身近な自然を探究し,教育機器を効果的に活用した選択理科の取り組み
−ダンゴムシの研究を通して−
宮崎県西米良村立西米良中学校
小林 博典
E-mail:hiro@mnet.or.jp
1.研究にあたって
 理科嫌い,理科離れが指摘される中,週1時間の選択理科の授業のあり方を今までいろいろと模索してきた。その結果,以下の3つの視点を念頭において年間計画を立て,生徒と共に研究を深めていくことを決めた。
 1)興味・関心を高める。
 2)直接経験を大切にする。
 3)研究内容の発信の機会を設定する。

2.研究の実際
(1) ダンゴムシの採集(1時間目)
 学校周辺でダンゴムシを採集しようと,シャーレ,スコップを手にして回ってみた。文献等では,枯れ葉の下や土の中にすむとあるが,実際には,なかなか見つけることはできなかった。時期的には初冬でもあり,「冬眠準備」,もしくは「暖かい場所への移動」ではないかと思い,暖かい場所(日当たりのよい場所の物陰)を探してみることにした。そこで,職員室横にあるプランターに注目し,プランターを移動させてみると,100cm区画に5〜20匹見つかった。

(2) ダンゴムシの観察と飼育(2時間目)
 ルーペなどで物をじっくり観察すると,意外な事実を発見することにもつながる場合がある。ダンゴムシの色の違い,歩くときに触覚が常に動いていることなど,さまざまな発見を生徒たちはしていた。そして,飼育に関して「えさは何か」ということになり,図書室の本で調べることにした。本校の図書室には蔵書数が実に多くあって十分に整備されている。しかし,目的のダンゴムシに関するものはほんのわずかであった。また,記述内容も教科書や資料集と大差なかった。とりあえず,枯れ葉を食すということだけはわかったので,飼育準備でこの時間を終えた。
(3) ダンゴムシの食性の追究(3時間目)
 前時の学習で調べたように,本当にダンゴムシは枯れ葉しか食べないのか,という疑問を生徒は投げかけた。そこで右図のような装置を作り,ある実験を行ってみた。まず,2組のシャーレにダンゴムシを同数ずつ入れる。さらに1つは緑色の葉,1つは枯れ葉を入れる。そして数日間観察をするというものである。結果の予想としては,枯れ葉の方は食すが,緑色の方は食さないだろうということであった。

(4) 実験結果の観察と考察(4時間目)
 予想通り,枯れ葉の方はよく食していた。ダンゴムシは何を食べているのかを知ることができた。さらに,ダンゴムシはたくさんのフンをしていた。初めて見るダンゴムシのフンであったので,生徒も驚いていた。

(5) 図書室での文献,インターネットによる検索(5時間目)
 さらにダンゴムシのことを深く知りたいという欲求が生徒から出てきた。文献では分類上の記載などしかなく,専門分野への追究ができなかったので,研究論文などを出している機関がないかインターネットで調べたところ,大学の研究室のホームページなどで多数見つけることができた。その情報量の豊富さに生徒はもちろんのこと,私自身も驚いた。水深400mに棲息するダンゴムシの仲間の画像やダンゴムシのレントゲン写真,ダンゴムシの脱皮の仕方等に関する記載など,たいへん専門的な内容ばかりであった。これらの内容等をマルチメディア・パソコンでまとめ,今回の観察結果を織り交ぜ,Power Point 97でまとめることにした。さらに,電子メールで面白い実験があることもわかり,次の時間に挑戦してみようということになった。
(6) ダンゴムシの迷路(6時間目)
 発泡スチロールで,左の図のような迷路を作成し,ダンゴムシを歩かせてみる。すると,一定の規則性があるということがわかった。それは,触覚の触れた方に曲がるという性質である。これは,ダンゴムシの生活場所が暗いところであることにも関連がある。つまり, 物伝いに歩き,暗いところへ潜り込もうという本能に起因するのである。この実験には生徒も大喜びであった。そして,実験結果をデジタルカメラとVTRに収録した。
(7) Power Point 97によるプレゼンテーション作成(7,8時間目)
 研究成果をPower Point 97でまとめていく。画像を張りつけて音声を入れ,楽しいプレゼンテーションができた。夢中になって取り組む生徒の姿に,マルチメディア・パソコンの利点を充分に感じることができただけでなく,今後の教科指導の手段として,ますます幅広い可能性があることを確信することができた。以下は生徒が作製したプレゼンテーションの一部である。
(8) 小・中合同学習発表会での研究発表
 学習発表会で,Panasonic製のシリウスという液晶ビジョンを使い,スクリーンにPowerPoint 97で作成した画面を投影して研究発表を行った。マウスをクリックすると音声が出て,文字や写真もあらゆるところから出てくるという特性を生かした楽しいプレゼンテーションであった。さらに,BGMをつけた実験風景のVTRにより,来場者の興味を引きつける発表会になった。取り組んだ生徒たちもやりがいを十分に感じたようであった。

3.おわりに
 今回は,身近な場所に棲息するダンゴムシを研究の材料として使った。ダンゴムシの脱皮の仕方をはじめ,触覚のはたらきなど,日常考えもしなかった事象の発見があった。また,研究の視点として挙げた3つの項目は,何とか達成できたと思う。これからも,研究材料を自分なりに模索し,生徒の主体性を高める授業を工夫していきたい。
 最後に,この1年間の理科及び選択理科における教育機器の利用についてであるが,下記のような反省点があげられた。

課題別研究において,生徒自身が内容をかみ砕き,自分自身の言葉,表現でまとめることができたか。情報の切り張りや文献を写すだけにとどまってはいなかったか。
生徒のコンピュータによる作品を賞賛し,評価する場の設定はできたか。
情報収集,情報発信における目的意識は明確であったか。
 アについては,指導をさらに徹底したい。なぜなら,生徒自身がコンピュータで作成したものであるにもかかわらず,詳しく解説・説明できないといった状況が生じたからである。たくさんの情報が氾濫していく中,価値ある情報,正しい情報を検索し,その中身を真に理解し,自分自身の知識として獲得するまでの過程そのものに重点を置く必要があると感じた。
 イについてであるが,学級内の研究発表会の設定を行うことはできた。しかし,他学年の生徒や他教科教師,あるいは地域への紹介などはできなかった。また,ホームページを利用した外部発信による他校との交流については来年度実践したい。
 ウについては,電子メールなどで相手と交流をする際,情報モラル,情報についての自己責任という点でさらに指導を重ねていく必要がある。本来,電子メールの利点は,情報をすばやく伝えられるという点にある。しかし,ただ闇雲に情報を収集,あるいは発信することは,危険性を伴うばかりか,本来の単元における目標を逸脱することにもなりかねない。何のためにその情報を探り,何のためにその情報を送るのかといった,目的意識を十分認識した利用がなされなくてはならないと考える。
 これらの反省を生かし,今後さらに効果的なコンピュータの活用についても研修を深めていきたいと思う。
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