「大気の圧力」で自作ビデオ教材を用いた授業の工夫
大阪府東大阪市立池島中学校
田中 裕章
1.はじめに
 2年の「天気とその変化」単元の「気圧と天気」では,1年の「力と圧力」で学習した大気圧を天気の変化と関連づけて学習するが,大気圧が空気の重さによるものであることや空気に重さがあることは,知識としてはあっても体験にもとづくものとして定着していないことが多い。また,気圧の変化を実感できるような体験は,校内では真空ポンプや気圧計を用いてできるが,私は,日常生活の中にその体験を求め,校外でビデオ撮影を行い,それを編集して授業で解説する試みを行った。
 本稿は,平成11年度東大阪市中学校理科教育研究会の研究授業<平成12年1月28日(金)実施>の内容を学習指導案の要旨及び研究協議の内容とともに紹介するものである。

2.指導のねらい
 高さによる気圧の変化のようすを,ポテトチップなどの菓子袋を用いて実感させることは何年も前からなされており,移動教室などの行事でも気のきいたバスガイドなら演示して見せてくれたりすることがある。高さ230mほどの変化で,目で見て実感できる新しい教材・教具はないかと考え,ポテトチップの袋とは違うものを用いることにした。その変化ができる限り定量的に扱えるものとして,ここでは気圧計のほかに晴雨計を用いた。ポテトチップの袋同様にびんにつけたゴム膜では定量的には扱いにくいが,その変化が肉眼で確認できるところに価値はあったと思う。
 高さ,場所,時間による気圧の違いまたは変化を,体感できるか見ることができることをすべての生徒にさせたいと思ったが,生徒の代表として各クラスの理科係に体験させた場面をビデオに収録して編集し,それを鑑賞することで理解の一助になればと思い取り組んだ。

3.学習の計画
 身近な気象の観察・観測を通して,天気の変化の規則性に気づかせるとともに,気象現象について,それが起こる仕組みと規則性についての認識を深める。
 (1) 空気の重さによる気圧は,高いところほど低くなることを理解する。
 (2) 地表面の気圧は,およそ1気圧で1013hPaにあたることを知る。
 (3) 気圧の力は,あらゆる向きにはたらくことを理解する。
 (4) 気圧の場所による差によって風が生じることを理解する。
 (5) 気圧の時刻による変化が天気の変化に関係していることを理解する。
 (6) 場所による気圧の比較では,高度の補正が必要であることを理解する。

4.指導計画
 2 気圧と天気
  1 大気の圧力……2時間(本時はこの1時間目)
  2 等圧線と風……2時間
  3 高気圧・低気圧と天気……1時間

5.本時のねらい
 ☆1年のときに「力と圧力」単元で学習した大気圧について復習し,身の回りの事象から,気圧の存在を示す証拠を見いだす。
 ☆気圧を「空気の濃さ」として分子レベルで理解する。
 ☆気圧の大きさを「hPa」で表すことができる。
 上記「3.学習の計画」の(1),(2)を本時に,(3),(4),(5),(6)を次時に修得する。


池島サイエンス・リサーチ

6.ビデオ教材の内容・考察
 短時間で気圧の変化を体感できるものとして,ここでは,高層ビルのエレベーターを利用した。当初の企画では信貴山(高安山)や生駒山のケーブルカーに乗って行うことも考えた。
 しかし,下から上までにかかる時間が片道10分以上と編集に工夫が必要であり,費用も片道540円と生徒を引率してのロケ(収録)には無理があった。
 そこで,高層ビルのエレベーターを利用しようと考えたが,高層ビルの展望台に入るには入場料が必要なので,今回は南港のWTCコスモタワーの1階から51階を往復するエレベーターを利用して行った。
 51階は,海抜約251m 程度と考えられ,理論上では,約29hPa程度の差があると考えられる。実際アネロイド気圧計で測定すると 26hPaの差であった。次に,鼓膜付近の仕組みを理解するために,2年で用いた耳の構造模型を使って,鼓膜によって外耳と内耳が仕切られていることを説明した後,ワイン用のカラフェ(フラスコ型のデカンタ)にゴム風船を切ったものでふたをし,エレベーターに乗ってみる。すると,26hPaの差でゴム膜が膨らんだことが観察できる。
 さらに,ペットボトルの下部に穴を開けて,そこにL字型のガラス管を接着した自家製の晴雨計を用いて気圧の変化を調べる。この器具は,欧米では"Weather Glass"として用いられているガラス器具の原理を利用したものであるが,実際には気圧よりも気温の変化に敏感なため,一般にはあまり利用価値はないが,ビル内のように空調設備が整っているところでは有効に利用できる。今回は,ビデオに録画しやすいように,中には水ではなく,オレンジジュースを入れて用いた。1.5リットル用ペットボトルに内径2mmのガラス管で高さ約20cmちかい上昇が観察される。今回のロケの中では,あふれ出てこぼれてしまうことになった。
 ビデオの番組としての構成は,朝日放送の「探偵ナイトスクープ」風に仕上げた。
 2年の各クラスの理科学習係に“探偵局長・秘書・顧問・探偵・依頼者”になる配役を決めて12分の番組を作った。あら筋は,依頼者から「高い山に登ったりすると,どうして耳がおかしくなったりするのかを調べてほしい」という調査依頼があり,探偵は,それを調べるために西日本でいちばん高いWTCコスモタワーにやってくる。そこで依頼者が顧問であるドクターとともに様々な実験を行う。まず,51階までのエレベーターで本当に耳がおかしくなるかどうかを体験し,次に,ドクターが登場し,高いところへ行けば気圧が低くなることをアネロイド気圧計で実験し確かめる。さらに,耳の構造をドクターが説明し,カラフェにゴム膜をつけたものを持って51階までのエレベーターで実験をして膨らむことを確かめ,高いところへ行くと耳がおかしくなる理由を解説する。
 そして,晴雨計を持って1階からエレベーターに乗ると,51階までに中の液体があふれ出ることを観察する。

