授業実践記録

地域教材を授業に生かすために 〜気象観測の取りくみ〜
長崎県東彼杵郡波佐見町立波佐見中学校
根津 正二郎

1.はじめに

 波佐見中学校は1976年(昭和51年)に波佐見東中学校と波佐見南中学校が統合してできた学校である。現在は1学年あたり5学級の普通学級15学級と知的障害・肢体不自由の特別支援学級の2学級の計17学級(生徒数556名)である。

 波佐見町は,長崎県で唯一海のない市町村である。気候的特徴は長崎県の近隣の地域に比べ,夏は特に暑く,冬も特に寒いのである。(今年度の観測では最高気温が39.6℃,最低気温が−3.6℃であった。ただし補正なし。理由は後述する。)

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 郡内の中学校の気象観測の歴史は古く,隣町の川棚中学校は生徒の手による気象観測が56年も続いており,過去には教科書に右図のデータをはじめ1ページまるごと使われたこともある。

 本校も統合前の波佐見東中学校時代の昭和27年2月から平成3年5月まで部活動の気象観測部の気象観測が続いていたが,気象庁の観測所として9時に観測をしなければならないということがあり,1校時の授業に支障があるということで保護者の理解が難しくなり,気象観測部は休部になってしまった。

 今年度,私は隣町の川棚中学校から本校に転勤してきて,1年生の担任と1年生全学級の理科,2・3年生選択理科を担当することになった。1学期間は,本校に慣れるために気づかないことが多かったのだが,1学期のある日,朽ち果てる寸前の百葉箱を目にしたのである。平成3年から誰も手を入れていないのだから仕方がないのだが,前任校で気象観測に携わっていた私には百葉箱が可哀想に見えた。

 そこで夏休みに完全に分解し,できるだけゴミがでないように工夫しながら,各部分を作り直していった。それでも腐った部分が多く,屋根は完全に新しい木材を使用している。学校の場合年度途中の購入は難しく,教員の個人負担になることが多い。幸いなことに,本校には用務員専用の教室2つ分のプレハブ倉庫があり,その中に修理用の資材があったため,新しい木材を購入することはなかった。

 夏休みのはじめからコツコツ作り直し,夏休みの終わり頃やっと上記写真のように完成した。屋根の木材が反っていたり,補強のあとがあったりと写真からでも手作りであることは分かると思う。百葉箱の改修中分かったことだが,百葉箱は年に1回は塗装をしないと長持ちしないのである。(ぜひ年に1回は塗装してください)特に今回は時間的金銭的制約があったので,塗装できていない部分がある。来年度予算が確定したら,しっかり塗装するつもりである。

 最初は百葉箱を修理するだけで終わるつもりだったのだが,何となく愛着がわき,気象観測をゼロからはじめることにした。


2.気象観測部の再活動に向けて

 入れ物を作ったら,中身が欲しいのが人情である。最初百葉箱に入っていたのは,乾湿計だけであった。理科室をはじめ(本校は3つの理科室と,2つの準備室がある)校内のあちこちに散らばっている気象観測機材を探すことになった。その結果,観測に必要なものはすべて揃うことが分かった。しかも前任校の機材よりも贅沢なものが揃っていたのだが・・・。

(1) 百葉箱およびその周辺

1 温度計

 左が乾湿計で,もともとこの中にあったものである。右上が最高温度計,右下が最低温度計である。3つともその時刻での気温がわかるのだが,すべてちがう気温を示している。どれが正しいのかを今後確定する必要がある。または補正できるようにしなければならない。

 手前に見えるのは観測帳とメスシリンダーである。(雨量マスを見つからず,買う予算はなかったので,理科室のメスシリンダーを使用することにした。)


2 雨量計

 発見したときはバケツも本体ももつぶされた状態であった。どちらも金槌でていねいに元に戻した。しかしバケツの方は水漏れをおこしていたので,お風呂用のパテで水漏れしないようにした。

 ろうとの部分はなかったので,自作した。直径は20cmにきちんと合わせている。



(2) 観測ロッカー
 本校には百葉箱のほかに,写真のような観測ロッカーがあり,中にはアネロイド気圧計,自記気圧計,風向風力計,自記風向風力計,自記雨量計が入っている。

1 アネロイド気圧計

 校内には4つのアネロイド気圧計があったが,まともなものは上の写真のものだけであった。前任校に行って水銀気圧計であわせてきたのだが,写真のように少し高めの値を示しているような気がする。


2 自記気圧計

 右写真の右上である。ほこりをかぶって理科室にあった。電池を入れると,正確に回転するので,ロッカーに移動した。


3 風向風力計

 右写真の右下である。前任校は平均風速を出すのに10分間かかっていたが,これは2分間で平均風速がわかるようになっている。このデータを元に,表を使って風力を出す。


4 自記風向風力計

 右写真の左下。長年使っていないために,ペンの中のインクが固まっていたり,電池ボックスが腐食していたりしたが,工夫して使えるようになったが,インクを購入できないために現在別のインクを使用して稼働させているが,うまくインクが出てこないので,悪戦苦闘中。これがうまく作動すれば台風時の瞬間最大風速も計測可能となる。(最大70m/秒まで計測可能)


