課題学習数学の指導
基本作図を活用する課題学習の授業
福岡県柳川市立昭代中学校
田中 善久
1.はじめに

 かねてから,1年生の平面図形の単元,特に基本作図についての疑問があった。「なぜ,垂直二等分線を引く作図を学ぶのだろうか?」「何のために垂線を引く作図や角の二等分線の作図を学習するのだろうか?」。定期テストでは,単にコンパスと定規を使って基本作図をさせる程度。この平面図形の単元を学ぶことで,生徒にどんな力をつけさせ,具体的に生徒にどんなことができるようになってほしいのか,今ひとつはっきり見えていない自分がいた。そして,教科書の練習問題では,学んだ基本作図を活用する場面は多くはなく,基本作図の有用性を感じるほどではない。そこで,学んだ基本作図を使うことで,その作図の有用性を何とかして生徒に感得させられるように,次の課題学習に取り組もうと考えた。

2.授業の実際

 (1) 指導のねらい

 本実践を通して,生徒が基本作図を根拠に,正六角形の作図方法を見出すことができるようにすることである。
 正六角形の作図を選んだ理由については,蜂の巣など身近に多く存在する図形の一つであり,いろいろな方法で作図することができる多様性を持っているからである。また,正三角形,正方形,正五角形,正六角形,正八角形,正十角形,正十二角形,…など,数多くの正多角形がコンパスと定規のみの作図で描くことができ,数学者のガウスは正十七角形が作図できることを証明している。このような発展性も含め,生徒に作図のおもしろさの一端を感じさせたいと考えた。

 (2) 授業計画

 第1学年単元「平面図形」の課題学習として,2時間計画で本実践を行った。1時間目は,2時間目の授業に向けての準備段階という位置づけである。

 [第1時]正方形の作図方法といろいろな角

 [第2時]正六角形の作図方法

本実践でいう『基本作図』とは,次のア〜オの五つの作図方法である。
 ア.角の二等分線
 イ.直線上の点から垂線を立てる方法
 ウ.直線上にない点から垂線を下ろす方法
 エ.線分の垂直二等分線
 オ.正三角形
 ここで,正三角形の作図を含めたのは,60°の角を作る方法として特に意識させておきたいからである。

 (3) 実践

1.正方形の作図といろいろな角について
 本時では,まず,基本作図をもとに,正方形の作図方法を考えさせる。ここでは,正方形の要素を確認し(4つの辺の長さが等しい,4つの角の大きさが等しい),これをもとに作図の方法を考えさせる。生徒は次の3つの方法を考えるだろう。
 ア.線分の垂直二等分線の作図をもとに90°をつくる。(図1)
 イ.直線上の点から垂線を立てる方法で90°をつくる。(図2)
 ウ.線分の垂直二等分線の作図をもとに対角線を引く。(図3)


 次に,いろいろな角を分度器を使わずに書くことができるか予想させる。ここでは,基本作図によってできる角( 90°と60°)を確認させ,作図を考えさせる。問題は,30°, 45°,135°,120°の4種類である。
 ア.30°(60°の角を二等分)
 イ.45°(90°の角を二等分)
 ウ.135°(90°と45°の角の和)
 エ.120°(60°と60°の角の和)
 問題解決を通して,いろいろな角度がコンパスと定規だけで作図できることに気付かせる。

2.正六角形の作図といろいろな角について
 本時では,まず,正六角形の作図方法が問題であることを把握させ,基本作図を使うことを確認する。ここでは,次の4枚の写真を提示することにより,正六角形に着目させる。


水泡の形

サッカーボールの白い面

蜂の巣

道路標識

 次に,正六角形の作図の方法を考えさせる。ここでは,最初から作図を考えさせても難しいので,まず,補助線のアイデアを出させるようにする。そのために,正六角形を印刷した『アイデアシート』という用紙を配布し,自由に直線を書き加えさせる。そして,その補助線をもとに作図の方法を考えさせる。生徒は次の3つの作図方法を考えるだろう。
 ア.正三角形を六枚並べる。(図4)
 イ.正三角形の中点を結ぶ。
中点は線分の垂直二等分線により見つける。それを2枚並べる。(図5)
 ウ.正六角形の一つの角120°を30°+90°に分けてつくる。まず,30°の角をつくり,次に長方形をつくる。(図6)


 さらに,考えた作図方法を発表させる。ここでは,発表を聞く際に,友達の考え方を吟味させることで,演繹的な考え方をさせる。学習プリントにその納得度を記入させる。
 最後に,本時をふり返らせ,自分が学んだと思うことについて記述させる。

 (4) 生徒の反応

1.正方形の作図といろいろな角について
 正方形の作図方法は,予想した通りの3つの方法を生徒は見出すことができた。ほとんどの生徒は1つの角が90°ということから,ア(図1)かイ(図2)の方法を考えていた。33名中4名の生徒がウの対角線の方法(図3)を考えることができた。
 いろいろな角度(30°,45°,135°,120°の4種類)の作図方法については,135°と120°の角の作り方についていくつかの方法があった。
ア.135°について
(90°+45°)と(180°−45°)の2通り
イ.120°について
(60°+60°)と(180°−60°)と(90°+30°)の3通り
 ほとんどの生徒が何らかの方法で問題の角度を作ることができた。

2.正六角形の作図といろいろな角について
 補助線を引き方を『アイデアシート』に記入させたところ,次の5つをかいていた。


 これらの補助線のアイデアをもとに,正六角形の作図方法を考えさせたところ,
 ・アのアイデアを使った作図についてはほとんどの生徒が考えることができた。
 ・イのアイデアを使った方法については,線分の垂直二等分線の作図を2回使って,2名の生徒が考えることができた。(図7)
 ・ウのアイデアを使った作図については,線分の垂直二等分線の作図を使って,6名の生徒が考えることができた。(図8)
 ・エのアイデアを使った作図については,正三角形(図9のオレンジ色)の辺を延長し,辺の長さを3倍に伸ばす方法で作図していた。この作図は多くの生徒がチャレンジしていたが,作図までたどり着いたのは2名だった。(図9)
 ・オのアイデアを使った作図については,まず,正三角形(図10のオレンジ色)をかき,辺を延長し,それぞれの頂点からの垂線を立てる。この作図は1名の生徒が考えることができた。(図10)


3.まとめ

 本実践において,まず,感じたことは,「試行錯誤を通して,生徒は解決していた」ということである。生徒は,教師が想像もしなかったようなアイデアを考え,そのアイデアをもとにして,試行錯誤し,問題解決をすることができた。また,生徒の多様な考えを引き出すことができたという点ではおもしろかった題材であったと思う。
 しかし,今回の実践の正六角形の作図については,数学的な考え方のひとつである演繹的な考え方をさせる面で不十分であった。例えば,「120°の角を作るために,基本作図の○○を使った」という考え方や,他者の考えた作図方法が正しいのかを細かく吟味していく場面が少なく,演繹的な考え方を育てることにつながっていなかった。
 今後の実践では,見通しを持ちながらアイデアを練り上げ,演繹的な考え方を育て,考えを深めていけるような実践を考えてみたい。

〈参考文献〉
・吉田稔,飯島忠 『話題源数学』 (東京法令,1990年)
・文部省 『中学校学習指導要領解説 数学編』 (大阪書籍,1999年)


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