授業実践記録

直観に論理を与える生徒の育成をめざした授業〜3年 式の計算の利用「平方数表にひそむ規則」の実践を通して〜
山口大学教育学部附属山口中学校 数学科

1.はじめに

…例えば,この前の一筆書きとか,授業で課題の規則や法則を自分で見つけるととてもうれしいし,授業がとても楽しい。
 だけど,それは,ずっと昔に誰かが見つけたものだから,もしも世界で初めて自分で何かが見つけられたらどんなに楽しいんだろうと思う…

 これは,ある生徒が数学の楽しさについて書いた感想の一部である。前半部に書かれている「一筆書きの規則」とは,偶点と奇点の数の関係により,一筆書きができるかどうかを判断できるというものである。この規則を見つけることができるのは,学級で数名しかいないような難しい課題である。しかし,多くの生徒が「楽しい」と感想に書いており,自分で規則を見つけることに楽しさを感じているのである。後半部には,「もしも世界で初めて自分で何かが見つけられたら…」と書いてある。生徒らしい「夢」であるとともに,そこに数学が「わくわく・どきどき」できる源があり,私たちが大切にしたい生徒の思いである。

 本校数学科では,このような生徒の思いを実現できる授業を作りたいと考え,平成18年度より,生徒が直観で見つけたことがらを相手に論理的に説明する場面を意図的にしくむ授業づくりを研究し始めた。

 今回の実践記録は,3年生の式の計算の利用において,「平方数表にひそむ規則」という課題をもとに実施したものである。

2.指導のねらい

 直観で規則を見つけるとは,偶然や試行錯誤で見つけることから,過去の経験を活用して数学的な思考を働かせて見つけることまで幅広くとらえている。自分が考えていることが正しいことを相手に伝えるためには,根拠をもって,筋道を立てて論ずるのが数学での表現である。ここでは,自分の考えが一般的に正しいかどうかを文字式で論をたてる。次に,見通しをもって文字を適切においたり,根拠が分かるように式変形をしたりして説明方法を考えていく。これら,一連の流れの中で文字式を使いこなしていくのである。

課題「平方数表にひそむ規則」
平方数表を完成し,その中の規則を見つけよう。
平方数        
 右が課題「平方数表にひそむ規則」である。この課題には,「連続する偶数の積に1を加えると,その間の奇数の2乗となる」などのように,数の間に多くの関係が存在する。規則の発見を楽しみ,見つけた規則の一般性を証明する必然性をもたせることができるのである。また,それらの関係は,3年生で学習した多項式の乗法や因数分解を使うことで証明でき,自分の考えが正しいことを相手に説明することが可能である。

 文字式の学習では,次の2つのことを大切にしたい。一つは,項の数が増えたり,次元があがったりして,より複雑な文字式の世界になっても加減乗除が成立するという数学の体系を垣間見せることである。もう一つは,文字式が数の一般化されたものであることを活用して,数の関係を証明させることである。ここでは,後者を中心として学ばせたい。

 そこで本時は,まず,生徒が考えたくなるような自由度の高い課題を与え,「自ら見つけた」という意欲付けを図る。次に,「なぜ,そのようなことが全ての数でいえるのか」と投げかけることで,直観で考えた規則に,文字式で理を与えることを考えさせる。さらに,自分の考えを相手に伝える体験を持たせ,そのやりとりの中で,説明の言葉や内容を研ぎ澄ましていく。このような活動の中で,文字式を使いこなす力をつけさせたい。

3.授業の実際

【資料1
 実際の授業では,まず,「平方数」という用語を復習した後,表を完成させた。そこで,「何か気づくことないか?」とたずねた。本校の生徒は,このような問いかけ方をすると,「何かあるに違いない」と感じる習慣が身についており,個人で表と向き合い始めた。この段階では,課題の設定が「表」となっていたせいもあり,関数的な見方から,平方数の増加量に着目をしている生徒が多かった。

 右は,生徒Aのワークシートの一部である。この生徒も,課題の表の下に増加量を確認した後がある。また,「最初から2ずつたしていく」と書いてあるのは,平方数の増加量のことである。

 ある程度時間をおいて,気づいたことを発表させた。この学級では,平方数の増加量については,「増加量の増加量(第二階差)が2であること」なども,言い方は違っても同じ内容であることをおさえ,「ア 連続する数の平方数の差は奇数である」とまとめた。ワークシートの【友達の考え】にかいてあるのは,この板書を写したものである。

 続けて,他に気づいたことを発表させた。ここで,生徒Aが自分のワークシートに書いてある左上の考え方を発表した。言い方が難しかったので,この生徒は,小さい数を「△」,その平方数を「○」,連続する数を「☆」とおいて,「☆」の平方数との関係「☆の平方数=△+☆+○」を発表した。多くの生徒は,「えっ?」と言うような表情を浮かべた後,「本当かな?」と数の関係を調べ始めた。「本当だ」「すごい」のような生徒の声を受けて,この生徒Aの視点の持ち方を評価し,「イ 連続する2数と小さい数の平方数の和は,大きい方の数の平方数に等しい」とまとめた。