5 自記雨量計

 右上写真の左奥にかすかに見える。これを稼働させるためには,時計用の乾電池の他に平五の乾電池(3V)が必要であるために,現在は使用していない。


(3) 気象観測部の再活動

1 気象観測部員の募集

 8月の職員会議において,気象観測部の再活動が認められた。9月から気象観測部員の募集を行ったが,体育大会の取り組みがあったためか部員の申し込みがなかった。私自身も部活動や2学期の行事に追われ,なかなか放課後の時間がとれず,部員の募集が満足にできず時が過ぎていった。


2 気象観測の開始

 結果を残さなくては,いくら募集をしても申し込みがないので,2年生選択理科の生徒に協力をしてもらい,12月から観測を始めた。右の写真は,職員室前廊下にある気象観測用黒板にその結果をまとめたものである。赤点がその日の最高気温,黄点が観測時の気温,青点がその日の最低気温である。また雲量,天気,風向,風力,降水量を書くことができるようになっている。黒板の右側のほうにはその日の雲量,天気,観測時の気温,前日の最高気温,最低気温,湿度,風速,風力,風向を書くことができるようになっている。


3 気象観測の今後

 2年生選択理科の生徒の協力のおかげで,なんとか観測がスタートしたので,3学期は気象観測部員の再募集を行うために,まず12月・1月の結果を通信にして発行をする予定にしている。そして,気象観測部復活1号の生徒の申し込みを期待したい。


3.気象観測の授業への生かしかた(今後の実践)

(1) 雨量を測定してみよう(教科書2分野下p8)

 教科書では雨量計をつくって測定する記述になっている。本校では雨量計を見せて,毎日の観測によって地域の雨量を知るようにしたい。


(2) どのように風は吹くか(教科書2分野下p14)

 教科書では風向・風力の記号を学ぶようになっている。本校では教室棟の屋上に風向・風力計が設置してあるので,風向については実物を見せながらの説明ができる。また風力においては風力計の数値を実際に見せ,実際の風を感じながらの説明ができる。


(3) 大気のようすを調べてみよう(教科書2分野下p18〜20)

観測1 気象観測をしてみよう

 教室で観測について十分説明をした後に,班もしくは個人でオリエンテーリング形式で実施したら,楽しく観測できるのではないかと考えている。

1 気温と湿度の測定(百葉箱)
2 雲の観測(百葉箱付近)
3 気圧の測定(観測ロッカー)
4 風向・風力の測定(観測ロッカーおよび簡易風向風速計を持たせる)

 以上の14のいずれかをスタート地点に指定することにより,混雑を防ぐことができる。

 長期的には職員室前廊下の気象観測黒板のデータを自分の記録用紙に記録していくことにより,地域の気象を知ることができる。啓林館中学校理科教科書のp20気圧・気温・湿度のデータについては後述するデジタル・ハンディ・データロガーのデータを各個人に提供することにより,気圧・気温・湿度の関係を考察することができる。(教科書2分野下p26の「考えてみよう!」にもつながっていく)

 以上のように,本校が行っている気象観測の取り組みは,気象観測に興味のある生徒ばかりだけでなく,授業の構成要素として,重要であることがわかる。


4.今後の取り組みと課題

1 気象観測部員の確保

 1年生が入学してきたときが最大のチャンスなので,この時期を逃すことなく,取り組みをアピールし,部員の確保に努めたい。この部員の確保が最大の取り組みであると同時に課題である。他の部との兼部も可能なので,この特長を大いに生かしたい。

 今は2年生選択理科の生徒に協力をしてもらっているので,土日の観測ができないことがある。部員を確保することにより,毎日の観測が可能になる。

2 気象観測機器の充実

 来年度の備品の予算要求の中でアネロイド気圧計とデジタル・ハンディ・データロガー(気温・湿度・気圧を自動測定する機器。パソコンつないで,データを取り出すことができるので自記記録計の代わりに使用する。)を,消耗品費の中からルサフォード最高温度計と平五の乾電池を購入する予定である。以降時間をかけて随時機器を新しいものに変えていくようにしたい。もちろん修理できるものは修理していかなければならない。教育予算が減少し,限られた中で最大限の努力を払いたい。

3 目に見える取り組み

 毎日の取り組みの中では,職員室前廊下にある黒板に必ず記入するようにする。(現在は私が行っている。)そしてお昼の放送時に今日の気象情報を発表してもらうようにすることである。毎月の取り組みの中では,パソコンの表計算を利用して,データを加工し,通信を発行することである。目に見える取り組みを行うことで,部員増も期待できるからである。

4 授業への活用

 3のところで述べたように,気象観測の取り組みは授業に大いに役に立つ。気象観測機器の維持やデータの蓄積は,これからの理科教育に必要である。また地域を直接観測することにより,理科教育の課題である理科嫌いをなくすことにつながると期待できる。本校の場合,先輩教師が努力して高価な機器が設置してあるので,これを最大限活用できるように新たな伝統を作りあげたい。

 また温暖化問題のところでも,毎日の観測のデータは活用できる。


5.さいごに

 実際は、授業実践まで取り組みがいっていないので,今回は教育実践の内容になってしまった。来年度順調にいけば2年生担当になるはずなので,今回の取り組みが十分に生かせるように準備をしていきたい。

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