角川地区内の河川と御池の水質調査
山形県最上郡戸沢村立角川中学校
高橋 一平

1.はじめに
今神御池
写真1 今神御池
 角川中学校「理科研究愛好会」では,平成9年より4年間にわたって地区内の河川と今神御池(通称“おいけ”という沼)の水質を,水生生物と簡易化学分析を組み合わせて行ってきました。この研究のきっかけは,平成9年4月19日の新聞紙上に環境庁の発表が載り,「進む酸性化……,30年後は日本の湖沼の魚が死滅か?」という大変ショッキングな記事に驚かされたことです。そのことから,学校近くを流れている角川と“おいけ”の水質調査を4年間続けてきました。御池に関してはpHによる変化は見られず,酸性化の進行についてはひとまず安心していますが,河川水質の低下がいろいろな原因により心配されるようになりました。
 昨年度までの研究では,河川の途中にいくつかある砂防ダムなどの有機堆積物が,増水などで流れ出し,その度に水生生物に影響を与えて生息環境を変え,ひいては魚への影響もあり,このままの状態が進めばイワナやヤマメなどがすめなくなるのではないかということが心配されました。
 今年度は導電率について,御池だけが河川と比べ異常に低くなり,河川では上流部から下流部に行くにつれ低くなっていたので,Zn,Cuイオンのパックテストも使い調査をしました。
 以前の調査で,上流部にある今神温泉のCuイオンが高いことがわかっているので,温泉水が河川に混じる影響があると考えられたからです。今年も春から調査をしてきましたが,昨年の秋頃から行われた大規模な護岸工事の影響のためか,いくぶん河川の水質が低下しているようにみられ,心配されました。

2.研究の視点
 今年度は過去3年間の結果と春から行ってきた調査をもとに,次の3つの視点で研究に取り組みました。
 (1) 御池への酸性雨の影響はないのか。
 (2) ダムや護岸工事などによる河川水質への影響はないのか。
 (3) 角川最上部の調査地点で,導電率が高くなる原因は何なのか。

3.調査地点
 別掲のデータをご覧ください。

4.研究調査の方法
 (1) 水生生物の調査について
 日時・天候・時刻・水温・川幅・採取場所の様子・水深・流れの速さ・川底の状態・にごり・におい・指標生物以外の生物の様子などについて調べ,特に指標生物については,平成12年より生物の数を確認し,水質階級を調べました。
 (2) 化学分析調査について
 簡易水質検査器(いわゆるパックテスト)により,pH,COD,NO2,PO4の4項目と簡易導電率計により導電率を計測しました。ただし,平成12年の調査では,亜鉛イオン(Zn)と銅イオン(Cu)についても調べることにしました。これは,調査している河川ではA地点だけが導電率が高くなり,御池の導電率は逆にどの河川地点より低くなるので,今年から調べてみることにしました。

5.研究の内容
 (1) 御池への酸性雨の影響はないのか。
 お池が環境庁の全国18の湖や沼の酸性雨の調査地点になったのは,周りから河川が流入しないことと酸性化に影響を与えるような人為的要因がないということからでした。そして,平成9年の発表では御池のpHが6.3ということでしたが,私たちのパックテストでの調査でも4年間,pH=6.3と変化がありませんでした(「グラフpH」参照)。これだけの結果から酸性雨の影響はないと決めつけられませんが,とりあえずホッとしています。
 しかし,新聞紙上などのいろいろな記事から,高い山のブナ林がなくなったりしているのは酸性雨や酸性雪の影響であることも考えられますので,各研究機関が合同で調査をしていく必要があると思いました。
 御池のpH=6.3,導電率=28〜45(「グラフpH」,「導電率」参照)と角川の水質と全く違う結果が出ていますが,雨が多いときも少ないときも水面の高低がほとんど変化しないことから,湧き水の影響だと考えてきました。さらに水生生物も河川と全く違い,魚などはいないともいわれています。ただpHが低い原因として考えられるのは,御池の周辺の岩山は酸性の流紋岩がほとんどなのでその影響だと思われます。
*pH,導電率のデータはグラフを参照してください。

平成9・10・11・12年度のpH
 A地点B地点C地点D地点O地点
平成9年7.07.57.07.56.3
平成10年6.97.27.36.56.3
平成11年7.06.87.66.86.3
平成12年6.67.47.07.26.3
pHグラフ

平成9・10・11・12年度の導電率S/cm
 A地点B地点C地点D地点O地点
平成9年10185868245
平成10年8172777435
平成11年109908611528
平成12年125100878338
導電率グラフ

