授業実践記録

自己学習力を培う生徒の自己評価活動
千葉県鴨川市立長狭中学校
安田 淳

1.生徒の実態

 平成16年度千葉県学力状況調査報告書によると,「数学の勉強は大切だ」と半数以上が認識しているものの,「数学の勉強がよくわかる」と回答している生徒は半数を下回っている。また,「授業の中でわからないことをどうしているか」という質問に対して,「自分で調べる」という児童生徒は小学校5年生で16.6%,中学校2年生で19.0%しかいないが,問題に対する通過率は高い。また,「そのままにしておく」という児童生徒をみてみると小学校5年生で3.7%,中学校2年生で7.8%ではあるが,その割合は約2倍に増えていることがわかる。本校でもこの傾向がある。このことからも生徒自らが目標を持ち,その目標の達成に向けて,意欲的に学習を進めていくことのできる力を培っていくことが必要である。


2.指導のねらい

 授業を進めていく上で重要な点は次の3点である。

(1) 「生徒自らが意欲的に学習に取り組み,学習を追求していく」自己学習力を育成していく。
(2) 学習を積み重ね,一人一人が学びに合わせた評価をして,既習に振り返ることを繰り返し行うポートフォリオ評価を学習に生かしていく授業を構築していく。
(3) 生徒自らがつまずきに気づき改善したり,既習事項をふまえた発展的な内容の学習に意欲をもって取り組むことができたりするようにする。

 これら3点を達成させるためには,生徒自身が自らの学習や意欲を評価し,これからの学習や態度に目標をもち,学習や態度を工夫・改善していくという自己評価活動を行っていく必要がある。その自己評価を基に次の目標を立て,学習を工夫・改善できるという自己学習力の礎を培っていくことを指導のねらいとした。


3.指導の実際(一次関数の授業を通して)

(1)はじめに

単元導入に際し,どのような内容を学習するのか,授業をどのように進めていくのかを説明した。

(2)確認プリント

各時間の学習状況については,この確認プリントの表面にある「確認問題」を用いて,本時の学習内容が理解できたかどうかについて自己評価を行わせた。学習内容が理解できたと自己評価した生徒は,プリントの指示を読んだりや言葉をかけたりすることによって裏面の「発展問題」へと進むように促す。学習内容の理解が不十分だと自己評価した生徒は,学習プリントの学習内容やまとめに振り返るように促す。振り返ったり,教師へ質問をしたりして,学習内容が理解できたと自己判断できた後,裏面の「再確認問題」へと進ませるようにした。再確認問題は表面の確認問題とほぼ同程度の問題となっている。再確認問題を行うことによって,表面で生じた理解の不十分さについての不安を解消させ,次のステップへ意欲をもたせるようにした。

【表面】確認問題 【裏面】発展問題,再確認問題
確認プリント(表裏面)の例

    確認プリントによる自己評価活動についての生徒の感想の例    
毎時間プリントがあり,できているかの確かめにとってとても役立ちました。
自分ができる所やできないところがわかりやすくでていたので勉強がしやすくなった。
はじめは一次関数は難しそうでやる気がなかったけど,後でわかるようになったのでやる気が出た。学習プリントで理解した後,確認プリントをやるやり方がわかりやすかった。関数についてよくわかった。
もう少し長くプリントに取り組む時間がほしかったです。

(3)学習履歴図

情意面の自己評価として,「学習履歴図」による自己評価を行い,1枚の紙に記録として残していく評価活動を行った。学習履歴図は千葉大学 市川洋子先生が総合的な学習用として考案したものを数学用として改良したものである。前時の授業の終わりに次時の目標を記入できるようにし,次時への意欲化を図ったり,教師からのコメントの欄を設けている。やる気が見られた授業は「上向き」に,やる気が出なかった授業は「下向き」へと進んでいる。

生徒の学習履歴図の例 その1

 この例では後半学習内容が難しくなっていくのにともない,意欲の下降がみられた。授業の第7時から第9時は一次関数のグラフやグラフの情報から式を求めていく内容であり,生徒たちが苦手とする内容の1つである。第7時の理解が不十分であると第8時の理解がより難しくなり,さらに第9時はそれ以上に難しくなっていく。そのため,学習意欲にも低下傾向がみられるようになる。ここで,意欲を低下させないようにするためにも理解の支援を強化し,既習に振り返って自己学習できるようにしていく必要がある。

生徒の学習履歴図の例 その2

 途中で大きな変動がみられた生徒の例である。第3時は変化の割合を考えていく内容であり,やはり生徒にとって苦手とするところである。難しく感じると,その時の意欲についての自己評価は低くなる傾向はある。逆に第4時は比例のグラフを基にして,一次関数のグラフをかいていく内容である。グラフをかくという作業もあり,生徒にとっては意欲的に取り組めたという達成感もあったのではと考える。

    学習履歴図についての生徒の感想    
学習履歴図などを使ってしっかり自分の目標を考えてやれてよかったです。
学習履歴図を使うことで毎時間ごとに目標を決めて勉強することができたし,授業が終わった後の反省の部分で自分ができたかできなかったか,わかるので後で復習しやすかった。
最初のうちは,履歴図とかを書くのがめんどくさかったけど,今ではけっこう慣れて習慣っぽくなりました。
先生のコメントで注意するところを教えてくれて課題が作れた。


4.指導の成果と課題

〔成果〕
1 学習内容の理解の程度を自己評価するための問題を教師が用意し,自己評価後の活動を自己判断して進ませていくことにより,生徒個々が意欲的に確認問題後の学習に取り組むことができ,自己学習力の一端を培うことができた。
2 学習履歴図を活用して情意面の自己評価の移り変わりを振り返ることにより,次時の学習に対する意欲を喚起することができた。
3 授業の流れを復習本時の内容練習問題まとめ確認問題
発展または再確認問題学習履歴図の記入次時の目標決めと固定し,前黒板の隅にA3サイズの用紙に記入したものを毎時間貼っておいたことによって,生徒は自己評価活動の時間を意識するようになり,教師の指示を待つことなく自己評価活動へと取り組めるようになった。

〔課題〕
1 授業の中に後半10分間の自己評価活動を取り入れることで,どうしても授業の進め方に余裕がなくなる場合が多かった。
2 学習履歴図は授業の終わりに回収し,教師からのコメントを記入し,その日のうちの返却するようにした。日常の勤務では時間的余裕にも限りがある。学習履歴図のより良い活用方法について,更なる試行が必要である。
3 この授業で培われた自己学習力は,生徒自らの力で他の教科の学習においても表れてこなければならない。そのためには今後どのような手だてを講じていかなければならないか考えていく必要がある。

参考文献
市川洋子(2004).シリーズ 総合的な学習で『学び』の未来を開く 第4巻 総合的な学習で自己評価力をつける. 東京:明治図書

 

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