授業実践記録

平面図形の位置関係〜作図ツールを用いた平面図形の考察〜
長野県中学校数学教諭
1. 授業の位置付け

 平面図形について,図形に対する直観的な見方や考え方を深めるとともに,論理的に考察する基礎を培うために,作図ツールを用いた平面図形の観察,操作や実験を,1学年「平面図形」の学習に位置づける。

2. 教材化

 (1)  図形領域における本単元の位置

 3年間の図形領域の学習でつける力は,「論理的に考察したり表現したりする能力」である。図形領域の学習の入り口となる1年では,図形の構成の様子を判断できるようになって欲しいと願い,「位置関係を見抜く力」を育成したいと考えた。

 (2)  単元に寄せた教材化

 1)  身の回りに見られるマークを分類する

 生徒に,身の回りに見られる様々なマークを分類させる。例えば,線対称な図形だと判断して,図1の13を一つの仲間と考えた場合,線対称だと判断した思考の過程を振り返らせると,念頭操作で行っていた行為を具体的な活動に置き換えて「二つに折るとぴったり重なるような線(対称軸)があるから」などと説明する。

 次に,線対称であると判断した図形について,紙を折らずに線対称であることを説明できるかと問いかける。生徒はまず対称軸を判断し,対応する点同士を結び,対称軸と交わったときの角度や対称軸との交点から両端までの距離を調べる。これにより,線対称な図形に共通する性質として「対応する点同士を結んだ線分は,対称軸によって垂直に二等分される」ことが明らかになる。

 このように,マークを分類し,判断の過程を振り返らせることによって,対称図形の性質を見抜くことができると考える。(点対称についても同様な学習が期待できる)

図1 分類による思考の深まり

 2)  麻の葉模様を動的に観察する

 麻の葉模様(図2)は,最小単位の二等辺三角形(網掛け部)が連続した図形と見ることができるので,最小単位を線対称の軸や点対称の中心を決めて移すことにより,作図することができる。

 図3は,二等辺三角形アをもとに,いずれかの辺や頂点をそれぞれ線対称の軸や点対称の中心にして順次移すことによって作図したものだが,その方法には様々なパターンがあり,作図の過程は判断できない。しかし,を動かしたときに,作図に用いた対称の性質が保たれた状態で他の二等辺三角形も動くとすれば,その動き方や動かした結果を観察することで作図方法が判断できる。

 3)  作図ツールの利用価値

 本単元では作図ツールとして「ジオメターズスケッチパッド(以下GSPと表記)」を用いる。GSPは,作図したときに用いた性質を保ちながら変形させることができるため,作図と変形を通して帰納的な結果を得ることから,図形の構成の様子を判断することができる。

 (3)  本時に寄せた教材化

 図3の二等辺三角形アをGSP上で動かすと,他の二等辺三角形イ,ウも連動して動き,二等辺三角形同士の位置関係を観察することができる。例えば,を横に動かすと,と線対称の位置になっていると予想できる(図4)。この予想を確かめるためにを回転させてみる(図5)。と線分を対称軸とした線対称の位置になっていると判断できるが,と線対称の位置ではなく,点Oを中心とした点対称の位置になっていると判断できる。の関係の説明には,下記の3段階のレベルが考えられる。


 [レベル1]
動かしてみたら点対称だということがわかる。<直観的な判断のみ>

 [レベル2] を回転させると、点Eは常に点Oに対して点Aとちょうど等しい距離で反対側にあり、点Fと点Bも同じことが言えるから、は点Oを対称の中心とした点対称の位置関係にある。
<具体的に対応する点を用いた説明(図5)>

 [レベル3] 線分AEと線分BFをかくと、その交点は点Oと一致し、それぞれの線分の中点になっているから、は点Oを対称の中心とした点対称の位置関係にある。
<線分をかきいれて計測に基づいた説明(図6)>

 1年では、[レベル2]を、互いの位置関係について根拠に基づいて説明できた姿と考える。
 さらに、点Oを点対称の中心としてからを作図した結果、は線対称の関係になっている。場合によっては「の対称軸との対称軸は90°で交わっているので、結局アを180°回してを作図したことと同じで、を点対称に移した場合と同じになっている」という説明も期待できる。

3. 授業の展開(本時は全11時間扱い中の第6時)

学習活動 予想される生徒の反応 ◇教師の指導・援助
1.問題を確認し,追究方法の見通しをもつ。
[問題]
 右の図は,作図した麻の葉模様の一つです。1を用いてどのようにして作図したのでしょうか。
具体的に図形を示しながら,問題を提示する。
学習問題に対する生徒の疑問点や追究方法の見通しを発表させる。
2.友達が作図した麻の葉模様について,もとになる二等辺三角形1を動かしながら観察したり友達と意見交換したりして,位置関係を判断する。
ア.いろいろな作図方法が考えられるから,作図した本人にしかわからないと思う。
イ.14のように,このままの状態では線対称とも点対称ともいえるので,どちらか一つに判断できない部分もある。
 
