授業実践記録

問題解決能力を高めるコケ植物の学習

札幌市立屯田北中学校
教諭 山田 浩之

1.はじめに

植物の学習は,身近な植物のつくりやはたらきについて理解し,身近な植物のなかまわけができるようになることをねらいとしている。よって胞子植物への学習を進めるにあたり,生徒がこれまで学んできた植物のつくりを元に主体的に活動しながら,コケ植物の特徴を見いだす学習を進めることとした。

2.身近にあるが,身近ではないシダ植物やコケ植物

私が受け持っている本校1学年は,レディネステストの結果や日常のワークシートから,理科が好きという生徒が学級の7割程度おり,小学校までの基礎的な知識や技能もよく身についている生徒が多い状況であることがわかっている。また,自ら課題や実験方法を考えようとする姿勢が高まってきたと感じている生徒や,他の学び手との交流を通して高めあうことが楽しいと感じている生徒も増えてきている。しかし,一方で小学校から観察してきた,アサガオやタンポポなどは身近なものとして花のつくりや種子についてもよく理解しているものの,学習指導要領に追加されたコケやシダのなかまは,校舎の周りや空き地など至るところに生えているのにもかかわらず,あまり観察したことがない,どんなつくりかよくわからない,身近な植物としてとらえられていないという結果が得られた。

校舎周辺にも簡単に見つけることができるのに生徒の目にはあまり留まらないこれらの植物の学習を進めるにあたり,身近な種子植物への学習を通して科学的に植物を見つめる目を養うとともに,胞子で増える植物に興味関心を持たせる。その結果,生徒がコケの特徴を感得することにつながると考え,研究を進めた。


千歳市の苔の洞門
(希少な苔が多数観察できる場所として知られている。)

本校校舎北側の防風林
(林内には多数のコケやシダのなかまを観察できる)

3.地域性を生かし,生徒の発想を高める教材

(1)教材を選ぶにあたって

地域性を生かすために,本校近隣に生えている植物であること,そしてそれらが本校付近に生えていることを示す映像を用意することを心がけることとした。これは映像と実物がリンクすることでより身近なものととらえることができるようにするためである。また,生徒がより考えやすい教材となるよう,コケ植物についてはできる限り朔が大きく,植物体そのものの構造がわかりやすいものを用意することとした。シダ植物も同様の観点で付近から採集できるものを選び,教材として用いた。

(2)ウマスギゴケ

5月に石狩市の湿原で採集し,それを増やしたものを生徒に与えた。大型のスギゴケのなかまであり,5〜20pまで成長する。朔も大きく植物の構造がわかりやすいのが特徴。自然のものが手に入りにくい状況でも園芸店などから容易に安価で入手できる。


石狩市マクンベツ湿原
(春先には多数のコケ植物を観察できる)


採集したウマスギゴケをマットで増やしたもの


野生のウマスギゴケの群落
(低地から高地の土上に群落を形成する)

4.生徒の問題解決能力を高める実践の工夫

(1)帰納的思考により生徒の調べたいという欲求を高める

導入でこの植物は何のなかまだろうか,と生徒にウマスギゴケを与えることとした。生徒はこれまでの種子植物の学習で学んでことから,なかまわけをしようとするが,これまで学んできた植物の特徴と異なっていること(根が発達していないなど)が判断でき,「これは何だろう?」という,生徒の素朴な疑問を生む結果につながる。また,コケを見たことがある生徒にとってコケは小さいものや密集して生えるものというイメージがあり,コケ植物の特徴を理解しやすいウマスギゴケの一株を見てもコケであるととらえにくい。このことから,導入の中で生徒の問いを喚起し,生徒のコケやシダへの関心を高め,特徴を調べる方法の発想につながると考えた。

(2)個の発想を高め,集団の思考力を高める

個の問いを明確にし,方法を喚起させることで個の思考力が高まっていく。そして個の思考をグループで討議することで,グループ内の思考力が高まるよう支援することとした。そのためにここでは班内の交流では,個で考えた調べる方法を班で具体化していくことを実施させた。班内の思考をより具体化し明確にするためにホワイトボードを活用し,思考の流れを整理するよう促した。

(3)これまでの学びを生かす場の設定

グループで実験方法を考える際,これまでの植物の学習の中で身に付けた方法から活用できるものを使って調べていくよう促していく。具体的には,葉脈や根がどうなっているのか,種子のようなもの(朔)の断面を観察する,赤い水を吸わせてみる,葉の断面を顕微鏡で観察するなど様々な方法を自ら出せるよう促していく。そのような方法を考えていく場を設定することはこれまでの学習の知識や技能の活用につながり,一層の知識や技能の習得につながっていく。


