協力を得て,成果をたたえる。
3) 読書指導をねらいとした道徳授業の実践
道徳部会を中心に指導案を作成。第3学年から,順次,全学級で実施した。
資料名「読書は楽しい自己教育運動」(岸本裕史著『見える学力,見えない学』より)


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