目的意識を持って主体的に学ぶ姿勢を育てる理科学習−自然観察・植物観察における課題研究−
静岡県清水市立飯田中学校
長澤 友香
1.はじめに
 中学校に入学してまだ新鮮な気持ちの生徒が、はじめて出会う中学校理科の授業は「身のまわりの生物を観察しよう」の課題から始まる。この時期に、生徒に自然の素晴らしさ、理科を学ぶことの楽しさを実感させることは、中学校の理科への期待感を高め、学ぶ意欲や姿勢を育てる上で極めて重要である。幸いに本校は背後に里山を控え、野草の観察には非常に恵まれた立地にある。そこで植物観察を通じて、課題を設定することの意味や目的、それを探求する姿勢や方法、さらに効果的なまとめ方を学ばせていきたいと考えた。

2.課題研究への導入
<第1時> 「雑草」に名前をつけてあげよう。
 はじめての授業で教師の自己紹介もそこそこに、中庭に集合し、ひとつの野草(スズメノカタビラ)を見せる。名前を問うと、ほとんどの生徒が「雑草」と答える。そこで、植物には種名がついていること、植物の名前には「スズメ」「カラス」「イヌ」「ヘビ」といった動物の名前がついているものが多いこと、スズメノカタビラは「スズメの死装束」を意味することなどを話すと子供たちはたいへん興味を持つ。そこで、校内を教師と共に一巡しながら「いくつ雑草に名前をつけてあげられるか。」と課題を与える。「タンポポ」と思っていた植物にもいろいろな種名があること、植物の名前にはおもしろい由来があることなど、近くの生徒たちと語らいながらの自然観察で楽しい1時間を終える。途中で「オオイヌノフグリ」の名前の由来を小声で教えると、生徒は自分を「フグリ先生」などと親しみを込めて呼ぶようになる。植物に助けられて、生徒との楽しい笑顔の出会いの中で中学校の理科の授業が始まる。

<第2時> 課題設定
 第1時の野外観察で発見したことを発表させる。生徒からは、次のような発表があった。

「タンポポ」と思っていたがいろいろな種類があった。


動物の名前のついている植物がたくさんあった。


南側の畑に面した道路わきには多くの植物が見られた。


日向と日陰では生えている植物の種類や大きさが違った。


「クローバー」と思ったけれど、花の色が白や黄色、紫といろいろあった。

 その発表の中から、次の時間から2時間かけて調べたい課題を決定し、同じ課題を持つ者同士で研究グループを作り、どのように調べていくかを考えさせた。さらに、まとめ方について、次のようなアドバイスをした。

できるだけ、実物の押し花標本や写真、スケッチ等を添えてまとめるとよい。


色鉛筆などを用いて、エリア別に色分けしてみるとわかりやすい。


植物をむやみに採集してはいけない。

3. 課題研究とまとめ <第3,4時>
 2時間扱いで、各グループの設定した課題に基づき、屋外で植物観察を行う。生徒の設定した課題には次のようなものがあった。

飯田中にセイヨウタンポポが何本あるかを調べよう。


「カラス」と「ズズメ」がつく植物を調べよう。


いろいろな植物の標本を作ろう。


エリア別にどんな植物があるかを調べよう。


日向と日陰の植物の大きさの違いを調べよう。


日向と日陰の植物の種類の違いを調べよう。


学校付近の植物の生物地図を作ろう。

 観察はグループごとに自由に行い、教師は、巡回しながら個々のグループを支援していった。生徒は各自で図鑑や教科書の見返しの図版などを用いて、植物の種名の同定を行ったが、わかりにくいものや、珍しいものは、教師が教えたものもあった。
 グループで観察しても、レポートは必ず各自で書くよう指示した。生徒の作成したレポートには、次のようなものが見られた。


4.発表会と学級でのまとめ  <第5時>
 各グループの観察した結果を、1枚の大きなマップにまとめていった。植物の種名は、ラベルに書いて貼ることにした。また種類数の多かった植物の分布を表すには、色別のシールを用いた。こうして学級のまとめができあがった。できあがった観察マップをもとに各グループが発見したことを発表し合った。
 それぞれのグループが具体的に課題を設定して自然観察を行ったことにより、大変意欲的に観察が行われたことが作成されたレポートからも伺われた。各自のレポートは理科室や教室に掲示して互いの成果を見ることができるようにした。

5.成果と課題
 当初、植物にあまり興味を持っていなかった生徒もいたが、課題を明確にすることにより、しだいに興味や意欲を持つ生徒が増えた。特に第1時の導入の際に、「オオイヌノフグリ」や「スズメノカタビラ」など名前の由来を話したことで、親しみが増したようである。課題研究を終えての生徒の感想には、次のようなものがあった。

飯田中にはすごくたくさんの植物があることがわかった。特にセイヨウタンポポはいろいろなところにあった。


今まで名前を知らなかった植物ばかりだったが、全部名前がついていることがわかって植物に親しみがわいてきた。特に植物の名前にはいろいろな由来があることもわかった。


日光があたるところはすごくいろいろな種類の植物が生えていた。植物にとって日光はとても大切なんだな。(でもグランドは日光があたっても植物は生えていない。それは踏まれていて土が硬いから。)

 課題であると感じたのは、この時期の天候である。春は雨も多く、この野外観察の時期に雨が続いてしまう学級もあった。雨天時は、自己紹介や授業のガイダンス、評価などを説明したり、図鑑やVTRで植物の写真を紹介したりして、時間を使ったが、野外観察において天候不順は一番の敵である。結局、学級により進度に差が出て、野外観察の時間を3時間にした学級もあった。また、生徒にとってスケッチはたいへんなことと思い、インスタントカメラで写真を撮ることを許可したが、やってみると接写しすぎてピンボケになってしまうものが多く、生徒に植物写真を撮らせることの難しさを感じた。

6.「植物のくらしとなかま」への発展
  (1) 花のつくりとはたらき
 校内や各家庭の付近の花を採集し、花のつくり調べを行った。学校や自宅の周辺で意欲的に花を採集する生徒の姿が見られ、意欲的な作品が多かった。


  (2)

 飯田中の植物図鑑を作ろう
 ひとり1種類以上の植物標本とその特徴をまとめ、それを集めて植物図鑑として展示した。根などの細かな形態的特徴をつかんだ標本も多く見られた。


7.おわりに
 自然観察の基本は、まず野外の自然の中に身を置くことであるという。植物の学習においては机上の学習よりも、まず実物に触れることが大切であると考えて授業を進めてきた。生徒の観察・実験は、教師がその動機付けや方向付けを意図的に行うか否かによってその深まりが大きく変わる。しかも、中学校1年生の1学期のこの時期の教材との出会いが、理科好きの生徒を作る大きなきっかけとなる。中学校入学直後の意欲に満ちた瞳の輝きを大切にし、教師も生徒と共に理科を楽しみたいと思う。今回はデジタルカメラやVTRなどのOA機器も活用し、視覚的な学級のレポート作成に挑戦し、生徒と共に学ぶことができた。一番学ぶことを楽しんでいたのは、私自身であったような気もしている。

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