関数的な考え方のよさを感得できる授業をめざして〜身近な事象を探る1次関数の課題学習〜
新潟市立小針中学校
山本 貴之
1.はじめに
 関数の指導は,数量関係を式で表現したり,式をグラフで表現することに力点が置かれがちである。しかし,式やグラフを用いる表現は,測定不可能な部分を予測したり視覚的に判断できるよさをもっている。今回は,式やグラフを問題を考察するための道具と考え,数学的な見方や考え方のよさが感得できる課題学習を構築した。

2.研究の内容
  
1次関数の課題学習で,身近な事象に関するレポートを作成する。

 1次関数の課題学習として,生徒一人一人が自分の興味のあることについて調べ,1次関数の学習を踏まえて,そのことについての考えを深める時間を設定した。実際の社会で起こっている事象や実験結果では,教科書のようなきれいな数値で式やグラフはかけないが,複雑な数値を使いこなすことも大切である。生徒が事象の中にひそむ関係や働きを見出し,関数がどのようにして問題解決とかかわっているのか,変数のもっている意味は何なのかなど真正面から扱うことが必要なのである。
 こうしたことを踏まえて,1次関数の式やグラフを用いることのよさを感得できるように,次に述べるような授業を行った。

3.研究の実際
  (1) 指導の概要
 1次関数まとめの場面で,次の1)〜4)の手順で授業を進めた。
1) 「1次関数の利用」の学習の中で,次の2つの直線について確認する。
教科書の「水道料金の問題」などを解いて,式やグラフで表現して解決することを学ぶ。(2点をとって直線の式を求める)
教科書p.69例1の「つるまきばねの実験」のデータから,全ての点が一直線上になくても多くの点からかけ離れないように直線を引き,その傾向を知ることができることを学ぶ。
2) 自分の興味ある身近な事象について資料を探し出す。
実験結果,環境問題,社会問題などについて,図書館やインターネット等を使って資料を探す。
できるだけ多くのデータを見つける。
3) 資料から未来を予想する。
2点を結んだり,傾向直線を引いたりして,直線の式を求める。
その事象について未来を予想するために,式にいろいろなxの値を代入してyの値を求める。
上記の活動を通して,その事象の未来を予想する。
4) 考察をレポートにまとめ,発表会を行う。
自分の調べたことについて,「テーマ設定の理由」「データ」「グラフ」「式」「考察」をA4用紙1枚にまとめる。
レポートをクラス全員に配布して発表会を行い,相互評価する。

  (2)

 生徒の活動のようす
 8割の生徒は,図書室ですぐに自分の目的の本を探し始めたり,司書に本の場所を尋ねていた。残りの2割の生徒は,十分にテーマを絞り込めていなかったようで,1時間ずっと年鑑をめくってテーマを考えていた。
 図書館でのデータの探し方は,2つのタイプに別れた。1つは『イミダス(集英社)』のような年鑑を2冊用意して,現在のデータと数年前のデータを探すといった方法。もう1つは『環境データブック』のように何年分かのデータがまとめて載っている本からデータを書き出すといった方法である。前者のやり方の生徒のほとんどは,割と安易に2点を通る直線の式を求めようとしていた。後者のやり方の生徒の一部が傾向直線を引こうとしていた。
 以下に生徒が作成したレポートのタイトルを掲載しておく。

生徒のレポートのタイトル

『一人が1年に消費する米の量』 『熱くなる大都市』 『減りゆくゴミたち』
『飲み水から水質汚染を考える』 『変わりゆく地球の温度』 『赤い地球』
『どうなる 日本の経済』 『農家の戸数の移り変わり』 『将来の日本の人口』
『どうなる子孫!? 〜15歳未満の人口はいかに〜』 『オゾン層の破壊』
『犯罪をする未成年』 『失業率 〜私たちの将来を考える〜』 他

  (3)

