教育改革のとりくみ 目次
「生きた学力」〜基礎・基本の定着のための評価活動の工夫〜

久留米市立牟田山中学校
(平成15・16年度 学力向上フロンティア事業指定校)


このレポートは,1回目のレポート(「生きた学力〜基礎・基本の充実を支える3つの視点を通して〜:2004年3月公開)に続くものです。

1. 主題設定の理由

 (1)  本校の子どもの実態から

 本年7月に行った基礎学力把握のための実態調査によると,基礎的な計算能力や実生活に必要な数的概念が著しく低いことがわかった。特に1年生においては,基本的計算の誤答率でみると,「13 − 10.25」は誤答率 62 %,「1/2 + 1/3」は誤答率 46 %であり,「1500 円の30 %引き」は誤答率 46 %,「100 kmを時速50 kmで行くと,何時間かかるか」は誤答率21 %であった。

 そもそも学習意欲は,「分からないことが分かる」,「できないことができる」喜びにある。1日6時間の授業が全く分からないままでは,当然,意欲が高まるどころか毎時間が苦痛でしかないと予想される。そのような生徒は,次第に学校から外れ,反社会的な,また非社会的な問題行動を示すことが多い。このような事態に陥った生徒に,それぞれの教科で「生きた学力」を培っていくことは大変難しいことである。それをするためには,教科学習の中ではもちろん,それ以前に補充学習が絶対に必要であることを感じていた。

 そこで,一人一人の生徒が,何が分からなくて何を求めているのかを「形成的評価」活動を行うことによって明らかにすることが大切であると考えた。

2. 主題の意味

 本研究における「生きた学力」とは,次のように定義する。

        
 自他のよさを認め,さらに伸ばしていこうとする生徒集団を基盤とし,生徒が自ら進んで探究したり,表現したりしようとする意欲(やる気)の継続(根気)の結果,身につけることができた自信,知識や対応能力(判断力,表現力,行動力)

3. 副主題の意味,及び手立てや具体的な実践事項

 (1)  基礎・基本の定着のための評価活動の工夫とは…

 ○ 評価については,各単元において次の三段階の評価を位置づける。

診断的評価・・・基礎・基本を学習する前の段階で実施する。

形成的評価・・・学習する過程に於いて随時実施する。

総括的評価・・・単元の学習終了後に実施する。

診断的評価【目標と活用】単元を学習し始める段階で,授業目的と生徒ができることを確認するために行う評価。この評価の結果を双方のギャップを埋めるために活用する。
【方法】興味・関心・意欲に関するアンケート調査,事前テスト
形成的評価【目標と活用】教師が授業の効果と効率を高めるためにデータを収集する過程。その単元の学習目的を達成するために教師が選択した教材や活動が,実際に生徒に効果があるのかを確かめるために活用する。
【方法】 事前/事後テスト,つまずきを発見するための質問事項
授業や教材についての感想,授業や教材に関するアンケート
授業時間内での教師側の記録
総括的評価【目標と活用】単元の最終段階で行うまとめとしての評価。生徒が本単元で習得すべき内容を理解できているかを最終的に判断するために活用する。または,教師側が選択した教材や授業手段が最終的に適切であったかを判断するために活用する。
【方法】 事後テスト,教師側が生徒の習熟度を把握するための質問事項,生徒作品

 (2)  手立てや具体的実践事項

 1. 教科において

 基礎・基本の確実な定着を図るために,生徒一人一人に対して極め細やかな指導を行う。具体的には,各教科で少人数授業やティームティーチングなどの授業形態の工夫,発展コースと補充コースでの教材開発を推進する。授業展開としては,昨年度から引き続いて,活動主題(学習テーマ)を設定し,問題解決的な学習過程を取り入れる。その際,二次の「探究」段階か三次の「発展」段階で,補充的教材と発展的教材を取り入れた活動を設定し,個の興味・関心や習熟度に応じることにより,一人一人の子どもが,セルフイメージを高めることができるようにする。全教材で,補充的教材と発展的教材を取り入れた活動を設定することが不可能である場合は,年間指導計画立案時に設定可能な教材を明確にしておく。

 また,教師からの評価基準については指導案に明記することで,各段階で評価基準を意識しながら授業を展開する。生徒の評価では自己評価と相互評価を全授業で行う。

 さらに,本年度は先に述べた「形成的評価」の方法として,「単元シラバス」(学習計画表)を単元の導入段で生徒に示すことにした。内容とねらう効果は次のことである。

 1. 単元全体の学習内容や学習のめあてを示すことにより,学習者自身に見通しを持たせ,主体的に取り組む態度を養う。

 2. それぞれの時間の評価の観点を示すことにより,学習者自身に自己評価をさせるとともに,その時間の学習のねらいを明確に示す。

 3. それぞれの時間に学習した内容や「分かったこと」,「分からなかったこと」(課題)を記入させることによって,学習者の到達度を確認する形成的評価ができる。

 4. そのため,発展的学習や補充的学習など個に応じた学習活動を仕組むことができる。

 5. 各時間の学習内容の継承化ができるので,知識の定着と学習意欲の高揚が期待できる。


4. 研究の目標

    
 各教科における基礎・基本を明確にし,評価活動を効果的に取り入れた授業を継続的に実施することによって,生徒一人一人の確実な基礎・基本の定着を図るととともに,「生きた学力」を身につけた子どもの育成をめざす。