ウ.1の二等辺三角形を動かしてみれば,それに伴って他の三角形も動くはずだから,判断できると思う。

[課題]
 の三角形を動かしながら変形の様子を観察して,友達の作図方法を調べよう。

〈追究の例〉
エ.1を左へ動かすと,他の三角形も中心から離れるように動く。26はどれも1と線対称の位置に移してあるようだ。
オ.1を回すと,251と線対称になっているけれど,346は線対称になっていない。
カ.12は,線分を線対称の軸とした線対称の位置関係になっている。
キ.14は,麻の葉模様の中心Oを点対称の中心とした点対称の位置関係になっている。
ク.1の位置を変えたり回したりしても,36は,それぞれ25と線対称の位置関係になっている。
ケ.1を動かすと3も動くが,位置関係は見抜けない。
コ.23は,線対称の位置関係になっているから,1を線対称で2へ移し,さらに線対称で3へ移したことになっている。
ウの発言がない場合には,前時の作図した過程を想起させ,二等辺三角形の動きに着目させる。

線対称な図形と点対称な図形の性質を想起する。
既習内容の定着が不十分な生徒には,これまでワークシートを用いて調べさせることにより,対称図形の性質を振り返らせる。
線対称の軸や点対称の中心に着目できない生徒には,特定の三角形について動いたときの軌跡が残るように教師が設定することにより,その軌跡を観察させる。
判断した位置関係について,作成者と意見交換を行わせながら,判断の妥当性を吟味させる。
 
3.追究結果を発表し,1を動かすことによって変わるものと変わらないものがあることをまとめる。
サ.わたしは4を作図するために,麻の葉模様の中心を対称の中心として点対称の位置に移したけど,友達に2を線対称の位置に移したのではないかと言われた。確かにそういう位置関係にもなっていた。
シ.最初はみんな同じ図形だったけれど,動かしながら観察したら,それぞれが違う動きをして驚いた。でも,動かしながら観察することで,三角形同士の位置関係は変わらないことがわかった。
ス.自分が作図した方法はわかっていたけれど,結果としてできあがった図形について,友達と意見を交換しているうちに自分では気づいていなかった三角形同士の位置関係に気づくことができた。
セ.12の対称軸と24の対称軸が垂直に交わっているから,結局180°回したことと同じで,1と点対称にした場合と同じになっている。
「線対称な図形の性質」や「点対称な図形の性質」を組み合わせて作図していることに気づいた生徒を取り上げる。
観察した2つの二等辺三角形について,線対称の軸や点対称の中心の位置を決める。

4. 授業における具体場面

 Aさんは,B君が作図した麻の葉模様について,24はいずれも1を基にして,2は線対称の性質を,4は点対称の性質をそれぞれ用いて作図したのだろう考え,B君と意見交換を行った。
Aさん 2は,線対称の性質を使って1から作図したのですよね。」
B 君 「いいえ,24の線対称です。1213の間の線(図7の)を軸とした線対称として作図しました。」
Aさん 1213の間の線(図7の)で線対称にできるのですか?どうやってできるのですか。」
B 君 4から線対称の性質を使って作図しました。」
Aさん 「あ,そうか。わかりました。でも,位置関係とすれば,わたしの判断も正しいですよね。計測すると線対称の性質がいつも成り立つから。」

図形を動かしたとき,図7の計測値が変わっても対称軸からの距離が等しくなることは,変わらないことを画面上で実際に示しながら説明。
B 君 「そうですね。自分では気づかなかったけれど,言われてみると確かにAさんの判断した位置関係も正しいです。」
教 師 「どのようなことがわかりましたか。」
Aさん 4は合っていたけれど,2は違っていました。」
教 師 「どうして違っていたかのわかりましたか。」
Aさん 2は線対称の性質を使って1から作図したのだと思ったのですが,B君は線対称の性質を使って4から作図したということです。でも,作図のしかたは違っていても,12は線対称の位置関係だということは間違っていないということがわかりました。とても不思議な感じがしました。」

【考察】 Aさんは,ペアのB君の作図方法を見ぬくためにGSPで図形を動かしながら考察した。図8の軌跡で示したような図形の動き方から21から線対称の性質を用いて作図したのだろうと判断したが,B君は4から線対称の性質を用いて2を作図したことを,線対称の軸を示しながら説明した。Aさんは,B君の説明に納得しながらも,自分が判断した位置関係も正しいと言えることを計測値を用いて説明した。

 本単元の学習を終えたAさんは,下記のように感想をまとめた。単なる興味で図形を動かしてみただけでなく,この学習を通して図形を動かしながら観察することによって,図形の位置関係を見抜くことができるよさを実感できたことがうかがえる。


5. 授業の成果と課題

 この授業を通して,主に次のような成果と課題が明らかになった。

 ○問題を解決した後,解決までの過程を振り返らせたことは,結論を導いた根拠を説明させるために有効であることが明らかになった。

 ○作図ツールを利用させ,図形を動かしながら観察させたことは,図形の性質や構成の様子を判断させるうえで有効であることが明らかになった。

 ○観察から生じる疑問を基に,根拠を挙げて説明する必然性がやや弱かった。生徒が証明の必要性を感じて図形の性質を明らかにしていく指導のあり方について検討する必要がある。

 なお,作図のしかたを覚えること,図形の名称を覚えること,面積や体積の求め方を理解することなども大切だが,それ以上に図形を様々な観点をもって観察し,考察する学習は,論理的思考力を育成する上で不可欠である。作図ツールを用いて図形を動的に観察することの効果は,実践を通して少なからず紹介されている。生徒自身が図形を動的に観察しながら,じっくり考えるような授業を行いたいものである。1年の時期にこのような学習を行っておくことが,いずれは論証の力にも影響するものと考えられる。教師自身が研鑽を積み,生徒が意欲的に取り組む授業を目指したい。

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