 →ビデオダイジェスト(QuickTime Movie:2.62MB)
注)このファイルはmov形式で保存されています。再生にはQuickTime Movie等のソフトウェアが必要です。再生がうまくいかない場合は、リンクを右クリックし、インターネットエクスプローラの場合は「対象をファイルに保存」を、ネットスケープの場合は「リンクを名前を付けて保存」をクリックし、ダウンロード後お試し下さい


気圧計の変化のようす

ゴム膜の変化のようす

晴雨計の変化のようす

7.生徒のようすと指導の成果
 各クラスに,“出演者”がいるということで生徒の目は引きつけることができたようだ。
 「おもしろい」と「わかった」が同時に感じられると,定着する時間も長くなるようだ。

8.今後の課題
 今回のビデオ教材は,企画・下見・シナリオ作成・ロケ・編集で約1ヶ月,延べ時間にして約30時間以上を要した。ビデオなどの機器に慣れ,時間短縮をはかりたい。

9.指導過程・ビデオ教材の利用
 生徒の活動教師の活動備 考


15
 プリントに板書を記入しながら,1年と2年の1学期に学習したことを思いだす。または改めて理解する。  1年で身の回りの現象として「力と圧力」を学習した中で,空気の重さによる圧力,すなわち「大気圧」について学習したことを思いださせる。
プリントp.105,106を配付する。
 1年で学習したポイントをまとめる。
 気圧は「空気の濃さ」であると考えられることから,空気の成分を1学期に学習した気体の分子モデルで描いてみる。
 1分野(上)の教科書を用意する。


15
 テレビの見やすい場所に移動する。
 カーテンを閉める。



 机の元の位置に戻る。
 自作ビデオ「池島サイエンスリサーチ」(12分)を観る。
 高いところへ行くと耳が変になることをエレベーターで実感する。高いところは気圧が低い(空気がうすい)ことを気圧計で確認する。空気がうすくなると鼓膜が外へ引っ張られること(耳の構造)の説明。このことをカラフェにつけたゴム膜を用いて説明し,さらにペットボトルで作った晴雨計を使って気圧の変化を体験する。
 という番組
 ビデオテープとビデオテープレコーダーを用意する。
 蛍光灯を消す。
 音声が聞き取りにくい部分はリモコンでボリュームを調節する。





15
 ビデオの中でエレベーターに乗って行った実験を思いだして記録する。
 どうして,そうなるのかを考える。
 ビデオの中で測定した気圧を記入する。高いところへ行ったときのゴム膜や晴晴雨計の変化を記入する。
 高いところへ行くと耳が変になることを空気の濃さの変化として,分子モデルで説明する。
 番組中に使った器具を準備する。
(1) アネロイド気圧計
(2) ゴム膜とびん
(3) 晴雨計
(4) 分子モデル用マグネット




   高さによって気圧が変化するのは,空気に重さがあるからで,私たちが生活しているのは大気の層のいちばん底であることから,低いところほど気圧が高いことを解説する。  

10.おわりに
 本授業で用いた晴雨計については,大阪府教育センターの佐藤昇先生,ビデオ編集については東大阪市立枚岡中学校の植村佳央先生の指導協力を得ました。

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