授業実践記録

ワークを利用した思考実験を取り入れる工夫について
東京都足立区立渕江中学校
教諭 寺島 孝武

1.はじめに

 生徒の理科に対する関心・意欲を引き出すためには,様々な実験を授業に取り入れることは欠かすことができない。しかしながら授業数には限界があり,また理科室を利用する場合,他学年との調整も必要であるため,教えるべき実験を教師が選択して行わなければならない。そこで,この3年間は工夫しながら実験数を増やすことと,生徒の知識の定着を図るためにワークの授業を積極的に取り入れることにした。ワークの問題には知識の整理,実験内容のまとめだけでなく,生徒が実験で得た知識を組み合わせて解くことができる思考実験の内容の問題が含まれる。そこで今回,実験回数を減らさずに,ワークの授業時数を増やす工夫を行った。


2.ワークの意義

 ワークを中心にする授業を行うと,どうしても知識の詰め込みというイメージが付きまとう。しかしながら次のようなメリットがあると考えることができる。

1 授業で教えている内容に洩れがあるかどうかをチェックすることができる
2 思考実験を繰り返しできる(体験で行った実験の知識を,他の実験に応用できるか試すことができる)
3 問題を正確に解くスピード速くなり,理解が深まる

 特に2の思考実験が繰り返しできることを今回大切にしたが,3のように理解が深まることで生徒は問題解決能力の「道具」である知識を手に入れ,その組み合わせを行うことで2の思考実験に自然と取り組むことができるようになる。知識がゼロの状態の生徒に「考えろ」と言っても,答えが出てこないことはこれまで多かったが,問題を解きながら知識の定着が図られた場合,経験したことのない実験にも挑戦できるようになると考えられる。


3.授業計画・授業の展開方法

 ワークのメリットはあるものの,授業時間には限りがあるため,授業への取り入れ方に工夫をする必要がある。そこで今回,効率よく授業を展開するために,全ての授業において自ら作成したプリントを利用した。授業プリントを毎回作成することで,板書をノートに書き写す時間を削減できるからである。また,プリントに効果的な課題を導入することで意欲的に生徒が自ら学ぶことのできるような工夫を行った。プリントは必ずワークの問題と関連のあるように工夫した。また,必ずプリントはファイルに綴じさせ,保管できるようにした。ワーク活用時に,プリントを利用した調べ学習をさせるためである。また,穴埋め方式の課題については,最初に「何ページにヒントがあるから5分で調べてみよう」などと生徒に課題を与えることで,「解説→穴埋め」の方式から「穴埋め→解説」という方式を取り入れるようにした。このようにすることで,生徒は予備知識を持った状態で説明を受けることができるようになり,より知識の定着を図ることができる。

図1:実験・プリント・ワークの組み合わせ
図1:実験・プリント・ワークの組み合わせ

 プリントと授業を活用した授業展開は,次のような流れで行った。まず,授業・実験の導入時に生徒が興味を持つ話題を提供するだけでなく,安全指導・実験操作の確認を行い,授業ルールの明確化を目指した。次に実験は,完全に理解できなくとも実験内容のイメージを生徒に定着することを最優先させて行った。もちろん,理解しながら授業を進めることに越したことはないが,生徒のあいまいな知識の部分については,ワークを行いながら整理することができるため100%の理解を求めるよりも,色の変化や臭いなど生徒にとっての「驚きと発見」があるように心がけた。実験終了後,必要な場合は次の時間で解説の授業を行うようにしたが,この時の実験結果・解説のまとめなども,全て準備したプリントに生徒が記入し,わからない点は教科書を調べるなどして記入させるようにした。

導入    
安全指導・実験操作の確認
(理科室の使い方などルールの明確化を目指す)
実験    
実験のイメージ化(ワークを解く時にイメージできることを目指す)
プリントの穴埋め・完成(頭の整理と知識の確認)
解説    
プリントの穴埋め・完成
(頭の整理と知識の確認)
ワーク1    
何も見ないで10分,プリントを見ながら10分で問題を解かせた後,ワークの解説。
   
ワーク2   ワーク1と同じ問題を,何も見ないで解かせることで「速く」「正確に」解けるようになることを実感。
図2:ワークを利用した授業の組み立て方法

 実験を行う上での注意点として,闇雲に教科書に載っていない実験を取り入れないように行った。どうしても最初は教科書に載っていない新しい実験を取り入れることで「より生徒は興味を持つだろう」と考えがちだったが,それよりも教科書通りの実験を行うことで得られる結果の方が,生徒は教科書と結果を比較しながら自然現象・法則を「発見」することができると考えたからである。

 実験・解説の授業でプリントの作成が終わった後,次の時間にてワークを利用した授業を行った。ワークは実験と同じ単元のページを,まず何も見ずに10分で解かせ,次の10分でプリントを見ながら解かせるというような手順で行った(図2:ワーク1)。このようにすることで,生徒は何を理解できていないのかを知ることができる。またプリントを見ながら問題を解く時間を与えることで,「プリントやノートに記録することの大切さ,記録の活用方法」を学ぶことができる。そして次の20分程度で解説を行うが,生徒は自分自身で問題を解いた後に解説を聞くため,ワークを利用せずに解説する授業の時よりも,より内容を理解しながら説明を聞くことができる。授業の最後は,必ず授業で解いた問題を5分程度でもう一度解きなおさせるようにした(図2:ワーク2)。このワーク2の作業を取り入れることで,生徒は同じ問題を繰り返すことの大切さを知り,またその行為によって「速く」「正確」に問題を解くことができるようになることを実感することができる。