 生徒のレポートの一例

4.実践の反省と今後の課題
  (1) 実践を振り返って
1) 関数のよさを感得させる指導について
 教科書の練習問題をやっている段階から,関数がどのようにして問題解決とかかわっているのか,変数のもっている意味は何なのかなど,正しくおさえて学習を進めていった。こうした姿勢はレポートを作成する際にも生きていた。
 生徒は,「1次関数の式やグラフを用いて問題を解決することのよさ」を感得できたのではないかと思う。自らが考えた問いを追求してテーマを解決したり,仲間のレポート発表を聞くなかで「1次関数という道具を使えば,(過去のデータから未来を予測できることなど)いろいろな問題を考察できる」ということを十分に理解できたようである。また,1次関数という道具だけでは限界があることや,直線で傾向を捉えることができるのはほんの一部分だということも,かなりの生徒が気づいていた。
2) 身近な事象を探る活動について
 生徒の調べた内容は,環境問題を中心に実にバラエティーに富んでいた。教科書中心の数学では学ぶことできない内容を,意欲的に,あまり困難さを感じないで調べていた。今回の実践を通して,生徒の本来もっている追求意欲の高さに感心させられた。生徒の表情を見て,普段の授業がいかに閉鎖的なものだったか思い知らされた。授業の『感想カード』からも「今度は塩分濃度を調べたい」「空気中の有害物質について知りたい」といった意欲的な記述が多くみられて,とても嬉しかった。
 実際にグラフや式から未来を予想する段階になって「先生,このまま増え続けるわけないじゃん」「絶対,1次関数にならないと思う」などという声があがっており,レポート作りの際にもその姿勢がみられた。生徒のレポートの考察には「こうならないことを祈っていますが」とか「こんなうまくいくとは思わないが」などといった分析がみられた。こうした分析が,今後の関数指導の場面で生かせるようにしたい。
3) 「総合的な学習の時間」との関連から
 図書館でいきいきと学ぶ生徒の様子を見て,「世の中のことをテーマにすることは望ましいことなんだなぁ」と実感した。図書のもつデータは説得力があり,生徒たちが目を輝かせて調べ学習を行っていたのが印象的だった。
 調べ学習の時間は,ほとんど司書に頼ってしまったが,生徒たちの様々なリクエストに柔軟に対応してもらえた。図書館だけでは見つけられない資料でも,司書から調べ方のヒントをもらって自分たちで考え,関係機関に電話して聞き出したという生徒もいた(「新潟県の高齢者人口の割合」を県の高齢者総合相談センターに電話してFAXをもらったり,「新潟県の自動車保有台数」を新潟陸運局に電話して聞き出したりという姿がみられた)。
 今回の実践は,自ら考え主体的に判断し,行動できる資質や能力をもった生徒の育成につながったと自負している。「数学科は総合から最も遠い教科」という声を聞くこともあるが,数学科授業をもっと外に開く努力をしていくべきだと痛感した。

  (2)

 今後の課題
 「未来クイズ」などで例示したものが統計的な資料が多かったため,生徒の調べた内容が偏ってしまった。また,1次関数に近い変化かどうか判断せずに,安易に2点を通る直線を求めにいった生徒が多かったのが残念だった。データをしっかり集めさせ,多くの点からかけ離れないように直線を引き,その傾向を調べるように指導すればよかった。これから,「総合的な学習の時間」の実施に向けて,こういった統計的な処理が必要な場面が出てくることが予想される。せっかくの未来予想が,現実とかけ離れたものにならないように,指導過程の工夫をしていきたい。
 本研究では,数学科授業を外に開く試みとして学校図書館を窓口にしたが,まだまだ図書館の利用の仕方も工夫できると思う。他の単元での図書館の利用方法を見出していくと同時に,学校図書館にあるインターネットなどからも,学校数学の閉鎖性を打破していきたい。数学の課題が,生徒にとって身近なものになったとき,意欲的な学び,数学的な見方や考え方のよさを感得できる学びが展開されるのだと思う。これからも数学科授業を外に開いていく窓口を見つけて,意義ある実践を積み重ねていきたい。

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