5.研究の仮説

    
 各教科において,1)評価活動を効果的に取り入れた授業を継続的に設定すれば,生徒一人一人が各教科の基礎・基本を着実に理解しようとし,2)自ら進んで探究したり,表現したりするようになるので,3)生きた学力を身につけることができるであろう。

 (1)  仮説の補足

 1)  「評価活動を効果的に取り入れた授業」とは,基礎的・基本的知識や活用を身につけることができるように,指導過程の中で,「診断的評価」「形成的評価」「総括的評価」を効果的に取り入れ,その評価の結果を教材の精選や指導課程の工夫のために活用し,生徒がやる気を持って,継続して取り組むことができるように設定した授業のことである。

 2)  「自ら進んで探究したり,表現したりする」とは,生徒がある課題について学習していく中で,自分自身で解決すべき課題を見つけ,その解決に向けて調べ方を模索したりする結果,その関連事項にまで興味の対象が広がる等,教師からの指導ではなく,生徒が自分の力で学習し,その成果を伝えようとする姿を示す。

 3)  「生きた学力を身につけることができる」とは,自他のよさを認め,さらに伸ばしていこうとする集団の中で培われた知識や活用(対応能力)

6. 具体的な取り組み

 【授業例】1年生英語
  Sunshine English Course 1: Program 9「カードをもらってうれしいな」


 本単元の第1次では,まず単元シラバスを配布し,目標の確認を行った。本単元では,最終的にALTにインタビューを行い,そのインタビュー結果をみんなに紹介する活動を行うために,第三者を紹介する文型を学習する必要があることを確認した。また,学習内容の継承化を図るために,学習した内容や理解できなかった点は授業ごとに単元シラバスに記入するよう指導した。

 (1)  第1次

 第1次の具体的な学習内容は,教科書を用いて新出文型と新出単語を学習することである。第1次から第2次へと移行する時点でシラバスを回収し,生徒が記入している項目をチェックする。
 第1次での生徒の学習目標である"新出文型の理解"については,「わからない」という記入が多い場合は,先に進むのではなく,さらに一時間を文法事項の確認に当てる。本実践の場合は,担当している5学級のなかで2学級が「どこで-sをつけたらいいのかわからない」という記入が多かったため,第1次の時間をもう1時間増やし,ドリルを使ったリピート学習を行った。

 (2)  第2次

 第2次では,三人称単数現在形のSの用法を理解し,場面に応じて   表現できるようにすることをめざし,「友達を紹介しよう」という場面設定で,相手を口頭で紹介する活動を行った。

 単元シラバスを配布しているため,生徒は本次ではどのような学習や活動を行うのか把握できた上で,授業に臨むことができている。授業では,実際に友達を紹介するためのモデルスピーチとして,3学年の生徒の友達紹介をビデオを通して聞く活動を行った。3学年の生徒は,授業を行う学級の生徒の兄弟姉妹を選出し,1学年の生徒にとっても親しみやすく,話題の提供になるよう配慮した。授業後,単元シラバスを回収し,生徒の記入内容をチェックしたところ,前回「わからない」と答えた生徒の中に「三人称単数現在形のSをつける場合とつけない場合の区別」がわかり始めた生徒がいることがわかった。

友達を紹介する場面 3年生の紹介ビデオを見る場面

 (3)  第3次

第3次では実際にALTにインタビューをし,その情報を基に友達にALTを紹介する活動を行った。

 ALTにインタビューする生徒
 前時までの活動の対象が友達からALTに移ったものの,インタビュー内容は似た内容を繰り返すことができるから,多くの生徒が積極的にALTにインタビューをし,その内容からALTを紹介する文章を考えることができていた。その後,単元のまとめとして,小テスの結果と単元シラバスの記入内容を習熟度別授業のクラス編成のデータとして活用した。発展コースは,ALTを紹介する文章を書く活動を行い,補充コースは学習プリントを使った文法事項の確認を行った。


<参考資料>

 平成15・16年度学力向上フロンティア指定校 久留米市立牟田山中学校

     [校 長 名]黒岩壽臣
[学校規模]生徒数:558名 ,16学級   教員数:29名
[住  所]福岡県久留米市南2丁目16番2号   (TEL) 0942−21−9448

フロンティアスクールとしての具体的な取り組み

 【教育実践の特色】

 (1)  確かな学力の育成

 1.基礎・基本の定着を目指した授業実践(単元シラバスの活用)
 2.教科論の充実(教科における「基礎・基本」からの分析)
 3.評価の観点を含めた単元計画及び評価補助簿の作成
 4.全教科・全学級での授業公開
 5.学習支援事業(放課後,土曜日の学生ボランティアによる学習会)の実施

 (2)  活用力の育成

 1.社会体験学習の推進
 2.ボランティア活動の推進
 3.総合的な学習の工夫
 4.小学校との連携推進
 5.地域の教育力の活用(牟田山L&Dサポートチームとの連携)

 (3)  「自信」を持った行動力の育成

 1.家庭と協力して進める家庭における学習習慣の形成
 2.表現力やコミュニケーション能力を高める場の設定
 3.総合的な学習の時間や選択,行事などの有効活用


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