<見つけた規則を級友に説明する>
 生徒は,この段階から「もっと他にあるはず」「人の気づいてないものを探そう」と意欲的に,自分なりの規則を見つけ始めた。

 ある程度の時間をおいて,「友達と話し合ってもよい。ただし,自分の見つけた規則を分かりやすく相手に説明すること」と指示した。相手に分かりやすく表現することが,数学の力を伸ばす一つの要素になると考えているからである。あちらこちらで,写真のように話し合う姿が見られ,時々「すごい」「本当だ!」の声が聞かれたのが印象的であった。

 しばらくして,他の規則を発言させた。そこででてきたのが,先のワークシートにある「ウ 1つとばしの数の積に1を加えると,その間の数の平方数に等しい」である。まだまだ,発表し足りないという生徒の感じを残しながら,証明へと移った。

 次に,「なぜそうなるのか」を考えさせた。すべての数について成り立つことを言うためには,文字による証明が必要になることを確認し,「ア 連続する数の平方数の差は奇数である」を使って,教師主導で証明の書き方を確認した。数式の文字式による証明が最初の時間となっており,書き方の指導が必要であったからである。

 続けて,「イ」「ウ」についても類題として,取り組ませた。遅れがちな生徒には,「何を文字におけばよいのか?」などと問いながら,個別指導にあたった。途中,早くできた生徒には,「自分が見つけた規則を証明しなさい」と指示を出した。最後に,数名の生徒に「イ」と「ウ」の証明をかかせ,全員で証明の書き方を確認した。各自で見つけた規則の証明については,「数学レポート」として,後日提出してもよいことを告げ,授業を終えた。

<感想1
<感想2
 右は,授業を終えての生徒Aの感想である。最初に,「数学すばらしいじゃないですか!」と書いている。この生徒にとって,この課題で,ただ単に「2乗しているめんどい数」にも複雑な関係があり,自分が規則を見つけた喜びと,人から教わった新鮮な驚きを感じたのである。さらに,自分が見つけた規則を証明することができ,「すごい数たちです」と結んでいるのである。

 右は,他の生徒の感想である。規則を証明することにこの生徒は抵抗を感じていたが,「案外1コとけると次から楽にとけました」とかいている。証明の書き方のパターンを前時に実施していれば,すべての生徒が自分の見つけた規則を証明できた可能性を感じるのである。

【資料2
 右は,他の学級の生徒のワークシートの一部である。この生徒は,自分の考えを表現するのに,具体数をあげ,「<例>」として表現している。このことも,自分の考えを伝えるためには必要な手段であり,評価される。このワークシートから,他の学級での活動の様子もご推察いただければ幸せである。

 でてきた生徒の意見を教師がどう数学的に価値づけるか,発言した生徒の表現をどう学級で研ぎすましていくかが,この授業の難しいところでもあり,教師の力の見せ所でもある。

4.本時の学習指導

指導案につきましてはこちらをクリックしてください。

5.おわりに

 今回の授業は,式の計算の利用の2時間目に実施した。前時は,「道幅一定の面積は,道幅の長さとセンターラインの長さの積である」という,図形の証明への活用を実施した。数式への活用は最初の時間であり,どうしても証明の書き方の指導を入れなければならなかったことが悔やまれる。それがはいることで,「生徒が見つけた規則を皆で楽しむ」「自分が見つけた規則を相手に理づめで説明する」という二つの活動が中途半端に終わってしまったからである。次回の実施では,この点を改善して望みたい。

 今回は,「○○であることを証明しなさい」ではなく,自ら見つけた規則を自分で証明するところにポイントがある。このような教材の提示方法は,教師の考え方ひとつでつくられるものである。例えば,「奇数の並びから規則を見つけよう」とするだけでも,数の関係の見方を2数・3数・4数…というように数の個数に着目したり,たす・ひく・かけるなどの演算に着目したりするなど,目のつけどころを変えることにより,多くの規則を見つけることのできる課題となる。例えば,単純に2数の差に着目した場合は,「増加量2」という規則しか見つけることができないが,差を和にかえたり,積にかえたりすることで「たすと4の倍数」「積に1を加えると2乗の数」という規則を見つけることができる。さらに,2数を3数にふやすと,まん中の数と両端の数の関係を見つけることもできる。また,数の並びを偶数や自然数に変えて発展させても,多くの規則を見つけることのできる課題へと発展する。

 本校では,生徒たちにこのような,直観に理を与える経験を繰り返し積ませることで,現実の場面でも,論理的に考えることを楽しみ,相手に自分の考えを理論整然と表現できる生徒になることを願っている。そのためには,「思わず考えたくなるような」教材開発と共に,生徒の思考を促す教師の指導技術も向上しなければならないと感じている。

前へ 次へ

閉じる