課題学習数学の指導
作る楽しさを実感する課題学習〜問題作りに挑戦しよう・作品作りを楽しもう〜
佐賀県中学校数学教諭
1. はじめに

 数学教育において,生徒に自ら学び自ら考える力などの「生きる力」の育成を図るには,生徒が興味・関心を持って取り組む教材の工夫や開発は不可欠であり,生徒が主体的になって取り組むような授業構築の必要性を強く感じている。そして,自分たちで数学を作り上げたという実感や経験をさせることが大切ではないかと考える。課題学習のねらいとする主体的な学びを身につけ,学ぶ意欲を育てるというのは,まさにそのことを示唆している。課題学習には問題の広がりや発展性があり,数学的見方や考え方ができるものが取り上げられることが多いので,今回筆者の紹介する実践は,課題学習に位置づけるにはどうかという意見もあるだろうが,「連立方程式の文章問題を作る」,「一次関数(方程式)などのグラフを使って図を作る」といった,自分の手で問題を作る活動を通して,数学のよさや面白さを味わい数学を楽しむといった授業になればと思い,取り組んだものであり,それをまとめてみた。
 本校の生徒たちは明るく素直で,与えられたことには熱心に取り組むが,進んで問題を解こうとする姿勢にやや欠けるところがある。今回の問題作りを通して,進んで自分の問題を作り,粘り強く問題解決に取り組む生徒の育成をめざすとともに,仲間とともに問題を作り上げたり,解決していく中で学ぶ楽しさを実感させたい。

2. 指導のねらい

 連立方程式においては,計算はできても文章問題になると「むずかしい」とか「わからない」と思って意欲的に取り組むことに欠けることが多い。また,実際の生活とは関係ない問題も多く,数学の楽しさやよさを感じ取ることはできていない。そこで,自らが自分の生活を振り返ったり,興味のある分野での問題を作ったり,それを解いたりすることによって,少しでも数学のよさや楽しさを感じ取らせたい。
 また,一次関数では,グラフを利用していろいろな図がかけることを知り,数学の面白さを感じ取らせるとともに,グラフのかき方に習熟させたり,作品を作る過程で対称なグラフの式の関係(傾きや切片の数値の正・負が反対になること)に気づかせたり,変域の意味を理解させたりすることもねらいとしている。グループで協力して取り組むことにより,より効果的に基本事項の定着にもつながるだろうし,お互いの知恵を出し合ってすばらしい作品を作り上げることで,自分たちで問題を作ったという喜びと学ぶ楽しさを味わわせたい。

3. 授業の実際

 【実践1】

  連立方程式の問題作りに挑戦しよう・・・「連立方程式の利用」後,2時間計画

〈1時間目〉 問題作り

〈2時間目〉 問題の修正,及び新しい問題作り。友達と解き合う。

(1)  学習プリントを配り,問題の作り方を説明した。
 レベル1: 教科書・問題集などの問題を参考にして作ろう。
 レベル2: 身の回りの生活の中から問題を作ろう。

(2)  雑誌,新聞,広告など,自分が問題を作るのに必要な資料を持って来させた。

(3)  グループあるいは個人で作る。答の見通しを立てたり,計算を楽にするために電卓を使用させた。

(4)  日常生活の中から問題を作れないかと投げかけた。自分の日常生活や学校生活を考えさせた。部活動に関する問題が作れないか考えさせたところ,いろいろ考える生徒もいた。学習プリントに,問題にする場面を記入させたり,個別(グループ別)にアドバイスを行ったりした。

 ○ 問題作りのための学習プリント,および生徒の作った問題例(野球部の生徒)

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友達と相談している生徒

新聞の中から題材を見つけている生徒

電卓を使っている生徒

  〈生徒が作った問題例〉

A中学校とB中学校がバスケットボールの試合をして,62対58でA中学校が勝ちました。このとき,A中学校がうったシュート数は45本で,そのうち,決まったシュートの数は,3ポイントシュートとシュート(2点)とを合わせて29本でした。それぞれ何本ずつ決まったでしょうか。

全長100mのプールを,スタートからA地点まではクロールで泳ぎ,A地点から先は平泳ぎで泳ぎます。クロールの速さが毎分50m,平泳ぎの速さが毎分30mのとき,スタートからゴールまで3分かかりました。クロールで泳いだ 距離と平泳ぎで泳いだ距離を求めなさい。

卓球部で,8000円の卓球のラケットと10000円のラケットを29本買い,代金の合計が25万2000円になった。それぞれ買ったラケットの数を求めよ。

城西中で,ラケットを6本とテニスボールを200個買いました。定価どおりだと20万円かかりますが,いっぱい買ったのでラケットが25%引き,ボールが10%引きになり,162000円になりました。ラケットとボールの定価はそれぞれいくらでしょう。

ピザ屋でピザを2枚買いました。定価どおりだと2枚の合計は3250円でしたが,ぷりエビピザは10%引き,角厚ベーコンピザは20%引きだったので,合計は2705円になりました。このピザ2枚の定価はそれぞれいくらですか。

