授業実践記録

活用をテーマにした授業実践〜一次関数の応用(水温の問題)〜
島根県松江市立第四中学校
教諭 植田 幸司

1.はじめに

 平成19年度全国学力・学習状況調査 中学校B(主として「活用に関する問題」)「事象の数学的な解釈と問題解決の方法(水温の問題)」の小問(2)(3)は,問題場面がほぼ全ての教科書に掲載されているにも関わらず,全国,島根県ともに正答率が30%台という結果であった。日々の数学の授業を通して,日常的な事象を理想化・単純化して考察したり,問題解決の方法を数学的に説明したりする力が生徒に十分に身についていない実態があるように感じた。

 そこで,教科書(啓林館, 未来へひろがる数学2, p.66)に掲載されている「水を熱した時間と水温」の題材を用い,(1)日常の事象を理想化・単純化して,その特徴を的確にとらえる力,(2)問題解決の構想を立て,その方法を数学的に説明する力,を身につけることをねらいとした授業を行った。なお,本実践は,島根県検証改善委員会(2008)からの事例提案を受けて実施されたものである。


2.授業の実際

【1時間目】

(1) 本時のねらい
   水を熱する実験のデータから,「熱した時間」と「水温」の関係について考えることを通して,一次関数の関係を見出すことができる。

(2) 本時の展開

学習内容 学習活動(◇)と予想される生徒の回答(・) 教師の支援(○)・留意点(●)・評価(◎)
導入
(5分)
課題の設定
本時の課題をつかむ。

水の温度を85°に上げるためにかかる時間を調べよう。
お茶には,お茶を入れる際の適した温度があることを説明し,本時の課題を設定する。
展開1
(10分)
表の特徴をつかむ
表から分かることを考え,発表する。
表を提示し,ノートに写すよう指示する。
熱した時間(秒) 0 20 40 60 80 100 120
水温(℃) 20 23 28 31.5 36 40.5 44.5
時間が経つにつれて水温が上がっている。
20秒ごとに上がる温度は一定ではない。
考える時間をとり,自分の考えをノートにかくように指示する。
表の特徴をとらえることができたか。
85℃に上がるまでにかかる時間を予想する。
表からの情報だけでは,予想が難しいことを確認するだけに留めておく。
表から,時間と水温という2つの数量の関係がどのような関係にあるかを考える。
比例,反比例,一次関数,どれでもないという選択肢を示し,どれか1つを選ぶよう指示する。
展開2
(15分)
グラフの特徴をつかむ
熱した時間をx秒としたときの水温をy℃とし,グラフ用紙に対応する点をとる。

プリントを配り,ノートに貼ってから点をとるように指示する。
対応する点をグラフ上にとることができたか。
グラフから分かることを考え,発表する。
時間が経つにつれて水温が上がっている。
点はほぼ一直線上に並んでいる。
考える時間をとり,自分の考えをノートにかくように指示する。
グラフの特徴をとらえることができたか。
展開3
(15分)
数量の関係を理想化・単純化し,数学的にとらえる
グラフから,時間と水温という2つの数量の関係がどのような関係にあるかを考える。
比例,反比例,一次関数,どれでもないという選択肢を示し,どれか1つを選ぶよう指示する。
考える時間をとり,自分の考えを,理由とともにノートにかくように指示する。
自らの考えの根拠を示すことができたか。
自らの考えを理由とともに発表する。
時間が経てば水温が上がるので,比例(一次関数)だと思う。
グラフはほぼ直線になっているので,比例(一次関数)だと思う。
グラフがガタガタになっているので,どれでもないと思う。
発表内容を板書する際に,結論と根拠を整理して板書するようにする。
説明すべきことがらとその根拠を明らかにして説明することができたか。
他者の意見を聞き,考えたことを発表する。
 
比例と一次関数の式やグラフの特徴を復習し,比例と一次関数の違いを確認する。
比例は一次関数の特殊な場合であることを,式とグラフの両方から確認する。
課題を解決するためには,時間と水温の関係をどのように見たほうが解決しやすいかを考える。
一次関数と見るほうが,解決しやすいと思う。
まとめ
(5分)
課題における,時間と水温の関係は,グラフがほぼ直線になっていることから,一次関数とみることができることを確認する。
本時の結論とその根拠を整理して板書する。
時間と水温の関係を,一次関数の関係とみることができたか。
 
次時の課題を設定する。
85℃に上がる時間を調べる方法を考えよう。
グラフから,85℃に上げるまでにかかる時間を調べるにはどうしたらよいかを問う。

【2時間目】

(1) 本時のねらい
   グラフに示されていない水温に対応する時間の求め方について,問題解決の構想を立て,それを数学的に説明することができる。

(2) 本時の展開

学習内容 学習活動(◇)と予想される生徒の回答(・) 教師の支援(○)・留意点(●)・評価(◎)
導入
(5分)
前時の復習と課題の設定
前時の復習をする。
本時の課題をつかむ。

