課題学習数学の指導
中学校で行うGPS測量実習
宮崎県東諸県郡国富町立八代中学校
小松 浩康
1.はじめに

 「学校の周りを測るのは,難しいと思ったけど,衛星を使うと簡単にできた」「校舎の影で測れなかった所もあったけど,だいたいの学校の形がわかったのでよかった」これらの生徒の声は,「ハンディGPSレシーバー」を活用した測量の授業中でのものである。このように,野外活動・操作活動を行うと生徒たちは大変楽しく学習に取り組むことができる。本教材は,生徒の知的好奇心を刺激し,楽しく学習できる教育素材の開発に取り組んだ事例である。

2.実際の活動(GPSで測量をしよう)

(1)  授業設計

 中学校で行う測量としては,「木の高さ」や「間に池などの障害物がある2本の木の間の距離」などが取り上げられており,相似な図形を描くことによって求めることができる。これらの方法については,第3学年の「図形と相似」では,相似形の作図によって計測を行っている(旧課程では,小学校第6学年の「拡大と縮小」において太陽による影を利用して計測した)。
 そこで,今回は数学的活動としてGPS測量を行うことにした。GPSを利用して「緯度と経度」を計測し,グラフ上に中学校の周囲の点をプロットすることにより代数幾何学的に測量を行うことにした。また,GPSの表示は「○○°◇◇’△△”」なので誤差を考量した測量結果をプロットできるように指導した。

【GPSについての簡単な説明】
 GPS(Global Positioning System)は,米国の高精度な航法用衛星を利用した,地球上のどこにいても自分の正確な位置を知るシステムです。
 GPS衛星は,高度約20,000kmの6つの軌道上に各4個,合計約24個が配置されていて,地球上のどこからでも常に最低3個の衛星が補足できるようになっています。
 GPS受信機は衛星からの電波を受信し,衛星の軌道情報(アルマナテックデータ)と電波の伝播時間のデータから自分の位置を計算します。
 位置を計算することを「測位」と呼び,通常3個の衛星からの距離がわかれば測位できますが,受信機の時計を衛星の時計に合わせるための補正を行うため,測位には4個の衛星が補足されている必要があります。−ハンディGPSレシーバー取扱説明書より−

(2)  授業の実際

ア.
本時のめあて
 めあてを「GPSを利用して学校を測量しよう」とし,GPSについての簡単な説明を行った。また,どの地点を測量すれば学校の敷地が明確にわかるか,それぞ れのグループで測量するポイントを設定するように指導した。また,実際に測量を行うと「誤差」が出てくるが,それには触れずプロットの段階で生徒が気付くことを期待した。

測量中の生徒の様子

イ.測量箇所
No.場  所北 緯東 経
体育館前の校門(南東角)32°01'(21.5)"131°18'(36.5)"
郵便局前の角(北東角)32°01'(23)"131°18'(37)"
JA前の角(北西角1)32°01'(25)"131°18'(33)"
時計台(北西角2)32°01'(24)"131°18'(32.5)"
運動場の北西角(北西角3)32°01'(24.5)"131°18'(31)"
運動場の南西角(南西角)32°01'(24)"131°18'(29.5)"
運動場の南の出っ張り32°01'(23)"131°18'(29.5)"
テニスコートの南角(南東角1)32°01'(21)"131°18'(31)"
テニスコートの東角(南東角2)32°01'(20.5)"131°18'(32)"
10体育館の南(南東角3)32°01'(21)"131°18'(34.5)"
11体育館の東の角(南東角4)32°01'(22)"131°18'(35)"

 各班とも上記のような測定箇所を設定してハンディGPSレシーバーで測定し,それぞれのワークシートに記入を行った。
 また,ハンディGPSレシーバーでは単位が秒までしか計測できないが,測定位置については秒が20〜21にすぐに振れるので,中間地点として0.5としてよいかと生徒から要望があげられた。
 計測中の写真は,それぞれのグループに貸し出したデジタルカメラで撮影したものである。

ウ.プロット
 グラフ用紙の縦軸に「緯度」,横軸に「経度」を取りそれぞれの最大値と最小値ができるだけ端にくるように目盛りを取るように指導した。
 また,それぞれの測定地点を順にプロットさせ全体像を見ながら,学校の敷地の全体像を想像させながらプロットさせた。


 上のグラフは上記の生徒が測定した位置をエクセルを用いてプロットしたものである。
 このGPS測量の結果と学校の敷地(1989年航空撮影写真)を見比べると,運動場の部分が写真より小さくなっていたり,南側のラインが真っ直ぐだったりと自分たちが知っている地形との違いに首をかしげていた。
 これらの結果をもとにどのように考えればよいか。また,なぜこのような写真との違いがあるか,考えさせることにした。

エ.発展問題
 「地球の赤道の1周の長さを4万kmとすると,1秒は何mになりますか」という問題を提起することによって,プロットによるグラフと写真との違いを考えさせることにした。
 地球の1周の角度は,360゜であり,1度は60分,1分は60秒であることを確認して計算をさせた。

 ※ 緯度方向の1秒
    40,000,000m÷(360×60×60)=30.864197m
 ※ 経度方向の1秒(約30゜として半径を√3/2の三角比を用いて計算)
    40,000,000m×√3/2÷(360×60×60)=26.729178m

 したがって,発展問題まで取り組んだ生徒には,測定の時に1秒違うと南北方向に約30.9m,東西方向に約26.7mの誤差がでることがわかり,測定位置でハンディGPSレシーバーを少し動かしただけで秒が動く場合の誤差が結構大きいことがわかったようである。

(3) 考察(生徒の「学習の反省」より)

   1. GPSを使うと測量は確かに便利だけど,誤差が出やすいので,そこが少し大変だなと思った。図で見ると,学校は意外と小さいなと思った。
   2. 場所を計測するのは大変なことだということがわかった。こんなことを考え出した人はすごい!
   3. 簡単なやり方で学校の周りを測れたので楽しかった。
   4. 北緯と東経がぶれたところがあった。
   5. 測量は初めてだったのでよくわからなかったけど,場所によって数字が変わるのにびっくりした。
   6. このグラフが何を意味しているのかわからない。全然わからない。
   7. プロットのやり方がよくわからなかった。

 「測量」という単元が中学校の数学になく,とまどいながらの測量であったが多くの生徒は,野外活動・数学的活動が楽しいと述べており,生徒の情意面を刺激することができた。また,実際にハンディGPSレシーバーを用いて測定したので,4,5のように資料のデータだけでなく,実際に測定することで誤差を体験することができ,実際にプロットしたグラフを読みとる助けになった。
 また,発展問題まで進んだ生徒は,誤差が1秒毎に南北方向に約30.9m,東西方向に約26.7mあることがわかり,「0.5」まで読み込んだときに測量結果についても誤差を考慮しないといけないことが確認できたようである。
 野外活動・数学的活動から資料・グラフの読みとりに関して学習転移を図ったが,生徒の反省にもあるように,プロットのやり方やグラフの読みとりができない生徒が多く見られた。これらの生徒に対しては,座標を用いることによって平面上の点を一意的に表すための道具であることを再確認させ,北緯と東経によって学校の敷地の周囲を表していることを知ることによって,グラフと敷地が同一のものを表していることを確認させた。

〈引用・参考文献,使用機器〉
 (1) ハンディGPSレシーバー(HGR3):(c)2000 Sony Corporation
 (2) デジタルカメラLV−10,20

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