授業実践記録

少人数学級による習熟度に応じた指導〜基礎的・基本的な内容の確実な定着を目指して〜
千葉県松戸市中学校
1. はじめに

 日常の教科指導の中で,困っている点は生徒の「学力不振」である。5年ほど前までであれば学力不振と言っても,文章題や応用問題などといった「苦手意識」からくるものがその大半を占めていた。数学の問題を解決する時,その与えられた文章の意味が理解できないとか,等しいものを発見できなかったり,立式に対する苦手意識が,数学をより困難な教科として意識させていたに違いない。また,授業をしていても,生徒の一番のつまづきはその部分であった。
 しかし,いま授業の中で感じるのは以前の「学力不振」とは違い,数学の基本となる計算力の不足である。現在本校の3年を担当しているが,各学級に九九が正確に言い切れない生徒が2人から3人もいるのである。またそれが分数の計算になると各学級で5人にも増えるのである。この現状では数学の良さや楽しさを理解させるどころではない。毎日の授業の中や,テスト前の補習授業を活用し基本的な計算力の向上に努めているが,改善されていない現状である。そのため,少人数に分けることにより基礎からの内容の確実な定着を第一に考えていった。

2. 習熟度別による本校の実践

 本校の生徒は,基礎学力の点においても,家庭学習や定期考査の取り組みの姿勢・意識においても大きな差がある。そのため,授業のレベルを設定しようとしても,必ずお客さん的な生徒が存在してしまうのが現状である。昨年度は2,3年をT・Tで行ったが,T・Tでは解決しきれない問題が多く,また,数学専門でなかったこともあり,その成果がとてもあったとは言い切れないものであった。
 本校で習熟度別授業を実践するにあたり,苦慮したことは,差別感が生徒や地域に意識されてしまうと懸念されるという点であった。そのため,定期テストや小テストなどによりその点数のみで学級分けを実践することは妥当ではないと考えた。どうすれば,生徒が主体的にコースを考え,自分の力(基礎学力)を向上しようと考えてくれるかという考えに立って,次のような実践に取り組むことにした。また,昨年度以上の効果を目指して,少人数学級での授業を試みた。
 実際に本校の実践が習熟度別授業と呼べるのか疑問が残るが,1学級を3つに分ける形態と2学級を3つに分ける形態で実施した。それぞれのコースにおいて,次の約束事を設けた。

 ○生徒が自分で考えたコースを第一優先とする。
 ○コースについては学期に1回ぐらいの変更を考え,自分がどのコースに行ったらいいかわからないときは,必ず数学科の先生に相談する。
 ○生徒指導上の問題など考えなくてはならないことも配慮して,学年担当の数学科の意向も考慮に入れる。

 テスト結果や小テストの結果で能力別に分けるのではなく,本人の希望を第一優先させることによって,差別感や違和感をなくすようにつとめた。そのことで「教育の平等」の原則に反するのではないかとタブー視されてきた習熟度別授業の実践までこぎつけた。
 今年の実践の中で,一番考慮したのはコース別授業の進度である。差別感を一番感じるのは,同じクラスの生徒が違う授業内容や違う進度で授業を進められてしまうことであり,そのような状態になってしまうと差別感や違和感を増してしまうだろうと考えた。そのため,2,3年生の授業については,同一の学習プリントを用意し,実施していき,進度の基本ラインを押さえ,定期考査については同一の範囲とした。
 そのため,進度や授業内容についても次の約束事を決めていくことにした。

 ○定着を計る問題については,教科書,問題集等を活用する。
 ○学習プリントは基礎問題を中心に作成していく。
 ○基礎的な学力の向上を基本に考え,授業で扱うプリントについては共通のものを使用する。
 ○その学級の力と進度に応じて,発展は作成したプリントの内容にとどめておく。

 これらの約束事を教科内で何度も確認し,4月のスタートを切ることができた。その実践方法を具体的に次のようにした。

 [3年生] ・1学級を3コースに分けて授業を行う。
 ・1コース13人程度の予定。

 [2年生] ・2学級を同時展開とし,3コースの授業を行う。
 ・1コース23人程度の予定。
 習熟度別担当者は学年の意向,教科部会内の話し合いを総合して決定する。

 [1年生] ・通常の授業形態で行い,T・Tの協力を他教科の先生に仰ぐ。

 3つのコースについては次のように生徒たちに説明した。

 (1) 実力完成コース : Great Gコース
 実力完成コースでは,簡単な説明のあとに自分で問題集を進められる人を対象に授業内容を決めていきます。予習や復習などがしっかりとできる人,レベルの高い問題にチャレンジしていきたい人におすすめです。

 (2) 重要事項習得コース: Training Tコース
 重要事項習得コースでは,今までの授業と同じようなペースで進めていきます。今までの授業の形態や学習方法で充分に力がついたと思える人は,このコースがおすすめです。

 (3) 実力養成コース: Origin Oコース
 実力養成コースでは,今までの授業の方法では時間が足りなかったりしていた人たちのためのコースです。苦手だけど力を付けたいと思っている人を対象に授業を進めていきます。基本的な問題を完全に習得したい人におすすめです。

