授業実践記録

理科学習を活かした健康教育の授業づくり
八代市立第七中学校理科教諭
【実践内容】
朝ごはんを食べないとどうして元気が出ないのかな?
   
おやつを科学する
   
あなたのお口の中は何性?


1.はじめに

 携帯電話や夜遅くまで街中で出歩いている若者たちの生活の様子は,児童・生徒を持つ親の生活の実態とも合い重なり,生徒たちの食事や睡眠の生活リズムを中心とした生活習慣の乱れは,大きな社会的課題となってきている。また,就学前や小学校で積極的に取り組んできているむし歯なども含めた生活習慣病などについては,中学校ではなかなか指導する機会が持ちにくいのが現状である。保健体育に生活習慣は授業で実施されているが,日々の生活を見つめるためにも,中学校で学級活動における生活習慣に関する授業はとても大切であると考える。

 そこで,自分の生活を分析し,課題を見つけ,健康的な生活を送るために必要なことは何かといったことを学習していくことについて,理科の視点つまり,科学的なものの考え方や理科の知識をうまく活用すること,つまり,横断的な活用によって,より健康的な生活を送るための実践力を育てることができるのではないかと考えた。なかでも,朝食を食べることの大切さと熱エネルギー(熱量)の関係,むし歯を作らないための歯磨きの意識づくりについて理科関連で授業づくりを行ってみた。


2.実践内容

(1) 「朝ごはんを食べないとどうして頑張る力が出ないのかな?」

 朝ごはんを食べてこない児童・生徒が全国平均2割いるという実態の中で,家庭では「親自身が食べないから作らない。作ってもどうせ食べないので,作らなくなった」といった家庭もだんだん増加している。

 また,食物を食べて生きるということは,食物によって,体を作ること以外に,体温という熱を発生させたり,体を動かしたりするためのエネルギーを得たりすることである。それゆえ,毎日の生活ではきちんと3食摂ることの大切さ,栄養のバランス,適度な運動を正しく理解し,実際に実践できるようになる必要がある。実際に実験をして,体験を通して得られた情報をこれからの生活に活かすために,生活習慣の見直しや,不健康な食生活の様子を知ることで,より深い食生活の理解を図ることをねらいとしている。

ア 本時の目標
(ア) 朝ごはんは,1日を過ごすためのエネルギー源としてとても大切であることを知る。
  (イ) 自分の食習慣をふり返り,課題を見つけ,望ましい生活習慣にするために生活の目標を考える。


イ 本時の展開
過程 学習活動 指導上の留意点・支援 学習形態 評価 備考
導入
5分
自分たちの毎日の食生活を振り返ろう。
アンケート調査を基に,自分たちの課題を見つける。
一斉 能動
積極的に考えようとしているか。
(観察)
一覧表
展開
5分
栄養素の主な分類とはたらきについて確認する。予想される生徒の反応
三大栄養素は簡単にあげられる。
小学校で学習した程度でよい。
     
 
朝ご飯を食べてこないと
パワーが出ないのはなぜかな?
      食物図
5分
  ピーナッツを食べて,体のパワーアップを感じる。
ピーナッツを食べてもなにも感じない。
  個別 能動
栄養素の名前とはたらきを理解してる。
(観察)
 
20分
ピーナッツのエネルギーを実験で確認する。
        実験
ピーナッツ
試験管
マッチ
バーナー
 
「熱やエネルギー」のもとって何だろう
ピーナッツを用いて調べてみよう。

班別

能動
 
 
予想される生徒の反応
20p3の水はぬるくなるぐらいかもしれない。
自分の予想を立てる。
ピーナッツ1個の燃焼で20p3の水が沸騰することに気づかせる。
   
自分なりに予想を立てて調べようとする。
(観察)

食後の体温変化の様子のスライド
 
炭水化物や脂肪を摂りすぎるとどうなるの?
一斉 徹底  
5分
生活習慣病について知る。
脂肪の摂りすぎの症例を写真で見る。
どうしたらこのようにならないか考える。
余分な糖分や脂肪は体の中に脂肪としてたまり,脂肪肝や血栓の原因になっていくことをおさえる。
     
脂肪肝血栓の写真等
まとめ
10分
自分の生活目標を立てる。
自分は朝食をきちんと摂っているか省みる。
望ましい食生活について自分の生活目標を立てる。
自分の課題と照らし合わせる。
生活ノート「開拓魂」に来週の自分の生活の目標を立てる。
一斉 能動
自分の生活を顧みて,課題を見つけ,改善策を考える。
(記録)
学活の
記録
生活ノート

