授業実践記録

考える楽しさを実感できる授業の工夫〜三角形の合同条件を見いだす授業の実践〜
富山県高岡市立志貴野中学校
中林 雅史
1. テーマについて

(1) 生徒の実態

 中学生の学力低下が叫ばれるなか,特に数学科においては,「授業がわからない」ことからやる気をなくしていく生徒が何人かいた。宿題をやってこない,ノートをとらない,授業に集中できない状態であった。そこで,数式や関数分野で基礎・基本を徹底する授業を工夫したら,「わかる」という成就感をもち,学習意欲を高めることができた。ただ,考える楽しさを味わったり,自分の意見をもって発表したりする経験が乏しいため自ら進んで学習しようとする意欲までは高めることができなかった。そこで,課題の与え方を工夫することで,考える楽しさを味わい,自分の考えを積極的に述べようとする生徒を育成したいと考えた。

(2) 教材観 「合同な図形」

 2年生の数学では,平面図形の性質を三角形の合同条件などを基にして確かめ,論理的に考察する能力を養うことが目標の1つである。その基になる三角形の合同条件を三角形の決定条件として,直感的,実践的に確かめさせたいと考えた。特に,三角形の3つの辺,3つの角の6要素のうち,3要素で合同かどうかを判定できることを理解させたい。また,合同条件にあてはまるとは限らない(三角形が2通りできる)場合を考えさせることも,今後,学習する証明問題を解く際に理解が深まると考える。

2. 実践のねらい

 課題の工夫や,簡単な教具の作成,操作活動に配慮すれば,自分なりの考えをもって課題に取り組み,考える「楽しさ」を味わうことができると考える。

3. 授業実践

(1) 実践内容   「三角形の合同」  (本時は2時間扱い中の第1時)
(生徒数40人で2人のティームティーチングによる授業)

(2) 本時のねらい
1)  三角形が1通りに決まる場合を見つけ,合同条件と結びつけることができる。
 三角形が1通りに決まるかどうかを考える場面で,条件を教師から提示するのではなく,生徒に見通しをもたせ,考えさせることで,合同条件を自らつくりあげる楽しさを味わわせる。

2)  自分なりの考えをもって課題に取り組み,説明するおもしろさを実感する。
 条件の選び方が約20通りある。それを考えさせることで多様な考え方があることに関心をもち,自分の考えを積極的に説明しようとしたり,友達の説明を意欲的に聞こうとしたりする態度を育てる。

(3) 配慮事項

  配慮事項 本時の授業 改善理由






I
課題で使用する三角形の形はどのようなものがよいか。
鈍角三角形を与えた。また,各辺の値が整数になるようにした。
 AB=10cm
 BC=8cm
 AC=5cm
2辺とその間ではない角を選ぶと三角形が2通りできる。新たに見つける三角形は,普段よく使う鋭角三角形のほうが生徒にとって理解しやすいと考えた。






II
三角形の条件をどのように与えたらよいか。
辺や角をかいた6種類の情報カードを用意し,それを選んでワークシートにかき写すことにした。
カードの裏に数値を書き,それをめくることで,条件を3つだけに限定することができると考えた。






基礎学力が身に付いていない生徒に対する手だてはどうあればよいか。
2が事前に把握した実態をもとに,個別指導の必要な生徒につききりで指導を行う。
数学的な考え方を育てたい場面では、個々の能力に応じた指導が必要であると考え,役割を完全に分担した。






多様な考え方をどのように広めればよいか。
意図的に指名する。また,発表者には説明させながら,図をかかせる。
三角形の辺や角を選ぶ際に,その選び方が数多くあるため,分類しながら板書し,発表させることで合同条件が理解しやすくなると考えた。

(4) 展開と生徒の活動

 下の写真のように,裏に辺の長さや角の大きさを書いた6枚のカードから三角形が1通りに決まりそうなカードを3枚選ぶ。選んだ3つの条件を使い,コンパスや定規,分度器を用いて封筒の中に隠されている三角形と合同な三角形を作図する。


学 習 活 動 指導上の留意点・評価
1. 合同の意味を実物を使って確認する。

[課題]
 封筒の中に三角形が入っています。これと合同な三角形をコンパス,定規分度器を用いてかいてみよう。
合同の意味を確認することで本時の課題を把握しやすくする。
2. 合同な三角形をかくには,どんな条件が必要か考える。
最低いくつ条件が必要か考える。
鈍角三角形を使うことで,次時の学習を理解しやすくする。

