授業実践記録

証明を取り上げた授業の工夫 〜3年図形と相似を通して〜
愛知県常滑市立鬼崎中学校
中野 照久

1.はじめに

 中学校では,2年生から『証明』を学習する。授業をする上で,この分野に突入すると,とたんに生徒から何だか重たい雰囲気が伝わってくる。こうしたことをどうにかして打開できないかと考えた。


2.証明を指導する上での工夫

 証明を指導する上での問題点となることを思いつくままにあげてみると,

他の分野に比べてノートに書くことが多い。そのわりに「解けた!」という達成感があまりない。
書く量が多いため,一つの問題を取り上げるだけで時間を要する。多くの問題を取り上げるのが難しい。

 証明は論述であり,他者に分かるような記述の仕方を学習しなくてはならない。それを学習した上で,証明は他者に自分の考えを伝えるため手段という側面から,記述にとらわれず,言葉で説明する方法でもよいのではと考えるようになった。そうした場合のメリットとして次のようなことが考えられる。

書く量が少ないため,考えることに重点をおいて問題に取り組むことができる。
他者に順序よく説明し,相手に分かってもらうことができれば,達成感を得ることができる。
書く量が少ないため,一つの問題を取り上げるのにさほど時間を要しない。

 これらのことを第3学年の「図形と相似」の単元において実践することにした。


3.授業の実践

(1) 単元
3年 「図形と相似」

(2) 学習の計画(18時間完了)
第1次 第1時〜第3時 相似な図形の性質について調べる。
  第4時〜第5時 三角形の相似条件について,作図を通して考察する。
  第6時 縮図を利用して,直接測れない距離や高さを求める方法を考える。
  第7時 相似条件を使った証明の進め方を知る。
  第8時〜第9時 2つの三角形が相似であることを考察する。
2つの三角形が相似であることを,他者に説明をする。
第2次 第10時〜第14時 平行線と線分の比の関係を考え,その性質を使って線分の長さを求める。
  第15時〜第16時 中点連結定理を利用して問題を解く。
  第17時 これまで学習してきたことを生かして,課題に取り組む。
  第18時 学習のまとめをする。

(3) 授業実践

第8時の授業展開
学習活動 指導上の留意点
1. 本時の学習活動を知る。
 
2つの三角形が相似であることを説明するための準備をしよう
 
2. プリントを配り,問題に取り組む。
(1) 教科書P101 例題2,練習問題12の問題に取り組む。
証明の記述をしなくてもよい。他者に2つの三角形が相似であることを説明できるように,図の中に記号をかく,あてはまる相似条件を書き出すという程度でよい。
3. 次時の活動を知る。

空欄には,重なった2つの三角形を分解したものをかいたり,あてはまる相似条件をかかせたりすることに使うようにした。
第8時で使用したプリント


第9時の授業展開
学習活動 指導上の留意点
1. 本時の学習活動を知る。
 
2つの三角形が相似であることを説明し合おう
 
2. グループをつくり,2つの三角形が相似であることの説明を行う。
 
(1) グループをつくる。
4人(もしくは3人)のグループを教師から指示によりつくらせる。
グループのメンバーの力を見て,説明し合う上で支障がでそうな場合は,メンバーを入れ替える。
(2) どの問題を誰が証明するか,役割分担をする。
役割分担は基本的に1人1問であるが,グループ内でどの問題の説明も困難な人がいる場合は,他の人が2問説明してもかまわないと伝える。
説明用プリントを使って,言葉だけでなく,図を使って説明するように伝える。
(3) 2つの三角形が相似であることを3分間で説明する。
3分間たったら,途中でも説明を終える。
(4) すべての説明が終わったら,説明を行った上での自己評価をする。
説明用プリントの自己評価欄に記入させる。
3. ここで扱った問題について,記述での証明を行う。
自分で考えたこと,また,他者の説明によって理解できたことをもとに,記述での証明にチャレンジさせる。
記述での証明について,模範解答を配り,参考にさせる。
4. 本時の活動を振り返る。
 

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説明者がグループ内で説明するときに,より相手に伝わりやすいようにこのプリントにかき込みながら説明を行った。

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ことばでの証明について,A,B,Cの3段階で評価し,具体的な感想も書かせた。

第9時で使用したプリント



4.実践を終えて

 第8時の2つの三角形が相似であることを説明するための準備の段階では,後で他者に説明する上で必要なことだけを図に書き込んだり,メモをしたりすればよいと話をして課題に取り組ませた。しかし,実際は,記述による証明をしている生徒も少なくなかった。他者に説明をする上では,記述による証明が原稿になるからであろう。

 第9時では,グループの人に自分の考えたことを分かってもらおうと,一生懸命になっている生徒の姿が印象的であった。授業後の生徒の自己評価には,「∠Hが90°といえる説明が不十分であった。∠B=∠Aというところがうまくできた。」「図をかいて説明することができた。けど,どっちから説明すればいいかまよったので,説明はすごくあやふやだった。」のようなものがあった。他者に説明する活動を通して,自分の理解が不十分な点や,順序立てて述べることの大切さを実感させることができた。


5.さいごに

 今回の実践では,2時間かけて4問の問題を取り扱った。1問あたりに要した時間は長かったが,記述することより,考えることに重点をおいた活動をすることができた。また,説明をしている生徒が,相手に分かってもらえたと実感できた表情からは達成感がうかがえた。

 今回の実践を通して改めて感じたことは,一斉授業中心になりがちの中で,分かったことを表現したいと考えている生徒が多いということである。全体の場では発表しにくいが,友達同士,小グループの中であれば互いの考えを交換したり,分からないことを教えあったりしたいと思っている。今後もこうした活動をふくめて,数学を学習することに成就感を味わえるよう,授業を工夫していきたい。

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