教育改革のとりくみ 目次
よくわかる授業の創造に努め,生徒一人一人を生かす数学教育〜少人数学級によるティーム・ティーチングの指導を通して〜

一宮市立南部中学校 浅井 信晶

1.はじめに

 本校では,平成13年度4月より,少人数学級によるティーム・ティーチング(以降TT)の指導を行っている。平成13年度は,第1学年の数学の授業において実践してきた。平成14年度は,第1学年と第2学年の数学の授業において,週3時間のすべての時間で少人数学級によるTTの指導を実践している。1学級を2グループに分け,グループごとに個別の教室で1名の教師が指導するという形態で進めている(1つのグループは,通常の半分の人数である)。
 以前にもTTの指導を行ってきたが,1教室で2名の教師が分担して指導を行う形態で,2名の教師がいるものの,1名の教師の活動量を1としたとき,2名の教師がいても,活動量を2にすることができなかった。これに対して,少人数学級でのTTでは,それぞれの教師の活動量が1と考えられるので,2名の教師の活動量を2とすることができる。教師の活動量が増えることで,個々の生徒への支援場面も増え,一人一人に応じた指導がこれまでより行えるのではないかと思う。この指導法を取り入れることにより,よくわかる授業が行え,基礎・基本の定着も高まると考えた。
 以下,第1学年で実践してきた,少人数学級によるTTの指導について紹介する。

2.実施方法

  (1) 少人数学級の分け方
 学級の分け方については,次に示す等質型と目標別型の2つの分け方を実施している。

〈等質型〉
1クラスを等質の2グループに分け,TとTで1グループずつ担当して指導する。

[1学級40人]

20人


が担当

20人


が担当
〈目標別型〉
1クラスを目標別の2グループに分け,TとTで1グループずつ担当して指導する。

[1学級40人]

じっくり
理解コース

が担当

応用・発展
コース

が担当

 前者は,小テスト,定期テストを基にして,平均点・男女比・人数ができるだけ等質な2つのグループに分ける。後者は,小テスト・定期テスト・本人の希望を基にして,じっくり理解コース(基礎・基本の補充が必要な生徒)と応用・発展コース(深化・発展が期待できる生徒)に分け,人数は,じっくり理解コースは少く(10数名),応用・発展コースは多く(20数名)する。「基礎・基本の補充」と「深化・発展」という2つの違う目標のためのグループ分けということで,「目標別クラス」という呼び方をしている。

  (2)

 1年生7学級の指導分担
 本校の職員構成の都合もあり、1年の7学級の指導分担は、1年の担当の2名の教師が中心に進めていくが、3年担当の2名の教師にも1クラスずつ分担してもらい、4名の教師で担当した。aクラスは、それぞれの学級の教室、bクラスは、TT室(TT専用の教室)で、授業を行った。数学の時間が重ならないよう時間割を配慮した。a・bのクラスの担当は、単元ごとに交代した。


  (3)

 TとTの連携
1.単元指導計画
 1学級を2グループに分けて2名の教師が別々に指導するため,授業の進度,指導内容が大きくずれないように,単元指導計画を立てている。単元末の問題の前の段階で,評価テストを実施し,目標別グループの編制を行う。


2.1時間ごとの授業の打ち合わせ
 板書内容,ノートの整理の仕方,教科書の内容の扱い方,強調したい内容,練習問題の扱い方などについて,TとTで打ち合わせて授業を進めている。

3.「正の数・負の数」の単元の指導

   <第1時>
 オリエンテーション,等質型グループに分けるための計算テストを実施。

<第2時〜第12時>
 等質型グループの指導。座席は,教室の中央よりの4列を使い,授業を進めた。机間指導では,北側2列を前から後へチェックし,南側2列を後から前へチェックしたので,教師の動きにも無駄がなく,全員のノートを短時間にチェックできた。
 また,生徒が板書する場面や,生徒同士で教え合う場面など,生徒の活動時間を確保するようにした。


《1学期の中間テストを実施》
 中間テストの結果を基にして,等質型グループを再編制。

<第13時〜第19時>
 再編制した等質型グループで,少人数授業を実施。

<第20時>
目標別型グループの編制をするための評価テストを実施。
 基礎的な問題を中心として出題し,複雑な問題も1問出題した。基礎的な内容は,ある程度理解できていることがわかった。しかし,単元のまとめ前の段階でのテストでもあり,計算ミスや,基礎的な問題での理解が不十分な生徒もみられた。
 評価テストの結果を基にして,生徒の希望も取り入れ,目標別型のグループを編制。

<第21時〜第23時>
 評価テストで定着が不十分だった問題に重点を置いて,目標別型グループによる少人数授業を実施。
 「じっくり理解コース」は,教科書の内容の復習を目標にして,個別指導をしながら授業を進めた。「応用・発展コース」は,教科書の内容より複雑な問題に挑戦することを目標にして,練習プリントに自分のペースで取り組み,理解を深めさせるようにした。目標別型で1時間学習したあと,コースの変更を希望した生徒がいたので,コースを変更して取り組ませた。
 単元計画では,目標別型の授業は2時間の予定であったが,教科書の補充として準備した練習問題プリントの内容が多かったので,実際の授業では,教科書の単元末の問題も含め,3時間かかった。



4.少人数指導の成果と課題

  (1) アンケートの結果
 少人数学級の授業では,学習内容が,
「わかった」
「まあわかった」
と多くの生徒が答えている。

  (2)

 授業に対する生徒の声
1.等質型グループの授業について
一人一人見てもらえるからよかった。
少人数だと集中できる。
黒板の字が見やすい。
わからないところを個別に聞ける。
先生が全員に目を向けている。
発表する回数が多く,発表するとまちがってところがわかり,内容もわかりやすくなった。
指名されると思うと不安だった。

2.目標別型グループの授業について
自分の力に合わせて授業ができる。
難しい問題にも挑戦できた。
わからないところをすぐに聞けた。
自分のペースで進められた。
自分の苦手なところもできるようになった。
少し進むのが速くて,追いつけないときがあった。
プリントをやるだけだった。

  (3)

 指導者の立場から
2名の教師が,同じように授業を進めるために,事前の綿密な打ち合わせが必要である。
お互い生徒の人数が半数になったことで,机間指導の時間が半分になり,生徒のノートのチェックが容易にできる。
1時間の授業で,生徒に指名する場面も,1名について2回以上できる。授業の中での一人一人の生徒の活動の場を多くできる。
目標別グループの授業においては,発展的な問題にもどんどん挑戦でき,数学の得意な生徒は,積極的に取り組むことができた。苦手な生徒にとっても,わからなかった問題にじっくり取り組んだことで,理解できるようになる場面も見られた。
目標別型グループの指導において,「じっくり理解コース」は,数学が苦手な生徒が多くなる。そのとき,自分のペースでできることをよいと感じている生徒も多いが,劣等感を感じている生徒もいる。

  (4)

 今後の課題
 少人数学級によるTTの指導は,生徒にとって,授業を受けやすい形態である。学習内容の理解は,ある程度させることができたのではないか。しかし,基礎的な問題でも,定着が不十分な問題もあり,少人数学級の指導の中で,さらに基礎基本の定着をさせるための手立ての必要性を感じる。さらに,グループ分けの仕方や座席の配置の工夫など,少人数であることのメリットを最大限に生かすような指導の仕方を,研究改善していきたい。



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