課題学習数学の指導
星形多角形の内角の和を追究しよう
愛知県小牧市立小牧中学校
石川 学
1. 教材

 「星形多角形の内角の和を追究しよう」(2年)

2. 教材観

 三角形や多角形の内角の和を学習した後で,発展問題としてよく扱われる教材である。星形五角形だけとっても,その形のきれいさで生徒の興味・関心を刺激する教材であるが,その中にかくれている図形の多様さや内角の和の求め方の多様性など,数学的な価値の高い教材である。また,星形五角形を星形六角形,星形七角形,・・・と変化させていくと,その内角の和には規則性を見出すことができる教材であり,生徒たちも数学的な探求活動に意欲的に取り組むことができる課題学習には最適な教材である。

3. 授業の実際

 (1) 単元 第2学年の第4単元「図形の調べ方」

 (2)  単元指導計画

(1) 平行と合同 時間 (2) 図形と証明 時間
 1 平行線と角 3時間  1 証明 1時間
 2 三角形の角 4時間  2 証明のしくみ 2時間
 3 三角形の合同 3時間  3 合同条件と証明の進め方 2時間
本時→ ◆「深めてみよう」:課題学習◆ 3時間

 (3)  本時の指導

学習の流れと発問 生徒の活動と反応 指導上の留意点
【第1時】
1.本時の学習課題を提示する。
 
結び方をしっかり確認しながら点と点を結ばせる。
 右の図のように5つの点A,B,C,D,Eがある。点Aから左回りに1つとばしで点を順に結んでいくと星形五角形ができる。その内角(a〜e)の和をいろいろな方法で求めてみよう。
2. 星形五角形の内角の和を予想する。
星形五角形の内角の和は何度になると思いますか。
星形五角形の内角の和を鉛筆回転法で求めてみよう。
学習プリントに予想した内角の和を書く。
180°
360°
180°になると答える生徒が多いが,それ以外にも,よくわからない,360°等と答える生徒がいる。
鉛筆回転法で各自内角の和を求める。
180°
以前に学習した鉛筆回転法で180°になることを確認させる。
3. 各自で星形五角形の内角の和が180°になることをいろいろな方法で求める。
各自で星形五角形の内角が180°になることをいろいろな方法で求めてみましょう。

三角形の外角の関係を使い,5つの内角を1つの三角形に集めて考える生徒が多い。
クサビ形やチョウチョウ形の特徴を利用して,内角の和を求めようとしている生徒もいる。

内角の和が180°であることから,5つの角を一直線になるように集めようとしている生徒がいたので,その発想を学級全体に紹介した。
既習事項に帰着し,その図形を抜き出したり,補助線を引いたりして考えようとしている生徒が多い。

4. グループ内で星形五角形の内角の和が180°になることを説明し,いろいろな求め方を共有する。
各自の考えた求め方をグループ内で発表し合い,他の人の求め方を理解しよう。
各自が考えた求め方を他の生徒に分かるように説明する。
自分の求め方と比較しながら聞いて,他の生徒の求め方のよさに気づく。
他の生徒の求め方の発想の違いに注目しながら聞かせるよう配慮する。
【第2時】
1.見つけた求め方を発表する。

自分が考えた求め方を発表する。

他の生徒の考え方のよさに触れさせるよう配慮する。
〔学習プリントに書かれた生徒の求め方〕(少人数学習の1クラス19人の解答)

△CEFでc +e =x
△BDJでb +d =y
だから,△AFJの内角の和より180°
クサビ形ACHDで,
acd =CHD
         =BHE
だから,△BHEの内角の和より180°
チョウチョウ形BECDで,
b +e =xy
だから,△ACDの内角の和より180°
△AFJ,△BGF,等の5つの三角形の内角の和から,五角形の外角の和2つ分を引いて,
180×5−360×2
         =180°
外側の五角形から付け足した三角形5つ分を引き,内側の五角形をたすと,
180×(5−2)−180×5
+180×(5−2)=180°
点Aを通るBE,CE,BDとの平行線を引き,錯角の関係でa〜eの5つの角を点Aに集めることができ,一直線になるので,180° 点A,C,Dを通るBEとの平行線を引き,錯角の関係でa〜eの5つの角を点Aに集めることができ,一直線になるので,180° 外側の五角形から,付け足した三角形5つ分の印を付けた角の和(五角形の外角の和)を引くと,
180×(5−2)−360
         =180°
〔19人の自分で考えた求め方の解答数分布〕

解答数 0個 1個 2個 3個 4個 5個 6個 7個 平均
人数 4人 1人 7人 6人 0人 0人 0人 1人 2.1個

〔19人の解答別解答人数〕

解答番号 1 2 3 4 5 6 7 8
人数 15人 13人 5人 3人 1人 1人 1人 1人

2. 条件を変えて,新たな問題を作る。
星形五角形で変えられる条件は何でしょう。


点の数(5から他の数に)
まわる方向(右回りに)
とばす点の数(1から他の数に)
単に新たな問題を与えるのではなく,条件を変えることで新たな問題を作ることができる経験をさせたい。
右回りにするという考えが出たが,左回りでも右回りでも,同じ図形ができることを確認した。
 頂点の数を3点,4点,・・・と順に増やしながら,とばす点の数も0点,1点,・・・と増やして,星形多角形を作り,内角の和を求めましょう。
 
