教育改革のとりくみ 目次
生きた学力 〜基礎・基本の充実を支える3つの視点を通して〜

久留米市立牟田山中学校
(平成15・16年度 学力向上フロンティア事業指定校)


1.主題設定の理由

  
(1)  現代社会の要請から

 中教審答答申が示すように,現在は変化の激しい社会であり,一旦習得した知識も時代に応じてリフレッシュすることが求められている。また,将来の予測がなかなか明確にできない先行き不透明な社会にあって,その時々の状況を踏まえつつ,考えたり,判断したりする力が一層重要になっている。さらにマルチメディアなど,情報化が進展する中で,容易にかつ大量に入手できる知識や情報を使って,もっと価値ある新しいものを生み出す創造性が強く求められるようになっている。
 以上のことから,これからの生徒たちには,社会の変化に応じた柔軟な発想と諸問題を解決するための強い意志(チャレンジ精神)を伴った行動力が必要である。さらには,その行動力を支える知識や対応能力(判断力,表現力,行動力)を持つことが必要である。

(2)

 本校の子どもの実態から

 本研究における事前アンケートにおいて,4段階自己評価で答える設問(一部抜粋:下記参照)では,学年平均値で次のグラフのような結果が得られた。

 設問1:学習に対してがんばろうとする意欲や,やる気はありますか。

 設問2:一つのことを継続して行うことができますか。

 設問3:わからない人がいたら,積極的に教えたり,一緒に活動したりしていますか。


各設問に対する回答の学年平均値

 この結果から見ると,全体的に自己評価はかなり高く,お互いに協力や助け合いはできており,各自の意欲ややる気はあるものの,継続して取り組むことができていないことがわかる。
 また,本校の生徒たちは,行事や部活動,総合学習や授業の中で教師が設定した課題に取り組むときは,積極的に活動している。例えば,体育祭等の行事や情報リテラシーで行っているパソコンを活用する授業等では,大変熱心に取り組む姿が見られる。一方,それらの活動で培ったやる気や根気が,継続してその後の日常生活に活かされない場合がある。
 つまり,学級活動などの日常生活をはじめ,総合学習や選択を含む教科授業の中で,「自分にはこんなこともできたのか」「自分はこんなこともできるんだ」というような新しい自分を発見する場面が不十分なために,継続して自分に自信を持てない子どもが多いのではないかと考える。

2.主題の意味

 本研究における「生きた学力」を,次のように定義する

 自他のよさを認め,さらに伸ばしていこうとする生徒集団を基盤とし,生徒が自ら進んで探究したり,表現したりしようとする意欲(やる気)の継続(根気)の結果,身につけることができた自信知識対応能力(判断力,表現力,行動力)

3.副主題の意味,及び手立てや具体的な実践事項

  
(1)  「基礎・基本の充実を支える3つの視点を通して」とは…

1. 「やる気」の視点(生徒のやる気を引き出す教科授業の模索)

2. 「根気」の視点(知識・理解の定着を図る教科授業の模索)

3. 「思いやり」の視点(人権・同和学習の充実)

(2)

 基礎・基本の充実を支える3つの視点を通した学習活動の授業像

 具体的に次のような手立てが考えられる。

1.  「把握」段階(第一次)において
【課題設定活動】 やる気の視点から
  期待される生徒の反応:「わあ,すごい」
生徒の興味・関心の対象になり,生徒や所属集団にとって有意義である課題を生徒が設定できるように活動主題を設定し,導入を工夫する。
生徒が本単元で習得することが期待される基礎・基本を,目標やめあての形式で生徒に明確に伝える。

2.  「探究」段階(第二次)において
【探究活動】 根気・思いやりの視点から
  期待される生徒の反応:「えっ,どうして…」「あっ,そうか」
生徒がやる気を持ちかつ継続的に課題に取り組めるように,活動(授業)形態を工夫して,個人で調べる場面やペアやグループになって他者と協力する場面を設定する。また,形態はその課題に応じて流動的に変化させる。
根気・思いやりの視点から,生徒が意欲的に探究活動や表現活動に取り組み,かつ基礎・基本を確実に習得できるように,次の援助・指導の工夫が考えられる。
1) パソコンやプロジェクターなどの情報機器の活用。
2) 「把握」段階の子どもの興味・関心や習熟度に応じて,学級内でコース選択制や班活動を設定し,生徒が学習に取り組みやすい環境を整える。
3) 「把握」段階の生徒の興味・関心や習熟度に応じて,同じ教材を全員で取り組む場合と,学級内を補充的教材コースと発展的教材コースに分け,それぞれの定着を図る場合とを設定する。指導にあたっては,コースごとに複数の指導者が担当する。

3.  「発展」段階(第三次)において
【課題解決の段階】 やる気・根気・思いやりの視点から
  期待される生徒の反応:「よし,やってみよう」
発表や実践の場を設定し,生徒が「できた!」と達成感を持つことができるような何らかの評価を得ることができるようにする。
この「発展」段階で生徒が継続して課題に取り組むことができるようにするためには,二次の「探究」段階で,生徒はそれまでの学習活動や探究活動において,何らかの評価を受けておく必要がある。評価は,1)教師から,2)自己評価,3)生徒の相互評価 が考えられる。その評価を受けて,生徒の興味・関心や習熟度に応じて,学級内を定着コースとチャレンジコースに分けて,学習活動を設定する。一人の教師が対応する場合には,学習プリント等の教材の工夫が必要である。

(3)