水の温度を85°に上げるためにかかる時間を調べよう。
前時でかいた時間と水温の表とグラフを提示し,前時の結論とその根拠,および,本時の課題を確認する。
展開1
(10分)
課題解決の構想を立てる
水が85℃に上がるまでにかかる時間を調べる方法を複数考える。
グラフをのばす。
時間と水温の関係を表す式をつくる。
考える時間をとり,自分の考えをノートにかくように指示する。
できるできないは考えずに,いろいろなアイデアを考えるように指示する。
課題解決の構想を立てることができたか。
自分の考えた方法を発表する。
発表内容について,用いるもの(表,式,グラフ等)とその用い方を整理して板書する。
展開2
(27分)
グラフから式を求める
一次関数のグラフから式を求める方法にはどのような方法があったかを復習する。
傾きと切片がわかるとき。
傾きと1点の座標がわかるとき。
2点の座標がわかるとき。

教科書(p.57-59)を参照するように指示する。

どのような方法があったかを振り返るだけに留めておく。
本時のグラフでは,どの方法で式を求めたいかを考える。
自らの考えを,理由とともに発表する。
考える時間をとり,自分の考えを,理由とともにノートにかくように指示する。
自らの考えの根拠を示すことができたか。
発表内容を板書する際に,結論と根拠を整理して板書するようにする。
他者の意見を聞いた上で,どの方法で式を求めるかを各自で決定し,式を求める。
自分がやってみたいと思う方法で式を求めるように指示し,教科書(p.57-59)を参照しながら求めてもよいことを伝える。
求めた式と,その求め方について発表する。
異なる方法で求めている生徒がいれば,それぞれの方法で発表させるようにする。
まとめ
(8分)
求めた式を用いて,水が85℃に上がるまでにかかる時間を求める。
実際のデータと照らし合わせて,求めた答えやその求め方の有効性を検証する。
学習の振り返りをかく。
求めた式を用いて,水が85℃に上がるまでにかかる時間を求めることができたか。
課題解決のために数学を活用することの意義を感じることができたか。


3.授業の成果と今後の課題

 授業後,生徒に学習の感想を記入してもらい,その分析を行った。

 また,授業を終えて1ヵ月後に,平成19年度全国学力・学習状況調査 中学校B(主として「活用」に関する問題)「事象の数学的な解釈と問題解決の方法(水温の変化)」と同様の問題を検証問題として実施し,その分析を行った。本校の調査人数は82人である。

 分析から得られた成果と課題をまとめると以下のようになる。

(1) 検証問題のすべての設問において,正答率が県平均を上回った。特に『実験で得られた数値にもとづくx,yの関係を表すグラフの点の並び方から,yはxの関数であるとみてよい理由を説明する問題』(設問2)では,「ほぼ直線になるから一次関数とみてよい」と解答した生徒の割合が51.2%であり,県平均よりも34.2%高かった。このことから実践を通して,日常的な事象を理想化・単純化し,その特徴をとらえて説明する力が高まったと考えられる。これは授業のなかで,実験から得られた数値をどのように見るかについて,生徒が時間をかけて議論をし,自分たちなりに納得をして,一次関数とみなす展開を行ったからと考えられる。

(2) 検証問題の『グラフに示されていない水温に対応する時間の求め方について,グラフの直線を延ばさずに求める方法を説明する問題』(設問3)の正答率は42.7%であった。よって今回の実践だけでは問題解決の方法を数学的に説明する力は十分に身についていないと考えられる。しかしながら,その誤答について詳しく分析してみると,無解答の生徒は県平均よりも少なく,「用いるもの」と「その用い方」の一方しか明示せずに答えている生徒の割合は24.4%と高かった。このことから,問題解決の方法を数学的に説明するときに,「用いるもの」と「その用い方」の両方を明示して説明をしなければならないことが,生徒に十分に定着をしていないことが明らかになった。今後の課題として,このような問題解決の方法を数学的に説明することができる場面を取り入れた授業を,多くの単元で構想し実施していくことがあげられる。

(3) 自分の考え方を表す場や,友だちの意見を聞いて考えたことを発表する場面を多く取り入れたことで,意欲的に授業に参加する生徒が増え,たくさんの意見が出た。また教師が出てきた意見を結論とその根拠を整理しながら板書をすることで,理解が深まり,数学的に表現することの大切さに気づくことができた。学習の感想には『自分なりの説明が納得いくほどできてよかった。』,『人の意見で自分の考え方が変わっていっていいなと思いました。』等の記述が見られた。

(4) 表・式・グラフのそれぞれのよさと3つの表し方の関連性について,課題を解決する中で深めることができた。学習の感想には『表・グラフ・式の3つを学習する意味がわかってよかった。』,『表については水温と熱した時間の関係がわかりやすい。グラフはあがり方が一目でわかる。式はグラフや表で出せないところまで代入して求められるなど,それぞれをうまく使って答えられてすごいと思った。』等の記述がみられた。

4.おわりに

 今回の実践の中で,生徒がいきいきと自分の意見を話す場面が多く見られたことが印象に残っています。生徒の言葉を引き出す授業の大切さを改めて感じることができました。

 今回の実践は特別な教材の準備は必要なく,教科書に掲載されている教材を用いています。ただその教材を単に演習問題としてではなく,上述したような新しい視点から授業を行うことで,大変印象深い実践となりました。

【参考文献】
国立教育政策研究所教育課程センター,『平成19年度 全国学力・学習状況調査 解説資料 中学校 数学』,2007
島根県検証改善委員会,『平成19年度 全国学力・学習状況調査 報告書』,2008
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