生きる力を育む開かれた学校づくりをめざして
−博物館を活用した学芸員とのT・T授業実践−
静岡県中学校理科教諭

1.はじめに
 富士山の南に位置する本校は,「富士山学習」と銘打った総合的な学習を平成4年度よりスタートさせた。現在9年目を迎え,総合的な学習と各教科の学習のバランスが大切であるという学校評価を踏まえ,研修テーマ「生きる力を育む開かれた学校づくり」をめざしている。この研修テーマの背景には,1)総合的な学習と各教科の学習,2)共に学校は開かれていなければ新しい考えを創造する生徒は育たない。さらに,3)生きる力を自立と共生ととらえて授業を改善していくという共通理解のもと,全職員が取り組んでいる。
 理科部では,自立の手だてとして,「具体的な自然事象を提示し,五感を使って課題解決するための実験器具・試料等を準備する」,共生の手だてとして「観察・実験の中で他のグループと実験方法・結果を比較するための発表や意見交換の場を設定し,まとめた結論を一般化・法則化していく」とした。
 そこで,本稿では,日頃なじみの少ない火成岩の学習において,富士山の火成岩を豊富に所蔵している地元の奇石博物館を活用し,本物の石に触れる体験や疑問に対する的確な助言がいただける学芸員とのT・T授業を組み立てることによって,生きる力を育むことに迫ろうと考え,本年度の富士地区理科研究部の研究授業<平成12年10月11日(水)実施>での実践のようすと生徒の表れを紹介するものである。

2.授業のねらい
 理科の学習指導において,生きた教材を生徒に触れさせることは,感性に訴えかけ,感動を起こし,自分の学習として学んでいこうとする態度を育成するには必要不可欠なことである。しかし,学習内容によっては生きた教材が身近にないこともある。火成岩について学習する場合もその1例である。そこで,火成岩に関する豊富な資料と深い見識をもった人材(学芸員)を地域の教育施設(奇石博物館)に求めて学校を離れ,新しい授業を組み入れることで,生きる力を育成したいと考え授業のねらいとした。

3.指導計画 火山活動と火成岩;6時間扱い
 ・火山の活動(2時間)
 ・マグマと火成岩(4時間)
 <博物館との打ち合わせ>
 ・8月 要旨説明と会場の下見,生徒の博物館見学実施
 ・9月 授業案の検討3回
 ・10月 検討会1回と授業実践

 <火山活動と火成岩> 6時間扱い(本時は4/6)
節 名授業内容の流れ観点別到達目標
火山の活動
(2時間)
富士山の山の形を見ないでかかせ,実際の形と比べてみる。富士山の形以外にどんな形があるのか資料をもとに調べる。
火山の形や噴火のようすは,何に原因しているのか仮説を立てて調べる。
↓     ↓
噴出物を調べる。
マグマについて調べる 。
噴出物の色が火山の形と関連がありそうだ。黒っぽいと火山は平らな台形をしている。白っぽいと火山は突起型になっているようだ。縦型は粘りけが大きいのではないかな。
火山の噴火のようすについて関心をもち,噴火の仕方や山の形を意欲的に調べる。(関心・意欲・態度)
火山噴出物を観察し,色や形状を比較する。(科学的思考)
火山の活動のようすや火山噴出物の観察を通して,それらが互いに関連のあることに気づき,マグマの性質によるものであることを推論する。(科学的思考)
火山の活動のようすや形及び,火山噴出物が互いに関連していることを理解し,マグマの粘性と関連させて説明できる。(知識・理解)
マグマと
火成岩
(4時間)
火成岩を観察して特徴をあげてみよう。
色・堅さ・重さ・産地・組織・鉱物の名前を確認しながら,スケッチをする。
火成岩をつくっている結晶のようすには特徴があるが,そのようすを調べ,どうやってできたのかまとめてみよう。(本時)
マグマが結晶になるときは,どのような条件が考えられるだろうか。
火成岩を観察して,どこから採取されたものか,色の特徴・成分・組織の違いを調べ,分類して発表してみよう。
身近にある火成岩について,そのでき方や組織・鉱物等を意欲的に調べ分類する。(関心・意欲・態度)
火成岩を割ったり薄片になっているサンプルを偏光顕微鏡を使って組織や鉱物を観察し,正しくスケッチする。(観察・実験の技能・表現)
火成岩の組織の観察から火山岩と深成岩を区別する。(科学的思考)
火山岩と深成岩の組織等の違いから,その成因ができ方の違いからくることを推測する。(科学的思考)
主な火成岩について,その組織や造岩鉱物の種類から岩石を分類する。(科学的思考)

