授業実践記録

生徒がつくるモデルを使った天体の授業〜宇宙の中の太陽系〜
熊本県八代市立第一中学校
宮川 英樹
1.はじめに

 熊本県では熊本型教育ということで,「確かな学力」をつけるために「徹底指導+能動型学習」によるめりはりのある授業の展開が進められている。問題解決学習の形態を中心として,体験的,調査探求的,表現的,コミュニケーション的などの能動型学習による授業展開である。
図1 当初のモデル
 今回は,天体の学習の授業展開(金星の見え方)と,その授業で活用したモデル(教師が材料を準備し,その時間に生徒が考えた)を紹介したい。
 以前,金星の満ち欠けの授業では,使用していたモデル(図1)があった。そのモデルは,簡単に作ることができるうえに,生徒にとっては思考のよい助けとなり,それによって授業の目標は容易に達成することができた。しかし,生徒の思考の場が少なく,単に知識だけを身につけるものであり,「確かな学力」をつけるための教材ではなかった。
 そこで,生徒が試行錯誤しながら考える時間を十分に確保するために,生徒自身がモデルを作りながら宇宙のつくりを実感する授業展開と教材の工夫を試みてみた。

2.生徒の実態(アンケートや簡単な質問による調査結果)

 1) オリオン座や北斗七星を実際に見た生徒は50%であった。
 2) 星座をつくる星は太陽の光を反射して光っていると思っている生徒が50%であった。
 3) 惑星が自分で光っていると答えた生徒が39%であった。
 4) 半月の月を見て,そのときの地球と月と太陽の位置関係を正しく答えられた生徒は25%であった。

 天体に関する興味・関心,知識・理解の生徒間格差は大きい。その原因として,観測経験の不足,空間概念の定着不足が考えられる。

3.指導計画(9時間扱い)

時間本時のねらいと主な学習活動
*月の満ち欠けとそのしくみを理解する。
  太陽系には,太陽を中心に公転している惑星があることを理解する。
  地球から見える金星の観測結果から,金星の位置と動きを理解する。[本時]
  地球から見える金星とその時刻,方角について理解する。
  惑星の特徴を比較し,2つのグループに分ける。
  太陽のようすを観察し,その特徴を理解する。
  太陽系の惑星の中で地球だけにある特徴を知る。
  恒星と恒星までの距離,明るさについて理解する。
  確認のテストを行う。(アンケート)

*この授業を行うためには,練習として月の見え方を同じような課題として学習する必要があった。

4.授業の展開

主な発問と使用した資料 生徒の反応(○)と留意点(◇)



1. 「この写真は何の写真でしょう?」



5月11日


7月24日


11月3日
 図2 金星の画像(2004年)
金星の画像は,多くのホームページ上に掲載されている。今回は,

http://www.asahi-net.or.jp/~dy7s-ynym/venus/v2004.htm〕と 〔http://www.synapse.ne.jp/kussi/
kinsei.htm
〕より画像を使用させていただいた。

もちろん「月」と答える生徒が多かった。

2.
これは,この天体を数日前(2004年11月はじめ)に撮ったビデオですが,明るいほうの星がそれです。何でしょう?」

 図3 近所で撮影した金星と木星
暗いほうの星は,木星である。
授業の数日前,ビデオカメラのナイトショットモードで撮影した。
(明けの明星)

生徒から「金星」という答えが出た。

3.
1の写真のような金星の形を決めているものは何でしょう?」

月の学習でも発問をしていたので,生徒は「地球と太陽と金星の位置」と容易に答えた。




4.
A,B,Cのように見えるには,3つの天体はそれぞれどのような位置にあればよいでしょうか?」

 図4  教師が準備した主なモデル

1 発泡スチロールのボール
2 ピンポン球を紺色に塗ったもの
3 押しピン
4 木の玉
56 半分黒で半分色のついた木の玉(生徒が月の学習で色を塗ったもの)
自分たちで調べて,他の班に説明できるようにしておくように言った。
大きさの違いも説明するように言った。

生徒は,教師が準備したモデルを使ったり,かいたりして,試行錯誤を繰り返した。

理科室や準備室にあるものなら何を使ってよいということにした。
2人で1つのモデルが使えるくらい数をそろえた(実際,モデルは2人で1つを使うように指導した)

大きい電球とバレーボールを使う班もあった。
中には,金星を外惑星としてとらえたため,なかなか結果が出せない班があったが,試行錯誤の末に金星が内惑星であることに気づいてうまく進んだ。

モデルを固定するシート(プラスチック板)は,地球の軌道だけをかいておいた。

〈生徒が作ったモデル〉

 その1(金星の光っている部分を赤く塗っている)  その2(金星モデルを多く使っている)

 その3(太陽に豆電球を使用し,部屋を暗くした)  その4(青いピンは地球)

5. 「結果を発表しよう」

 図5  各班の発表用シート
(各天体のシールを用意)
各班にA〜Cの金星,地球,太陽のシールとそれらを貼る台紙を準備した。軌道は,地球の軌道を1つかいておいた。




6. 「確認しよう」

 図6 観測者としてビデオカメラを使用
ビデオカメラを観測者として生徒の結果が正しいことを確かめた。(1つの班が間違っていたので詳しく説明を行った。)
その後,ワークシートに記入させて感想を書かせ,自己評価を行わせた。

7. 発展課題(次時へ)
私が撮ったビデオの映像は,何時ごろ撮ったのでしょう?また,東西南北どの方角に見えたのでしょう?」

ワークシートの最後に自分の考えを書けるようにした。


5.実践の成果と課題

 ○生徒の自己評価はとてもよい結果であった。筆者の行った観察による評価でも,ほとんどの生徒がモデルを効果的に使い,積極的に課題を達成しようと努力していた。

 ○1つの班がまとめの段階で間違った答えを出したが,それを生徒の活動中に見つけられなかったのは反省点であった。その班には確認の段階で説明し,次の時間に再度指導を行った。

 ○この学習をもとに星空に興味をもたせ,星空を眺めて天体のことを学習する意欲をより高めたいのであるが,そのことを評価する方法についてはまだ研究中である。

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