 親向けにも生徒と同じプリントを配布し,保護者と地域の理解を得ることにつとめた。また,親子で相談をしてコースの希望を考えさせることにより,生徒の実態を親としても考えさせ,その生徒の身につけさせたい力や親としての希望も配慮することにした。

3. 指導実践

(1) 題材名

「平方根」

(2) 題材観

 数学というと計算が多く,文章も難しく,生徒の中には「苦手だ」とか,「嫌いだ」というものも少なくない。そのなかでも特に苦手意識を高めている単元が,平方根ではないだろうか。今まで使ってきた数とは違い,未知の数についての学習にかなりの抵抗も見られる。そのため本単元においては,平方根の持つ規則性や,既習事項との関連に注目させながら学習を進められるように考えた。
 平方根の持つ規則性は文字式のきまりや同類項の計算と類似しているところが多い。そのため基礎的な内容として,文字式の計算まで復習していけると考えている。また,未知の数という認識を実感していけるように,実際の長さや大きさをイメージさせ定着させていきたいと考えている。電卓や正方形の面積からという数について今までの学習してきた数では表せない数であることをコース別に生徒に理解させていきたい。

(3) 生徒の実態

 〔男子 20名, 女子 17名 : 合計 37名〕
 明るく,活発な学級であり,数学に対する学習意欲は高い。数学に対する関心は高く,どの生徒も熱心に取り組む。

〈 Gコース : 男子 5名, 女子 4名 〉
 自分で課題を見つけ黙々と進める生徒が多く,落ち着いた雰囲気の中で授業を進めている。

〈 Tコース : 男子 7名, 女子 8名 〉
 自分で進んでとまではいかないもののかなりの力を身につけてきた。課題を理解しようとする姿勢が高く,集中して取り組むことができる。

〈 Oコース : 男子 8名, 女子 5名 〉
 九九がまださだかでないものが男子で2名,女子で3名程度いる。分数にいたっては,加減乗除の違いときまりが理解できずに,かなり苦手意識が強い。

4. 指導目標

 (1) 根号を含んだ数の存在を理解する。

 (2) 根号を含んだ数の近似値を求めようとする。小数では2乗しても整数値にならないことを理解する。

5. 本時の指導

●Gコース
時配
(分)
学習内容と発問 学習活動 指導上の留意点(◇)と評価(◎)
15 [課題提示]    
   次の面積になる正方形をかいてみよう。また1辺の長さを求めなさい。
1 cm2 cm4 cm5 cm
8 cm9 cm  
個別にヒントを与える。
   
方眼紙にそれぞれの正方形をかく。
正方形についてはグラフ黒板で確認していく。

課題に適合するような正方形をかこうと努力したか。
(関心・意欲)
 また,かくことが出来たか。
(表現・技能)
20 [課題解決]
1辺の長さを電卓を使って調べてみよう。

2乗して2,5,8になる数を電卓を用いて確認していく。
1.414・・・
2.236・・・
2.824・・・
キーは使わせない。

電卓により確認し,もうこれ以上簡単には表現できないことがわかる。
(数学的考え方)
今までと違う小数が現れた。そこで2乗して5になる数をつくった。それがである。
近似値を実際に求めていく過程の中で,今まで活用していた小数との違いに気づく。
得られた数を平方してもとの数が得られるとは限らないことを理解する。
(数学的考え方)
 
式で考えるとxa を解くことである。
定義:xa となるときxa の平方根という。
 
[適応]
 x = □ 4,9,5
[まとめ]
 
 
25の平方根は,+5と−5である。
5の平方根は,+と−である。
2乗になっていない数についてを用いる。
10 [問題演習]
プリントを活用し問題を解く。

プリントの問題に取り組む。

個別指導し,学習内容を徹底する。

●Tコース
時配
(分)
学習内容と発問 学習活動 指導上の留意点(◇)と評価(◎)
15 [課題提示]    
   いろいろな正方形をかき,1辺の長さを求めてみよう。
個別にヒントを与える。
   
方眼紙にいろいろな正方形をかく。
正方形についてはグラフ黒板で確認していく。
20
正方形の1辺を実際に定規で測って,およその数を確かめてみよう。
面積が2cmの正方形の1辺:およそ1.4cm
面積が5cmの正方形の1辺:およそ2.4cm
面積が8cmの正方形の1辺:およそ2.8cm
方眼紙を活用し,長さから違いに気づかせていく。
いろいろな正方形をかこうと努力したか。
(関心・意欲・態度)
 また,かくことができたか。
(表現・技能)
実際の長さを確認し,小数であることの確認をする。簡単には表現できないことがわかる。
(数学的考え方)
得られた数を平方してもとの数が得られるとは限らないことを理解する。
(数学的考え方)
[まとめ]  
 
2乗して になる数を の平方根という。
25の平方根は,+5と−5である。
5の平方根は,+と−である。
2乗になっていない数についてを用いる。
10 [問題演習]
プリントを活用し問題を解く。