4.授業計画
 (1) 対象学年;第1学年(男子16名,女子22,計38名)
 (2) 教材名;火山の活動と火成岩
 (3) 本時の目標
 火成岩は造岩鉱物からできていることを学習し,その火成岩の種類によって,造岩鉱物(結晶)の色・形・大きさ等が違うことに疑問をもった生徒が,どうして違いができるのかを,鉱物について,本物のサンプルに触れたり,鉱物顕微鏡で観察したり,専門家の先生の助言を受けたりする中で,火成岩ができるまでの時間に関係があることを理解し,深成岩と火山岩の組織の違いを説明できるようになる。
 (4) 個に応じた授業の展開

予想される学習活動支援と評価形態

 

 
みんながよく知っている富士川によって運ばれてきた火成岩がここにあります。みんな,よく見て気づいたことを言ってみよう。
大きな結晶が集まっている部分と小さな結晶の中に大きな結晶が合体した石だ。どんな成分(鉱物)でできているのだろうか。
どうやってできたのかな。
結晶の大きな部分と小さな結晶の中に大きな結晶が混在している部分の違いを見つける。
<評価に対する支援>
組織の違う部分が1つの岩の中にあるのがよくわかる境の所をテレビに映す。

 

 

 

 
この合体石はどうやってできたのだろうか
何がわかるとこの課題が解決するのかな。
どこから取れたのか知りたい。
石を割って2つの組織の違いを見てみたい。
鉱物について,その性質を調べてみたい。
粒の大きさは,どういう条件で決まるのか知りたい。
学芸員が石のできた場所について説明する。
火成岩の組織を正しくスケッチする。(観察・実験の技能・表現)
<評価に対する支援>
切断した石も用意する。
学芸員の先生方が火成岩標本を用意して偏光顕微鏡等を使って観察する。
個々に観察した結果や疑問点を発表しよう。
大きさの違う部分は,その部分のでき方が違うからではないかな。
再結晶をつくったとき,ゆっくり時間をかけて冷やしたとき,大きな結晶ができたね。
急に冷やされると小さくなったね。
火成岩をつくる鉱物の粒の大きさの違いに注目してでき方を考えたか。
<評価に対する支援>
スケッチや調べた鉱物の特徴と比較してノートに書けているか確認する。

 
ここで学芸員の先生に,今まで君たちが発表してくれたことに関連するワークシートをつくってきてくれました。みんなで作成してみよう。
結晶する時間は,大きなものほど時間がかかる。
短い時間だと結晶は小さくなる。
大きい粒が先にできて小さい方が後からできたのではないかな。でも正しいかわからない。
1つの火成岩の中の等粒状組織の部分と斑状組織の部分ができるのに,どちらが時間がかかるのか話し合う。
<評価に対する支援>
再結晶のときに学習した,結晶する時間と結晶の大きさの関係をワークシートを作成して復習する。
<学芸員のコメント>
地下のマグマが貫入して来たとき,既に大きく冷えて固まった鉱物の結晶を一緒に捕獲して地上に上げたとき,1つの火成岩の中に等粒状組織と斑状組織の2つの組織が混入した形になって冷えて固まったのです。



<今日の授業のまとめをしよう>
粒の大きさがばらばら→斑状組織
粒の大きさが同じ→等粒状組織
自己評価・他者評価を行う。
お礼の言葉
自己評価・他者評価により授業の振り返りを机間支援で確認
☆印は生きる力を意識した点 ◎印は観点別学習状況の評価 ( )は観点 ○印は形成的な評価

5.考 察(授業後の生徒の表れ)
 博物館という場は生徒の意欲を高めた。生徒は五感を使い,目的意識をもって観察・実験を行い思考を広めることができた。何よりも効果が上がったことは,その後の授業で,火成岩・堆積岩・地球の歴史と学習意欲が継続していることである。これこそが,「生きる力を育むという授業のねらいが達成できた表れ」と実感している。
 <学芸員が行ったこと>
 1)鉱物顕微鏡の準備・使い方の指導
 2)捕獲岩の採取・切断・研磨
 3)捕獲岩の説明(OHP)
 4)ワークシートの準備と説明
 5)火成岩の磁性を調べる準備
 6)炎色反応の準備
 7)再結晶の実験準備
 8)生徒の疑問に即答すること

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