  「連立方程式の問題作り」の感想

今までのように解くばかりではなく,自分で問題を作れたので楽しかった。また,友達のを解いたりできたのがよかった。

問題を作るのは,とても難しかったけどおもしろかったです。問題を作ることはできたけど,答えが合わなかったりして大変だった。

問題を解くのは簡単だけど,作るのは難しかった。

楽しかったです。また,こんな問題作りをやってみたいです。今度はしっかり解ける問題を作りたいです。

問題作りは数字が合わなくてなかなか大変だった。でも楽しかったです。またやりたいです。

連立方程式を使えばいろいろ解けると思った。自分自身としては楽しくできた。問題を自分で作るのも悪くないなと思った。

楽しく問題を作ることができた。1回できちんとできた。でも,一人で作るのは難しいと思う。

数字を簡単にして作ったので,今回はちゃんとできた。ちょっと難しかったが,作っていておもしろかった。

自分で問題を作ったことがあまりないが,今日問題作りをして連立方程式の理解ができた。これからも解くだけではなく,問題も作りたいと思います。

最初は,どうやって問題を作ればいいのかわからなかったけど,最後まであきらめずに問題を作ることができた。

日本語の整理が難しくて,自分でも文章の意味がわからなくなってしまったけど,自分で問題を作るのはけっこうおもしろかった。

難しかった。先生の苦労がわかった。

  指導の成果と課題

新聞や雑誌,広告などを見て,身近な情報の中から題材を選び,数量関係を見つけ出して問題を作る生徒と,教科書などの問題を参考にして数量等を変えて問題を作る生徒などまちまちであったが,意欲的に問題作りに取り組めた。

自分やグループで問題を作り,友達に紹介したり,教えあったりすることで数学をより身近なものとして感じたようだ。

連立方程式は作れたものの答えがきちんと出ない生徒もいて,問題作りは教師が思う以上に時間がかかった。答えがきちんと出ない場合の修正の仕方や,方程式を作っていく手だてをもっと支援してやれば,適切な答えまで求められる連立方程式の問題を作ることができたと思うが,話し合ったり,試行錯誤しながらも意欲的に取り組んだという自己評価がほとんどであった。

友達同士で問題を交換して解き合う予定であったが,時間が足らなかったので,教師のほうで数題紹介して全員に考えさせた。友達が作った問題を紹介し,賞賛することで問題を作成した生徒は勿論のこと,他の生徒の解こうとする意欲も高まった。

できあがった問題をまとめて冊子にして,ときどきその中から問題を出そうと思っている。

 【実践2】

  関数のグラフを使って作品を描こう・・・「一次関数の利用」後,2時間計画

  学 習 活 動 指導のポイント
第1次
変域のあるグラフが描けるようになる。
与えられたグラフの式を書いて,簡単な図形を描く。
教師の作品を提示して意欲付けをする。
変域の具体例を示す。
グラフ用紙を各自に配布し,作業させる。
第2次
与えられた図形の式を読みとる。(変域を付けて)
グループでどんな図形を作成するか決定する。
x=k,y=hのみの作品は作らない。
図形と文字を組み合わせてもよい。
点,双曲線も用いてよい。
読みとる図形を各自に配布し,個人で考察できるように配慮する。(下記の学習プリントを利用)
各自に1枚ずつグラフ用紙を配布し,作成しようとする図形を考察させる。
グループで各個人の意見を検討し,グループの作成する図形を決定する。
第3次
グループで決めた作品の式の読みとりを行う。
他のグループと交換し,お互いの作品を描き合う。
自班の作品の完成図のコピーを一人1枚ずつ用意し,各自が分担された直線の式を読み取る。
グループで教え合ったり,確認し合ったりする。
できあがった作品は,黒板に貼る。

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学習プリント

生徒の活動の様子

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グラフをかく場合,x=hのグラフについて指導する必要がある。(y=kについては,学習済み)

式を求める場合,切片の値がグラフから読みとれない場合の一次関数の式の求め方について,指導する必要がある。

作品を作るときに,比例定数が12,24,48などの双曲線をかいたグラフを一人に1枚ずつ配布し,それを参考にさせるとよい。実際に曲線を作品に使った生徒はいなかった。

選択授業の中で取り組むのもおもしろい。

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生徒の作品例

  「グラフを使っての作品作り」の感想

一次関数で絵を描くのは楽しかった。変域があまりわからなかったけれど,今日の授業でわかるようになった。

今日のはとてもおもしろかった。最初は適当に絵を描いていて式に直せなかったけれど,少しずらしたりすると式にできた。難しかったけど,友達に聞いたり,自分で考えたりして取り組めた。

自分のを作るのは,絵は簡単だったが,式に表すのは大変だった。友達の絵を解読することもしたが,これは難しかった。今日の活動は楽しむことができた。数学でこのようなことをするとは思っていなかった。

グラフでチューリップを作った。式に直すと,平行なところが対称なところばかりですぐに解けそうだったけど,グラフの番号をめちゃくちゃにしたら,とてもややこしい問題になった。作るのは楽しかった。他の人のを解くときはとても根性がいりそうだった。

  成果と課題

一次関数(方程式)を使って図形を作る学習は,自己評価表や授業中の生徒観察から考察して,ほとんどの生徒が興味・関心を持って意欲的に取り組めた。

この学習に取り組む中で,グラフの対称性(傾きや切片を正にしたり負にしたりすればいいこと)を利用することに気づくとともに,変域についての理解が深まった。

現在の教育課程では,必須授業の時間には問題作りの時間がなかなか確保できないので,課題学習として位置づけたり,選択授業の中で取り組ませるとよい。

4. まとめ

 それぞれの授業での生徒の感想を読んだり,生徒に今回の授業はどうだったと聞くと「問題作り」をまたやりたいというのが多く,問題を解くだけの授業ではいけないと改めて感じた。問題を作ることは,じっくり考えることや,見通しを立てることなどさまざまな能力が必要であり,思考力や判断力の育成にもつながると言える。一方で,一人では問題作りをすることができない生徒たちもいたが,グループ活動にしたことで,教え合いをしたために一斉授業の時よりは満足したようであった。

〈参考文献〉
 『中学校学習指導要領 解説 数学編』(平成11年9月 文部省,大阪書籍)


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