 手立てや具体的実践事項

1.  教科において
 基礎・基本の確実な定着を図るために,生徒一人一人に対して極め細やかな指導を行う。
 具体的には,各教科で少人数授業やティームティーチングなどの授業形態の工夫,発展コースと補充コースでの教材開発を推進する。授業展開としては,昨年度から引き続いて,活動主題(学習テーマ)を設定し,問題解決的な学習過程を取り入れる。 その際,二次の「探究」段階か三次の「発展」段階で,補充的教材と発展的教材を取り入れた活動を設定し,個の興味・関心や習熟度に応じることにより,一人一人の子どもが達成感を味わい,セルフイメージを高めることができるようにする。
 全教材で,補充的教材と発展的教材を取り入れた活動を設定することが不可能である場合は,年間指導計画時に設定可能な教材を明確にしておく。
 また,教師からの評価基準については指導案に明記することで,各段階で評価基準を意識しながら授業を展開する。生徒の評価では自己評価と相互評価を全授業で行う。

2.  選択教科において
 本年度は定着タイムとチャレンジタイムを活用し,子どもに基礎的な内容と発展的な内容との着実な定着を図る。
 定着タイムは補充的教材を,チャレンジタイムは資格習得をめざした発展的教材を中心に授業を展開する。その他,芸術系教科の選択授業では,基本的に日々の授業の中では取り扱えないような発展的な学習内容を設定する。
 選択教科の評定は,現段階では学年末のみであるため,子どもが取り組んだ活動に対して達成感を持ちにくい状況にある。よって,各学習課題において,子どもが達成感を持ち,次の活動に向けての意欲を持てるような何らかの評価活動を行う必要がある。

3.  総合学習において
 生徒が個人の興味・関心に応じて活動主題(学習テーマ)を設定し,問題解決的な学習課程を行う。
 昨年度の反省として,どの学年も探究活動はよくできている。しかし,調べたことや考えたことをまとめ,発表し,他者の意見を聞いた上で,考えを再構築し,さらに実践へと繋げていく過程はまだ不十分である。
 よって,全学年の生徒が,課題を解決することで達成感を感じることができるような総合の指導課題を設定する必要がある。また,異学年間で報告会などを設定し,相互評価や情報交換ができる活動を設定する必要がある。

4.  道徳・学活において
 道徳や学活の時間では,生徒が考えを発表し合い,それぞれの価値基準について考えを深めることが大切である。
 道徳では,研究主題に合わせると,持続性,向上心〔1-(2)〕,人間愛〔2-(2)〕,友情の尊さ〔2-(3)〕が中心になると考えられる。(〔〕内は,学習指導要領「道徳」の該当内容項目番号)
 学活では,体育祭や文化発表会,進路指導など総合学習と関連指導できる教材が多々あると考えられる。

4.研究の目標

 各教科における基礎・基本を明確にし,3つの視点(やる気・根気・思いやり)からの授業を継続的に実施することによって,生徒一人一人の確実な基礎・基本の定着を図るととともに,「生きた学力」を身につけた子どもの育成をめざす。

●めざす子ども像

 夢と希望とアンビシャス(志)を持った生徒

○「やる気」…意欲的に学び,考え,行動する生徒

○「根気」…目標に向かって粘り強く努力する生徒

○「思いやり」…自他を大切にし,感謝の気持ちを持った心豊かな生徒

5.研究の仮説

 各教科において,1)3つの視点(やる気,根気,思いやり)を意識した授業を継続的に設定すれば,生徒一人ひとりが各教科の基礎・基本を着実に理解できるようになり,2)自ら進んで探究したり,表現したりするようになるので,3)生きた学力を身につけることができるであろう。

 (1)  仮説の補足

1)  「3つの視点(やる気,根気,思いやり)を意識した授業」とは,基礎的・基本的知識や対応能力を身につけることができるように,生徒のやる気を引き出すための教材の精選と指導課程の工夫をし,その課題に生徒が継続して(根気)取り組むことができる授業のことであり,また,自分だけではなく,友達の良さを認めることができるようになり,お互いにさらに伸びていこうとする人間関係を育む授業のことである。

2)  「自ら進んで探究したり,表現したりする」とは,生徒がある課題について学習していく中で,自分自身で解決すべき課題を見つけ,その解決に向けて調べ方を模索したりする結果,その関連事項にまで興味の対象が広がる等,教師からの指導ではなく,生徒が自分の力で学習していく姿を示す。

3)  「生きた学力を身につけることができる」とは,自他の良さを認め,さらに伸ばしていこうとする集団の中で培われた自信,知識や対応能力を身につけることができた生徒の姿を示す。

6.仮説検証の内容・方法

1) 3つの視点を意識した授業が,生徒が各教科の基礎・基本を着実に理解できるようになることに有効であったか。
学習のまとめとしての発表や記述内容(小テスト等を含む)の中に,各単元で学習した基礎的・基本的な内容が正しく表現された文章があるかどうかで判断する。
2) 3つの視点を意識した授業が,生徒が自ら進んで探究したり,表現したりするようになることに有効であったか。
実践の前と後の自己評価の項目の中での5段階自己評定尺度法での学級平均値,及び個の変容で判断する。
3) 年間を通して継続的に実施した3つの視点を意識した授業が,生徒が生きた学力を身につけることに有効であったか。
実践の前と後にセルフイメージについてのアンケート調査を行い,その内容の変容で判断する。アンケート項目は,
・自分の将来に対する希望(夢)
・自分の課題
・自分自身を語る表現力

7.研究構想図



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