種子植物について学習したことをまとめていく様子

(4)他の学び手との還流を図る場の設定

生徒がグループごとに考えた実験方法はホワイトボードを通して内容がわかるようにしていること,もっとよく知りたいという欲求を高めていくことで自然発生的に交流が生まれていく。その結果,他班の取り組みも理解し,学級全体の課題解決につながっていくため,他の学び手との還流を通して生徒の問題解決能力が高まっていくことになると考えた。

5.授業展開

(1)目標

コケ植物の観察や実験を通し,種子植物との違いや共通点を見いだすことができる。

流れ 習得すべき基礎・基本 生徒の活動 教師のかかわり

つかむ
(10分)

交流する
(20分)

調べる
まとめる
(40分)

種子植物の特徴となかまわけの知識

  • 種子植物の特徴について振り返り,発表する。
    双子葉類,単子葉類,裸子植物 など

この植物は何のなかまだろう?

ウマスギゴケを一株受け取り,どの植物のなかまか考える。

  • これまで観察してきた植物の特徴と異なっていることに気付く。
  • 映像から,身近にコケ植物が生えていることに気付く。

【引き出す】

  • 前時で学習した種子植物の特徴について想起させる。

【コーディネートする】

  • ウマスギゴケを一株提示し,生徒の関心や発想を高める。
  • 渡した植物の名前について明らかにし,コケ植物の特徴を考えさせる。

考えを表現する力

意見を交流する力

調べた事を記録する力

他者からの情報を自らの学びに生かしていく力

調べた事を記録する力

学習課題:コケ植物と種子植物の共通点や違いは何だろうか。

  • 特徴について考え,これまで種子植物について調べた方法を基にコケ植物の特徴を調べる方法を考え,班で実験方法を考える。
    • 赤い水を吸わせてみたら…
    • 気孔や維管束を顕微鏡で観察してみたら…
    • 根や葉脈はどうなっているんだろうか?
    • 果実の中に種子はあるんだろうか?
  • 個の発想を大切にし,他の学び手の意見の良さを評価しあいながら交流できるように促す。

【個の思考を支援する】

  • 問題をうまく見出せない生徒・見通しを持てない生徒の支援を行う。
  • 班で考えた実験方法をホワイトボードにまとめ,他班からも実験の様子がわかるようにまとめる。
    • 植物全体で水を吸っているようだ。
    • 維管束や葉脈がない。
    • はっきりした根のつくりがない。
    • 種子みたいなものを開いたら粉が出てきた。

【班交流を支援する】

  • 根拠を持って具体的に実験方法を立案できるように支援する。
  • 交流時間を意識させる。
  • 必要な情報を他班から収集し,他班の取り組みと自班の取り組みからコケ植物の特徴についてまとめていく。
  • 全体でまとめを行う。

【学級交流を支援する】

  • 交流に際し,互いの良さを評価し合えるよう支援する。

課題解決の姿:コケ植物は種子植物と光合成をする植物であることが共通しているが,維管束がない,胞子で増える,根・茎・葉がはっきりと分かれていないという点で異なっている。

  • 本時の学びを振り返り,課題に対する結論,新たな疑問等についてワークシートに記入する。

【課題解決を支援する】

  • 思考の変容に気付かせ,個の発想の高まりを見取る。
  • 学習シートで種子植物とコケ植物の違いを理解することができたか,適切に実験方法を考えることができたか,みとる。

6.成果と課題

(1)成果

これまでの学習を通して,身近な植物を科学的に見つめることを繰り返してきた結果,知識や思考の深まりがはっきりとみとることができた点が最大の成果である。

本時で用いたウマスギゴケは朔が大きいため,中に入っている胞子の量も多く,胞子で増える植物であるという特徴をつかみやすいことも含め,教材として適切であったと考えている。またこれまでの学習をまとめるという目的でコケ植物を扱うことは生徒にとって価値があると判断することができる。

(2)課題

理科が苦手な生徒にとって過去の学習を振り返り実験方法を考えることや,目の前で観察していることと過去の学びを結びつけることは難しいものであった。班員の協力により取り組めていたものの,発送できない生徒を支援する方法をより具体的に考えていくことが本研究の課題といえる。

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