ウ 成果と課題

 家庭科で学習した栄養素の学習との関連で,学習意欲も高まり,ピーナッツ1個に水を沸騰させるほどのエネルギーがあることを知り,生徒たちも驚いていたのが印象的であった。食品の持つエネルギーの大きさと,だからこそ1日の活力の源としての朝食をきちんと摂ることの大切さを実感することができたと思われる。また,そのエネルギーをとり過ぎると生活習慣病をまねきやすい事を知り,脂肪肝の映像や脂肪細胞の顕微鏡写真を見ることで,自分の生活を見直そうとする意識を持たせるには効果的であった。


(2) 糖を科学する

 生徒のよく食べるおやつを用い,それらに含まれる炭水化物の量を角砂糖に置き換え,目に見える形にして,量の多さを実感させたい。また,目の前のおやつの熱量が燃焼されなかったときに,どのような生活習慣病をもたらすかを示し,その予防対策として,おやつの量に気を配ったり,おやつを選ぶ際にエネルギー表示を確認したりするような実践力・自己管理能力を育てたい。さらに「甘いもの」と「熱量」は一致しないことや糖質のとりすぎだけでなく,運動不足になることなども生活習慣病になる要因であることを理解させたい。これらの学習から,上手におやつを選んで食べたり,量を減らす事で健康な生活の実践ができるように指導していきたい。

ア 本時の目標
(ア) 普段食べているおやつに含まれる熱量の量を知り,生活習慣病などを予防するための知識を身に付ける。
(イ) おやつ等に含まれる熱量に関心を持ち,自分の食習慣を見直し,自己管理しようとする態度を身につける。


イ 本時の展開
過程 学習活動 指導上の留意点・支援 学習形態 評価 備考
導入
5分
自分たちのおやつの摂取状況を知る。
アンケート結果をもとに,自分たちの食習慣に関心を持たせる。
一斉 徹底  
20分
このおやつの中に,角砂糖の何個分の熱量が含まれているのかな?
班別 能動  
 
おやつに含まれる熱量を予想してみる。
生徒が普段食べているおやつを数種類用意する。
 
班毎に予想させる。
  能動
ア(観察)
・支援
班別に協力して行うように声をかける。必要に応じて机間指導を行う。
おやつ
角砂糖
 
それぞれの食品の正解を知る
  一斉      
 
それぞれの角砂糖の量を100ccの水に溶かし,甘さを確認する。
甘さと熱量の関係を確認する
生徒の予想と実際のずれ
 生徒はチョコレートなどの甘いものが熱量は多いと思っているが,実際には,甘さよりもでんぷん系のお菓子が実際には糖に変化し,熱量が大きいことに気がつかせる。
  徹底
イ(記録)
・支援
机間指導を行い,必要に応じてアドバイスを行う。
20分
望ましいおやつのとり方を考えてみよう。
     

ワーク
シート
 
熱量を摂り過ぎると生活習慣病をまねきやすい事を知る。
熱量のとり過ぎは生活習慣病の要因の一つであることを再確認する。
     
 
とり過ぎた熱量はどうしたらいいか考える。
予想される生徒の反応
○運動すればいい。

自分のおやつのとり方を振り返えり,望ましいとり方を考える。
おやつの摂取量を減らしたり,取捨選択したりして,自己のおやつ選択について考える。
お互いに見比べて,アドバイスしてみる。
運動だけで消費させるのは限界がある事を押さえる。
(運動に話が進んだ場合は,運動の種類と時間と消費エネルギーの関係を体験させる)
   
おやつの種類によってカロリーが違うことを押さえる。
   
現代社会は摂取過剰になりやすいことを踏まえ,適度な運動の重要性にもふれる
      資料
運動量と消費エネルギー量
まとめ
5分
望ましい食生活について自分の生活目標を立てる。
自分の食生活と照らし合わせる。
一斉 徹底   ワーク
シート

ウ 成果と課題

 ここでは,生徒たちの概念崩しから始まった。「甘いものは太りやすい」と思っている生徒がかなり多かったが,うす塩味のせんべいなどはデンプンでできており,食品ごとの熱量を知ったとき生徒たちは大変驚いていた。

 中学2,3年生で実施した場合は,デンプンがブドウ糖に変わることを知っているので,理解が速い。1年生で実施する場合は,1分野の物質の性質で砂糖や片栗粉(小麦粉)を熱して燃える実験を実施した後が効果的であった。


(3) あなたのお口の中は何性?