 (2) ダムや護岸工事などによる河川水質への影響はないのか。
 今年度は河川の水質に影響を与えると考えられた,砂防ダムなどに堆積する有機堆積物の研究を始める予定でしたが,4月から研究の練習を兼ねて水生生物や化学分析などの調査を行ったところ,今までに見られなかった結果が出てきました。それは,週1時間の調査の関係で,主に学校の裏のB地点で研究の練習を行ってきたのですが,昨年度まで数多く見られたヒラタカゲロウ類やナガレトビケラ類がほとんど姿を消し,トビイロカゲロウやキイロカワカゲロウ,コカゲロウなどが見られ(「表・水生生物」参照),さらにCODが8〜10ppmと高くなることがよくありました。
 そこで,上流部までの様子を観察していったところ,A地点とB地点の間で,昨年の秋頃から(角川にしては)大規模な護岸工事が行われていました。見た目でも水が濁り,しかも角川で一番深い場所が昨年までは2.5mぐらいあったのに,今年は1.5m程度までに流れ出した土砂で埋まってしまいました。工事の影響のないA地点で調査をしたところ,A地点ではカワゲラ・ヒラタカゲロウ,ヘビトンボ,ウズムシなどが観察され,明らかに河川工事の影響であることがわかりました。
ヒラタカゲロウ
写真2 ヒラタカゲロウ
ヘビトンボ
写真3 ヘビトンボ
 現在あちらこちらで,水生昆虫や魚の保護のために河川をコンクリートで覆わないような動きがありますが,河川の浄化作用を下げないためにも,工事の工夫が必要だと思いました。データの表やグラフは今年の7月25日の調査ですが,この時河川工事はすでに終了していました。4年間のA地点からD地点までのデータを見ていくと,pHは6.5〜7.6となり,D地点(最上川)の測定値の幅が一番大きくなっています。水生生物,COD,NO2,PO4については,下流部にいくほど水質階級が低下します。
 さらに,すでに述べたようにB,C地点では,昨年度まで数多く確認された生物が減少し,今後どの程度回復していくのか心配です。COD,NO2,PO4の中でPO4が一番顕著に汚れの様子を表していますが,最上川は山形県全体で浄化の取り組みをしなければならないと思いました。
*水生生物,pH,COD,NO2,PO4,導電率のデータは,表やグラフを参照してください。

生物指標データ

平成9・10・11・12年のCOD
 A地点B地点C地点D地点O地点
平成9年7.09.05.06.07.0
平成10年9.07.07.09.010.0
平成11年5.08.08.010.03.0
平成12年8.08.05.010.08.0
CODグラフ

平成9・10・11・12年のNO2(ppm)
 A地点B地点C地点D地点O地点
平成9年0.000.020.020.040.01
平成10年0.000.000.000.000.00
平成11年0.000.000.000.000.00
平成12年0.000.000.000.000.00
CODグラフ

平成9・10・11・12年のPO4(ppm)
 A地点B地点C地点D地点O地点
平成9年0.10.10.20.60.3
平成10年0.00.00.00.30.0
平成11年0.10.00.00.00.0
平成12年0.00.00.30.40.0
CODグラフ

 (3) 角川最上部の調査地点で,導電率が高くなる原因は何なのか。
角川上流
写真4 角川上流
 4年間の研究で気になっていたのは,導電率が上流のA地点からD地点に行くにしたがって低下していくことでした(ただしO地点・御池は違った環境です)。その原因が何なのかを考えると,A地点の上流に秘湯「今神(いまがみ)温泉」があり,温泉水が角川に流れ出すためではないかと思われました。今神温泉は私有地なので温泉水を調べることはできませんが,過去に調べたことのある人の話ではCuイオンが多いということでした。そこで,今年はCu,Znイオンのパックテストを使い調査してみました(グラフ導電率,Cu,Zn参照)。
 結果は,Cuイオンはどこも0.0ppmでしたが,Znイオンが0.8から0.3ppmと導電率と同じような傾向になりました。来年度は今神温泉の水質も調査していきたいと思います。ただ,御池の導電率とZnイオンの関係は河川と逆になり,いろいろなイオンについて正確に調査をする必要を感じました。
*導電率,Zn,Cuイオンのデータはグラフを参照してください。

平成9・10・11・12年のZn、Cuイオン
 A地点B地点C地点D地点O地点
Znイオン0.80.60.40.30.5
Cuイオン0.00.00.00.00.0
Zn、Cuイオングラフ


6.研究のまとめと感想
 ・私たちの4年間の調査では,御池のpHが変化していないので,酸性雨や酸性雪の影響は出ていないといえるようです。むしろ,御池の酸性度が高いのは周辺の酸性岩の影響と考えられました。
 ・指標生物であるヒラタカゲロウ,ナガレトビケラなどが減少しているのは,河川工事による影響であると考えられます。さらに,これらの水生昆虫はイワナ,ヤマメなどの魚の成長にも影響していると思われ,総合的な時間で魚の分布調査をしたところ,大型の魚がなかなか見つからないようになってきています。
 ・角川の上流部で導電率が高く,下流部にかけて減少していくのは今神温泉の影響と考え,Cu,Znイオンを調べましたが,一番影響を示すと考えたCuイオンでは変化がなく,Znイオンの変化に影響が大きく出てきました。そこで,これからは今神温泉の水質を調べながら調査を続けていく必要を感じました。

 最後に,私たちにとって角川は地元の大切な川であるだけでなく,自然と一つになれる格好の遊び場なのです。ヤマメ,イワナ,カジカ,アブラハヤ,サクラマスなどを釣り上げるのは一番の喜びであるし,祖父母,父母と代々角川で育てられてきました。将来,この地を離れても決して忘れられない川なので,みんなで大切にし,きれいなままでいてもらいたいと思っています。

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