授業実践記録

地域の自然を数学の題材に取り上げる
兵庫県豊岡市立竹野中学校
吉岡 久幸
1. はじめに

 竹野中学校のある竹野町は,山・川・海などの美しい自然環境に恵まれ,夏の海水浴場をはじめとして観光地として栄えてきた。環境教育の重要性が高まっている今日,自然豊かな地域に位置する本校では,海の環境教育実践推進校として,特に海の環境教育の研究を主眼に置いた取り組みを行っている。
 数学の時間にも,「竹野浜の自然」を題材に取り上げ,数学的に竹野の自然を解析することにした。そして,地域教材を取り上げ,体験的な学習を取り入れることで学習意欲を高めたいと考えた。学習内容は,中学校3年生で学習する「図形と相似」で,竹野海水浴場の浜辺から,沖合に設置されたテトラポットまでの距離を実際に測り,縮図を使って計算した値と比べることにした。

2. 授業を実施するまでの準備

 (1) 竹野浜からテトラポットまでの距離の実測とビデオ録画

7月上旬に,ロープを使って実測し,その様子をビデオ録画した。波がなく潮の流れのない日を選んだが,予想以上に苦労もした。目測で予想したよりも距離が長くて準備したロープが足りなくなったり,また切れてしまったりして,泳ぎに来ていた人に助けてもらうというエピソードもあった。
 以下の写真はビデオで編集した映像の一場面である。

浜辺からテトラポットまで泳いでロープを渡した。 1回目は,ロープの長さが足らず,2回目は,泳いでいる途中にロープが手からはなれてしまった。 近くを泳いでいた人に2回も助けてもらった。

波がなく潮の流れもなかったので,ロープをピンと張ることができた。 最後は,ロープをはさみで切って,テトラポットまでの距離をロープの長さを測って求めた。 <測定結果>
距離は,予想したよりも長い106.4mになった。

 (2) 縮図をかくために角度を測定

三角形の縮図をかくため,浜辺の基準線とその両端とテトラポットを結ぶ線とがなす2つの角の角度を測った。測定には教室で使う大きな分度器を使った。

浜辺の基準線は,海岸線と平行に30mの長さをとった。 大きな分度器を利用すれば簡単に角度が求められる。 慎重に角度を計測した。測定結果は,94°と71°になった。

 (3) 正しい作図ができているかどうかを確かめるためのプログラムの作成

 生徒が作図をしてテトラポットまでの距離を予想するが,作図から正確に求められているかどうか確かめるため,Visual Basicで理論値を求めるプログラムを作成した。
 左図は,理論値を求めたフレームである。a°に生徒が実測した94°を,b°に71°を代入すると109.2mになる。
 これとの比較で,生徒の作図が正確にかけているか確かめることができるようにした。



3. 授業の指導の過程

  学習活動 支援・指導上の留意事項 評価項目等

竹野浜の美しい自然環境を知る。
縮図を利用してテトラポットまでの距離を求める本時の目的を知る。
竹野の自然環境の美しさを実感させる。
実際にテトラポットまでの距離を測った映像を見せて,計測の難しさを知らせる。
 

縮図を使って間接的に求める方法を知る。
1) 分度器の利用のしかた
2) 縮図上での基準線のとり方
1辺とその両端の角度がわかれば三角形が1つに決まり,その縮図がかけることを知らせる。
 
縮図をかき,APの長さをものさしを使ってできるだけ正確に測る。
実測した結果を示す。
∠A=94°,∠B=71°
AB=30m


縮尺1/1000を理解させ,線分ABを3cmとして作図させる。
線分APの長さは,目分量で1/10mmまで計測させる。
正確に縮図をかいてAPの長さを求めることができる。
(表現処理)
求めたAPの長さを1000倍し,テトラポットまでの距離を予想する。
   
班の中で,各自の予想した距離を発表しあい,その平均を求める。
コンピュータで理想的な値を求め,縮図で求めた値と一致するかを検証する。


直接に計測できない2点間の距離においても,縮図を利用することで求めることができることを確認する。
テトラポットまでの距離を実際に測ったロープの長さを示し,作図で求めた値とほとんど変わらないこと示す。
 

 身近な事象を題材にしたことで生徒が意欲を持って取り組む姿が見られた。そして,生徒たちは次のような感想を述べた。
 ・  僕は60〜70mぐらいだと思っていた。夏に泳いだときもそんなに遠くに感じなかったから,100m以上もあったのには驚いた。
 ・  泳がずに距離が測れることに驚いた。数学のおもしろさがわかった。
 ・  コンピュータで計算したのと実際に測ったのでは誤差があったけど、けっこう正確だったのですごいと思いました。角度が少し違っただけでも距離が変わってくるので、三角形を正確にかくのは難しいと思いました。


4. まとめ

 今回取り上げた教材は,教科書で扱われている縮図を利用する内容に,数学的活動を積極的に取り入れたものである。そして,総合的な学習の時間に地域教材のデータを集め,それをうまく授業の中に組み入れることができた。また,自分たちの活動を映像で見せたことで,生き生きとした表情で授業を受ける姿が見られた。
 事後の授業研究でも,自分の体を使っての学習は記憶に残ることである。是非数学の時間にも,このような時間を設けたいという意見があった。そして,この活動が,普段の生活の中に疑問を持ち,探求する力を培うことにつながるのではないかという仮説を持つことができた。
 筆者自身この授業作りの中で,いくつもの発見をすることができた。

(1)  簡単な道具でも,やり方次第でかなり正確な測量ができること。
(2)  巻尺は,金属製のものでない限り,引っぱる力によってかなり測定の数値が変わること。
(3)  生徒たちが泳いだときの経験や目測などから予想した距離と実際に測定した距離とが大きく違っていたことから,大きな自然の中では,距離感覚は悪くなること。

などである。
 1時間の授業をするために,十数時間も時間をかけたように思うが,筆者自身が数学の面白さと楽しさを感じたことが何より収穫であり,数学的な活動の必要性も再確認することができた。

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