必要な条件を選択させることにより,三角形をかく手順の見通しをもたせる。
3. 6枚のカードから3枚を選ぶ。
選んだカードの裏に書かれた値をワークシートに書き写す。
6枚のカードから,3枚より少ない場合はかけないことをおさえておく。
       辺ABと辺BCと辺CA
Aと辺ABと辺AC
など
ワークシートを準備し,課題に取り組みやすくする。
4. 選んだ条件で合同な三角形をかく。
〈予想される生徒の反応〉
3つの合同条件にあてはまるものをそれぞれ選ぶ。
3つの角を選ぶが,図形の大きさが定まらずできない。
2辺とその間でない角を選ぶが,2種類の三角形ができる。
1辺とその両端でない角を2つ選び計算によって残りの角を求めてかく。
生徒がどの条件を選んだかメモし,発表の場に生かす。(T1

全員が作図を完成し,「できた」という成就感を味わわせるように,時間や助言を工夫する。(T2
〈例〉
定規,コンパス,分度器の使い方を教える。
かけない条件を選んだ生徒には,3つ目の条件に必要な条件は何かをいわせる。
5. 封筒の中の三角形と自分のかいた三角形を重ね合わせ,合同であるか確認する。
 
6. かき方を発表する。
3辺を選んだ生徒の発表
2辺とその間の角を選んだ生徒の発表
1辺とその両端の角を選んだ生徒の発表
3つの三角形の合同条件にまとめるため,事前に調べておいた生徒の選んだ条件をもとに,意図的に指名する。
辺と角の位置関係に着目させることで,たくさんあるパターンをまとめる。
7. 次時に行う学習内容を確認する。
選んだ条件では三角形をかくことができなかった例について考える。
2辺とその間ではない角
1辺とその両端ではない角
など
 

(5) 考察

鈍角三角形を用い「2辺とその間でない角を用いた場合,三角形が2つできる」ということを理解させた。本時の課題は鈍角三角形で,新たに見つける三角形が鋭角三角形のだったので,多くの生徒は「あっ,そうか。」という反応を示した。

予想をたて,その予想を確かめるため6種類の条件から自分で選択し,それを確かめるという問題解決的な学習過程を組んだ。全員進んで学習に取り組んだ。また,6種類の条件の中から合同になるための条件を自分で選ばせた。発表の際には,他の条件にも興味をもち,友達の説明をいつも以上に真剣に聞いていた。特に,「角度が3つ」や「2辺とその間ではない角」を選んだ生徒の発表では,それぞれ自分の考え(コンパスを使えば合同な三角形をかくことができるはずだ,その条件では三角形はできない)をもって真剣に説明を聞いていた。



数多くの考え方が出て,一人一人の生徒への対応が大変になった。あらかじめ,2人の教師の分担を明確にしておいた。全員の生徒が合同な三角形をかくことができた。また,T1は生徒の意見を机間指導中にまとめることができた。

 
と協力して生徒がどの条件を選んでいるかを座席表に記入しておき,発表の際に意図的に指名した。黒板に合同条件を分類してまとめた。約20通りもの条件がある中で,全員の生徒が3つの合同条件を理解した。三角形が1つに決まるか決まらないかということを考えている生徒も8割程度いた。
◎は合同条件にあてはまらないもの

4. 成果と課題

(1) 成果
作図する三角形が目に見えないよう封筒の中に入っているという課題設定が,生徒たちの興味を引いていた。
20通りも条件の選び方のある課題を与えたことで,数多くの考えを引き出すことができ,生徒の学習意欲を高めることができた。また,他人の意見を聞きたくなる,考えてみたくなるという気持ちにさせることができた。
鈍角三角形を利用して課題の設定をする,Tが授業のなかでつまずきにすぐに対応するなど,生徒にわかりやすい授業を展開することで,生徒は自分の課題に真剣に取り組むだけでなく,他人の意見を真剣に聞こうとする態度が見られた。
分類したり,作図をしながら発表させたりすることで,理由をつけて説明することに少しずつ抵抗がなくなってきた。
「もう少し難しい問題を与えてほしい」と発言する生徒も現れた。

(2) 課題
まだ,自分の意見をはっきり述べられない生徒もいたので,今後,班での教え合いや発表の仕方を練習する場面を設定していきたい。

5. おわりに

 三角形の合同条件を見いだす場面で,考える楽しさを実感できる授業を実践したことで,生徒たちの数学に取り組む姿勢が前向きに変わってきた。現在,2年生の数学では「合同条件を使った証明」を行っているが,難しい問題を説明しようとしたり,様々な角度から課題に取り組もうとしたりする生徒が増えてきたように思う。考える楽しさを味わうことで,数学に対する意欲をさらに向上させることができると考えられる。
 今後も生徒の実態を把握しながら,自ら課題を解決していこうとする意欲を引き出せる教材研究や指導過程の工夫をしていきたい。

前へ 次へ

閉じる