プリントの問題に取り組む。

●Oコース
時配
(分)
学習内容と発問 学習活動 指導上の留意点(◇)と評価(◎)
今日から新しい単元に入ります」
新しい単元の学習であることを確認する。
教科書で確認する。
 
xa となるとき,xa の平方根という。
 
10 [課題提示1]
次の数の平方根を求めてみましょう。
1625
4981100 


定義にしたがい,練習問題を考える。

定義を把握し,定義にしたがって平方根を求められる。
(知識・理解)
机間指導を行って,答え合わせをする。
 
平方根には正負の2数があることを理解させる。
答え合わせを通して,平方根にはそれぞれ正負の2数があることをつかむ。
平方根には正負の2数があることをつかめたか。
(知識・理解)
  [概念の定着化]
平方根を求めるには,面積がa の正方形の1辺の長さx を求めるとすると考えやすい。

平方根を求めるには,a を正方形の面積,x をその1辺の長さとすると考えやすいことを理解する。
 
20 [課題提示2]
次の平方根を求めてみましょう。
 2  5

面積がそれぞれ2,5の正方形をかき,長さを測る。

面積2と面積5の正方形をかくことができたか。
(興味・関心,技能)
 
正方形をかき,長さを測ってみましょう。
 
机間指導を行って,指導,助言をする。
 
平方根が求められたら,平方してみましょう。
得られた値を平方し,5にはならないことを知る。
作図ができた生徒には,平方してみるよう指導する。
は存在はするが,正確に測れないことを確認する。
[まとめ]
平方数ではない平方根は,を使って表す。
平方数ではない数の平方根はを使って表現することを理解する。
 
10
まとめの問題を行う。
まとめの問題を行い,平方数とそれ以外の数の平方根を表現する。
机間指導を行う。

6. 成果と課題

 ○ 2年生の授業では,2学級を3つに分けたため,コースごとの人数差が大きく,当初1学期間で変更予定だったが,単元ごとに変更しなくてはならなくなってしまった。1コースが1学級以上の人数になってしまい,少人数とは呼べなくなってしまったコースがでてきたからである。単元に入る前に,単元の基礎的な内容について学習確認を行ってからコース希望をとったせいか,自分の実力よりも下位のコースを選ぶ生徒などが多かったが,次のコース分けではその目安が理解され,人数もGコースやTコースに集まるようになった。
 生徒の実力を上げるため,2年生では,Oコースの人数を減らし,個別学習を中心に進め,苦手意識を減らしていけるように配慮できたのがとても良かった。コースの下位基準がはっきりしているため,生徒も質問しやすく,わからないところを進んで聞けるようになってきた。

 ○ 3年生での取り組みは,1学級を3つに分けたため,どのコースとも最大15名を越えることなく,生徒たちのひとり一人にかけられる時間数も増え,内容の定着は前年度以上にはかられたと考えている。3つそれぞれのコースにおいて,目標が1つに決まっており,コースごとに内容の定着や,発展課題に取り組むことができたので,全体としては力が付いたと考えている。ただし,単元によって従来の学習スタイルで取り組むとか比較することができないため,データとしての裏付けは取れないでいる。
 G・T・Oのそれぞれのコースが自分が希望したコースであることもあって,当初考えていた差別感などもあまりなく,j授業を進めることができた。平方根の学習では,導入についても3つのコースそれぞれの実態に応じた内容で取り組み,電卓を使用しての展開や面積図による導入など工夫が見られた。授業内の机間指導を中心に個別指導を行って,ひとり一人の生徒の力を高め,個に応じた学習課題を与えることにより,意欲を高めることができたと考えている。

 ○ 同一のプリントを使用しての同時授業形態で進度を一定にし,いつでもコース替えに応えることができるように配慮したことは,とても良かった。ノート整理においても,板書に要点をまとめ,視覚的なノート作りを指導していった。また,見れば復習のできるノートを作成するために,模範となるノートを紹介したり,プリントで指示をしたりした。

 ○ 教材の精選を考えることはもとより,その内容をどう理解させ発展していくかということを目標にしてきたが,基礎・基本の定着が浅いために,どうしてもドリル的な内容で時間をとってしまわざるをえなかったことが課題として残っている。
 さらに,同一のプリントの作成や,プリント終了後の演習時間の設定,評価についてなどコースによって難しい面があり,進度をそろえての授業実践などかなり無理をした単元があったのも事実である。また,この形態にすることは教員の持ち時間数を増やすという学校運営面での問題も残っている。

 ○ 生徒がいかに,課題意識を持って参加することができるか。そして,それがいかに継続していけるか。そのことが今回の少人数,習熟度別学習につながると考え,実践に踏み切ったが,そのことに大きく影響を与えるのが,教師側の授業に対する思い,そして授業スタイルの確立である。それは,生徒側も授業への参加の仕方がわかるものでなくてはならない。それと同時に,生徒理解も学習構造を作る上で,不可欠なものである。入れ替え確認を単元ごとに行う,という原則で進めていった結果,生徒の様々な側面を発見できると同時に,教科部会の充実にもつながっていった。
 教師自身も気軽に授業を見せ合うことができる雰囲気も作られてきたと確信している。教師自身の力量を高めることも含め,今回の授業実践を学校全体として今後も取り組んでいきたい。
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