 「食後は歯磨きをしなければならない」ことを頭では理解していても,「おやつや夜食」の後ではなかなか実行につなげられないことから,生徒達には「おやつ・夜食」も食事の一部であることを認識させたい。また,中学校ではなかなか実施できていない歯の健康づくりの取り組みや給食後の歯磨き実践につながるような授業づくりに取り組んだ。

 この題材では,口腔や歯の衛生を通して健康に生活するためのむし歯の予防について学習する。歯の健康づくりをすることは,現在の健康づくりだけでなく,生涯にわたる健康づくりの基礎となる歯を大切に管理すること,また,高齢者になっても自分の歯で生活ができるようになるための知識を身につけることである。そのため,最終的には,歯の衛生についての目標を生徒自身で立てさせることによって,恒常的な実践へとつなげていきたい。ここでは,BTB液の酸性・中性・アルカリ性の指示色の呈色や酸性の液に歯が溶けることなどが理科との関連である。

ア 本時の目標
(ア) 自分の口腔内の実態を知り,歯磨きを習慣づけるための対策を立てることができる。
(イ) 高齢者の生き甲斐の話,8020運動の話を通じて,歯の大切な役割に気付き,歯を通した健康づくりの大切さを理解することができる。


イ 本時の展開
(まず朝,学校に来たら綿棒で歯をこすり,フィルムケースの中の寒天培地に綿棒を刺しておく)
(30分後に授業)
過程 学習活動 指導上の留意点・支援 学習形態 評価 備考
導入
5分
高齢者の生き甲斐と,歯との関係を知る。
(クイズ)
班で活動し,始めに歯に対しての興味・関心を高めさせる。
班別 徹底   クイズ
展開
あなたの口の中は本当にきれいかな?
     
15分
 
 
(1) お菓子を食べて,口の中の食べかすの様子を観察する。
(2) うがいをして,コップの中の水を観察する。
(3) 歯磨きをする。
(4) 磨いた歯から,さらに歯垢を取り出す。

口の中のどこに食べかすが多くついているかということに気をつけて観察させる。





奥歯の方から,掻き出すようにするとよいことを伝える。
個別 能動   ビスケット等


紙コップ

歯ブラシ
タイマー
綿棒
 
朝,磨き残しを放っておくと,どうなるのだろう。
       
15分
 
 
(1) むし歯のできるしくみを復習する。
(2) ビデオで,歯が溶ける様子を見る。

糖質の授業を思い出させ,ビデオに解説を加えながら,「歯磨きをしないこと」の及ぼす影響に気づかせる。

一斉 徹底
エ(観察)
・支援
適宜,ビデオに解説を加えながら,歯が溶ける様子を見させる。
ビデオ
 
(3) 朝採取した歯垢によるBTB液の色の変化を見る。
黄色く変わっていることで酸性に変わっていることを確認する。
班別   BTB入り
フィルム
ケース
10分
自分の歯磨き習慣の目標を立て,発表する。
(予想される生徒の反応)
 
毎食後,必ず歯磨きする。
おやつを食べた後も歯を磨く。
丁寧に歯磨きをする。
具体的に「自分が毎日できること」を目標として設定させる。
個別 能動
(ワークシート)
・支援
机間指導をしながら,アドバイスを与え,目標を考えさせる。
ワーク
シート
まとめ
5分
本時のまとめをして,教師の話を聞く。
8020運動について考えさせる。
歯磨きや治療の必要性を意識づけておく。
一斉 徹底    

朝の口の中のようす 水(左)と食べた後のうがい水(左)
ウ 成果と課題

 朝ごはんを食べた後,歯磨きをしましたと言っていた生徒たちの歯をこすって寒天培地に付けた綿棒のまわりが黄色に変色し,歯垢のはたらきにより,酸が出てきていることをBTB液の変化により確認することができ,大変驚いていた。また,3年選択理科の生徒に予備実験としてクッキーやせんべい,チョコレートなどを食べさせ,一定の時間ごとに,口の中での食べかすの糖化の様子や酸化の様子についてベネジクト液,BTB液の呈色の違いを調べた。これらをもとに,デンプンやショ糖が口の中で,ブドウ糖などに変わり,それが食べかすとして口腔内に残り,むし歯の菌類のエサとなり歯垢から酸性の液体が出てきて溶かされるという一連の流れを実験や観察を通して,確認することができた。生徒には「ショックと感動」があったようだ。

 ちなみに,歯磨きをした後でも,うがい水にBTB液を加えただけでも,むし歯の多い生徒は黄色の,きちんと磨けている生徒は緑色の色を呈していた。
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