4.利用したワークの特徴

 授業で利用したワークの選び方については次のような点に注意した。

1 見開きで1単元となる
2 授業で行った実験内容のまとめが必ず掲載されている
3 知識を整理するための問題が掲載されている
4 思考実験として活用できる問題が含まれている

 1の「見開きで1単元」というのは,ほとんどのワークで採用されていることだが,授業時間で解ける程度の問題数であることが大切である。また2の「授業で行った実験内容のまとめが必ず掲載されている」については,実験の整理ができるということからである。

実験内容や手順の写真など  

知識の整理・定着を図る問題

実験をまとめた内容の問題 思考実験となる問題
図3:採用するワークの理想的な掲載内容

 図3は,今回ワークを採用する上で,条件を満たしているものの基準を示している。もちろん,分野によっては常にこの形態をとりづらいものもあるが,このようなタイプのワークが,1時間の授業で行うには最適である。基本的にワークは授業内で行うものとし,自宅学習で利用するものとして扱わなかったため(宿題という方法は取っていない),問題数の量にも十分配慮して選択した。


5.結果と考察

 このワークとプリントを組み合わせた授業は平成18〜20年度の3年間で行われた。授業の回数については次の通りである。

表1:3年間の実験・観察・ワークの授業数
  実験・観察の授業数 ワークの授業数
1学年(平成18年度) 35 24
2学年(平成19年度) 25 28
3学年(平成20年度) 16 18

 実験・観察の授業数は生徒が主体的に行ったものを指し,演示実験は含めていない。これらの授業数以外の多くは講義形式であり,他には弱点補強・受験対策なども行っている。

 ワークの授業数は多かったが,生徒にアンケートを取ると理科の授業のわかりやすい点として「プリントが活用しやすい」「実験が多い」「説明が短いわりに頭に入る」「ワークの取り組み」などの意見を聞くことができた。また,平成17・18年度に行われた足立区の学力調査の過去問題を解かせたところ,過去のデータ以上の平均点を得ることができた。このことから,知識の定着に実験とワークの組み合わせが効果的であったことが考えられる。

 また,校内の生徒における授業評価において,「好きな授業」の順位は体育,美術に次いで3番目であったことから,ワークは理科離れの原因とならないことがわかる。そして「わかる授業」の順位は理科が全教科中トップという結果となったことからも,ワークとプリントを活用した授業が効果的であるということを示している。

 理科の授業を行っていると,実体験の実験・観察を増やさなければいけないと感じてしまうが,ワークの思考実験などを取り入れ活用することで,生徒はより主体的に授業に臨むようになることが今回わかった。また,問題を解く時間が多いことを,生徒は嫌がるのではないかと当初は感じていたが,実際はその逆で,やり方次第で頭の整理ができることと,思考実験を行うことで,今ある知識の組み合わせから何とか解くことができないか?と考える生徒が増えた。


6.まとめ

 ワーク・プリントを組み合わせた授業を展開することで,生徒の意欲を引き出すだけでなく,確かな力の定着を図ることができただけでなく,思考実験を活用することで実験回数を補うことができた。またプリントやノートに記録することの大切さ,記録の活用方法を伝えることができた。


7.今後の課題

 授業時間が来年度から増えるため,実験数を増やすことはもちろんだが,それと並行してワークの活用をより上手に計画する必要がある。また,ワークだけでは不足するグラフの作成を,分野にこだわらずに利用することで,さらなる科学的思考力の向上について考えていきたい。

 思考実験については,ワークに掲載されている問題だけでなく,オリジナルの問題を作成することで,教師が意図した結果を得やすい授業展開の方法を考えていきたい。


8.授業プリントの例

 最後に,参考までに授業で利用したプリントを紹介します。授業ではノートを一切使わず,全てプリントで行いました。プリントを利用すると,板書を写す時間を削減できるだけでなく,各クラスの授業の進みを揃えることができるというメリットもあります。

授業プリントの例 その1(PDF:82KB)

授業プリントの例 その2(PDF:103KB)

 今回プリントの作成方法として特に意識した点は次の通りです。

1 観点別評価を明確にする
2 ワークと連動できる内容を掲載する
3 教科書の図を上手に利用する
4 プリントのサイズをB5で揃える

 まず,1の「観点別評価を明確にする」ですが,生徒がどの穴埋めができると,どの評価がつくのかわかりやすくするためのものですが,それだけでなく何を努力すればよいのか明確にするという意味もあります。例えば知識の観点に関する課題の場合,各タイトルの横に【知識】などと記すようにしました。次に2の「ワークと連動できる内容を掲載する」というのは本文にも書いた通り,ワークの授業を効果的にするためのものです。そして3の「教科書の図を上手に利用する」というのは,視覚に訴える効果を狙ったものです。著作の問題があるため,今回紹介するプリントにはその例を掲載できませんが,教科書と同じ図があるだけで,生徒は教科書のどのページに着目すればよいのか迷わなくなるという効果があります。そのため,積極的にこの方法は取り入れました。最後に4の「プリントのサイズをB5で揃える」という点ですが,A4だと教科書に比べて大きいためファイルの持ち運びが不便であり,B4になると情報量が多すぎて生徒がどこに集中すればよいかわかりにくくなるため,教科書サイズであるB5が良いと判断しました。また,B5のサイズで作成した場合,1時間で行うのにちょうど良い量の内容となることも選択した理由になっています。

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