点を結び,いろいろな星形多角形を作る。
星形多角形を作りながら,内角の和を求める。
とばす点の数をしっかりと確認しながら星形多角形を作らせる。
星形多角形を作りながら,内角の和がすぐ求められるものもある。
一筆書きの状態が終わっても,まだ点が残っている場合もあるので,次の点に移って線で結ぶよう指示する。
星形多角形が作れたかグループで確認しましょう。
グループ内できちんと作れているか確認する。
よくわからないところは,他のグループとも確認する。
【第3時】
1.星形多角形の内角の和を確認する。

求めた内角の和を発表する。

自分で求めることができなかったものに留意させる。
  0点とばし 1点とばし 2点とばし 3点とばし


なし なし なし


なし なし なし


なし なし


なし なし


なし


なし




〔生徒が内角の和を求めるのに困った星形多角形の例〕

1点とばしの星形七角形 2点とばしの星形七角形 2点とばしの星形八角形
破線でクサビ形を3つ作り,その性質を使って五角形に集め,その五角形の内角の和になるから,540° 1つのクサビ形を考え,その性質を使って1点とばし星形五角形に集め,その1点とばしの星形五角形の内角の和になるから180° 上下の2つのクサビ形を考え,その性質を使って四角形に集め,その四角形の内角の和になるから360°
2.星形多角形の内角の和についてまとめる。
 
実際に内角の和を求めることができなかった星形多角形でも,上記のように表にまとめ,内角の和を予想している生徒がいる。
 星形多角形の内角の和について整理しよう。
内角の和について気づくことはないですか。
頂点の数が1増えると,内角の和が180°ずつ増えるから,一次関数の関係である。この関係を式にしてみましょう。
上記のような見やすい表形式に星形多角形の内角の和を整理する。

縦に見ると,180°ずつ増えている。
斜めに同じ角度が並んでいる。
一次関数のようである。
星形n角形について,
(0点とばし)では,
180°×(n−2)
(1点とばし)では,
180°×(n−4)
(2点とばし)では,
180°×(n−6)
(3点とばし)では,
180°×(n−8)
見やすい形式にまとめることのよさに触れさせる。
表のような形式にまとめている生徒がいれば価値付けして紹介する。
表は縦に見たり,横に見たりすることが必要であることを確認する。
0点とばしの内角の和の一般式は既習事項であるためすぐに答えられる生徒は多い。その既習事項を参考にさせ,他の場合の一般式を考えさせる。
とばす点を1点ずつ増やすと,( )の中の引く数が2ずつ増えていくことに気づかせる。
m点とばし星形n角形の内角の和を式に表してみよう。
180°×(n−2−2m)
一般式にすると2変数の式になるので難しいが,理解できる生徒も多い。

4. 生徒の反応・感想

 生徒は予想以上に意欲的に課題に取り組んでいた。第1時の星形五角形の内角の和を求める場面では,塾等の学習で180°になることは知っていても,その理由まではよくわかない生徒もいて結構苦戦していた。図形の見方をより養うために「星形以外にどんな形が見える?」と尋ねたり,鉛筆回転法で180°になることは確認してあるので,「180°になるものはどんなものがある?」と尋ねたりして,ヒントを与え解決の糸口をつかませた。一人で7通りの解法を思いついた生徒やGのような解法を見つけ出した生徒が出て,改めて生徒の柔軟な発想力に感心させられた。第2時・第3時の星形五角形の発展形としてのさらなる応用は,生徒にとっては難しいと思いながらも,生徒たちは必死になって追究しようとする姿勢が見られ,課題の奥深さにも触れることができた。
 以下に生徒の感想をいくつか紹介する。

 ・ 2点とばしの星形八角形がややこしくてそのまま終わってしまったが,家でも考えていたらできたのでうれしかった。

 ・ いろいろな内角の和を求める問題がおもしろかった。また,最後に規則があって余計におもしろいと感じた。

 ・ どんな図形ができるか考えながら点を結んでいくのが,とても楽しくてたまらなかった。点結び最高!

 ・ 星形多角形の内角の和は,最初モヤッとしていたが,わかるとスッキリして楽しかった。

 ・ 図形の問題でも表のように整理すると,一次関数などいろいろなことが見えてきてすごいと思った。

5. まとめと課題

 上記のような課題学習を少人数学習の形態で行ったが,少し無理があるようには考える。より多様な考え方やそれらのよさに触れさせるためには,学級集団全体の方が深まりや広がりがより期待できるであろう。とはいえ,星形五角形の内角の和の解法を一人で7個見つけた生徒がいたり,教師側が考えていなかったような解法を見つけた生徒がいたりと,改めて課題学習のおもしろみや教材研究の大切さ・奥深さを感じることができた実践であった。
 また一方では,星形五角形の解法を自分一人では思いつかなかった生徒が19人中の4人と,基礎学力や既習事項の内容が十分には身に付いていない生徒がいるなど,基礎・基本の指導の徹底や個別指導の充実を図る必要性も感じた。
 また,現行の指導時間数の中で,課題学習を扱うことは非常に厳しい状況にあることは確かである。しかし,問題を発展的にとらえたり,既習事項を使って問題を整理したりすることは,数学的な思考力を伸ばす上では大切なことである。普段の授業の中でもそういったことはやらなければならないし,課題学習などの教材を扱って,より集中して数学的思考力を養うことも時には必要なことである。そのための時間確保は,教科書の内容の取扱いに軽重をつけるなどして生み出すほか手段はないように考える。

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