授業実践記録

生徒が主体的に実験に取り組む授業 〜電流分野における個別実験の工夫〜
東京都足立区立谷中中学校
遠藤 映悟

1.はじめに

 電流分野では,電流計・電圧計を回路に正しくつなぎ,数値を正しく読み取ることが求められる。しかし,多くの場合実験器具の数の関係で,できる生徒が中心に行って他の生徒は傍観者になってしまい,自ら進んで実験に取り組めなかったり,実際に行ってもうまく回路を組めないことがある。そのため,今回は電流計と電圧計のつなぎ方を中心に,全ての生徒が同じ条件で実験に主体的に取り組むことができる個別実験の工夫を紹介する。


2.個別実験を行うための工夫

(1) 個別実験を行うためには実験器具を多く用意する必要がある。しかし,電流計・電圧計を回路に正しくつなぐための指導では本物の電流計・電圧計ではなく安価に作成できる紙の電流計・電圧計を生徒の人数分用意すればよい。また,コード類も長めのものではなく,短いコードを用意すると生徒にとってわかりやすい(写真下参照)
 
紙の電流計・電圧計
 
短いコード
(2) これら紙の電流計・電圧計と短いコードの他に電源装置の代わりに電池と電池ボックス,及び抵抗(これも人数分ない場合は紙の抵抗で代用することも可能である。)を生徒全員分用意する。
  ☆一人あたりに用意する数
紙の電流計・電圧計(各1)   電池及び電池ボックス(各1)
抵抗(または紙の代用品)(1)   コード(赤4本,黒4本)
(3) 生徒に正解を黒板で説明するため黒板には大きめのものを用意する。やはり紙で製作し,裏にシート型磁石を両面テープで貼り付ける。(写真下参照)
 
コード類
 
電池類

【1】授業の展開例

1電流計のつなぎ方を学習する。
演示モデルによる説明を聞く。
演示モデルの粒の流れについて考える。
演示モデルの粒の流れから実際の電流を類推し,回路に対して電流計をどのようにつなげばよいか考えさせる。
回路を作り,紙製の電流計を一人一人つないでみる。
電流計のつなぎ方の説明を聞く。
電流は1点で計るため回路の途中,すなわち回路に直列につなぐ事を確認する

2電圧計のつなぎ方を学習する。
演示モデルによる説明を聞く。
電圧の大きさをどのように計れば良いかを演示モデルを用いて考えさせる。
実際に回路をつくり紙製電圧計を一人一人につないでみる。
電圧は2点間で計るため,回路の計りたい部分に並列につなぐことを確認する。

3電流計と電圧計を同時につなぐ学習をする。
紙の電流計・電圧計と抵抗,電池,リード線を用いて実際に回路をつないでみる。
この際,電流計は回路に直列に,電圧計は回路に並列につなぐことを再確認する。
生徒一人一人ができたかはワークシートで確認すると良い。

(指導案 例)
  学習活動 教師の支援 留意事項
導入
本時のねらいを知る。
電流,電圧について再確認する。
電流計(実物)を提示する。
電圧計(実物)を提示する。
ピクチャーカードを活用する。
ピクチャーカードは黒板に貼ったままにする。
展開
電流計のつなぎ方を学習する。
演示モデルによる説明を聞く。
モデルの粒の流れについて考える。
モデルから実際の電流を類推し,回路に対して電流計をどのようにつなげばよいか考え,回路を作り,紙製の電流計を一人一人つないでみる。
電流計のつなぎ方の説明を聞く。
粒の多少を知るために粒を数えることに気づかせる。
どこで数えるかを考えさせる。
電流計は流れる粒を数える器具であることを説明する。
机間指導し正しくつなげているか確認する。
演示モデルを使い電流計のつなぎ方を確認する。
電流を粒の流れとしてイメージさせ,粒の数を数えることが電流の大きさを測ることだとイメージさせる。
電流を測る電流計はモデルの粒を数える器具ととらえさせ,1点で測ることを強調する。
 
電圧計のつなぎ方を学習する。
演示モデルによる説明を聞く。
電圧の大きさをどのように計れば良いかを演示モデルを用いて考えさせる。
   
高さが高いと粒の流れはどうなるか。
粒が速く流れるとはどういうことか。
電圧は演示モデルの机からの高さであることをイメージさせ,高さを測れば電圧を測ることになることを確認させる。
モデルの机からの高さが電圧であることをイメージさせ,高さを測ることが電圧を測ることだとイメージさせる。
高さは2点間で測ることを強調する。
 
実際に回路をつくり紙製電圧計を一人一人につないでみる
机間巡視し正しくつなげているか確認する。
 
 
電流計と電圧計を同時につなぐ学習をする。
 
紙の電流計・電圧計と小型モデル,電池,リード線を用いて実際に回路をつないでみる。
   
   
   
机間指導し正しくつなげているか確認する。
器具は一人ひとつ準備する。
リード線・電池・紙の抵抗で回路を作ってから電流計
電圧計をつなぐように指示する。
まとめ
電流計・電圧計のつなぎ方について説明を聞く。
電流計は回路に直列に,電圧計は回路の計りたい部分(今回は)抵抗に並列につなぐことを説明する。
正しく評価しているか机間指導する。
次回パフォーマンステストを行うことを予告する。
片付け指示。

【2】生徒に電流の流れを説明するための演示モデル。

 90pのアクリルパイプを用意し中に鉄球を10個程度入れ,両側をゴム栓で止める。これを傾けることで鉄球がころがる。この流れを電流とみなす。数を数えるのは一点を見るすなわち一点で測る。電圧は傾きと考えさせ,高さとすることで二点間すなわち並列につなぐことを確認できる。
(右の写真参照)


3.評価のポイント(ワークシートを活用)

電流を「粒の流れ」とイメージできたか。
電流は1点で測ることがイメージできたか。
電流計を正しくつなぐことができたか。
電圧を「電気を流そうとするはたらき(今回は高さ)」とイメージできたか。
電圧は2点間で測ることがイメージできたか。
電圧計を正しくつなぐことができたか。
電流計と電圧計を同時に正しくつなぐことができたか。

◆気をつけたい点
  (1) モデルの扱い
   今回は,あくまで電流計・電圧計を正しくつなぐことを主眼としており,理解するための一助として電流と電圧のイメージ化を行った。そのために「電流を理解する演示モデル」を使用したが,モデルはあくまでモデルであることを把握していること。(電流・電圧を正しく表したものではないこと。)
  (2) 紙の電流計・電圧計
   紙の電流計・電圧計は,−端子の選択や,メーターの読み取り等,本物でないと理解しにくい,あるいは理解できない部分があること。(この授業のあとに本物を使った授業,あるいはパフォーマンステストを必ず行う必要がある。)
  (3) ワークシートを活用する
   評価を短時間で行うためには,評価のポイントをワークシートで確認すると良い。
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